第1章 組織犯罪との闘い 

イ 我が国への銃器密輸入ルート

 我が国で犯罪に使用されている真正けん銃のほとんどは外国製のものであり,国外から密輸入されたものである。押収されたけん銃の製造国を見ると,従来の米国,フィリピン,中国に加え,12年以降,ロシア製けん銃が急増している。
 14年のけん銃密輸入事件の検挙は5件7人,押収したけん銃は10丁であり,いずれも前年より増加しているものの,低い水準にとどまっている(図1-46)。

 
図1-46 けん銃密輸入事件の推移(平成5~14年)

図1-46 けん銃密輸入事件の推移(平成5~14年)
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 過去10年のけん銃押収全体に占める水際での検挙の割合は,2.6%に過ぎず,水際での検挙が困難となっている。その理由として,けん銃を部品のまま持ち込むなど,密輸方法が一層巧妙化したこと,さらには,GPSや国際携帯電話等の普及により洋上での取引が容易になったことが考えられる。
 14年に押収されたけん銃747丁のうち,真正けん銃は675丁(90.4%)で,これを製造国別にみると,米国,中国,ロシア及びフィリピンの4か国で製造されたものが半数近くを占めている(表1-6,図1-47)。

 
表1-6 押収真正けん銃の製造国別状況(平成5~14年)

表1-6 押収真正けん銃の製造国別状況(平成5~14年)
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図1-47 押収真正けん銃の製造国別状況(平成14年)

図1-47 押収真正けん銃の製造国別状況(平成14年)
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 過去10年間に検挙された我が国へのけん銃等密輸入事件の仕出地(我が国に向けて積み出されたと判断される国又は地域をいう。)としては,米国,フィリピン,南アフリカ,ロシアが主な国として挙げられる(表1-7)。

 
表1-7 けん銃密輸入事件の仕出地別検挙件数(平成5~14年)

表1-7 けん銃密輸入事件の仕出地別検挙件数(平成5~14年)
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 製造国及び仕出地等の分析から,我が国へのけん銃の主な密輸入ルートとしては,「フィリピンルート」,「米国ルート」,「ロシア極東ルート」,「中国ルート」その他のルートが考えられる(図1-48)。

 
図1-48 海外からの我が国への主なけん銃密輸入ルート

図1-48 海外からの我が国への主なけん銃密輸入ルート

(ア)フィリピンルートの特徴
 ・日本人暴力団関係者等がフィリピンに渡航し,現地で銃器を調達して持ち帰るのが一般的である。
 ・運搬手段は船舶が多いが,近年は航空機も増加している。
 ・密輸入される銃種はフィリピン製密造銃が中心であるが,米国製,欧州製,南米製等も散見される。

事例
 14年6月,身辺にけん銃6丁,実包111個を巻き付けるなど隠匿携帯して,フィリピンから航空機でけん銃等を密輸入した男を成田空港で逮捕し,その後の捜査で共犯者である暴力団幹部ら2人を逮捕した。押収されたけん銃は,アルゼンチン製4丁,オーストリア製及びブラジル製各1丁であった(警視庁)。

 
密輸入されたけん銃

密輸入されたけん銃

(イ)米国ルートの特徴
 ・日本人が米国に渡航し,現地で銃器を調達して自ら持ち帰る場合と現地から国際郵便を利用して密輸入する場合がある。
 ・密輸入される銃種は米国製けん銃が中心である。なお,米国製けん銃がフィリピン等第三国を経由して我が国に流入する場合もある。

事例
 15年1月,横浜税関において米国からの国際郵便小包内から発見されたけん銃1丁及びけん銃実包125個について,クリーン・コントロールド・デリバリー(注)を実施し,会社員ら2人を逮捕した。押収されたけん銃はブラジル製で,捜査の結果,被疑者のうちの1人が米国内において入手し,国際郵便を利用して密輸入したものであることが判明した(神奈川,滋賀)。


(注)コントロールド・デリバリーとは,取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても,その場で直ちに検挙することなく,十分な監視の下にその運搬を継続させ,関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法をいう。なかでも,クリーン・コントロールド・デリバリーとは,銃器等の禁制品を発見した際に,別の物品と差し替えて行うものをいう。

