第2節 警察活動を取り巻く課題

 第1節においては、各種統計及び住民の不安感の両面から、過去10年間の犯罪情勢の推移をみてきたが、質・量の両面において厳しさを増していることがわかる。長年、我が国の治安水準は極めて高いとされてきており、これまで、その要因として、例えば、島国である地理的条件、国民の規範意識の高さ、地域社会の連帯意識の存在、高い教育水準、警察活動に対する民間の協力等が挙げられてきた。昨今の犯罪情勢の悪化と不安感の増大は、これらの要因が揺らぎつつあることに起因すると考えられるが、この点について具体的な考察を試みるため、本節では、1において特定の地域を取り上げ、犯罪情勢等について分析するとともに、2において当該地域を管轄する警察署の警察活動を追い、警察活動を取り巻く様々な課題を検証することとする。具体的な地域として、大都市圏には属しないが、第1節でみてきた犯罪情勢の変化が顕著に現れている代表的な地域として、北関東に位置する地方都市である群馬県伊勢崎市とその周辺地域を取り上げ、同地域を管轄する群馬県伊勢崎警察署の活動をみることとする。その後、3以降において、全国の警察活動を取り巻く課題につき各種統計やアンケート調査等に基づき分析することとする。

1 群馬県伊勢崎市及びその周辺における犯罪情勢と不安感
(1)犯罪情勢等の推移
ア 群馬県伊勢崎警察署管内の概要
 群馬県伊勢崎市は、関東平野の西北部に位置し、前橋、高崎、桐生、太田という県内主要都市群の中央に位置している。交通面では、都心から100キロメートル圏内に位置し、市街地から放射線状にのびる主要地方道、東部を貫通する上武道路、中心部をう回する北部環状線や南部幹線は周辺市町村や首都圏へアクセスし、さらに南北を結ぶ国道462号線の整備が進む中、北関東自動車道も一部開通した。産業面では、古くからの地場産業としての織物業を中心に、軽工業都市として発展してきたが、近年は、産業構造の変化に伴い機械、金属、電子機器等の工業都市へと変ぼうしている。また、郊外における道路網の整備と宅地開発が進み、大型店舗が次々と進出するなど、市の中心部よりも周辺部における環境の変化が著しい。伊勢崎市に隣接して、佐波郡赤堀町、玉村町、東村が位置しており、それぞれ急速な発展を遂げている。
 伊勢崎市、佐波郡赤堀町、玉村町、東村の1市2町1村を管轄しているのが群馬県伊勢崎警察署である。同署は昭和29年に発足し、44年3月に現在地である伊勢崎市今泉町に新築移転した。署員数は約200人であり、群馬県内20の警察署のうち、高崎警察署、前橋警察署、太田警察署に次ぐ第4番目の規模である。
イ 管内情勢の推移
(ア) 人口の推移
 平成13年の伊勢崎警察署管内の人口(注1)は19万8,095人であり、4年と比べて2万2,355人(12.7%)増加している(図1-80)。13年の全国の人口(注2)は1億2,628万4,805人で、4年と比べて269万7,508人(2.2%)増加していることからも、この地域における人口の増加が急激であることが分かる。
 また、13年の伊勢崎警察署管内の外国人登録者数(注3)は1万311人であり、4年の2.9倍となっている(図1-81)。13年の全国の外国人登録者数は177万8,462人で、4年の1.4倍であることからも、この地域における外国人登録者数の増加が急激であることが分かる。
(注1) 13年12月末日現在の住民基本台帳人口による。
(注2) 13年3月末日現在の住民基本台帳人口による。
(注3) 本邦に入国した外国人は、入国の日から90日以内に、また、我が国において外国人となったとき又は出生その他の理由により出入国管理及び難民認定法第3章に規定する上陸の手続を経ることなく我が国に在留することとなったときは当該事由が生じた日から60日以内に、居住地の市区町村に対して外国人登録の新規登録の申請を行わなければならない。
(イ) 刑法犯の認知・検挙状況の推移
 伊勢崎警察署管内における13年の刑法犯認知件数は3,967件であり、4年の2.4倍に増加した。また、検挙状況をみると、検挙件数は、13年には1,024件となり、4年と比べて346件(51.0%)増加し、検挙人員についても、13年には359人となり、4年と比べて70人(24.2%)増加している。検挙率は、認知件数の急増に検挙が追い付かず、13年には25.8%となり、4年と比べて15.3ポイント減少した(図1-82)。
 伊勢崎警察署管内の市町村別の刑法犯認知件数について、各市町村における4年の認知件数を100としたときの13年の認知件数を指数で表し、地図を色分けしたものが図1-83である。
 認知件数では、伊勢崎市内が最も多いものの、増加状況でみると、周辺の佐波郡玉村町、赤堀町、東村での犯罪の増加がより顕著であり、管轄区域内の中心部から周辺部への犯罪の拡散化傾向がうかがえる。
 過去10年間の重要犯罪の認知件数の推移は、図1-84のとおりであり、13年の認知件数は45件と4年と比べて3.8倍となっている。罪種別にみると、強盗及び強制わいせつが増加傾向にある。
[事例] 14年5月、無職の男(58)は、佐波郡玉村町で女性を殺害し、自己所有の普通乗用車内に放置した。伊勢崎警察署内に刑事部長を長とする殺人・死体遺棄事件捜査本部が設置され、事件の全容解明に当たり、6月までに、男を殺人罪及び死体遺棄罪で検挙した。
 窃盗犯は、伊勢崎警察署の13年における刑法犯認知件数の83.6%を占めており、窃盗犯の増加が刑法犯全体の認知件数を押し上げている。このうち、重要窃盗犯についてみると、過去10年間の認知・検挙状況の推移は、図1-85のとおりであり、手口別にみると侵入盗及び自動車盗の増加が著しい。
[事例] 中国人の男6人は、12年7月から群馬県、埼玉県下においてパチンコ店事務所内の大型耐火金庫を破壊し、又は搬出する組織的な金庫破りを200件以上行い、総額9億4,000万円以上を窃取した。13年5月までに中国人6人を窃盗で検挙した(茨城、群馬、埼玉、神奈川)。
 また、車上ねらい、部品盗の認知状況の推移は、図1-86のとおりであり、13年の車上ねらい、部品盗の認知件数は4年と比べてそれぞれ2.9倍、4.5倍と増加が著しい。
 伊勢崎警察署管内における少年犯罪情勢をみると、刑法犯検挙人員のうち少年の占める割合は、過去10年間、49%台から60%台と高い水準で推移しており、少年非行が深刻な状況となっていることがうかがえる。13年の人口比は12.8と、成人の7.1倍(注)となっている。
(注) 13年10月1日現在の国勢調査人口を基準人口とした推計人口による。
[事例] 13年12月、有職少年(17)ら3人は、知り合いの少年が面会に応じないことから、その住居に放火しておびき出し、拉致しようと企て、伊勢崎市内においてガソリンをまいてライターで点火して、住宅部分約3平方メートルを焼損させた。同月、現住建造物等放火罪で3人を検挙した。
 また、伊勢崎警察署管内における13年中の来日外国人の刑法犯検挙人員は16人であり、4年と比べて6人増加している(図1-82)。また、13年中の来日外国人の特別法犯検挙人員は26人であった。
[事例1] 13年4月、ベトナム人の男(30)は、伊勢崎市内の大型ディスカウント店において、電気製品を万引きしたが、店員2人に発見され、逮捕を免れるため、持っていたナイフで店員に切り掛かり、傷害を与えた。同月、強盗致傷罪で検挙した。
[事例2] 13年2月、パキスタン人の男(36)ら2人は、共謀して、自動車の保管場所の確保等に関する法律の適用地域外である佐波郡東村内に居住している事実はないのに、同所を居住地とした内容虚偽の外国人登録を行い、陸運支局において自動車登録ファイルに不実の記録をさせ、このようにして登録した車を第三者に販売した。8月、男2人を電磁的公正証書原本不実記録及び同供用罪で検挙した。

