第1節 警察事象の国際化の概況と対策

来日外国人による犯罪
 社会・経済のグローバリゼーションの進展に伴い、犯罪のグローバリゼーションともいうべき問題が発生している。なかでも国際組織犯罪(注1)の深刻化が進んでいる。
 さらに、我が国と近隣諸国との賃金格差を背景として多数の不法就労を目的とした外国人が我が国に流入し、定着化する問題が生じている。これらの者の中には、不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染め、我が国国内で犯罪グループを形成し、あるいは我が国の暴力団や外国に本拠を置く国際犯罪組織(注2)と連携をとるものがある。
 このような国際犯罪(注3)対策の問題は、平成6年のナポリ・サミット以降、頻繁にコミュニケ、議長声明等で取り上げられており、国際協議の場でも重要なテーマとなっている。
 また、国内でも、関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに有効適切な対策を総合的かつ積極的に推進するため、13年7月、内閣に国際組織犯罪等対策推進本部が設置されている。警察では、国際犯罪のより根本的な解決を目指した総合的な対策に取り組んでいる。
(注1) 国際組織犯罪とは、各国間の協議の場等では、国・地域や手段を問わず国境を越えて組織的に行われる犯罪全般を指すことが多い。
(注2) 国際犯罪組織とは、本白書では、国際犯罪を行う多数人の集合体のことをいい、外国に本拠を置く犯罪組織や不法滞在外国人によって構成された外国人犯罪グループ等がこれに当たる。
(注3) 国際犯罪とは、外国人による犯罪、国民の外国における犯罪その他外国に係る犯罪をいう。
 外国人入国者数及び来日外国人(注)検挙状況は、図9-1のとおりであり、13年は、検挙人員が過去最多を記録し、4年と比べ件数で2.3倍、人員で1.6倍となっている。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者をいう。
(1)来日外国人による犯罪
 来日外国人による刑法犯の包括罪種別検挙状況は、表9-1のとおりであり、平成13年中の検挙件数は前年より減少しているが、検挙人員は増加している。
①凶悪犯
 13年中の来日外国人による凶悪犯の検挙状況は、
・ 検挙件数308件(前年比66件(27.3%)増)
・ 検挙人員403人(同85人(26.7%)増)
であり、なかでも強盗は、
・ 検挙件数219件(前年比55件(33.5%)増)
・ 検挙人員309人(同73人(30.9%)増)
とそれぞれ大幅に増加した。
 また、態様では、
・ ピッキング用具を使用した侵入盗の犯人による居直り強盗事件
・ 緊縛強盗事件
等の凶悪な犯罪がみられる。
[事例]13年2月、中国人の男らは、会社経営者宅に押し入り、家人を緊縛し、暴行を加えて脅迫した上、現金約1億円と貴金属等52点(時価約4,000万円相当)を奪った。5月までに、中国人男2人と暴力団関係者の日本人男2人を検挙し、けん銃1丁を押収した(警視庁)。
②窃盗犯
 13年中の来日外国人による窃盗犯の検挙状況は、
・ 検挙件数1万4,823件(前年比5,129件(25.7%)減)
・ 検挙人員4,135人(同338人(8.7%)増)
であり、
・ 変造韓国500ウォン硬貨対策に伴い自動販売機荒しが急減(6,706件→1,061件)
・ 来日外国人による窃盗犯検挙件数の51.3%、特に侵入盗検挙件数の81.5%が中国人の犯行
・ 依然としてピッキング用具使用による侵入盗や組織的な自動車盗の発生が顕著
等の特徴が見られる。
[事例]3管区4県下におけるピッキング用具使用侵入盗事件につき、13年3月までに、中国人男3人女2人を検挙し、12年5月から11月までの間に敢行されたピッキング用具使用侵入盗及び住居侵入267件、被害総額約1億7,500万円相当の犯行を確認した。同グループは車両を利用し、連日、空き巣ねらいを敢行していた(兵庫、徳島)。
(2)来日外国人犯罪の国籍・地域別検挙状況
 来日外国人刑法犯の国籍・地域別検挙状況は、表9-2のとおりである。アジア地域が検挙件数で1万3,245件(全体の72.8%)、検挙人員で5,160人(全体の72.0%)と依然として高い割合を占めている。なかでも中国は、検挙件数で全体の49.2%、検挙人員で全体の45.1%を占めている。
(3)全国への拡散
