第1節 地域の安全を守る諸活動

交番、駐在所の地域警察官の活動
 交番、駐在所は、地域警察活動の拠点として全国各地に置かれており、その受持ち区域において、住民の要望にこたえるための活動を行うとともに、すべての警察事象に即応する態勢をとることにより、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を果たしている。
(1)パトロール等による犯罪、事故等への対応
①パトロールの実施
 交番、駐在所(以下「交番等」という。)の地域警察官は、受持ち区域の犯罪の発生状況を分析し、犯罪が多く発生している場所や時間帯に重点を置いてパトロールを実施することにより、犯罪の抑止及び犯人の検挙に努めている。
 パトロールに当たっては、不審な者に対する職務質問を実施するとともに、危険箇所の把握、犯罪多発地域の家庭等に対する防犯指導、パトロールカードによる地域安全の確保に必要な情報の提供等を行っている。
②立番、街頭での警戒
 交番等の地域警察官は、交番等の出入口付近で立って警戒に当たる立番や、交差点等における警戒を行い、犯罪、事故の防止及び犯罪の検挙、交通指導取締り等に努めている。
[事例] 警視庁では、毎朝通勤・通学時間帯に地域警察官が交番等での立番を行い、周囲の警戒に当たるとともに、通行する地域住民への挨拶を励行し、触れ合いを深める「おはよう立番」を実施している。
(2)地域に密着した活動
①地域住民と協力した活動
 全国の交番等では、地域の安全と平穏を守るため、住民の要望等を把握する「要望把握活動」や、地域の身近な問題を解決する「問題解決活動」を行っている。
 交番等の地域警察官は、受持ち区域の家庭、事業所等を訪問し、防犯、事故防止等についての指導連絡、住民の困りごとや要望等の聴取に当たる巡回連絡を行っている。
 また、交番等の地域警察官と、各界、各層の住民等が、相互に検討・協議し、協力して犯罪、事故、災害のない明るいまちをつくるための場として、交番等を単位に「交番・駐在所連絡協議会」が設置されており、平成13年末現在、全国で1万3,655協議会となっている。
②地域住民に身近な安全情報を提供する活動
 全国の交番等では、「情報発信活動」の一環として、受持ち区域の事件、事故等の発生状況とその防止方策等の住民にとって身近な話題を伝えるミニ広報紙等を作成し、住民等に配布している。
 また、犯罪、事故の発生状況や多発箇所等、地域の安全確保のため必要な情報を迅速・的確に地域住民に提供するため、公共施設等の人目に付く場所に「交番速報」を掲出している。

交番等の機能
(1)交番等の運用形態
 交番は、原則として、犯罪、事故等が多い都市部の地域に設置され、1当番当たり3人以上の交替制勤務の地域警察官により運用することとしており、駐在所は、原則として、都市部以外の地域に設置され、勤務場所と同一の施設内に居住する1人の地域警察官により運用することとしている。
 全国の交番の数は約6,600か所、駐在所の数は約8,000か所である(平成14年4月1日現在)。
(2)交番所長制度と交番等のブロック運用
○ 交番所長
・ 住民が多く来訪するなど、地域の拠点となる交番に配置
・ 日勤制で勤務し、交番の業務全体を把握し、統括
○ 班長
・ 交替制勤務の交番の当番ごとの活動を一体として効率的に行うため、交替制勤務ごとに配置
○ ブロック運用
・ 昼夜の人口、治安情勢等の地域実態に即した弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒活動を一層充実させるため、近接する2以上の交番等を組み合わせてブロック単位で運用し、夜間の合同パトロール等を実施
(3)交番相談員の配置
 都市部の主要な交番には、警察官OB等から成る交番相談員が配置されている。
 警察では、交番相談員の配置により、警察官がパトロール等の所外活動中でも、交番を訪れた住民に適切な対応がなされるよう努めている。
(4)交番等の施設、設備の充実強化
 警察では、住民が警察への相談、防犯についての会合等を行うためのコミュニティ・ルームを交番等に設けるなど、交番等の施設、設備の充実強化に努めている。
 また、警察官が不在の場合でも地域住民が警察に連絡を取ることができるように、受話器を取ると警察署につながるホットライン(不在転送電話)を整備している。
(5)遺失物の取扱い
 交番等の地域警察官は、遺失物を速やかに遺失者等に返還するため、遺失・拾得届の受理業務を行っている。
 平成13年中に警察が取り扱った遺失届は約328万件、拾得届は約500万件であった。