(2)警察官からみた住民の不安感
 伊勢崎警察署管内の犯罪情勢に対する住民の不安感を把握することを目的として、伊勢崎警察署職員(注)に対してアンケート調査を実施した。
(注) アンケート調査は、刑事、生活安全、地域等各部門の計45人(伊勢崎警察署全職員の約4分の1)に対して実施した。
 まず、住民の間で犯罪の被害に遭う不安感が高まっているかどうか質問をしたところ、「高まっている」と回答した者の割合は86.7%(「大いに高まっている」:26.7%+「まあまあ高まっている」:60.0%)、「高まっていない」と回答した者の割合は13.3%(「あまり高まっていない」:13.3%+「全く高まっていない」:0.0%)となった(図1-87)。
 次に、住民の不安感が高まっていると回答した警察職員に対して、どのような犯罪に対する不安感が高まっているのか質問をしたところ(複数回答)、図1-88のように「車上ねらい」、「空き巣」、「不良外国人による犯罪」、「少年による犯罪」の回答が多かった。
 さらに、不安感が高まっている場所について質問をしたところ(複数回答)、「駐車場」(57.8%)、「繁華街」(53.3%)が多く、交番・駐在所別では、「玉村町交番」(48.9%)、「宮郷駐在所」(53.3%)等の管轄区域を挙げる回答が多かった。
 少年の非行・犯罪について質問をしたところ、少年の非行・犯罪が「増えている」と回答した職員の割合が77.3%、「減っている」と回答した職員は皆無であった。また、少年の非行・犯罪が「悪質になっていると思う」と回答した職員の割合は79.5%であり、「悪質になっていると思わない」と回答した職員は皆無であった。

2 群馬県伊勢崎警察署における警察活動
(1)地域警察官の活動
 住民に最も身近な存在である地域警察官の活動を取り巻く課題を把握するため、伊勢崎警察署地域課でA交番に勤務するB巡査部長の典型的な一日(当番勤務)を描写してみる。地域警察官の活動は、事件・事故や110番通報受理件数の増加に伴い極めて多忙となっている。
〈8時00分〉署へ出勤。制服に着替え、地域警察官としての一日が始まる。装備品を着装し、身支度が整ったところで、幹部から装備品等の点検を受ける。幹部から指示を受け、自転車で交番に向けて出発する。
〈9時00分〉A交番に到着する。前日の当番勤務員から引継ぎを受け、交替する。昨夜は、久しぶりに平穏だったようだ。
〈9時30分〉自転車でパトロールに出発する。地域の安全と平穏を守るため、不審者はいないか、危険箇所はないかなど、常に警戒しながらパトロールを行う。
〈11時00分〉パトロールを終え、交番に戻ったところで、外国人の男性が自転車を盗まれたと言って交番を訪ねてきた。片言の日本語は話せるようだが、意思疎通が難しい。身振り手振りを交えながら、どうにか被害届を代書して、受理する。このように外国人と接するときは、言葉の壁もあり、通常の倍以上の時間を費やすことが多い。
〈12時00分〉休憩をとった後、制服姿では食堂に入れないので、交番内で昼食を食べる。
〈12時45分〉署から、スーパーで万引きの被疑者を確保したとの通報が入った旨の連絡があり、自転車でスーパーに向かう。スーパーの事務室に入ると、少年3人がいた。飲料水を万引きし、スーパーの警備員に発見されたとのこと。応援に来た隣接する交番の勤務員と一緒に、スーパーの警備員と少年から詳しく事情を聴取し、少年を署まで同行する。署に到着後、少年を生活安全課員に引き継ぎ、少年事件簡易捜査報告書を作成する。
〈16時45分〉書類作成が終わり、署から交番に向かう。事件の処理に時間がかかり、午後に予定していた巡回連絡はできなくなってしまった。交番に戻りながら、少ない時間を生かしてパトロールを行う。 〈17時00分〉交番に戻り、先ほどの万引き事件の書類整理を行う。事件・事故の都度速やかに書類整理を行わなければならない。
〈18時00分〉休憩を取り、夕食を食べる。いつもの出前の定食だ。
〈19時00分〉パトカーでパトロールに出発する。昼間は自転車でパトロールするが、夜間は隣接する駐在所の管内も見なければならないので、機動力があるパトカーを活用している。
〈19時30分〉もめ事の110番通報が入る。署からの指令で直ちに現場に向かう。男女間のトラブルのようだ。男女間のトラブルといっても、最近は、ストーカー事案、配偶者からの暴力事案の場合もある。油断はできない。気を引き締める。現場に到着し、通報者から事情を聴取すると、片方の当事者が立ち去り、取りあえず問題はないとのこと。再度問題があるようであれば、すぐに110番通報するよう教示して、そのままパトロールに戻る。
〈21時00分〉交通事故の110番通報が入る。携帯電話からの通報のようだ。最近は、携帯電話からの通報が多い。今回の通報は、場所が特定されていたが、携帯電話からの通報の中には通報者が自分がいる場所の番地等が分からず、場所が特定できないものも多い。
 署からの指令で直ちに現場に向かう。自動車同士の事故で、どうやら怪我人はいないようだ。現場に到着し、両当事者が怪我をしていないのを確認してから、他の自動車の通行に支障がないように自動車を移動させる。その後、両当事者から事情を聴取して、物件事故として処理する。
 事故処理後、物件事故報告書を作成するため、いったん交番に戻る。
〈0時00分〉再び、パトカーでパトロールに出発する。
 今回は、不審者がはいかいしているとの相談が寄せられている地域を重点的にパトロールする。物陰に潜む不審者がいないかどうか確認しながら警戒する。今日は不審者はいないようだ。パトロールカードに異状のない旨記載し、相談者宅の郵便受けに投かんする。
〈2時00分〉警報装置の異常発報があったので、直ちに現場に向かうよう署から指令を受ける。現場に到着し、署の当直刑事、駆け付けた警備員と一緒に施設の内部を確認する。異状は見当たらない。誤報と認められる。
 ほっとしたのもつかの間、交通事故の現場に向かうよう、署から指令が入る。雨が降っていたため、ハンドル操作を誤った自動車が縁石に乗り上げた単独の事故のようだ。現場に到着したが、通報者が見当たらない。署から通報者に連絡を取ってもらったところ、いったん現場を離れたとのこと。隣接する交番の勤務員も到着したので、署からの指示により、引き継いで交番に戻る。
〈3時00分〉予定より1時間遅れて仮眠に入る。事件・事故が多発しており、予定どおりの時間に仮眠に入れることはほとんどない。
〈6時00分〉起床して、交番の周りを点検する。その後、次の勤務員へ確実に引継ぎが行えるよう、昨晩の取扱い等について書類に取りまとめる。漏れのないよう何回も確認する。
〈7時30分〉立番をして街頭監視に当たろうとした矢先、署から、車上ねらいの被害があったとの通報が入った旨の連絡があり、自転車で現場に向かう。現場に到着すると、駐車場の入口で通報者が待っていた。マンションの駐車場に止めておいた車の窓ガラスが割られて、被害にあったとのこと。被害届を受理している間、署の当直員が、指紋等の採取を行う。
〈8時30分〉交番に戻り、先ほどの車上ねらい事件の書類を整理する。交替の勤務員が到着したので、引継ぎを行い、署に戻り、地域警察官としての一日が終わる。

