第1節 平成13年の暴力団の概況

暴力団情勢
 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)の施行を契機とした暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により、暴力団は、社会から孤立しつつある。しかしながら、民事介入暴力、金融・不良債権関連事犯を多数引き起こすなど、その資金獲得活動は、社会経済情勢の変化に対応して一層多様化・巧妙化しつつある。
 また、暴力団は、けん銃を使用した凶悪な犯罪や薬物犯罪を多数引き起こすなど、市民社会にとって大きな脅威となっており、対立抗争事件も、依然として多数発生している。
 このような情勢の下、警察は、
・ 暴力団犯罪の取締りの徹底
・ 暴力団対策法の効果的な運用
・ 暴力団排除活動の推進
を三本の柱とした暴力団総合対策を推進している。
(1)暴力団構成員数等の推移
 暴力団構成員及び準構成員(注)の総数は、最近5年間でやや増加しているが、構成員数は減少し、準構成員数は増加しており、それぞれの構成比率が接近してきている。
 平成13年の五代目山口組(以下「山口組」という。)、稲川会及び住吉会の3団体の構成員は約3万400人で、12年に比べ、約400人(1.3%)増加した。
(注) 暴力団準構成員とは、構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力し若しくは関与する者をいう。
(2)暴力団組織の解散・壊滅の状況
 平成13年中の山口組、稲川会及び住吉会の3団体の傘下組織の解散・壊滅数は122組織(構成員数893人)であり、解散・壊滅した暴力団組織全体の69.7%(全構成員数の60.6%)を占めている。
(3)全般的検挙状況
 平成13年中の暴力団構成員及び準構成員のうち、山口組の構成員及び準構成員の検挙人員がほぼ半数を占めている(図5-1)。
 暴力団構成員及び準構成員の検挙人員を罪種別にみると、
・ 覚せい剤取締法違反
 7,298人(構成比23.6%)
・ 傷害
 4,838人(15.6%)
・ 恐喝
 3,070人(9.9%)
・ 窃盗
 2,757人(8.9%)
の順となっている。

暴力団犯罪の取締り
(1)暴力団に対する組織的犯罪処罰法の適用状況
 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)は平成12年2月に施行された。警察では組織的犯罪処罰法の運用を通して、暴力団員等の長期にわたる社会からの隔離及び暴力団の資金のはく奪を図っているところである(表5-4)。
(2)対立抗争事件及び銃器発砲事件の発生状況
 平成13年は、上半期に首都圏を中心に対立抗争が相次ぎ、対立抗争の発生回数及び銃器発砲の発生回数がともに、前年に比べ増加している(図5-2)。
(3)けん銃の押収状況
 けん銃の押収丁数は、平成10年以降横ばいであるが、13年は、ペンシル型けん銃及びマカロフ型けん銃の押収が増加した(図5-3)。
(4)総会屋等による企業対象暴力
 平成13年中の総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙件数、検挙人員のうち、総会屋の検挙件数、検挙人員は5件、6人であり、一部企業と総会屋との関係は依然として続いている状況にある(表5-5)。
(5)金融・不良債権関連事犯
 暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯の検挙状況をみると、競売入札妨害事件、強制執行妨害事件等の債権回収過程におけるものが、74件(73.3%)を占め、債権回収を妨害することにより利益を得ることを常習としている者たちの存在もうかがわれる。
 また、公的融資制度を悪用した詐欺事件、出資法違反事件等の事犯の検挙件数も増加する傾向にあり、融資過程においても暴力団等の資金獲得活動が依然として続いていることがうかがえる(表5-6)。  そのため、警察では従来から、預金保険機構、整理回収機構、裁判所、金融機関、信用保証協会等の関係機関との連携により、このような金融・不良債権関連事犯の検挙及び債権回収過程等からの暴力団等の排除を推進している。
 また、債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)の規定に基づき必要な援助を行うなど、債権回収会社との連携を進めている。
(6)資金獲得犯罪の検挙状況
①伝統的資金獲得犯罪
 古くからある暴力団の資金獲得犯罪として、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)が挙げられる(表5-7)。平成13年中のこれらの罪種に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は、暴力団構成員及び準構成員の全検挙人員の39.1%を占めている。そのうち、構成員の検挙人員は3,572人と、全検挙人員の36.1%を占めている。
②企業活動を利用した資金獲得犯罪
 暴力団は、自らが経営に関与する企業等を通じ、又は企業と結託して、いわゆる表の経済社会へ進出し、一般の経済取引を装うなどして様々な犯罪を引き起こし、資金を獲得している。
 13年中にも、暴力団関係企業による各種業法違反事件等の検挙がみられた。

