第4章 犯罪情勢と捜査活動

政治・行政とカネをめぐる不正事案
 国会議員の私設秘書が、議員の影響力を利用して官・業の間を取り持ち不正に資金を得ている実態が明らかになる一方で、地方公共団体の長らによる贈収賄事件や買収等の選挙違反の摘発が依然として続いており、これら政治・行政とカネをめぐる構造的不正の追及を求める国民の声はかつてない高まりをみせている。警察では、捜査体制の整備を図るとともに、専門的知識・技能を有する捜査員の育成強化に努め、こうした不正事案の解明を進めている。
(1)贈収賄事件
 平成13年中の贈収賄事件の検挙件数は85件、検挙人員は262人である。検挙人員のうち、首長、地方議会議員の検挙人員は、それぞれ11人、30人となっており引き続き高い水準で推移している(図4-1)。
[事例] 半田市長(61)は、市発注の公共工事入札に関し、指名競争入札の参加業者に指名するなどの有利な取扱いを受けたい旨の請託を受け、その報酬として、建設会社営業部長(55)らから、同市長の親族が代表取締役を務める設備工事会社に、同建設会社から下請発注した工事代金に上乗せされて支払われることを知りながら、11年12月ころ、同報酬分200万円を含んだ約束手形及び小切手を第三者である同設備工事会社に供与させた。
 13年4月、半田市長を第三者供賄罪で、建設会社営業部長らを贈賄罪で、それぞれ検挙した(愛知)。
(2)談合・競売入札妨害事件
 平成13年中の談合及び競売入札妨害事件の検挙件数は14件、検挙人員は44人となっている。
[事例] 宮城県議会議員(53)及び建設会社社長(47)らは、共謀の上、同県発注の公共工事の入札に際し、同県議が聞き出した設計価格を同社長に内報し、入札予定価格に近接する金額で落札させ、偽計を用いて公の入札の公正を害した。13年1月、競売入札妨害罪で検挙した(宮城)。
(3)選挙違反の取締り
①第19回参議院議員通常選挙違反取締り状況
 第19回参議院議員通常選挙(平成13年7月29日投票)における公職選挙法違反事件の検挙状況(投票日後90日現在)は、件数が473件、人員が869人(うち被逮捕者193人)で、前回同時期に比べ、件数で240件(103.0%)、人員で343人(うち被逮捕者123人)(65.2%(175.7%))それぞれ増加している(表4-1)。
[事例] 近畿郵政局長(59)らは、共謀の上、13年2月上旬から3月上旬にかけて開催された近畿郵政局管内の大阪堺特定郵便局長業務推進連絡会等15の同連絡会の会合において、それぞれ傘下の特定郵便局長に対し、投票及び投票取りまとめの選挙運動を依頼をした。8月、公職選挙法違反(公務員の地位利用)で検挙した(大阪)。
②国政補欠選挙及び一般地方選挙の違反取締り状況
 13年には、参議院議員通常選挙以外の国政補欠選挙及び一般地方選挙の違反取締りにおいて、首長、各種議会議員等を検挙している。
[事例] 東京都議会議員選挙において、候補者(54)らは、共謀の上、13年6月中旬ころから7月上旬ころまでの間、選挙運動者二十数名に対し、選挙運動をしたことの報酬として現金七十数万円を供与した。7月、公職選挙法違反(運動員買収)で検挙した(警視庁)。
(4)公務員犯罪
 公務員が自己の職務に関して行った詐欺、業務上横領等の公務員犯罪については、平成13年中は、外務省幹部職員らによる詐欺事件等多数を検挙している。
[事例1] 元外務省要人外国訪問支援室長(55)は、内閣総理大臣及びその随員に関する実際のホテル利用料金と法律の規定に基づき支給される宿泊料との差額を水増し請求等し、内閣官房の担当者を誤信させて、総額約5億700万円を詐取した。3月、詐欺罪で検挙した。
 外務省総務参事官室課長補佐(45)らは、サミット準備事務局において使用したハイヤーの使用料金を水増し請求し、外務大臣官房会計課の担当者を誤信させて、総額約2,200万円を詐取した。7月、詐欺罪で検挙した。
 外務省西欧第一課課長補佐(56)らは、アジア太平洋経済協力第7回閣僚会議等におけるホテルの室料等を水増し請求し、外務大臣官房会計課の担当者を誤信させて、総額約4億2,200万円を詐取した。9月、詐欺罪で検挙した(警視庁)。
[事例2] 元高知県副知事(71)らは、縫製業の協業組合に県の高度化事業資金を融資した際に、同組合が見せ金増資を仮装して事業資金を詐取していたことを承知の上、共謀して、自己及び同組合の利益を図る目的で任務に背き、議会の承認を得ず、かつ、十分な担保を徴求せずに融資を決定して、8年9月から9年12月までの間、同組合に合計約12億400万円の融資を実行して、県に同額の財産上の損害を加えた。13年5月、背任罪で検挙した(高知)。

金融・不良債権関連事犯を始めとする企業犯罪
