はじめに

 平成13年中の治安情勢は、青森県弘前市内の消費者金融における強盗殺人・放火等事件、大阪府池田市内の小学校における多数殺人等事件、芸予地震の発生、少年による凶悪事件の相次ぐ発生を始め、数々の重要事件、事故及び災害が発生し、また、ストーカー事案等の市民生活の安全と平穏を脅かす事案の多発、交通事故の多発、九州南西海域不審船事案の発生等、極めて厳しい状況であった。
 特に、路上強盗、ひったくり等の国民に身近な犯罪が増加し、刑法犯認知件数は、273万5,612件と戦後最高を記録するとともに、来日外国人や暴力団等による組織的な犯罪が深刻化し、治安の悪化に対する国民の不安感の増大が指摘されている。
 さらに、9月11日に発生した米国における同時多発テロ事件は、3,000人を超える犠牲者を出す過去最悪の無差別テロ事件となり、この事件を機に世界のテロ対策は大きく変化し、テロの根絶に向けた対策が世界的規模で進められることとなった。
 このような情勢の下、警察としては当面、次のような施策を重点的に推進していくこととしている。

○ 厳しさを増す犯罪情勢への取組み
 刑法犯認知件数は増加を続け、戦後最高を記録している。また、来日外国人犯罪や少年非行が深刻化しており、犯罪情勢は厳しさを増している。このような情勢に対応し、治安の回復を図るため、警察力の効率的運用、科学技術の活用等により捜査力・執行力の総合的な充実強化に取り組む。また、犯罪の発生を抑止するため、警察自らの取組みを強化することに加え、国民一人一人や関係機関・団体による防犯行動を促進することなどにより、犯罪に強い新たな社会システムの構築に向けた施策を展開する(第1章参照)。

○ 国際テロの未然防止に向けた取組み
 近年の国際テロは大規模化、無差別化の傾向が著しく、一度発生を許せば多くの犠牲を生むことから、テロ対策の要諦はその未然防止にある。
 警察では、各国治安機関との情報交換等内外の情報収集・分析を進め、捜査活動を一層強化するほか、重要施設の警戒警備、生物化学テロ対策、ハイジャック防止対策、経空テロ対策、サイバーテロ対策等の諸対策を推進し、テロの未然防止を図っていく(第2章参照)。

○ 市民の安全と平穏の確保
 ストーカー対策の推進、配偶者からの暴力事案への適切な対応の推進、犯罪防止に配慮した環境設計活動の推進、相談業務の強化、地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等を図る。
 また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の適切な施行、悪質な生活経済事犯等の取締り等を推進する(第3章参照)。

○ 少年の健全育成を図るための総合的な取組み
 深刻な少年非行情勢に対処するため、少年事件捜査力の充実強化を図るとともに、少年サポートセンターを中心に少年相談活動や不良行為少年に対する継続補導、少年の社会参加活動を始めとする居場所づくりの推進等の少年非行抑止対策を推進していく。
 また、少年の保護対策として、犯罪等の被害を受けた少年に対する支援、児童虐待の早期発見と事件化、児童買春・児童ポルノ事犯の徹底した取締り等を推進していく(第3章参照)。

○ 銃器・薬物対策の推進
 銃器・薬物対策については、「銃器対策推進本部」と「薬物乱用対策推進本部」を中心に関係機関が連携の上、政府を挙げて総合的に推進している。警察では、銃器対策については、暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締り等を積極的に推進し、薬物対策については、薬物の密輸入・密売事犯の取締りの強化、薬物組織犯罪対策の推進、末端乱用者の徹底検挙等を重点推進事項とし、諸対策を推進する(第3章参照)。

○ 環境犯罪対策の推進
 環境問題がますます重要となり、我が国においても社会問題化している情勢を踏まえ、産業廃棄物事犯等を「環境犯罪」ととらえて、広域にわたる産業廃棄物の不法投棄事犯等に対する取締りを強化するなどの対策を一層推進する(第3章参照)。