暴力団対策法の施行状況
(1)暴力団の指定状況
 平成13年末現在、24団体が指定暴力団として指定されており、13年中には、山口組、稲川会、住吉会ほか11団体が4度目の指定を受けた。
 また、三代目山野会については、団体が壊滅したため、熊本県公安委員会が13年11月8日に指定を取り消した(表5-8)。
(2)中止命令及び再発防止命令の発出状況
 平成13年中の中止命令を形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが全体の61.8%を占めており、団体別にみると、山口組、稲川会及び住吉会に対するものが全体の74.7%を占めている(表5-9)。なお、暴力団対策法施行以降、発出された中止命令、再発防止命令の総件数は、13年末現在、それぞれ1万5,020件、474件に上っている。

民事介入暴力対策及び暴力団排除活動の現状
(1)都道府県暴力追放運動推進センターの活動状況
 都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)は、警察、弁護士会その他の関係機関・団体との連携の下に民事介入暴力対策及び暴力団排除活動を活発に展開している。
(2)行政対象暴力の排除対策
暴力団等反社会的勢力による行政機関や行政機関の職員を対象とした主な資金獲得活動
○機関誌等の購読要求
○行政機関の監督権限を利用しての公共工事等への下請け参入要求
警察による行政対象暴力の排除対策の推進
都道府県センター及び弁護士会と連携
○行政機関に対する不当要求防止責任者講習の実施
○行政機関における不当要求防止委員会等の設置の働き掛け
(3)各種業からの暴力団排除
①産業廃棄物処理業等からの暴力団排除
 暴力団排除条項を新たに盛り込んだ廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正(平成12年10月1日施行)により、産業廃棄物処理業等からの暴力団排除を積極的に推進している。
[事例] 千葉県警察は、千葉県からの産業廃棄物収集運搬等の新規許可申請に伴う意見聴取に基づき調査したところ、同社役員が山口組傘下組織幹部(46)であることが明らかとなったことから、平成13年5月、千葉県に対して法第14条第3項第2号ニに該当する旨を意見陳述し、県はこの申請に対して、不許可処分とした(千葉)。
②公共事業等からの暴力団排除
 警察では、国や地方公共団体と連携して、暴力団の資金源を遮断するため、国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団及び暴力団利用業者を排除するなど、公共事業における暴力団排除活動を積極的に推進している。
 また、建設業及び不動産業については、都道府県警察と知事部局との申合せに基づき、許可申請時等における審査や、個別事案に基づく排除要請により許可を取り消すなどして、暴力団を排除するための連携を徹底している。
[事例] 大阪府警察は、建設会社代表取締役らを公共工事に絡む威力業務妨害事件で検挙し、取り調べた結果、同社は、山口組傘下組織組長(33)が実質経営する大阪府及び阪南市の入札参加資格業者であることが判明した。このため、大阪府警察では、同府及び同市に対して、同社に対する指名除外を働き掛けたところ、同府及び同市では、平成13年10月から1年を経過し、かつ改善が認められるまで指名除外とする処分を行った(大阪)。
(4)暴力団を相手とする民事訴訟支援の動向
 全国各地で、暴力団事務所の明渡しや使用差止めの請求訴訟、暴力団員の違法行為による被害に係る損害賠償請求訴訟等、暴力団を相手方とした民事訴訟が提起されており、警察は日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会等とも連携しつつ積極的に訴訟支援を行っている。なかでも、暴力団犯罪の被害者が、当該犯罪等の実行行為者のみならず、その所属する暴力団の組長等の使用者責任(民法715条)や共同不法行為責任(民法719条)を追及する損害賠償請求訴訟については、被害回復に寄与することはもとより、暴力団組織に大きな打撃を与えている。
 警察は、危害防止の観点から関係者に対する保護対策を徹底するとともに、暴力団情報の積極的な提供を図っている。また、都道府県センターにおいては、訴訟費用の無利子貸付等の支援を積極的に行っている。
[事例1] 國粹会傘下組織組長(45)を塾頭とする政治結社が、計59回にわたり、茨城県内の町長に対して辞職を求める街宣を行った上、同町長の実父宅の外壁に乗用車を衝突させるなどした事件に関する同町長等による損害賠償請求訴訟について、警察及び茨城県暴力追放運動推進センターは、関東弁護士会連合会民暴委員会17名で結成する弁護団と連携して訴訟支援を行い、その結果、平成13年4月、被告組長等に対し約600万円の支払い及び謝罪広告の掲載を命じる判決を勝ち取り、地元新聞に謝罪広告が掲載された(茨城、埼玉)。
[事例2] 稲川会傘下組織組員(44)が、縄張内でささいなことから憤慨し、巡業中の演歌歌手を殺害した事件において、遺族による同組長等に対する使用者責任に基づく損害賠償請求訴訟について、警察、埼玉県暴力追放・薬物乱用防止センター及び弁護士会民暴センターは、遺族への被害者対策、訴訟費用の無利子貸付等の訴訟支援を行い、その結果、平成13年12月、事件発生当時拘置中であった被告組長の使用者責任を認めるとともに、被告組長等に対して約7,100万円を支払うことを命じる判決を勝ち取った(埼玉)。


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