 検挙からみた来日外国人刑法犯の都道府県別発生状況は、図9-2のとおりである。平成3年には東京、神奈川等における多発が目立つ程度であったが、8年になると、他の大都市でも多発化が顕著となるほか、全国的にも拡散する状況もみられた。13年には全国への拡散傾向が更に進んでいる。
(4)来日外国人による特別法犯
 来日外国人特別法犯の検挙状況は、図9-3のとおりであり、平成13年は、前年に比べ検挙件数、検挙人員ともに増加した。

我が国における国際犯罪組織の活動状況
 近年、外国に本拠を置く国際犯罪組織が我が国に進出し、また、国内に居住する不法滞在者(注)等が犯罪組織を形成する傾向が著しい。
 平成13年中の刑法犯の検挙件数に占める共犯事件の割合をみると、
・ 日本人 18.3%
・ 来日外国人 55.9%(日本人の3.1倍)
となっている。
また、刑法犯の共犯事件検挙件数を共犯者数別にみると、
・ 日本人 共犯者
2人 63.9%
3人 21.0%
4人以上 15.0%
・ 来日外国人 共犯者
2人 32.9%
3人 24.7%
4人以上 42.4%
であり、来日外国人は日本人に比べ多人数で犯罪を行う傾向が強い。
(注) 不法滞在者とは、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第3条違反の不法入国者、入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留しているなどの不法残留者をいう。
(1)外国に本拠を置く国際犯罪組織
 国際的な密航請負組織である「蛇頭」は、中国での密航者の勧誘、引率、搬送、船舶や偽造旅券の調達、日本での密航者の受入れ、隠匿等を行っている。我が国に不法滞在している中国人を集めて、受入れ組織を構築するなど、広域的に活動し、集団密航に深く関与している。また、蛇頭のほかにも、ロシア人グループによる盗難自動車密輸出事件、韓国人グループによるすり等がみられる。
[事例1]平成13年7月、千葉県千倉漁港に不審な男女約30人が上陸し、保冷車に乗り込み逃走したとの通報を受けて追跡し、中国人密航者3人及び車両を運転していた日本人1人を入管法違反(旅券不携帯、営利目的の収受・輸送の罪)で検挙した。その後の捜査により、集団密航者の受入れに関与した中国人1人及び暴力団員1人を含む日本人6人を、14年1月までに、入管法違反(営利目的の収受・輸送の罪等)で検挙した(千葉)。
[事例2]13年8月、韓国人の男5人は、横浜市内のデパートにおいて、日本人女性が所持していたショルダーバッグ内から現金在中の財布を窃取したところを捜査員に現認され、取り押さえられそうになるや、包丁で抵抗して逃走を図った。1人を強盗致傷及び銃刀法違反で検挙したが、捜査員2人が傷害を負った(神奈川)。
(2)国内に居住する外国人犯罪者のグループによる犯罪
 我が国において不法滞在者等が、より効率的な利益の獲得等を目的として、国籍、出身地等の別によりグループ化し、悪質かつ組織的な犯罪を引き起こしている。
[事例1]平成13年8月、厚木市内の路上で普通乗用車に乗車したまま日本人女性の後ろから近づき、現金約5万円在中の手提げバッグを窃取したひったくり事件につき、10月までに少年3人を含む日系ブラジル人男3人、女2人を窃盗で検挙し、100件余の同種手口ひったくり及び自動車盗の余罪を解明した(神奈川)。
[事例2]13年11月、松江市内のエステ店において、客のクレジットカードのデータをスキミング(注)により不正に読み取っていた中国人女1人を電磁的記録不正作出準備で、偽造テレフォンカードを所持していた中国人女4人を不正電磁的記録カード所持で、中国人男2人、女3人を入管法違反でそれぞれ検挙した(島根)。
(注) スキミングとは、クレジットカード等の磁気データをカード名義人に気付かれないように磁気情報読取装置を用いて取得することをいう。

不法入国・不法滞在者問題
 近年の我が国の厳しい雇用情勢にもかかわらず、依然として就労を目的として来日する外国人は後を絶たず、これらの中には不法就労者も少なくない。
 不法就労者の大半は不法滞在者であるとみられるが、不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染める者も多く、大量の不法滞在者は来日外国人犯罪の温床となっている。平成13年中の来日外国人の刑法犯検挙人員のうち、凶悪犯では403人中180人が不法滞在者で、44.7%と高い割合を占めている。
 こうした現状にかんがみ、警察は、法務省入国管理局との合同摘発を積極的に行うなど、悪質な不法滞在者の取締りを強化している。