市民に定着した110番
(1)110番通報の現状  警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の適切な利用を呼び掛けるとともに、警察による緊急の対応を必要としない電話による相談等については、「#(シャープ)9110番」を利用するよう呼び掛けている。
 また、移動電話からの110番通報については、通報者が通報場所を正確に伝えにくく、受理及び指令に時間を要することもあることなどから、通話中にはできるだけ場所を移動しないこと、通話終了後に電源を切らないことなどを呼び掛けている。
(2)通信指令システムの概要
 110番通報に迅速かつ的確に対応するため、都道府県警察ごとに通信指令室が設けられている。110番通報を受理した通信指令室では、直ちにパトカーや交番等の地域警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察への通報等を行い、人命の救助、被疑者の早期検挙等に努めている(図3-2)。
 また、警察では、リスポンス・タイムの短縮のため、事案発生場所の早急な把握のための地理情報システムの導入やパトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システムの導入等、通信指令システムの高度化に努めている。
①緊急配備
 重要事件等の発生に際し、被疑者を迅速に検挙し、事後の捜査資料を得るため、交番等の地域警察官を中心として、必要な警戒員を臨時かつ集中的に検問、張り込み等のために配置することを緊急配備と呼んでいる。
②リスポンス・タイム
 通信指令室が110番通報を受理し、パトカー等に指令してから警察官が現場に到着するまでの所要時間のことをリスポンス・タイムと呼んでいる。13年中の110番集中収容地域におけるリスポンス・タイムの平均は6分22秒であった。
(3)外国語による110番通報
 警察では、外国語による110番通報に対応するため、通信指令室に外国語に通じた警察官を配置するほか、通訳センター(第9章第1節「国際捜査態勢の強化」参照)の係員や指定通訳員等の外国語が話せる警察職員に転送して三者間通話を行うなどの手法も導入している。

事件、事故に即応するための諸活動
(1)パトカーの活動
 全国の警察本部や警察署に配備されたパトカーは、交番、駐在所の地域警察官と連携をとりながら、管内のパトロールを行うとともに、その機動力を生かして犯罪、事故等の発生時における初動措置に当たっている。
(2)水上警察活動
 警察では、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する全国の警察署等に警察用船舶約200隻を配備し、パトカーや警察用航空機との連携を図りながら、
・ パトロール
・ 各種犯罪の取締り
・ 訪船連絡等による安全指導
等の活動を行っている。
(3)警察用航空機の活動
 警察用航空機(ヘリコプター)は全国に約80機が配備されており、その機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、
・ 交通情報の収集
・ 災害危険箇所の調査
・ 環境犯罪の監視
等を行っている。
 また、犯罪、事故及び災害の発生に際しては、通信指令室、パトカー及び警察用船舶との連携を図り、
・ 情報収集
・ 被疑者の捜索及び追跡
・ 被災者等の救難救助
等の活動を行っている。
(4)鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、鉄道施設における犯罪等の発生状況の分析結果に基づき、列車への警乗、駅構内のパトロール等を行い、
・ すり、置き引き等の犯罪の予防及び検挙
・ 少年補導
・ 迷い子等の保護
・ 鉄道事故における人命の救助
等を行っている。
 上記のほか、最近では特に列車内や駅のホームにおける凶悪犯や粗暴犯が急増したことから、
・ 朝夕のラッシュ時間帯等における見張り
・ 列車への警乗の強化
等により、犯罪の未然防止活動を推進している。
 さらに、
・ 鉄道事業者との連絡協議会の設置
・ 列車事故を想定した鉄道事業者との共同訓練の実施
等により、鉄道施設内の治安維持に努めている。