(2)刑事警察官の活動
 日々発生する犯罪の捜査に当たる刑事警察官の活動を取り巻く課題を把握するため、伊勢崎警察署刑事課に勤務する刑事4年目のC巡査部長の典型的な活動を一つの事件の捜査及び一日の勤務(当直勤務)を通じて描写してみる。刑事警察官の活動は、認知件数の増加に伴い極めて多忙であり、また、捜査書類作成量の多さ、取調室を始めとする施設の不足等様々な負担を抱えている。
 まずは、C巡査部長が捜査を担当した事件の一つを描写することとする。
4月某日
〈4時10分〉コンビニエンスストアの客を装った男がレジのカウンターに近づき、店員に包丁を突きつけて、「金を出せ」と脅迫する。男はレジから現金を奪って、店の前に止めてあった乗用車に乗り逃走する。車のナンバーを目撃した店員は、すぐに110番通報する。幸い、店員には怪我はなかった。
〈4時15分〉「強盗事件発生!被疑者は男、50歳位、包丁を所持、犯行使用車両は○○で桐生方面に逃走!」の第一報が無線に入る。当直勤務中であるC刑事は同僚刑事らと共に、直ちに捜査車両で犯行現場のコンビニエンスストアに急行する。C刑事らは、店員から犯人の人相着衣、逃走車両の色、被害額等被害状況を聞き、すぐに無線で流す。一方、群馬県警察本部刑事部機動捜査隊も手配車両の検索を直ちに開始する。
〈4時20分〉国道17号線を前橋方面から埼玉県方面に進行してくる手配車両を機動捜査隊員が発見。追尾を開始。逃走車両が急激に速度を上げたため、機動捜査隊車両の赤色灯を点灯するとともにサイレンを鳴らし、逃走車両を追跡。
〈4時30分〉ようやく逃走車両が停止する。機動捜査隊員らは、運転していた男(D被疑者)に対し職務質問を実施。凶器を所持していることから細心の注意が必要だ。数分後、男は観念したのか、犯行を自供し、被害額と同額の現金及び凶器の包丁も車内で発見された。その場で緊急逮捕。一方、C刑事らは、店員からの被害届の受理、現場の見取り図の作成、現場の写真撮影等を終えて、すぐに署に戻る。
〈5時00分〉機動捜査隊員らは、D被疑者を署に連行し、当直勤務の刑事とともに直ちに弁解録取書(注)、緊急逮捕手続書、逮捕状請求書等を作成する。署に戻ったC刑事が逮捕状請求のため、前橋地方裁判所に向かう。署では、残った刑事らがD被疑者を留置する手続を取る。本件と共に余罪についても、今後の取調べで明らかにしていかなければならない。外はもう明るくなっている。
(注) 司法警察員は、逮捕された被疑者に対し、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与えなければならないこととなっており、被疑者の弁解を録取した書面を弁解録取書という。
翌日
 C刑事は、D被疑者を検察官に送致する準備をする。それまでに他の捜査員らと作成した送致書、逮捕手続書、弁解録取書、被疑者供述調書、参考人供述調書等各種捜査書類を束ねる。送致のため、留置管理担当の警察官が3人一組で前橋地方検察庁にD被疑者を護送する。検察官は、D被疑者の身柄を確保するため、勾留請求(注)を行う。留置管理担当の警察官3人は、D被疑者を前橋地方裁判所に護送する。今日は、同じように勾留請求をする事件が多いため、待ち時間が長い。警察官3人の半日仕事だ。
 同日、2月に発生した自動販売機荒し事件で指名手配中だったE被疑者が発見され、署に任意同行の上、通常逮捕された。C刑事らはE被疑者の取調べを行う。動機や手口等の事実関係とともに共犯の有無、余罪の有無等を解明しなければならない。
(注) 勾留とは、犯罪の嫌疑があり、かつ、住居不定、罪証隠滅又は逃亡のおそれがある被告人又は被疑者を拘束する裁判及びその執行をいい、被疑者勾留の期間は勾留請求の日から10日以内(裁判官がやむを得ない事由があると認めるときは、更に10日間の延長が可能)である。
4月某日~某日
 D被疑者の取調べを継続する。被疑者や参考人の人数に比べ、署内の取調室が不足しており、取調室を確保するため、いつも他の事件を担当している刑事らと時間を調整しなければならない。また、D被疑者の動機面についての裏付け捜査を行う。ローン会社からの借金の有無や借金額を確認し、D被疑者の妻から詳しく話を聞くなどして、借金による生活苦から強盗の犯行に至ったことを裏付けていく。これと並行して、自動販売機荒し事件のE被疑者の取調べと裏付け捜査も行う。
4月某日
 午前中は、強盗事件の引当り捜査(注)だ。D被疑者を連れて、犯行現場までの道のり、犯行現場、逃走経路を確認する。署に戻り、捜査報告書を作成する。
(注) 引当り捜査とは、被疑者を同行させて犯行場所等を捜査することをいう。
5月某日
 検察官が被疑者を取り調べるために、D被疑者は留置管理担当の警察官により前橋地方検察庁に護送された。D被疑者は検察官に素直に事実を話しているようだ。
5月某日
 前橋地方検察庁は、D被疑者を強盗罪等で前橋地方裁判所に起訴した。起訴になったことに対する充実感が、明日からの強盗事件の本格的な余罪捜査と自動販売機荒し事件の継続捜査に向けた活力へとつながる。
 次に、C巡査部長の典型的な当直勤務を描写することとする。刑事警察官の当直勤務は次々と発生する事案の処理に追われ、非常に多忙である。
10月某日
〈8時00分〉C刑事、出勤。
〈8時30分〉すりの被害に遭った女性が被害申告に来る。ゲームセンターで遊んでいる最中にリュックサックから財布を窃取されてしまったのだ。被害の状況を聞き取り、被害届を受理する。
〈9時30分〉部品盗の110番通報が入り、C刑事らは現場に臨場する。マンションの駐車場に止めていた乗用車の窓に針金状のものを差し込み、解錠し、カーオーディオ1台を窃取した模様。被害者はまさか自宅の駐車場が狙われるとは思っていなかったようだ。指紋採取、被害届の受理等を行う。
〈12時50分〉会社の前に止めていた自動車を前日に盗まれた会社員からの通報で、C刑事らは現場に臨場する。被害状況を聴取し、被害届を受理するとともに、署に連絡をして、盗難車両の手配をする。さらに、付近の聞き込みを行い目撃者を捜す。最近は管内での自動車盗の発生が目立つ。
〈16時00分〉空き巣に入られたとの通報が入る。マンションの一室。被害者は玄関の鍵を閉め忘れたままだった。指輪等被害金額は200万円近い。C刑事らは被害届を受理するとともに、目撃者発見のため付近の聞き込み捜査を行う。
〈17時20分〉当直勤務員の集合。当直責任者から迅速な初動捜査の徹底と受傷事故防止についての指示が行われる。
〈17時30分〉家庭内問題で思い悩んでいた女性がガスコンロを使用し、自殺を図ったとの連絡が入る。C刑事らが現場に着いた時、既に救急車が到着していた。命に別状はないことが分かり、一安心。家族から事情を聴取し、現場の見取り図を作成する。他の捜査員は事実関係の確認のため病院に向かう。
〈22時00分〉親子げんかによる傷害事件発生。現場に急行する。C刑事らが到着した時、無職の20歳代男性が再び父親に襲いかかろうとしていた。父親は全身打撲で、全治2週間の怪我。すぐに救急車を手配するとともに、傷害容疑で20歳代男性(F被疑者)を現行犯逮捕。C刑事らは、F被疑者を署に連行し、弁解録取書、現行犯人逮捕手続書、供述調書等を作成し、留置する手続を取る。F被疑者は、親子げんかで以前にも父親に傷害を負わせていた。
〈2時50分〉車上ねらいの通報。ゲームセンターの駐車場に止めていた車の窓を割られ、運転席と助手席の間にあったカバンが盗まれた。ほんの30分くらいの間の犯行だ。C刑事らは、目撃者がいなかったか聞き込みを行うが、被疑者の検挙には至らない。引き上げることにする。次の事件発生に備えて気持ちを引き締め直して、署に戻る。
〈4時00分〉事件発生により起こされることも多いが、とりあえず仮眠に入る。
〈8時10分〉C刑事らは、昨夜の親子げんかによる傷害事件の実況見分を行うため、犯行現場に向かう。F被疑者の母親を立会人にして、現場の位置や現場付近の状況を確認し、更に現場の状況について母親から説明を受け、必要な写真を撮る。
〈10時30分〉署に戻り、被害者である父親から被害届を受理し、供述調書を作成する。
〈13時00分〉F被疑者を取り調べる。犯行の動機や事実関係について詳しく聴取する。
〈15時00分〉F被疑者の身柄を明日前橋地方検察庁に送致する準備をする。ようやく長い一日が終わる。