(1)国籍・地域別不法残留者、不法入国者及び不法上陸者等の状況
 法務省の推計による国籍別・地域別不法残留者数は、表9-3のとおりである。
 平成13年中、警察が検挙した不法入国者及び不法上陸者の数は、2,499人であり、これを国籍・地域別にみると、
・ 中国 1,462人
・ イラン 243人
・ タイ 189人
の順となっている。
 不法入国者等が引き続き我が国に不法に在留する行為を処罰する不法在留罪の適用により、1,011件、774人の来日外国人を検挙した。
(2)不法滞在を助長する文書偽造事件
 法務省入国管理局が不法入国により退去強制手続をとった不法入国者数及びその航空機・船舶利用別内訳は、図9-5のとおりであり、
・ 航空機利用が高水準で推移しており、偽変造旅券を使用した事案が多発
・ 平成13年中に警察が検挙した偽変造旅券等を使用した不法入国者646人(前年比285人(78.9%)増)のうち、中国人が343人と過半数
・ 日本人の配偶者として在留資格を不正に取得する偽装結婚や在留資格の更新許可申請等に必要な書類を偽造した事案を検挙
[事例1]13年6月、上野公園等ではいかいするホームレス男性と訪日して就労を希望する中国人女性との虚偽の婚姻を届出させていた日本人ブローカー4人並びに偽装結婚の当事者である日本人の男2人及び中国人の女2人を公正証書原本不実記載・同行使で検挙した。ブローカーらは、偽装結婚により既に中国人の女17人を日本人の配偶者として入国させていたことから、東京入国管理局は、9月、逮捕した2人を含む中国人の女19人全員の上陸許可を取り消した。ブローカーらは、このほかに少なくとも約80人の中国人を不正に入国させようとしていたとみられることが判明した(警視庁)。
等の状況がみられる。
 今後とも、法務省入国管理局等関係機関と連携をとり、こうした不法滞在を助長する文書偽造事犯の摘発に努めることとしている。
[事例2]我が国に不法滞在する外国人等を対象に、在留資格の変更、在留期間の更新、在留資格の取得等に必要な各種証明書等を偽造していた中国人ブローカー2人を含む中国人19人を、13年4月までに、有印私文書偽造・同行使、入管法違反(不法残留、不法在留等)等で検挙した。中国人ブローカーは、12年3月から13年2月までの間に、約3,800人の外国人の要望に応じて、在職証明書、雇用契約書、給与支払証明書等の各種書類を偽造し、約3億5,000万円の不正な利益を上げていたとみられたことから、税務当局に通報した(埼玉)。
(3)集団密航事件
 平成13年中、警察及び海上保安庁が検挙した集団密航事件は、図9-6のとおりであり、前年までの減少傾向から増加に転じた。
 警察では、
・ 中国からコンテナに少人数で潜伏する形態の密航が多発したことから、5月、法務省、財務省及び海上保安庁とともに、外務省を通じて中国側にコンテナを利用した密航取締り強化を申入れ
・ 外国捜査機関との間で情報交換を緊密に行うなど連携を強化し、中国及び韓国の捜査機関と共同で「蛇頭」等を摘発
等の対策を講じたほか、引き続き国内関係機関と連携して水際対策を強化するとともに、外国捜査機関との積極的な情報交換を行い、「蛇頭」等の密航請負組織の摘発を強力に推進することとしている。
[事例1]13年10月、警察庁及び海上保安庁は中国公安部と連携し、密航情報を入手、それに基づき、第三管区海上保安本部が密航容疑船を千葉県沖合で発見し、中国人密航者91人並びに不法入国させた中国人6人及び日本人2人を入管法違反(不法入国、集団密航者を本邦に向けて輸送した罪等)で検挙した。また、同本部との共同捜査で、14年2月までに、暴力団員1人を含む日本人4人を同法違反(集団密航者を収受等する罪の予備)で検挙した。一方、中国捜査当局では、13年10月までに、中国国内の「蛇頭」4人を検挙した(千葉)。
[事例2]13年7月、北海道稚内港で発生した集団密航事件で、イラン人等の密航者12人及び密航に関与したロシア人船員2人を入管法違反(旅券不携帯、不法上陸等)で検挙した。その後の捜査の結果、韓国内において密航をあっせんしていたロシア人ブローカーがいることが判明し、韓国捜査当局は、12月、ブローカー1人を検挙した(北海道)。
(4)雇用関係事犯
 外国人が不法就労を目的に不法入国や不法残留をしている事犯は依然として後を絶たず、その原因の一つとして、外国人を雇用しようとする者や就労あっせんブローカーの存在が挙げられ、一部に暴力団の関与する事案もみられる。外国人労働者の雇用主の中には、彼らを低賃金で雇用する者がみられ、また、就労あっせんブローカーは、外国人労働者と雇用主等との間に介在して不当な利益を得るなどしている。