地域住民の保護・支援活動
(1)住民の立場に立った相談業務の推進
 平成13年中における相談取扱件数は93万228件で、前年に比べ18万5,685件(前年比24.9%増)増加した(表3-8)。
 警察では、住民からの相談等に誠実にこたえるため、警察安全相談員や相談業務担当者の配置等を進め、相談された事案が刑罰法令に抵触する場合には検挙等の措置を講じることはもとより、刑罰法令に抵触しない場合であっても防犯指導、相手方に対する指導・警告等を行うことにより、犯罪等による被害の未然防止の徹底を図っている。
 他方、国民から寄せられる相談は膨大かつ多岐にわたり、その中には、警察以外の機関において取り扱うことが適切であるものも含まれている。このような情勢の下、国民からの要望に行政として適切に対応するには、他機関の所掌に係る事案は当該他機関に円滑に引き継ぐ等、関係機関等と相互に緊密な連携を図ることが必要不可欠であることから、警察と関係機関等との相談ネットワークの構築を推進し、相談業務の充実に努めている。
(2)家出人、行方不明者等の発見・保護活動
 警察では、警察官職務執行法等に基づいて、でい酔者、迷い子等の応急の救護を要する者の保護活動を行っている。また、家出人の発見・保護活動も行っており、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれがあるなどの家出人については、特にその迅速な発見・保護に努めている。
 なお、平成13年中の家出人の発見数は、捜索願の届出がなされていない者も含め、9万692人であった。
(3)「女性・子どもを守る施策実施要綱」(平成11年12月警察庁制定)による犯罪等の未然防止活動
○ 女性・子どもが被害者となる犯罪等については、刑罰法令に抵触する事案につき、適切に検挙措置を講ずる。
○ 被害女性が検挙を望まない又は刑罰法令に抵触しない事案についても、事案に応じて、次のような支援を行う。
・ 防犯指導等により、適切な自衛・対応策を教示
・ 地方公共団体の関係部局、弁護士等の他機関の紹介
・ 必要があると認められる場合には、相手方に指導警告を実施
(4)「長寿社会総合対策要綱」に基づく、高齢者に対する支援活動
○ 高齢者に対する保護活動
 警察では、巡回連絡等を通じて高齢者に対し防犯指導等を行っている。また、はいかい高齢者の増加が問題となっていることから、自治体等と連携して「はいかい老人SOSネットワーク」を構築するなど、これらの者の早期発見・保護のための取組みを推進している。
○ 高齢者の社会参加活動
 警察では、高齢者が安心して生きがいをもって生活できるように、老人クラブ等と連携して地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を支援し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
(5)障害者を支援する活動
 障害者は、犯罪、事故の被害に遭う危険性が高く、これらに対する不安感も強いことから、警察では、次のような各種施策の推進に努めている。
○ 手話交番の設置
・ 聴覚障害者のため、手話ができる地域警察官等を配置
・ 平成13年末現在17都府県59交番等で開設
・ 手話ができる地域警察官等は、(財)全日本ろうあ連盟の作成した「手話バッジ」を着用
○ 「FAX110番」の設置
・ 電話機による意思の伝達が困難な障害者のため、緊急通報をファックスにより受け付ける「FAX110番」を設置
○ その他の施策
・ 視覚障害者のため、点字や録音テープによる地域安全情報の提供
・ 交番等のスロープ、点字付きインターホン等の設置
(6)ホームレス対策の強化
 最近、大都市を中心に、特定の住居を持たずに道路、公園、河川敷、駅舎等での野宿生活を送っている者(以下「ホームレス」という。)の存在が社会問題となっている。このような情勢を踏まえ、警察では、関係自治体及び公共施設管理者との緊密な連携を図りながら、地域住民が不安を訴えている地域のパトロール活動、緊急に保護を要するホームレスの一時的な保護等所要の活動を強化している。

