第1章 組織犯罪との闘い 

イ 通信傍受

 ドイツ刑事訴訟法第100条aは,「通信の傍受及び録音は,次に掲げる犯罪について,正犯又は共犯として罪を犯し,未遂が可罰的な場合にその実行に着手し,又は犯罪行為によって実行の準備をした者があると疑う根拠となる事実が認められ,かつ,事案の解明又は被疑者の居所の捜査が他の方法では見込みがないか又は著しく困難であるときは,これを命ずることができる」とし,「次に掲げる犯罪」として,内乱罪,通貨・有価証券偽造,犯罪団体の結成の罪,殺人,人身の自由に対する罪,強盗,恐喝,集団的な窃盗,犯罪組織の一員としての贓(ぞう)物犯,マネー・ローンダリングに係る罪,武器及び薬物に係る犯罪等を掲げている。
 また,同法第100条bにより,同条aの命令を発する権限は,裁判官に属し,緊急を要する場合は,3日以内に裁判官の承認を得ることを条件として,検察官にも命令を発する権限が認められることとされている。命令は書面で行われ,命令の有効期間は,最長で3か月であるが,同条aの要件が存続する限り,3か月単位で何度でも延長できる。
 ドイツにおける通信傍受の制度は,以下の点で,我が国とは異なる特徴を有する。
 ・通信傍受が許容される対象犯罪が極めて広範である。
 ・通信傍受が許される要件が比較的緩やかである。
 ・一定の要件の下で,検察官にも通信傍受令状の発付権限が与えられている。
 ・必要な要件が存続している限り,傍受期間に上限がない。
 さらに,同法100条cにより,内乱罪,通貨・有価証券偽造,殺人,人身の自由に対する罪,集団的な窃盗,強盗致死,犯罪組織の一員としての窃盗,マネー・ローンダリング罪,贈収賄,武器及び薬物に関する犯罪等について,その犯罪が行われ,かつ事案の解明又は犯人の居所の捜査が,他の方法では著しく困難であるか,又はその見込みがないと疑うに足りる事実があるときに同条aとほぼ同様の手続(ただし,検察官による命令はできず,令状は,4週間毎に更新を要する。更新回数の制限はない。)で住居内の非公開の会話の傍受,録音を行うことができるとされている。このように住居内の非公開の会話の傍受,録音が制度化されていることも我が国の法制度と比較して特徴的な点である。

 

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