 このため、警察では、
・ 入管法(いわゆる不法就労助長罪)
・ 職業安定法
・ 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
 (以下「労働者派遣法」という。)
・ 労働基準法
等の雇用関係法令を適用して、悪質雇用主や暴力団等を取り締まるとともに、
・ ブローカーへの突き上げ捜査
・ 国際協力及び関係機関との連携の強化
により不法就労外国人の供給の遮断を図っている。
 平成13年中に検挙した就労あっせんブローカーは15人(前年比2人減)となっている。
 また、雇用関係事犯の検挙件数のうち、飲食店等において外国人女性をホステスや売春婦等として従事させていた事犯の割合は、57.6%となっている(表9-4)。
 13年中に雇用関係事犯として検挙した事務所等に雇用されていた外国人は1,176人である。男女別では、女性が67.6%を占めており、国籍等別では、中国人が420人と急増している(表9-5)。
[事例]13年6月、日本での稼働を希望するタイ人女性を偽造旅券等により不法入国等させ、飲食店等に売春婦としてあっせんしていたタイ在住の日本人女性ブローカー(38)を職業安定法違反(有害業務の職業紹介)で検挙した。同人は、タイに拠点を置くブローカー組織の一員として、これまでに5か国(日本、米国、英国、ベトナム及び中国)にタイ人女性等を不法入国等させていた(千葉)。
(5)風俗関係事犯
 我が国においては、短期滞在、興行等の在留資格で入国し、風俗関係事犯に関与する外国人女性が依然として多く、これらの外国人女性は、風俗営業店等における接待行為、さらに売春事犯等にまで関与しており、地域的にも大都市圏以外の地域にまで広がりをみせている。平成13年中に風俗関係事犯において被疑者又は参考人として取り扱った風俗営業店等に稼働する外国人女性は1,193人であり、国籍・地域別では、
・ 中国が426人と急増
・ タイ、フィリピン等東南アジア諸国の女性が依然として多数(表9-6)
という状況にある。
 このような風俗関係事犯に関与する外国人女性については、
・ 現地のブローカー及びこれと結びついた国内のブローカーにだまされて我が国に連れてこられ、ブローカーや風俗営業店の経営者等に入国費用等の名目で多額の借金を背負わされた上、旅券を取り上げられて売春を強要される事案
・ 賃金を搾取されるなどの被害に遭う事案
が目立っていることから、警察では、背後にいるブローカーなど国際犯罪組織の摘発を重点とした取締りを強化している。
[事例]13年10月、台湾の現地ブローカーから、日本での職業はウェイトレス等であるとして誘われ入国した台湾人女性をホステス兼売春婦として雇い入れ、売春を強要していた飲食店経営者の台湾人女性(54)を売春防止法違反(管理売春)及び風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反(無許可風俗営業)で、売春婦の台湾人女性4人を入管法違反(資格外活動等)で検挙するとともに、突き上げ捜査から台湾人女性をあっせんしていた日本人ブローカー(38)を職業安定法違反(有害業務の職業紹介)で検挙した。台湾人女性らは、パスポートを取り上げられ、賃金も支払われず、24時間監視状態に置かれていた(栃木)。

銃器・薬物問題
(1)銃器の密輸入
 平成13年中に押収されたけん銃922丁のうち真正けん銃は852丁(92.4%)で、そのほとんどが米国、ロシア、フィリピン等の外国製であり、海外から密輸入されたものであると考えられる。
 最近は、けん銃を部品に分解して密輸入するなど、手口が多様化・巧妙化している。
 警察では、違法に銃器が流入することを阻止するため、関係機関、外国捜査機関等との捜査協力を強化し、密輸・密売組織や密輸入を敢行するおそれのあるガンマニア等の実態解明及び摘発を推進している。
(2)薬物の密輸入及び来日外国人による薬物事犯
 我が国で乱用されている覚せい剤等の薬物のほとんどは、国際的な犯罪組織と暴力団の関与の下に海外から密輸入されており、我が国を取り巻く薬物犯罪にかかる国際的情勢は極めて厳しい。
 平成13年中の薬物の密輸入に係る大量押収事件(一度に1キログラム(コカインは500グラム)以上を押収した事件をいう。)は42件で、前年に比べ32件(43.2%)減少した。
○ 大量押収事件における薬物の種類別の主な仕出国(積出地)