 バブル経済崩壊後の長引く不況の影響を受け、数多くの企業が経営破たんに至ったが、破たんに至る過程又は破たん処理の過程における企業経営陣による経済取引の健全性・公正性を大きく害する不正事犯が顕在化した。この様な経済活動に伴う犯罪では、その背景、動機、実行行為等を明らかにするため、伝票、帳簿類等の客観的な資料に基づいて企業等の財務の実態を解明すること(財務捜査)が必要不可欠であることから、警察庁では、各都道府県警察に高度な機能を備えた財務解析機器を整備しているほか、平成14年4月には、財務捜査に関する研修の充実強化を図るため、警察大学校刑事教養部に財務捜査に関する研修を専従で行うための体制を整備した。同研修では、全国の捜査員を対象に、簿記等の財務捜査に必要な知識や効果的な財務捜査手法等に関する講議・演習を行うとともに、最新の企業会計制度等に即した財務捜査手法等の調査研究を行っている。また、都道府県警察においても、公認会計士等の資格を有する者を財務捜査官として採用するなどの体制の強化等に努めている。
(1)金融・不良債権関連事犯
 平成13年中の金融・不良債権関連事犯の検挙件数は、202件(101件(注))で、前年に比べ14件(16件)減少した。内訳をみると、融資過程における詐欺、背任事件等の検挙が44件(27件)、債権回収過程において民事執行を妨害するなどした競売入札妨害、公正証書原本不実記載事件等の検挙が93件(74件)、その他の金融機関役職員による詐欺、背任事件等の検挙が65件となっている(図4-2)。
(注)( )内は、暴力団、暴力団構成員、準構成員、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロに係る金融・不良債権関連事犯の件数を内数で示す。
[事例1] 信用組合元理事長(64)らは、共謀の上、信用組合の業務に関し、東京都知事が10年10月及び12月に実施した立入検査に際し、検査員に対し、延滞債権である債務者の貸出金に関する資料を提出せず、同貸出金の検査を免れ、検査を忌避した。13年11月、協同組合による金融事業に関する法律違反(検査忌避)で検挙した。
 同元理事長らは、団体幹部職員と共謀の上、6年12月から10年4月ころまでの間、前後十数回にわたり、同組合本店において、同組合のため業務上預かり保管中の現金約8億3,800万円を、同団体の使途に充てる目的で、同組合本店に開設された同人ら管理に係る架空人名義の口座に入金して着服横領した。13年11月、業務上横領罪で検挙した(警視庁)。
[事例2] 信用組合元理事長(55)らは、共謀の上、信用組合の業務に関し、近畿財務局長が12年5月から10月までの間に実施した立入検査に際し、検査官からの貸出状況等の質問に対し、貸出金は返済されている旨の虚偽の答弁をするなどした。13年11月、協同組合による金融事業に関する法律違反(検査忌避)で検挙した。
 信用組合元理事長(61)らは、共謀の上、自己及び金融会社の利益を図る目的で、それぞれの任務に背き、8年12月から10年8月までの間、前後四十数回にわたり、不動産売買会社等2社に対し、合計約1億8,400万円を不正に貸し付けたほか、自己及び関連する信用組合の利益を図る目的で、それぞれの任務に背き、9年9月ころ及び10年7月ころ、借入名義人等に対し、合計約6億9,400万円を不正に貸し付け、信用組合に合計約8億7,800万円の財産上の損害を加えた。13年11月、背任罪で検挙した。
 このほか、関連する信用組合の理事長らを、それぞれ、背任罪で検挙した(兵庫)。
[事例3] 百貨店及び同社グループ全体の実質的経営に当たっていた元会長(89)は、同社が長期信用銀行に対して負担していた借入金債務に連帯保証していたものであるが、同社グループ数社が民事再生手続開始の申立てを行ったことから、同銀行等からの仮差押えを危ぐして強制執行を免れる目的で、12年7月ころ、自己名義預金から約1億5,600万円を払い戻して自宅等に保管し、妻の保管管理を装うなど、財産を隠匿した。13年5月、強制執行妨害罪で検挙した(警視庁)。
(2)企業犯罪
 企業の経営者等による背任等の企業犯罪については、平成13年中は、地方新聞社元社長らによる商法違反(特別背任)事件、店頭登録会社役員らによる商法違反(違法配当)、証券取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)事件等を検挙している。
[事例] 地方新聞社元社長(60)らは、共謀の上、自己及び同社長が実質経営する不動産開発会社の利益を図る目的をもって、同新聞社の任務に背き、貸付金回収の措置を講ずることなく、同不動産開発会社の自己名義の預金口座に振込送金して融資したりするなどして、同新聞社に合計約60億4,900万円の財産上の損害を加えた。10月、商法違反(特別背任)で検挙した(群馬)。

通貨偽造犯罪・カード犯罪
(1)通貨偽造犯罪
①発見状況