(3)厳しさを増す犯罪情勢と業務負担の増加
 伊勢崎警察署管内における刑法犯認知件数の増加、少年犯罪の深刻化、来日外国人犯罪の多発に伴い、警察官の業務負担は増加している。また、管轄区域内における平成13年度の警察官1人当たりの負担人口は1,167人であり、全国の平均負担人口の2倍以上と非常に高くなっている。さらに、13年中に伊勢崎警察署で受理した110番通報の件数は1万2,256件と4年の2.3倍となっており、過去10年間で同署の業務負担が著しく増加したことがうかがえる(図1-89)。
 警察庁では、14年4月、伊勢崎警察署勤務の刑事警察官及び地域警察官が捜査を始めとする各種警察活動を遂行する中で、具体的に感じている負担や課題を的確に把握するため、「伊勢崎警察署における警察活動の負担に関するアンケート(以下「伊勢崎署における負担調査」という。)」)(注1)を実施した。
 伊勢崎署における負担調査では、10年前に比べて犯罪が増えていると感じるかについて、「非常に感じる」と回答した者が39人(53.4%)、「感じる」と回答した者が31人(42.5%)、「どちらかというと感じる」と回答した者が2人(2.7%)であり、合計で98.6%とほとんどの警察官が犯罪が増加していると感じている。
 具体的にどのような犯罪が増えたと思うかについて(複数回答)は、「凶悪犯」と回答した者が43人(59.7%)、「来日外国人犯罪」と回答した者が41人(56.9%)、「窃盗犯」と回答した者が37人(51.4%)、「少年犯罪」と回答した者が26人(36.1%)であった。
 伊勢崎警察署における13年の被留置者の年間延べ人員(注2)は6,652人(1日平均18.2人)で、昨年と比べて876人(15.2%)増加し、過去10年間で約2.4倍となっている。このうち、13年中は外国人が1,559人で全体の23.4%を占め、過去10年間で2.3倍の増加となっている。また、警察署の留置場の収容基準人員(注3)は18人であり、13年中は1年間を通して収容力の限界に達している状況が続いたことがわかる(図1-90)。
 伊勢崎署における負担調査では、捜査に必要な施設で足りないと感じるものは何かについて、「取調室」、「留置場」と回答した刑事警察官がそれぞれ17人(65.4%)で最も多く、次いで「証拠品倉庫」と回答した刑事警察官が10人(38.5%)であった。
(注1) 伊勢崎署における負担調査は、伊勢崎警察署に勤務する刑事警察官及び地域警察官のうち、勤務年数が10年以上で、階級が警部以下の者に対して調査票に記入させて調査したもの。刑事警察官からの回収数は26人(96.3%)、地域警察官からの回収数は47人(90.4%)であった。
(注2) 被留置者の年間延べ人員は、毎日の被留置者を1年間分合算した数字である。
(注3) 収容基準人員とは、被留置者を留置室に収容するに当たって、収容人員の目安とすべき人数のことをいう。女性や少年の分隔といった特別の考慮要素を捨象した設計上の基準数値である。

3 警察官1人当たりの業務負担の増加
 平成13年度の警察官1人当たりの負担人口は552人であり、4年の559人に比べるとわずかに改善されているものの、なお米国の385人、英国の395人、ドイツの315人、フランスの293人と比べ負担が大きい(注)。
 また、13年の刑法犯認知件数は273万5,612件と4年の174万2,366件に比べて1.6倍となっており、このような認知件数の大幅な増加に伴い、警察官の業務負担が増加している。このほか、110番通報受理件数は871万6,922件と4年の485万6,390件に比べて1.8倍、相談取扱件数は93万228件と4年の30万9,652件に比べて3.0倍とそれぞれ大幅に増加するなど、警察官1人当たりの業務負担の増加が著しい(図1-91、1-92)。
(注) 諸外国の負担人口は、国際刑事警察機構(ICPO)経由の各国資料により算出しており、米国は1996年、英国は1998年、ドイツは1999年、フランスは1999年の調査による数値である。
 警察庁では、刑事警察官及び地域警察官が捜査を始めとする各種警察活動を遂行する中で、具体的に感じている負担や課題を的確に把握するため、14年3月、各都道府県警察の大規模な警察署を選定し、警部以下の警察官約2,700人を対象に「警察活動の負担に関するアンケート」(以下「負担調査」という。)(注)を実施した。
(注) 負担調査は、各都道府県警察から1署ずつ選定した警察署に勤務する刑事警察官及び地域警察官のうち、勤務年数が10年以上で、階級が警部以下の者(ただし、地域警察官については、いずれか1当務の警察官のみ。)に対して調査票に記入させて調査したもの。調査対象者は2,669人で、刑事警察官からの回収数は1,306人(95.0%)、地域警察官からの回収数は991人(76.6%)であった。
 負担調査によると、10年前に比べて犯罪が増えていると感じるかについての回答は、図1-93のとおりで、97.6%とほとんどの警察官が、犯罪が増加していると感じていると回答している。
 具体的にどのような犯罪が増えたと思うかについての回答(複数回答)は、図1-94のとおりで、「凶悪犯」、「来日外国人犯罪」、「窃盗犯」、「少年犯罪」、「粗暴犯」と回答した警察官が多かった。
 また、犯罪発生状況に比して警察官の人数は足りているかについての回答は、図1-95のとおりで、98.4%とほとんどの警察官が、警察官の人数は足りていないと回答している。
 さらに、10年前に比べて1人当たりの仕事量は多いか少ないかについての回答は、図1-96のとおりで、95.5%とほとんどの警察官が、1人当たりの仕事量は多くなっていると回答している。

