第3章 犯罪情勢と捜査活動 

(4)科学技術の活用

1)捜査支援システムの活用
〇 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪や自動車盗の捜査のために自動車検問を実施する場合,実際に検問が開始されるまでに時間を要すること,徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。警察庁では,これらの問題を解決するために,走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取り,手配車両ナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し,整備を進めている。
 その結果,多くの自動車盗事件を解決しているほか,殺人,強盗等の凶悪犯罪等の重要犯罪の解決に多大な効果を上げている。

〇 指紋自動識別システム・掌紋自動識別システム
 指紋自動識別システム及び掌紋自動識別システムは,コンピュータによるパターン認識の技術を応用した捜査支援システムであり,犯罪現場に遺留された指掌紋から被疑者を特定するための遺留指掌紋照合業務や,検挙した被疑者の身元や余罪を確認するための押なつ指紋照合業務に活用している(図3-11)。これらのシステムの活用により,殺人,強盗等の重要凶悪事件等の解決に多大な効果を上げているが,刑法犯認知件数が戦後最多を記録するなど犯罪の増加が著しい現在,これらのシステムがより一層有効に活用され,1件でも多くの事件解決に資することが期待される。

 
図3-11 指紋自動識別システムの概要

図3-11 指紋自動識別システムの概要

2)鑑識・鑑定技術の高度化
 科学技術の発達,情報化社会の進展等に伴う犯罪情勢の変化に的確に対処し,科学的・合理的な捜査を推進していくため,鑑識・鑑定への最先端の科学技術の導入等を図ることとしている。

○ 鑑識資機材の開発・整備と鑑識活動の強化
 警察では,科学技術の発達に即応した鑑識資機材の開発・整備を進めるとともに,機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等を設置・運用し,現場鑑識活動の強化に努めている。また,警察庁の鑑識資料センターでは,収集した各種資料の分析結果等をデータベース化し,都道府県警察が犯罪現場から採取した微量・微細な資料と比較照合することによって,資料の性質を解明し,製造業者を迅速に割り出すなど犯罪捜査に役立てている。

 
ライブスキャナ

ライブスキャナ

 
図3-12 鑑識活動の流れ

図3-12 鑑識活動の流れ

 
現場鑑識活動

現場鑑識活動

○ 鑑定技術の高度化
 警察では,迅速・的確な鑑定を行うため,様々な鑑定技術の高度化に努めている。
・フラグメントアナライザーによる新DNA型検査法
 国際的にも利用されているフラグメントアナライザーと呼ばれる分析機器を用いた新しいDNA型検査法の導入により,従来のDNA型検査法に比べ個人識別精度が飛躍的に向上するとともに,陳旧な血痕や白骨死体の骨組織等の資料からのDNA型検出が可能となる。

 
DNA型鑑定

DNA型鑑定

・SPring-8(注)
 和歌山毒物混入事件(平成10年)において,その犯行に用いられた毒物と押収された毒物が同一であることを証明したことで知られるが,薬・毒物,毛髪,繊維,塗膜片等超微量・微細な資料の鑑定が可能である。


(注)SPring-8は,財団法人高輝度光科学研究センターが管理・運営する大型放射光施設。

○ 鑑定技術職員の育成
 的確な鑑定を行うためには,各鑑定技術職員の知識,技能の修得,向上を図っていかなければならない。
 各都道府県警察では,新たに採用した鑑定技術職員に対する各種教養を始め,各職員のレベルに見合った知識と技能を習得させるための教養を実施するなど,鑑定技術職員の計画的な育成に努めている。また,科学警察研究所の法科学研修所では,警察において実施する鑑定の高度化,標準化を図るため,都道府県警察の鑑定技術職員に対する法医学,化学,工学,指紋,写真,足こん跡等各専門分野の研修を実施している。

 

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