第4節 正常な経済活動等の確保

1 悪質商法の現況と経済事犯の取締り

(1) 悪質商法の現況と取締り
 従来からの訪問販売等の各種事犯に加え、新たな形態を装い又は組織的・計画的に引き起こされる悪質商法事犯が問題になっている。
 平成6年中の悪質商法の検挙状況は、事件数は121事件、人員は480人、被害者数約70万5,000人、被害額は1,458億円に上っている。
ア 訪問販売等をめぐる事犯
(ア) マルチ商法をめぐる事犯
 自己増殖的な販売組織づくりを特徴とするマルチ商法は、一般消費者との間に様々なトラブルを引き起こしており、多数の苦情や相談が寄せられている。
 6年のマルチ商法をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は16事件、検挙人員は131人、被害者数は約60万人、被害額は約1,264億円であった。その大半が、商取引に疎い若者等を対象に法令で規制された連鎖販売取引である事実を隠ぺいし、違法な勧誘を組織的・計画的に行っていたものであった。
〔事例〕 浄水器等の連鎖販売業を営む会社社長(61)らは、主として20歳代の若者を対象に、「ネズミ講でもマルチ商法でもない。友達を紹介して商品を購入してもらえれば、月7桁の収入が得られる」などと偽りのトークで会員を勧誘し、法令の定める連鎖販売業の概要を記載した書面を交付しないで、全国の約28万人に対し総額約650億円の売上げを得ていた。6月までに、訪問販売法違反で1法人20人を検 挙(警視庁)
(イ) 新たな形態の事犯
 「押し付け商法」「かたり商法」「危険商法」といった従来からの訪問販売の形態をとるものが依然約半数を占めたものの、激安広告でパソコン等の購入希望者を募り前払式通信販売を悪用して現金をだまし取るものや、法的規制のない電話勧誘の方法により資格取得講座教材を売り付けるもの、ホスト募集を装って巧妙に入会金等をだまし取るものなど、巧妙かつ特異な手口を用いた新たな形態の悪質商法事犯が次々と出現した。
〔事例〕 宅地建物取引主任者等の国家試験教材販売会社幹部(49)らは、電話勧誘により「当社の教材を見ると試験が分かり確実に合格できる」などとだまして、全国約3,500人に総額約12億円の教材等を販売していた。11月までに詐欺で10人を逮捕(徳島)
イ その他の悪質商法
 その他の悪質商法をめぐる事犯では、海外先物取引をめぐる大規模な詐欺事件、高利率をうたい文句に受け入れた金員をだまし取る預り金を仮装した詐欺事件、原野商法被害者の心理につけ込んだ第2次原野商法詐欺事件、株取引を装った詐欺事件等悪質な事犯が目立った。
〔事例1〕 海外先物取引の受託会社の会長(46)らが、「短期間に確実に高い利益が得られる」などと勧誘し、先物取引の委託保証金名下に九州、山口等を中心に1都10県で約3,600名から約91億円をだまし取っていた。6月までに詐欺で逮捕16人を含む67人を検挙(福岡)
〔事例2〕 利用価値のない山林を売り付ける原野商法詐欺事件の前歴を有する者(39)らが、原野商法の被害者を救済するなどと銘打って団体を作り、入会金や土地の調査費等の名目で、約400人から総額約3億円をだまし取っていた。9月に詐欺で逮捕3人を含む4人を検挙(大阪)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者相談と啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口には、多数の悪質商法に関する苦情、相談が寄せられている。
 警察では、これらの消費者相談を基に市民の取締り要望を把握するとともに、消費者の立場に立った効率的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
 また、警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等と連携して、消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。全国の警察が消費者に配布したパンフレット、チラシ等の広報啓発資料は約1,287万部に達した。
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、国民生活センターをはじめ各地方公共団体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなどして連携の強化を図った。
 警察では、こうした関係機関、団体等との連携を通じて得た情報を基に積極的な取締りを推進した。
(3) その他の経済事犯の取締り
ア 不動産取引をめぐる事犯の取締り
 平成6年の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は233件、検挙人員は301人であり、主な検挙法令は、宅地建物取引業法違反、建築基準法違反、建設業法違反であった。
〔事例〕 山口組系暴力団幹部らが実質経営する建設業者が、建設業法で規定されている経営業務管理責任者や専任技術者の実務経験を偽るなどして許可申請を行い、建設業許可を不正取得した事件で、7月までに、暴力団フロント企業等の建設業者12業者を摘発、暴力団幹部9人を含む23人を検挙(大阪)
イ 国際経済関係事犯の取締り
 6年中の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙件数は18件、検挙人員は8人で、関税法違反の検挙件数は45件、検挙人員は36人であった。
 検挙した事例では、貿易会社が無許可のバーター取引により北朝鮮へ中古車を輸出するに当たり、正規の貿易を装うため、無届けで北朝鮮の貿易会社に中古車代金の資金を貸し付けていた事犯、暴力団組長等が資金源獲得のため鯨肉や白米を密輸入した事犯が目立った。
 最近5年間の国際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表2-39のとおりである。