4 捜査の緻密化
(1)令状発付状況
 裁判所における各種令状の発付状況の推移は、図1-97のとおりである。平成13年の逮捕状の発付数は13万9,636人であり、全体的に多少の起伏はあるもののほぼ横ばいで推移しているのに対し、13年の捜索、差押及び検証許可状の発付数は18万5,027人であり、大幅な増加傾向にある。これは、捜査において物証を求める傾向が強くなっていることなどを示していると考えられる。

(2)勾留期間
 被疑者の勾留期間の推移は、図1-98のとおりであり、全体的に勾留期間が長期化していることが分かる。勾留期間の長期化の要因としては、捜査の緻密化による捜査事項の増大が考えられる。また、このような勾留期間の長期化に伴い、被疑者の護送、他署留置被疑者の取調べのための移動等、捜査以外の業務負担も増加している。

(3)捜査書類の作成量
 1件の事件を処理するに当たり、逮捕時に作成する逮捕手続書、弁解録取書を始め、供述調書、捜索差押調書、各種捜査報告書等数多くの捜査書類を作成しなければならない。
 負担調査によると、捜査書類作成量が10年前に比べて増えたか減ったかについての回答は、図1-99のとおりであり、84.9%と大半の刑事警察官が捜査書類作成量が増加していると感じている。
 捜査書類の作成量の増加は、書類の作成要領の変化やワープロ等の事務機器の普及といった要素も考えられるが、司法の精密化の傾向に伴い、より緻密な立証が求められてきたことに負うところが大きいと思われる。

5 来日外国人犯罪の増加に伴う業務負担の増加
 外国人入国者数の増加等社会の国際化を背景に来日外国人犯罪が増加している(図9-1)。来日外国人犯罪の捜査は、言語、習慣等を異にする外国人の被疑者や参考人を相手とするものであり、日本人のみを関係者とする犯罪の捜査とは異なる困難を伴う。
 負担調査によると、来日外国人犯罪の捜査は日本人の場合と比較して負担が大きいか小さいかについての回答は、「非常に大きい」と回答した者が586人(44.9%)、「大きい」と回答した者が556人(42.6%)、「どちらかというと大きい」と回答した者が109人(8.3%)であり、合計で95.8%とほとんどの刑事警察官が来日外国人犯罪の捜査に負担を感じている。
 具体的に負担が大きいと感じる点についての回答(複数回答)は、図1-100のとおりで、「言葉の壁(通訳が必要)」と回答した刑事警察官が最も多く、次いで「被疑者の特定が困難」、「否認が多い」が挙げられている。地域警察官についても、716人(79.7%)が「言葉の壁(通訳が必要)」を負担を感じる点として回答している。
○ 被疑者の取調べ等における困難
 来日外国人被疑者の取調べは、多くの場合通訳を介したものとなるほか、その者の本国の習慣や文化等に留意した供述内容の吟味、刑事手続上の被疑者としての権利の告知を始め我が国の刑事手続の流れについての十分な説明等が求められることから、日本人被疑者の取調べに比べて多くの時間と労力を要する。また、特に部外の通訳人が、被疑者から脅迫を受けるなどの問題点がある。さらに、来日外国人被疑者は、警察に供述したことが仲間に知られることにより、本国の家族等に危害が及ぶことを心配するなどして、否認することが多い。
○ 犯罪についての情報入手の困難
 来日外国人犯罪についての情報は、他の来日外国人に対して聞き込みを行うなど外国人コミュニティの中で収集する必要がある場合が多い。また、外国人が被害者である場合には、言語等の壁から正確な被害申告に支障を来すことがあるほか、被疑者が同国籍の者である場合には、被害者本人や本国の家族等に危害が及ぶことを心配して、警察に対する通報や協力を避ける傾向もみられる。特に、不法滞在者等が被害者である場合は、不法滞在等の発覚を恐れて被害の届出をためらうことが多く、事件が潜在化しがちである。
○ 組織化の進展に伴う困難
 来日外国人犯罪者の組織化が進展しており、捜査に当たってはその組織実態や犯罪敢行に当たっての役割分担を解明する必要があり、単独犯による犯罪に比べて捜査を要する事項が多い。特に来日外国人犯罪者は、緩やかな連携による組織を形成し、臨機応変に離合集散を繰り返しながら犯罪を敢行する場合が多いため、組織実態や役割分担の解明には多くの時間と労力を要する。
○ 被疑者の身元確認及び所在確認の困難
 悪質な不法滞在者の中には故意に旅券を廃棄する者や偽造又は他人名義で取得された旅券を所持する者がおり、また、戸籍制度が十分に整備されていない国や旅券発給手続が必ずしも厳格でない国から来日した外国人がいるなど、来日外国人被疑者の身元確認が困難な場合が少なくない。さらに、来日外国人、特に不法滞在者は、居所や就労先を転々とする場合が多く、被疑者だけでなく参考人についても所在確認が困難な場合が多い。そのため、被疑者の身元確認や被疑者が国外に逃亡した場合の所在確認のため、外国捜査機関との連携が必要となる。

6 警察官の受傷事故等
 警察官の職務執行には常に危険が伴う。最近、警察官の職務質問等に対して凶器を用いて抵抗する事例等が散見されるなど、警察官が職務執行に伴い受傷事故に遭遇する事案が目立っている。13年においては、警察官が自らの身の危険を顧みず犯人逮捕の職務を遂行し、殉職する事案が4件発生し、4人の警察官が殉職した。
[事例1] 13年4月、けん銃様のものを所持した強盗容疑事件発生の通報により現場に到着した警察官が、無職の男(52)を取り押さえようとしたところ、男は、所持していた散弾銃で警察官の腹部に発砲し、死亡させた(栃木)。
[事例2] 13年8月、「刃物を持った男がうろついている」との通報により現場に到着した警察官が、職務質問をしようとしたところ、無職の男(54)がいきなり切り掛かったため格闘となり、男は、警察官の左側頸部等を刺して死亡させ、警察官の発砲により男も死亡した(警視庁)。
 また、13年の警察官に対する公務執行妨害の認知件数は2,039件で、4年と比べて2.3倍と大幅に増加しており、警察官の職務執行時の負担が増加していることがうかがえる(図1-101)。
 警察では、防弾チョッキや耐刃防護衣等の装備品を整備し、受傷事故の防止に努めているとともに、警察官が職務を遂行する上でけん銃の使用が必要な場合に、的確にけん銃を使用することができるように、必要な規定の見直しを行っている。