安全・安心まちづくりの推進
(1)犯罪防止に配慮した環境設計活動(ハード面の施策)の推進
 警察は、道路、公園等の公共施設や住居の構造、設備、配置等について、犯罪防止に配慮した環境設計を行うなど、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを推進し、国民が安全に安心して暮らせる地域社会とするための取組みを推進している。
 警察庁は、建設省都市局(当時)とともに学識者、建築業界関係者等の協力を得て、緊急に対策の必要な道路、公園、駐車・駐輪場及び公衆便所に係る防犯基準と共同住宅における防犯上の留意事項の策定作業を行い、その成果を基に、平成12年2月、「安全・安心まちづくり推進要綱」を制定した。警察では、これらの知見に基づいて次のような施策を講じているところである。
○ 街頭緊急通報システム(スーパー防犯灯)の整備(警察庁)
・ 「歩いて暮らせる街づくりモデルプロジェクト地区」(経済新生対策全国20地区)から10地区を選定し、各地区の道路・公園にそれぞれ19基を設置(13年)
○ 街頭防犯カメラ・スーパー防犯灯の整備(警視庁)
・ コミュニティセキュリティカメラ(CSC)システム
 繁華街(新宿歌舞伎町)に街頭防犯カメラ50台を設置(14年)
・ スーパー防犯灯
 街頭犯罪多発地域3か所(江戸川区清新町、世田谷区上祖師谷、杉並区浜田山)の道路・公園に19基を設置(14年)
○ スーパー防犯灯の整備(大阪)
・ ひったくり多発地域2か所(東大阪市、大阪市平野区)の道路に18基を設置(13年)
○ 天理駅前広場再整備事業における防犯設備等の整備(奈良)
・ 天理駅前の地下道、地下駐車場整備事業に伴い、防犯設備(防犯カメラ、非常回転灯、非常通報装置)等を市費で整備(14年)
○ 防犯モデルマンション登録(認定)制度の整備・運用(静岡、広島、大阪)
(2) 地域安全活動(ソフト面の施策)の推進
①防犯協会を中心とした地域住民等による地域安全活動
 警察は、国民が安全に安心して暮らせる地域社会を実現するため、生活に危険を及ぼす犯罪・事故・災害を未然に防止するための地域安全活動を推進している。推進に当たっては、地域住民・警察・自治体の緊密な連携と警察活動の強化が不可欠である。
 地域住民による主な地域安全活動としては、危険箇所のパトロールの実施、防犯懇談会の開催、防犯広報の実施等があり、各地区の防犯協会が中心となって推進している。また、地域の安全確保に対する気運の高まりを受けて、特定非営利活動法人(NPO法人)や女性によるボランティア組織が結成され、様々な活動が展開されているところである。
[事例] 特定非営利法人日本ガーディアン・エンジェルスは、東京、大阪、仙台等の事務所を拠点に、地域における防犯パトロールや環境浄化活動を行うなど地域安全運動を展開している。発足後1年を経過した日本ガーディアン・エンジェルス関西本部和歌山パトロール隊では、毎月第1、第3土曜日の和歌山駅周辺の夜間パトロールに重点的に取り組むなど、地道で地域に密着した活動を行っているため、地域住民の期待が高まっている(和歌山)。
②職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講じるための職域防犯団体が結成されている。職域防犯団体は、組織力を活かした活動、職場の持つ情報網の活用等、地域安全活動を推進する上で大きな利点を有しており、防犯協会とともにボランティア活動を積極的に行っている。
[事例] 秋田県理容生活協同組合は、秋田県警察及び社団法人秋田県防犯協会連合会が推進している「安全・安心ネットワークあきた」に参加し、平成13年6月1日からは組合加盟の約2,000店の理容店に「子ども・女性110番」のプレートを掲げ、地域に点在して昼間稼働している職場の利点を生かし、子どもや女性等が犯罪や事故に巻き込まれるのを防ぐための緊急避難所の役割を担っている。
③全国地域安全運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会を中心として、13年10月11日から20日までの10日間、「全国地域安全運動」が展開された。この運動を通じて、女性・子どもの被害防止活動等、各地域の実情に応じた様々な地域安全活動が実施された。

ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案への対応
(1)ストーカー事案への対応
 ストーカー事案は、殺人等の凶悪事件に発展する事案が見られることなどから大きな社会問題となっており、警察への相談件数も平成12年に急増し、13年においても同水準で推移している(図3-5)。警察では、被害者の意思を踏まえ、12年11月に施行されたストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)に基づいて、警告、禁止命令等、援助等の行政措置を講ずることにより被害拡大の防止を図るほか、同法その他の法令を積極的に適用してストーカー行為者の検挙に努めている(図3-6、図3-7)。また、各種法令に抵触しない場合であっても、防犯指導、関係機関の教示等を行うとともに、必要に応じてストーカー行為を行っている相手方に対する指導・警告を行うなど、被害者の立場に立った積極的な対応を推進している。
(2)配偶者からの暴力事案への対応
 警察では、平成13年10月に施行された配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「配偶者暴力防止法」という。)に基づいて、裁判所から出された保護命令に違反した場合の検挙措置や被害防止措置、配偶者暴力相談支援センター等の関係機関・団体等と連携した被害者対策等を通じて、被害者の立場に立った積極的な保護対策を講じている。


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