(ウ)ロシア極東ルートの特徴
 ロシア製けん銃の押収量は,12年以降急速に増加しており,13年の押収丁数は105丁で真正けん銃の押収丁数の12.3%を占めたところである。また,近年ロシア製マカロフ型けん銃と思料されるけん銃が使用された凶悪事件が発生している。
 ・我が国へ進出しているロシア極東地域のロシア人犯罪組織が北海道・北陸地方等の暴力団との結び付きを強めるなかで,ロシア製けん銃を密輸入している可能性が高いと推察される。
 ・密輸入される銃種はロシア製マカロフ型けん銃が大半。これらの多くはロシアの闇市場で流通している密造銃とみられる。

 
ロシア製マカロフ型けん銃

ロシア製マカロフ型けん銃

事例
 7年9月,暴力団関係者らはロシア人と共謀の上,サハリン州から網走港に入港したロシア貨物船を利用して,けん銃2丁を密輸入した(宮城,北海道)。

(エ)中国ルートの特徴
 ・平成の初期に,中国から大量のけん銃(トカレフ型けん銃)が密輸入されたとみられている。
 ・最近では,中国からの集団密航事件で検挙された被疑者の所持していたけん銃が,中国から密輸入されたものであることが明らかになっている。このように,我が国へ進出している中国人犯罪者又は中国人犯罪グループが各種犯罪を敢行するなかで,依然として,中国から我が国に向けてけん銃が密輸入されている可能性がある。

事例
 2年10月,暴力団幹部らは,けん銃約800丁,実包5万400個を中国から漁船を利用して密輸入した。密輸入されたけん銃は中国製トカレフ型けん銃等であった(警視庁)。

(オ)その他のルート
 四大ルートに次ぐものとして,「南アフリカルート」,「南米ルート」が挙げられ,遠洋漁船の日本人船員が現地で入手・調達した銃器を,当該漁船を利用して密かに運搬する形態が多くみられる。

事例
 7年4月,停泊中の遠洋まぐろ漁船を捜索し,けん銃2丁,実包216個を押収するとともに,ペルーでけん銃を購入・密輸入した日本人船員を逮捕した(静岡)。

(カ)けん銃密輸入事件における暴力団の関与状況
 過去10年間に発生したけん銃密輸入事件(けん銃部品及びけん銃実包のみの密輸入を除く。)は60件であるが,そのうち実行犯として暴力団等が直接関与したものは18件(30.0%)で,暴力団等が買い手となる場合を含めると,暴力団等が関与したと認められるものは28件(46.7%)あった。
 このうち,特に,10丁以上の大量密輸入事件14件について分析すると,暴力団等が密輸入行為に直接関与したものは7件,また,買い手が暴力団等であるものが4件であり,8割近くが暴力団関連の事件である。このことと,国内の総押収けん銃の5割が暴力団等からであることなどを考え合わせると,密輸入事件については,暴力団等の関与が実質的には相当高いものと推定される。
 さらに,密輸入ルートごとに暴力団が関与する割合をみてみると,フィリピンルートにおいては18件中13件(72.2%),ロシア極東ルートが3件中2件(66.7%),南米ルートが6件中4件(66.7%),南アフリカルートが8件中5件(62.5%)と高い割合で暴力団が関与している状況がうかがわれる。なお,米国ルートでは15件中3件(20.0%)のみが暴力団の関与する事件であった。

事例1
 遠洋まぐろ漁船員らは,昭和59年から平成3年ころまでの間,前後8回にわたり,南アフリカから約800丁のけん銃を船内に隠匿して密輸入した。密輸入されたけん銃の多くは暴力団関係者に密売され,4年3月,栃木県で発生した政党副総裁襲撃事件や,同年2月,大阪府で発生した現金輸送車襲撃事件等凶悪な犯罪に使用されたことが製造番号等から判明している(静岡)。

事例2
 12年7月,神戸港においてフィリピンからの通関検査申請中の輸入貨物をX線検査した結果,貨物底部にけん銃17丁及び実包497個が隠匿されているのを確認。直ちに,クリーン・コントロールド・デリバリーを実施し,会社員の男が同貨物を受取りに現れたところを銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)第31条の17(けん銃として所持した罪)により逮捕した。その後の捜査により,四代目工藤會傘下組織幹部ほか4人の共犯者を逮捕した(千葉,兵庫,福岡)。

 

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