7 取調室・留置場等の不足
(1)取調室等
 犯罪の増加に伴い、取調室の不足が深刻化している。負担調査によると、捜査に必要な施設で足りないと感じるものは何かについての回答(複数回答)は、図1-102のとおりで、「取調室」と回答した刑事警察官が978人(74.9%)で最も多く、次いで「留置場」と回答した刑事警察官が616人(47.2%)、「証拠品倉庫」と回答した刑事警察官が520人(39.8%)であった(注)。
 警察においては、警察本部及び警察署の新・増改築時における取調室の整備を進めている。
(注) 本調査においては刑事警察官が一連の捜査の過程で不足を感じている施設を正確に把握するため、留置場も含め、警察施設について幅広く質問を行ったものである。

(2)留置場
ア 被留置者収容状況
 平成13年における被留置者の年間延べ人員は、約444万人(1日平均約1万2,000人)で、2年以降増加を続けており、過去10年間でみると、4年の約2.1倍となっている。特に、11年以降は、前年比10%以上の伸び率となっており、増加が著しい。
 13年の被留置者の男女別の内訳は、男性が約402万人、女性が約42万人、成人・少年別の内訳は、成人が約421万人、少年が約24万人である。また、日本人・外国人別の内訳は、日本人が約375万人、外国人が約69万人となっており、外国人被疑者が全体の15.6%を占めている。なかでも、警視庁では、外国人被疑者が全体の31.6%を占めており、全国と比べて外国人被疑者が占める割合が高い。過去10年間でみると、女性は4年の約2.7倍、少年は4年の約2.0倍、外国人は4年の約4.4倍となっており、外国人の伸び率が特に著しい(図1-103)。
イ 被留置者延べ人員の増加の原因
 被留置者の延べ人員が増加した原因としては、犯罪情勢の悪化に伴い、逮捕人員が増加したこと、犯罪の広域化、複雑多様化や来日外国人犯罪の増加等により捜査が長期化し、それに伴い留置期間も長期化したこと、拘置所等行刑施設においても収容人員が増加したことにより、拘置所等行刑施設への移監が停滞していることが挙げられる。
ウ 大都市及びその周辺部を抱える警察の収容率及び移監待機率
 収容基準人員に対する被留置者の割合である収容率は、14年5月13日現在で、警視庁が112.0%、千葉県警察が101.2%、神奈川県警察が88.9%、愛知県警察が94.5%、大阪府警察が109.2%と、大都市を抱える都府県警察については、いずれも収容率がほぼ100%の数値を示している。これら以外の県警察においても、茨城県警察が94.4%、栃木県警察が129.9%、静岡県警察が98.0%、滋賀県警察が101.3%と、同様に高い数値を示しており、大都市及びその周辺部を管轄する警察においては、収容力が限界に達している。また、少年を成人とは一緒に留置することができず、女性と男性とは一緒に留置することはできないなどの制約があることから、留置人員が収容基準人員の約7割から約8割に達した時点で実質的に収容力は限界に達しているのが通例であるところ、全国平均でも76.3%に達し、一部の都府県警察では、適正な留置人員を超過しており、留置場の収容力不足が深刻になってきている。
 また、被留置者数に占める拘置所等への移監を待っている者(注)の割合である移監待機率については、14年5月13日現在で、全国平均においても17.9%と高率であるが、特に警視庁が19.4%、茨城県警察が23.1%、栃木県警察が35.1%、埼玉県警察が24.0%、新潟県警察が34.7%、静岡県警察が22.0%と首都圏周辺部において高い移監待機率を示しており、高収容率の一因となっていることがうかがえる。
(注) 起訴されるなど捜査がおおむね終了した場合は、拘置所等行刑施設へ移監されるのが一般的である。
エ 負担調査の分析
 負担調査によると、最近1年間で留置場が一杯であるため、遠距離(片道平均30分以上)の警察署に被疑者を留置したことはあるかについて捜査運営の責任者となる警部たる刑事警察官に聞いたところ、「ある」と回答した者が62人(65.3%)、「ない」が21人(22.1%)であった。具体的にこの1年間で遠距離に留置した被疑者の数についての回答は、30分以上45分未満の警察署に留置した被疑者が270人、45分以上1時間未満が198人、1時間以上が66人であった。
オ 留置場の収容力確保のための施策
 警察においては、警察署の新築・増改築時において留置場の整備を図るほか、被留置者を収容する専用の施設を建設したり、既存の警察施設を留置施設に改修するなどして、収容力を確保することとしている。また、拘置所等行刑施設に対する早期移監を要請することにより、収容率の上昇に歯止めをかけ、適正な留置業務の運営に努めていくこととしている。

8 国民の意識の変化等
(1)社会の犯罪抑止機能の低下
 従来は、近隣関係を中心とする地域社会において、強固な連帯意識が形成されていた。地域住民が互いに情報を交換し合い、地域の活動に共同して取り組む土壌が存在すると、犯罪や事故の発生を監視する機能、ぐ犯者の更生を促す機能、行政等の情報提供の受け皿としての機能等、地域の安全を確保する上で重要な機能が地域社会にもたらされる。
 しかし、近年の急激な社会環境の変化は、地域住民の価値観や生活様式を変化させ、地域社会の連帯意識を弱めている。具体的には、特に都市部において、他人への干渉を控える風潮が広まっていることなどから、近所付き合いの範囲が狭くなり、外出に当たって近隣に声を掛けることや他人の子どもを叱ることが減り、地域の行事等への参加が消極的になっていることなどが指摘されている。このように、地域住民の間の意思疎通や共同活動が減少するのに伴い、社会の犯罪抑止機能も低下しつつある。
 例えば、「警察の捜査活動等に関する世論調査」(昭和44年、内閣総理大臣官房広報室。以下「昭和44年調査」という。)(注1)と「防犯に関する調査」(平成14年、(財)社会安全研究財団。以下「平成14年調査」という。)(注2)の結果を比較したところ、次のような結果が得られた。
 近所付き合いの範囲については、昭和44年調査で約半数が回答していた「町内」が平成14年調査で27.0%と大幅に減少しており、他方で、昭和44年調査では2.0%に過ぎなかった「付き合いなし」が平成14年調査では10%を超える回答となっている。「隣組(10軒)内」、「5~6軒」、「両隣」はいずれも平成14年調査で若干増加している(図1-105)。また、「5~6軒」以下と回答した者に対して、あまり近所付き合いをしない理由を質問したところ(複数回答)、両調査とも「知る機会がない」、「他人のことは干渉したくない」、「忙しい」との回答が多く、なかでも「他人のことは干渉したくない」と回答した者の割合が増加している(図1-106)。
 家族全員が出かける際に近所に声を掛けるかどうか質問をしたところ、昭和44年調査と平成14年調査では大きく差が生じており、近所に声掛けをする人は、過去に比べて大幅に減少していることが分かる(図1-107)。
(注1) 昭和44年調査は、全国の20歳以上70歳未満の者から層化二段無作為抽出法により3,000人を抽出し、調査員による面接聴取を行い(有効回答数は2,563人(85.4%))、警察の捜査活動に対する国民の評価と協力についての態度を調査したもの。
(注2) 平成14年調査は、全国の20歳以上の男女個人から層化二段無作為抽出法により2,000人を抽出し、調査員によるアンケート調査を行い(有効回答数は1,461人(73.1%))、防犯対策に関して国民の意識等を幅広く把握する目的で行われたもの。昭和44年調査と同一の質問が含まれている。