・ 覚せい剤 中国(香港)
・ 乾燥大麻、大麻樹脂 タイ
・ コカイン コロンビア
・ ヘロイン タイ
・ あへん トルコ
○ 密輸入の方法
 従来から見られた隠匿方法が見られる半面、隠匿方法の悪質・巧妙化が進んでいる。
・ 船舶貨物、航空貨物等への偽装隠匿や身体への巻き付け、手荷物等への隠匿等
・ 歯磨き粉のチューブや浄水フィルターの内部、即席ラーメンの麺への隠匿等
 13年中の来日外国人による薬物事犯の検挙人員は879人で、前年に比べ159人(22.1%)増加した。
○ 特徴的傾向
・ イラン人が依然として最も多く、全体の24.9%
・ ブラジル人が急増し、全体の17.4%を占め、今後更に増加することが懸念される(図9-8)。
 警察では、薬物の流入を阻止するため、関係機関との連携による水際対策の強化や仕出国(積出地)等外国の取締り機関との連携の強化等を図り、薬物の密輸ルート及び密輸・密売組織の壊滅に向けた取締りを強力に推進している。

被疑者の国外逃亡事案
 日本国内で犯罪を引き起こした者で国外に逃亡している者及び国外に逃亡しているおそれのある者の数は、平成13年末時点で553人である。
 このうち出国年月日が判明している184人について、その犯行から出国までの期間をみると、犯行当日に出国した者が6人、犯行翌日に出国した者が12人であり、犯行から10日以内の短期間のうちに66人の者が出国している。
○ 被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合
・ 港や空港に手配するなどしてその出国前の検挙に努める。
○ 被疑者が国外に逃亡した場合
・ 関係国の捜査機関等の協力を得ながら、被疑者の所在を確認。
・ 国際刑事警察機構(ICPO)に対し、国際手配書の発行を請求。
○ 国外に逃亡した被疑者の検挙
・ 逃亡犯罪人引渡しに関する条約などに基づく外交ルートによる被疑者の引渡請求。
・ 特に日本人被疑者については、逃亡先国において強制退去処分に付された場合に公海上の航空機内において引き取る。
・ 13年中は、日本人被疑者10人の身柄の引取りを行った。
[事例]日本人の男(36)は、13年4月、数名の者と共謀の上、東京都内の路上において会社経営者である男性に暴行を加え現金約1,300万円を強奪し、その後フィリピンに逃亡していたが、8月、強制退去処分に付された同人を公海上の航空機内において逮捕した(警視庁)。

国際捜査態勢の強化
(1)総合的取組み体制の確立
 近年急増している来日外国人犯罪の捜査については、日本人による犯罪の捜査とは異なる点が多く、また、同一の個人やグループが多種多様な犯罪を引き起こしていることから、多方面にわたる専門捜査員が共同して捜査に当たる必要がある。
 警察では、平成11年、警察庁に「国際化対策委員会」を設置し、各都道府県警察にも同様の組織を置いて、組織の総力を挙げて来日外国人犯罪対策を推進している。
(2)国際捜査官の育成
 来日外国人犯罪の捜査に従事する警察官には、外国語はもとより、出入国管理、国際捜査共助、刑事手続等に関する条約その他の内外の法制等、極めて幅広い分野に関する特別の知識が要求されることから、警察では、従来から部内又は部外委託により語学研修を行うとともに、国際捜査実務に関する研修を行っている。警察庁では、警察大学校国際捜査研修所において、国際捜査に関する実務研修や語学教育、海外研修等を実施している。また、都道府県警察においても、国際捜査に従事する捜査員に対する教育や通訳担当者も参加する実務的な語学研修等を実施するとともに、平成6年度からは、特に高い語学能力を備えた者を特別に採用し、国際捜査力の確保に努めている。
(3)通訳体制の整備
 近年、アジア諸国出身者を中心とする来日外国人犯罪の増加に伴い、アジア諸国等の言語の通訳人の需要が急増している。都道府県警察においては、高い語学能力を備えた者を警察職員として採用し、取調べにおける通訳等に当たらせているが、警察部内でそのすべてに対応することは困難であり、通訳の一部を部外の通訳人に依頼して対応している。これらの部外通訳人に対しては、刑事手続等への理解を深められるよう、「通訳ハンドブック」等を配布したり、各種研修会等を開催している。また、通訳人の運用に当たっては、夜間等に突発的に発生する事件に迅速に対応するなどの必要があるため、都道府県警察に通訳センターを設置するなどして、その体制の整備に努めている。