○ 高度情報通信ネットワーク社会の安全性の確保
 高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保が、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の「施策の策定に係る基本方針」や、e-Japan重点計画の「重点政策5分野」の一つとして掲げられるなど、「世界最先端のIT国家」の実現に向け情報セキュリティ対策の重要度が増していることから、ハイテク犯罪対策、サイバーテロ対策等を柱とした諸施策を推進していく(第3章参照)。

○ 金融・不良債権関連事犯対策
 融資過程又は債権回収過程における詐欺、背任、競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い、不正事案の摘発及び防止に努める(第4章参照)。

○ 暴力団総合対策の推進
 暴力団が市民生活に対する重大な脅威となっている情勢に対処し、暴力団を壊滅させるため、暴力団犯罪の徹底検挙、暴力団対策法の適正かつ効果的な運用及び暴力団排除活動の積極的推進を三本の柱として暴力団総合対策を強力に推進する(第5章参照)。

○ 安全で快適な交通の確保
 交通安全教育指針に基づく段階的かつ体系的な交通安全教育の推進や、悪質・危険性、迷惑性の高い違反に対する取締りの強化等、交通事故を防止し、その被害軽減を図るための施策を総合的に展開する。また、交通渋滞や交通公害、地球温暖化が大きな社会問題となっていることから、ITS(高度道路交通システム)の推進を図るなど、快適な交通の確保のための諸施策を推進する(第6章参照)。

○ オウム真理教対策の推進
 地下鉄サリン事件を始めとする凶悪な事件を引き起こしたオウム真理教の本質に変わりはない。警察は、依然逃走している平田信ら特別手配被疑者3人の発見検挙に全力を尽くすとともに、教団信者による違法行為に対する厳正な捜査を推進する。また、住民の平穏な生活を守るため、必要な警戒警備活動等を行っていく(第7章参照)。

○ 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧、徹底検挙
 極左暴力集団による凶悪な「テロ、ゲリラ」事件及び各種違法事案の未然防圧と取締りを推進する。また、右翼によるテロ等重大事件の未然防圧に向け、銃器摘発や資金獲得を目的とした犯罪の取締りを強化するとともに、悪質な街頭宣伝活動に対する諸対策を推進する(第7章参照)。

○ 警察事象の国際化への対応
 国境を越える犯罪に対応するため、捜査能力と語学能力を兼ね備えた国際捜査官の育成、通訳体制の整備等国際捜査力を強化するとともに、関係行政機関や地域住民との連携を強化するほか、外国捜査機関等との協力や国際社会における国際犯罪対策に積極的に取り組み、総合的な国際犯罪対策を推進する(第9章参照)。

○ 適正な警察活動の確保
 公安委員会の管理機能の充実・活性化、警察における監察機能の充実・強化、警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理、警察署協議会の適切な運営による地域住民の要望・意見の把握、情報公開の推進、職務執行による責任の明確化により、警察活動の一層の適正化を図る(第10章参照)。

○ 警察活動をささえる基盤の強化
 組織、人員の効率的運用、教育の充実による職員の実務能力と資質の向上、業務推進方法の見直し、装備資機材の高度化等を更に推進するとともに、人的体制の整備を図る。
 また、職員の高い士気を維持するため、福祉・厚生の充実、勤務制度の改善等に努めるとともに、今後の警察を担う優秀な人材を確保するため、人物重視の採用方法、中途採用等の採用の複線化等を積極的に推進する(第10章参照)。

○ 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化
 事件、事故及び災害に迅速かつ的確に対応するため、各種情報通信システムの充実強化を図るとともに、機動警察通信隊の体制強化に努める(第10章参照)。

○ 被害者対策の推進
 被害者への支援をより充実させるため、犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の適正な運用を図るとともに、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減及び関係機関・団体等との連携等の各種施策を一層推進する(第10章参照)。


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