表2-39 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(平成2~6年)

ウ 金融関係事犯の取締り
 6年の金融関係事犯の検挙件数は488件、検挙人員は346人であった。違反形態としては、無登録貸金業、高金利貸付が全体の約7割を占めており、資金繰りに苦しむ中小企業経営者や商店主等を対象に高金利貸付けを行い、暴利を得る事犯が目立った。また、暴力団の介在する事件の検挙件数は202件(前年比34件(14.4%)減)であった。最近5年間の金融関係事犯の法令別検挙状況は、表2-40のとおりである。
〔事例〕 山口組系暴力団員幹部が経営する貸金業者が600人余りの顧客 に総額約5億円を法定金利の5倍~15倍の高金利で貸し付けていた事件で、6月までに、暴力団幹部2人を含む6人を出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反で検挙し、不法収益について税務当局に課税通報した(兵庫)。

表2-40 金融関係法令違反の法令別検挙状況(平成2~6年)

2 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 ガットのウルグァイ・ラウンド交渉で知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)が作成されるなど国際的に知的所有権保護の必要性が高まっていることから、警察では、知的所有権侵害事犯の取締りを重点に掲げるとともに、国内における不正商品の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図り、悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成6年の知的所有権関係法令違反の検挙件数は802件、検挙人員は356人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表2-41のとおりである。

表2-41 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(平成2~6年)

ア 海賊版事犯
 海賊版事犯では、パソコン通信の会員が、ネットワーク内の個人情報サービスを悪用し、大量の海賊版コンピュータ・ソフトを販売していたもの、日系ブラジル人が、ポルトガル語等の字幕が入った海賊版ビデオを貸し出していたものなどがあり、高度情報化時代の到来や外国人労働者の増加等の社会情勢を反映した事件が発生している。
〔事例〕 大手パソコン通信の会員が、ネットワーク内の電子掲示板の「売ります買います」コーナーにコンピュータ・ソフト販売の広告を出し、電子メールで注文を受けて、宅配や郵送により16都府県の約3,000人に海賊版コンピュータ・ソフトを販売していた著作権法違反事件で、12月までに悪質販売者8人を検挙し、海賊版ソフト約5万点を押収(愛知)
イ 偽ブランド商品事犯
 偽ブランド商品事犯としては、有名ブランドのかばん、袋物等の偽商品を海外から輸入して販売する事犯が多くを占めている。その犯行手口は、精巧な偽商品を本物とだまして売り付けるなど、ますます悪質、巧 妙化している。
〔事例〕 韓国人の偽ブランド商品輸入ブローカー(36)が、韓国から有名ブランドの偽商品を輸入して日本国内で卸販売していた商標法違反事件で、6月までに同ブローカーら10人を検挙し、偽ブランド商品、偽商標、偽刻印原版等約2,000点を押収(岡山)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報等により、我が国における知的所有権侵害の実態、知的所有権保護の重要性を訴えた。また、不正商品対策協議会が平成6年5月に京都市で実施した知的所有権と消費者保護をテーマとした「パネルディスカッション」及び「不正商品防止フェア」、並びに10月に富山市で実施した生涯学習フェスティバル「まなびピア’94」における「不正商品防止フェア」を後援し、知的所有権侵害事犯取締り強化期間と連動した広報紙の発行、各府県警察展における不正商品の展示等、積極的な広報啓発活動を実施した。