 なお、被疑者に対しては、刑事手続の流れ等について各国語の対訳を作成し、適宜被疑者に提示しながら通訳人を介して説明するなど、被疑者の権利内容等の理解の徹底を図っている。

外国捜査機関等との協力
(1)外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って、外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等を行うことが一層重要となり、従来に増してICPOルートや外交ルート等による外国捜査機関との情報交換を始めとした相互協力の必要性が高まっている。
 過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信・受信件数は、表9-7のとおりである。また、外国からの要請に基づき捜査共助を実施した件数及び外国に対して捜査共助を要請した件数は、表9-8、表9-9のとおりであり、いずれも増加傾向にある。その大半はICPOルートによるものである。
(2)国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)との協力
 ICPOは、国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等の国際的な捜査協力を迅速かつ的確に行うための各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、2001年(平成13年)末現在、179か国・地域が加盟している。
○ ICPOの活動
・ 国際犯罪に関する情報の収集及び交換
・ 逃亡犯罪人の所在確認及び身柄の確保等を求める国際手配書の発行
・ 各種国際会議の開催
・ 犯罪情報システム及び通信網の拡充並びに加盟国の国家中央事務局(NCB)における24時間体制の整備等による情報連絡網の体制整備
○ 警察庁のICPOへの貢献
・ 捜査協力の積極的実施
・ 事務総局への警察職員の派遣
・ 分担金の拠出
・ 通信技術の提供
 なお、1996年(8年)から2000年(12年)11月までの間、警察庁国際部長(当時)が第15代ICPO総裁として総会を主宰し、長期的方針、予算の決定における調整を行うなど運営を主導した。

国際社会における国際犯罪対策への取組み
 国境を越えて引き起こされる国際犯罪に対処するためには、国際的な捜査協力が不可欠であることから、近年、サミット等の国際協議の場においても国際犯罪対策が重要なテーマとなっている。
 警察では、犯罪の国際化に伴い、その防止、捜査及び検挙に向けて関係諸国との協議を行っている。2001年(平成13年)中に警察職員が出席した主な国際会議は、表9-12のとおりである。
(1)国際連合における取組み
 2000年(平成12年)11月、国連総会において採択された国際組織犯罪条約(本条約)は、重大な犯罪に関する共謀やマネー・ローンダリングの犯罪化等の各国の国内法制充実のための諸規定及び犯罪人引渡し、国際捜査共助等の国際協力の充実・強化のための諸規定から構成されており、各国が本条約及び議定書を締結することにより、刑事司法制度や犯罪防止のための行政措置が平準化し、組織犯罪に対し世界的な取締りの網をかぶせることができるようになるとともに、各国間の迅速な捜査・司法共助等が可能となることが期待される。
 現在、国連においては、本条約の早期発効に向け、開発途上国に対する条約締結のための技術協力等を推進している。
(2)サミット等における取組み
①サミットにおける取組み
 2001年(平成13年)7月に開催されたジェノバ・サミットにおいては、G8として国際組織犯罪対策を進めていくことが再確認され、法執行及び司法協力の分野や公務員等の腐敗、サイバー犯罪、オンライン上の児童ポルノ及び人の密輸に係る対策における取組みの進展が奨励された。
 また、薬物の不正取引・使用について、その抑制対策の努力を強化することが合意されたほか、OECD贈賄防止条約の完全な実施が合意されるとともに、公務員等の腐敗防止策の遂行に向けた国連の努力が支持された。
②G8国際組織犯罪対策上級専門家会合における取組み
 1995年(7年)に開催されたハリファックス・サミットにおいて設置が決定されたG8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)は、国際組織犯罪対策のための国際協力の枠組みづくりを進め、ハイテク犯罪を始めとする各種犯罪分野において刑事法制や法執行協力の在り方等について検討を進めてきた。