(2)規範意識の低下
ア 負担調査の分析
 負担調査によると、最近の国民の規範意識についてどのように感じているかについての回答は、図1-108のとおりで、97.1%とほとんどの警察官が国民の規範意識が低下していると感じていることがうかがえる。
 国民の規範意識が低下したと感じる具体的理由についての回答(複数回答)は、図1-109のとおりで、「職務上接する人に非常識な者が多くなった」と回答した警察官が1,560人(70.0%)で最も多く、次いで「職務上接する少年のしつけに問題があると思うことが多くなった」、「気軽に犯罪を犯す者が増えている」、「反省の念を持たない者が増えた」と回答した警察官が多い。
イ 少年補導職員、少年相談専門職員、少年担当警察官に対するアンケート調査
 警察では、少年担当警察官が少年の非行防止、少年事件捜査等の職務に従事しており、その中には、長年にわたって少年警察に専従している者も少なくない。また、少年補導職員が少年相談、被害少年の保護、街頭補導等の活動に従事しているほか、心理学、教育学等の専門的知識を有する少年相談専門職員が、複雑な少年相談事案の処理、少年相談を担当する職員に対する指導等の活動に従事している。
 警察庁は、全国の実務経験豊富な少年警察担当者の個人的な意見・感想を広く集めることにより、最近の不良行為少年の傾向、少年非行の原因、保護者・学校・地域社会といった少年を取り巻く状況や15~20年前との変化を、可能な限り的確に把握することを目的として、平成14年2月から3月にかけて「「少年を取り巻く状況等に関するアンケート」調査」(注)を実施した。
(注) 「少年を取り巻く状況等に関するアンケート」は、①14年4月現在、少年補導職員及び少年相談専門職員のうち、勤続15年以上の実務経験を有する者(非常勤職員を含む。)、②14年4月現在、本部少年担当課に所属する警察官のうち、通算して勤続15年以上の少年部門の実務経験を有する者を対象に、14年2月13日から3月8日までの間、郵送による記述式アンケートを実施し、上記①から327人、上記②から75人(計402人)の回答を回収したものである。
(ア) 少年を取り巻く状況等に関すること
a 最近の少年、特に不良行為少年の傾向
 「精神的に未熟な者が多く、基本的な生活習慣、モラルが欠如している」、「大人になりきれない者、自立できない者が増えた」、「他人への信頼感の欠如等、対人関係の希薄性が見られる」、「警察官、少年補導職員、教師や大人一般を恐れなくなり、開き直っている感がある」、「家庭から見離され、学校では落ちこぼれた不良行為少年のみならず、一見よい子に見える少年でも、過剰適応で無理をしていて、家庭や学校に居場所のなさを感じている者が増えた」、「無表情で表現力が乏しく、自分の気持ちを表現できない」、「自己の行動の意味を認識できず、自己をコントロールできない少年が増えた」、「他人に対する思いやりに欠け、残酷なことも平気でできるが、反面さみしがり屋である」等の指摘が多く寄せられた。
 また、補導されたときの少年の態度については、以前は「悪いことをしているとの気持ちから、少年補導職員の姿を見ると逃げた」、「最終的には反省して担当者の元を去った」、「万引きが見つかると、泣いて謝った」という少年が多かったのに対して、最近の少年は、「平気でうそをつく」、「堂々とした態度で、反省の態度が見られない」、「終始無表情で、反省の態度が見られない」、「打算的である」という意見が多かった。その一方で、「反抗的な態度を示す少年は少なく、外見的に反省をしているふりをする少年が多い」という意見もみられた。
b 現在の少年非行の原因
 「親自身の規範意識やモラルが低下している」、「親自身が精神的に未成熟」、「親が少年を甘やかし、しつけができていない」といった原因により「家庭の教育力が低下した」ことを問題として指摘する意見が特に多かった。次いで「地域社会の無関心、事なかれ主義等、地域における連帯意識の希薄化」、「学校における教育力・指導力の低下」、「携帯電話・インターネット等のメディアの普及とそれに伴う情報・映像の氾濫」等を指摘する意見が多くみられた。
(イ) 保護者等に関すること
 保護者の子どもに対する指導力の低下を指摘する意見が多く、「今の親は、物の豊かな時代に育っており、親自身が「我慢」や「忍耐」を教えることができない」といった意見もあった。
 子どもと母親の関係については、「親子の上下関係がなくなり、友達のような対等な関係になっている」、「母親が子どもの顔色をうかがい、子どもの機嫌を損ねることを恐れている」、「厳しい教育・指導を放棄し、子どもを叱れない母親が増加している」、「放任か過保護の両極端のタイプが増えた」等の意見がみられた。
 また、子どもと父親の関係については、「子どもにとっては「恐い」「厳しい」というイメージが薄く、父親の権威が失墜している」、「仕事で多忙なこともあり、家庭での父親の存在感が希薄であり、子どもに無関心で我が子の行動を把握していない父親が多い一方、父親の年齢や勤務先さえ知らない子どもも目立つ」等の意見が多くを占める一方、「警察署へ補導された少年を迎えに来るのは、以前は母親がほとんどであったが、最近は、父親又は両親が来る場合が増えるなど、子育てに参加する父親が増えてきた」とのコメントも見られた。
 少年を補導し、保護者に連絡したときの保護者の態度については、以前の保護者は「恐縮して、すぐに迎えに来る者が多かった」、「子どもを補導したことについて感謝されることが多かった」、「直ちに子どもの非を認めて謝罪する者が多かった」といった意見が多く見られた。一方、最近の保護者については、「子どもの非行にあまり関心がない者が増えた」、「非行の原因を他人のせいにし、責任転嫁する者が増えた」、「仕事で忙しいことを理由にして、すぐに迎えに来ない」といった意見がみられた。
(ウ) 学校に関すること
 学校、教師に関する問題としては、「生徒と先生の個々のつながりが希薄化してきた」、「教師と生徒のけじめがなくなり、友達のような関係になっている」という意見が多く、「毅然とした態度で教育できる教師が減った。少年に迎合しているだけで、自分は生徒に人気があると思っている者もいる」、「学校は教育機関であるが、「教」はあるが「育」はないと感じる」という意見もあった。
 少年を補導し、学校に連絡したときの教師の対応については、以前は「連絡すると、深夜でも飛んできて、本気で生徒を叱る教師が見られた」のに対し、最近は「通報しても、学校外のこととして興味を示さない教師も見られる」という指摘がみられた。学校と警察の関係については、「以前に比べると、学校内で問題が発生すると早めに警察に相談してくるようになった」、「関係が良好になり、学校側の対応も迅速である」という意見が多かったが、その一方で「学校内で解決すべき問題まで、警察に頼ってきて、学校独自で解決しようとしない」という意見もみられる。
 また、保護者と学校、教師との関係について、「親からの抗議を避けるために、事なかれ主義に陥る教師が多い」、「保護者が教師をばかにするので、子どもまで教師をばかにする」、「子どもの学力低下や問題行動等を教師の責任として押し付け、抗議する親が多い」、「保護者の質が低下して、モラルとルールがなくなり、教師が気の毒である」等、双方の問題を指摘する意見がみられた。
(エ) 地域社会に関すること
 「地域内の連携がなくなり、地域社会の教育力がなくなった」、「少年犯罪の凶悪化等により、子どもは何をするのか分からないという風潮から、大人が子どもを恐れ、目の前の行為についても見て見ぬふりをする」等の意見が多くみられ、地域社会と少年の関係がますます希薄になっている傾向がうかがわれる。
 また、少年の姿勢についての具体的な意見として、「子どもが周囲の大人の目を気にしなくなった」、「子ども会等で行事を計画しても、塾やスポーツクラブ等の活動が優先されてしまい、参加する子どもが少なくなっている」等の意見が寄せられた。
 これらの背景について、「核家族、少子化により個人主義と権利意識が高くなって、自分さえよければよいという考えが蔓延している」など、一般に、地域の大人一人一人の少年非行防止に関する意識・認識が低いことを指摘する意見のほか、特に、「ボランティア活動に関して、少年の非行防止のための地域の活動に貢献したいと考えている意欲ある人材が埋もれている」など、地域において少年の非行防止活動に献身的に貢献する意欲と能力のある人材の掘り起こしがうまくいっていないことを指摘する意見もみられた。