 平成4年ころの偽造銀行券は、そのほとんどがカラーコピー機により作成されたものであったが、偽造防止対策が施されたカラーコピー機が普及し、その発見枚数は一時的に減少傾向に転じた。しかしながら、パソコン、パソコン用プリンター等の機器の普及、高性能化が進み、これらの機器を利用して銀行券を偽造するケースが多くなった結果、11年ころから偽造銀行券の発見枚数は再び増加傾向に転じており、13年の発見枚数は、7,613枚で、10年の約9.4倍となっている(図4-3)。
②行使態様
 偽造銀行券は、多額の釣銭の交付を受ける目的で行使される場合が多く、主に、暗がりで現金の授受が行われるタクシーの車内や比較的少額な買い物をしても不自然ではないコンビニエンスストア、たばこ屋等の商店や、現金の授受時に十分な注意を払うことができないような多忙な商店における行使が目立つ。
 また、13年8月以降は、両替機、自動販売機に対して偽造銀行券を挿入して行使する事件が続発し、これが同年中の発見枚数の大幅増加の要因となった。
③対策
 通貨偽造については、発生状況等の集約・分析を行うことや、商店街等との連携を図ることなどにより、被疑者の早期検挙、事案の全容解明に努めている。また、防犯対策上の見地から、通貨の発行当局等との連携を可能な限り図っている。さらに、偽造通貨の鑑定技術の向上を図るため、科学警察研究所では、発見された偽造銀行券の作成方法など偽造銀行券の特徴をデータベース化することにより、偽造銀行券の迅速な照合・検索を可能にするとともに、肉眼では真正な紙幣との識別が難しい偽造銀行券であっても、インキや紙自体について、機器を用いて分析することにより鑑定精度を高めるなどの技術開発に取り組んでいる。
[事例1] 12年8月以降、記番号が一致するなど同一の特徴を有する偽造日本銀行券一万円が、関東・中部地方を中心に大量に発見され、偽造日本銀行券一万円数十枚を、偽造であることを明らかにした上、中国人に交付したマレーシア人(23)を、13年7月、偽造通貨交付罪で検挙したほか、同年末までに、マレーシア人、中国人ら十数人をそれぞれ偽造通貨行使罪で検挙した(警視庁、神奈川、岐阜、愛知、千葉)。
[事例2] 無職の男性(34)は、パソコン等を用いて、日本銀行券千円を数十枚偽造し、新潟県内に設置された清涼飲料水の自動販売機に挿入して行使した。13年11月、通貨偽造・同行使罪で検挙した(新潟)。
(2)カード犯罪
①カード犯罪の認知・検挙状況
 平成13年のカード犯罪(注)の認知件数は、5,527件、検挙件数は、4,080件、検挙人員は921人となっている(図4-4)。検挙したカード犯罪に係るカード取得原因を見ると、窃取・拾得したカードを使用したものが2,973件(検挙件数の72.9%)、偽造したカードを使用したものが578件(同14.2%)、その他のものが529件(同13.0%)となっている。
(注) クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード又は消費者金融カードを悪用した犯罪をいう。
 クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカード等に対する不正行為に的確に対応するため、支払用カードを構成する電磁的記録等の不正作出、所持、これらの電磁的記録の情報の不正取得等の行為を処罰する改正刑法が13年7月24日に施行され、同法を適用した、偽造クレジットカード詐欺事件等を検挙している。
[事例] 中国人を中心とするカード偽造組織は、5月以降、スキミング(注)などの方法により不正に取得されたクレジットカードの電磁的記録の情報を保管するとともに、この情報を用いて偽造クレジットカードを作成し、同偽造カードを、暴力団員らが使用して新幹線の回数券をだまし取っていた事件で、中国人3名を支払用カード電磁的記録情報保管罪、暴力団員等6名を詐欺罪等でそれぞれ検挙した(福岡)。
(注) 真正なカードの電磁的記録の情報を磁気情報読取装置を用いて取得すること。
②カード犯罪対策
 カード犯罪については、12年9月に全国クレジットカード犯罪対策連絡協議会を設置し、加盟店等との連携を強化しているところである。警察は、同協議会を通じてカード犯罪の発生状況や手口に関する情報交換を行うとともに、カード犯罪に対する捜査協力やスキミング等の不正使用防止対策への協力を呼びかけており、サイン照合等の徹底、信用照会端末の設置による照会体制の強化、CPP(Common Purchase Point:偽造されたカードの真正な所有者が共通に利用している店舗)に関する情報の収集・交換、偽造・変造がされにくく本人確認が容易なICカードの導入等の対策が関係業者によって進められている。


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