 同グループは、2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、G8テロ専門家会合(ローマ・グループ)と合同で会合を開催し、国際組織犯罪対策における知識・経験をテロ対策に活用することなどを検討し、2002年(14年)5月には、1996年(8年)に策定した「国際組織犯罪と闘うための40の勧告」の内容を見直し、国際組織犯罪のみならずテロへの効果的な対処をも視野に入れた「国際犯罪に関するG8勧告」を策定した。
③G8司法・内務閣僚級会合における取組み
 2002年(14年)5月には、サミット議長国であるカナダの主催でモン・トレンブランにおいてG8司法・内務閣僚級会合が開催され、警察庁から次長が出席し、CBRN(化学兵器、生物兵器、放射性物質、核兵器)テロ対策、テロ資金供与対策、ハイテク犯罪対策、オンライン上の児童ポルノ対策、国際テロ及び国際犯罪と闘うための取組みの強化等について協議が行われ、テロ対策に係る国際協力の強化等が合意された。
(3)国際的なマネー・ローンダリング対策
①金融活動作業部会(FATF)の活動
 FATF(Financial Action Task Force)は、1989年(平成元年)のアルシュ・サミットで設置が決定されたマネー・ローンダリング対策に関する国際協力を推進するための国際フォーラムであり、14年6月末現在、我が国を含む29か国・地域及び2国際機関が参加している。
 FATFでは、法執行、刑事司法、金融の分野において各国がとるべきマネー・ローンダリング対策を示した「40の勧告」を策定・公表したほか、2000年(12年)以降、マネー・ローンダリング規制の「抜け穴」をふさぐため、金融機関に対する規制が不十分で国際的な司法・捜査協力に非協力的な国・地域(表9-11)を特定し、金融機関がこれらの国・地域との間の取引について特別の注意を払うよう勧告している。
 また、FATFでは、2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、「テロ資金供与に関するFATF特別勧告」を策定・公表した。
 警察庁は、FATF関連の各種会議における協議に積極的に参加するなど、その活動に貢献している。
②アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)の活動
 APG(Asia/Pacific Group on Money Laundering)は、1997年(9年)にタイで開催されたFATF第4回アジア・太平洋マネー・ローンダリングシンポジウムで、域内のマネー・ローンダリング対策を推進するため設置が決定され、14年6月現在、我が国を含む25か国・地域が参加している。
 我が国は、1998年(10年)の第1回APG年次総会を始め、1999年(11年)にはAPG犯罪類型分析専門家会合を東京で開催するなど、その活動に貢献している。
(4)アジア諸国との連携の強化
 我が国において活動する国際犯罪組織は、アジアに本拠を置くものが多く、その実態解明と検挙の推進には、関係各国による共同の取組みが必要である。国際組織犯罪対策は、自国の治安問題のみならず、国際社会に対する責務でもあるという国際社会における共通認識の下で、アジアにおける国際犯罪組織の最大の活動の場の一つである我が国も、応分の責任を負担し、アジアにおける国際犯罪対策の推進に貢献している。
 来日外国人犯罪(刑法犯)検挙人員の約半数を占める中国との間においては、以下のとおり連携を強化している。
○ 2000年(平成12年)12月、東京において日中治安当局間協議第2回会合が開催され、我が国からは警察庁のほか、法務省、外務省等が参加して、両国間で密航、薬物、銃器問題その他の組織犯罪について協議
○ 2001年(13年)1月、アジア・太平洋国際組織犯罪対策会議を東京において開催し、我が国を含むアジア・太平洋域内及びG8等の30か国2地域並びに3国際機関から法執行機関の幹部約230人が参加して、アジア・太平洋地域を中心とした総合的な国際犯罪対策のための国際協力の在り方について協議
○ 2002年(14年)1月、国家公安委員会委員長が中国を訪問して公安部長等と会談を行い、偽造旅券、偽装結婚等に係る新たな犯罪形態に対する取締りを強化することや、国際テロ対策、ワールドカップの安全対策において協力することで一致


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