(3)警察に対する協力意識の低下
ア 捜査に対する国民の協力確保
 犯人検挙、事件解決のためには、犯罪捜査に対する国民の理解と協力が不可欠である。しかし、犯罪の巧妙化、社会構造の変化等が進む中、聞き込み捜査の困難性は増しており、聞き込み捜査を端緒に、主たる被疑者を特定した刑法犯検挙件数(余罪事件を除く。)は、平成4年には1万1,470件(余罪を除く刑法犯検挙件数(解決事件(注)を除く。)の4.8%)であったのが、13年には5,729件(2.0%)と減少している。
(注) 解決事件とは、刑法犯として認知され、既に統計に計上されている事件であって、これを捜査した結果、刑事責任無能力者の行為であること、基本事実がないことその他の理由により犯罪が成立しないこと又は訴訟条件・処罰条件を欠くことが確認された事件をいう。
 負担調査によると、10年前に比べて警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じるかについての回答は、図1-111のとおりで、94.3%とほとんどの刑事警察官が警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じていることがうかがえる。
 具体的に警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じるのはどのような場面かについての回答(複数回答)は、図1-112のとおりで、「聞き込みをしても、隣人のことが分からなくなった」と回答した刑事警察官が775人(63.0%)と最も多く、次いで「警察と関わり合いを持ちたがらない人が増えた」と回答した刑事警察官が653人(53.0%)であった。
イ 地域警察活動に対する国民の協力確保
 負担調査によると、10年前に比べて警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じるかについては、「感じる」と回答した地域警察官が503人(50.8%)、「非常に感じる」と回答した地域警察官が262人(26.4%)、「どちらかというと感じる」と回答した地域警察官が177人(17.9%)で、合計で95.1%とほとんどの地域警察官が警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じていることがうかがえる。
 具体的に警察活動に対する協力が得られにくくなったと感じるのはどのような場面かについては、「聞き込みをしても、隣人のことがわからなくなった」と回答した地域警察官が490人(52.0%)と最も多く、次いで「警察と関わり合いを持ちたがらない人が増えた」、「警察を快く思わない人が増えた」と回答した地域警察官がそれぞれ474人(50.3%)、406人(43.1%)であった。

(4)警察に対する期待と要望の増大
ア 実態調査の結果
 平成14年調査((1)参照)において、警察に要望する活動について質問したところ(複数回答)、特に要望の強かったものは、「警察官によるパトロール」(64.6%)、「少年の非行防止」(55.7%)、「身近な犯罪の取締り」(55.2%)、「凶悪な犯罪の取締り」(50.3%)であった。
イ 警察安全相談の取扱い状況
 警察に対する要望の多くは警察の相談窓口に寄せられており、表1-9のように、悪質商法、つきまとい、迷惑電話から家庭不和、騒音問題、生活困窮に至るまで様々な相談がなされている。相談取扱件数は最近数年で急増しており、平成13年は93万228件と、前年に比べて18万5,685件(24.9%)増加した(図1-92)。このように相談取扱件数が増加している理由としては、警察が相談受理体制を強化し相談窓口の利用に関する広報を積極的に展開していることのほか、地域社会や家庭で本来解決されるべき問題が警察に持ち込まれる傾向が強まっていることも挙げられる。
 警察では、このような相談に誠実に応えるため、警察安全相談員や相談業務担当者の配置等を進めており、街頭活動や捜査活動における相談にも適切に対応しているところである((2)参照)。
ウ 告訴・告発の取扱い状況
 告訴・告発は、国民が、捜査機関に対し犯罪事実を申告して、その犯人の処罰を求める意思表示であるが、犯罪被害者対策の観点からみると、告訴・告発を受理し、これを捜査することは、正に直接的な犯罪被害者の救済手段であると言っても過言ではない。警察では、11年に大きな問題となったいわゆる桶川事件を始めとする不適正事案の反省を踏まえ、告訴・告発の取扱いの適正化と迅速的確な捜査の推進を図っているところである。警察庁においては、指導体制を強化することにより、都道府県警察に対する個別具体的な業務指導を実施するとともに、各種教養の充実を図っており、都道府県警察においても、捜査体制の強化や告訴・告発事件捜査強化月間等を実施するなどの取組みを行っている。その結果、13年の処理件数が3,167件で、11年に比べ739件(30.4%)増加するなど取組みの成果が現れつつある。
 しかし、国民の警察に対する要望や期待の増大を反映して、告訴・告発の受理件数は増加傾向にあり、13年は3,319件で、11年に比べ947件(39.9%)増加していることや、複雑な権利関係を背景に有する告訴・告発が多く、処理するために相当の期間を要する場合もあることなどから、体制を強化するなど、告訴・告発事件捜査に対する取組みの一層の強化を図ることとしている(表1-10、1-11、1-12)。
エ 他の行政機関との関係
 負担調査によると、他の行政機関のしわ寄せが警察に来ていると思うことはあるかについての回答は、図1-113のとおりで、93.0%とほとんどの警察官が他の行政機関のしわ寄せが警察に来ていると思うことがあることがうかがえる。
 他の行政機関のしわ寄せが警察に来ていると思う具体的な理由についての回答(複数回答)は、図1-114のとおりで、「本来他の行政機関が対応すべき事案が警察に寄せられる」と回答した警察官が1,553人(72.7%)で最も多く、次いで「他の行政機関は24時間社会に対応していない」となっている。

9 大量生産・大量流通の著しい進展
 従来、犯罪現場及びその付近に残された犯人の凶器、侵入用具等犯行の用に供された物を始め、着衣、紙片等の遺留品について、その出所を確認して犯人を割り出す遺留品捜査や、被害品の移動経路を捜査することによって犯人を割り出す盗品等捜査といった物からの捜査が行われ、多くの事件の解決に寄与してきた。しかし、大量生産・大量流通の著しい進展、輸送手段の多様化・高速化、インターネットの普及、経済のグローバル化等に伴い、輸入品を含め、多種多様の物品を大量かつ容易に入手し、消費することができるようになり、物からの捜査は困難になってきている。
 例えば、盗品等捜査を端緒に主たる被疑者を特定した窃盗犯検挙件数(余罪事件を除く。)は、13年には1,713件(余罪を除く窃盗犯検挙件数(解決事件を除く。)の1.1%)であり、4年の2,558件(1.9%)と比べて大きく減少している(図1-115)。


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