3 環境・保健衛生事犯の取締り

(1) 環境事犯の取締り

表2-42 環境事犯の法令別検挙状況(平成2~6年)

 警察では、市民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における環境事犯の法令別状況は、表2-42のとおりである。
ア 廃棄物事犯
 平成6年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反の検挙件数は2,324件であり、これを態様別にみると、不法投棄事犯が多く、全体の72.9%を占めている。
 産業廃棄物事犯の検挙件数は、過去5年間で最高であった5年を更に上回る965件であり、都市部から排出された産業廃棄物が県境を越えて移動され不法処分される事犯が依然として相次いでいる。なお、6年中に検挙した産業廃棄物事犯に係る不法処分された産業廃棄物の総量は約111万トンに上り、その種類別、場所別状況は、図2-14のとおりである。

図2-14 不法処分された産業廃業物の種類別、場所別状況(平成6年)

 警察では、関係行政機関、団体との緊密な連携により、産業廃棄物の不適正処理、不法投棄等を防止し、これらの事犯に対する迅速的確な対応を行うため、都道府県ごとに「産業廃棄物不法処理防止連絡協議会」の設置を推進している。
イ 水質汚濁事犯
 6年の水質汚濁事犯の検挙件数は18件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法に基づいて定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙は11件であった。
(2) 保健衛生事犯
 高齢化社会への急速な移行に伴い、健康に対する国民の願望が年々高まっている中、平成6年の薬事関係事犯の検挙件数は237件、医事関係事犯の検挙件数は52件、公衆衛生関係事犯の検挙件数は201件であった。
〔事例〕 国民の健康食指向に乗り爆発的ブームを全国に巻き起こした「元祖、野菜スープ強健法」の著者(60)らは、偽医者として医療行為を繰り返した上、受診した患者らに「野菜スープで癌(がん)が99%治る」などと詐言をもって効能に何らの根拠がない野菜スープの飲用を指示するとともに、センナと称する生薬等を無許可で販売して、約1万人から約3億円の暴利を得ていた。8月までに、医師法、薬事法違反で逮捕1人を含む5人を検挙(岐阜、福岡)

4 危険物対策の推進

(1) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成6年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が403件発生し、死傷者は420人に上った。
 警察では、高圧ガス、石油類等による事故を防止するため、関係機関 との連携の下に取締りを行っており、6年中に高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により272件、298人を検挙した。
(2) 放射性物質の安全対策の推進
 核燃料物質等を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととされている。また、放射性同位元素等を運搬するためには、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律により、都道府県公安委員会に届け出て、その届出内容に従って運搬しなければならないこととされている。
 平成6年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,116件、放射性同位元素等に係るものが463件であった。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。
(3) 火薬類対策の推進
 平成6年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は9万3,795件であった。また、6年の火薬類の盗難事件の発生件数は16件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は5件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類取扱者に対する指導を行うとともに、悪質違反者に対しては厳正な法的措置によって、火薬類の盗難、不正流出の防止及びこれらを使用した犯罪の未然防止に努めている。

5 調査業の健全育成

 探偵社、興信所等の調査業については、違法な方法による調査を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者、料金トラブルを多発させる業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たない。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、関係団体に対して、営業活動の健全化に向けた自主的な活動を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理綱領を制定して、協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、顧客からの苦情処理等営業活動の適正化に向けた各種の活動を行っている。


目次  前ページ  次ページ