第1節 安全で住みよい地域社会を目指した諸活動

1 地域の「生活安全センター」交番、駐在所

(1) 地域住民に身近な交番、駐在所
 交番、駐在所(以下「交番等」という。)は、地域警察活動の拠点として各地に所在し、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を担っている。
 交番は平成6年4月現在、事件、事故等警察事象が比較的多い都市部を中心に全国に約6,500箇所設置されている。原則として1当務3人以上の交替制勤務の警察官によって運用するものとされており、一定の地域を受持ち区域(所管区)とし、その地域の安全について第一次的な責任を負っている。
 また、駐在所は6年4月現在、主として町村部を中心に全国に約8,500箇所設置されており、警察官が、勤務場所と同一の施設内に居住しながら、地域の治安の第一次的な責任者として常時警戒に当たるとともに、勤務時間内はもとより、それ以外の時間においても事件、事故、急訴、住民の要望等に対応するように努めている。

(2) 地域の「生活安全センター」としての諸活動
ア 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、交番等の地域警察官が受持ち区域の家庭、事務所等を訪問し、防犯や事故防止等についての指導連絡、住民の困りごと、要望、意見等の聴取に当たる活動である。
 巡回連絡の際には、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てるため、非常の場合の連絡先等を尋ねるほか、地域住民から困りごと、要望等を直接聴取している。
イ パトロール等による身近な犯罪、事故への対応
 交番等の地域警察官は、地域の安全と平穏を守るため、無線機を携帯して常に警察署やパトカーと連携を取りながら、不審者に対する職務質問を行い、水難危険箇所等を見回り、戸締まりの不十分な家庭や無施錠の車両等に対して防犯上の注意を促すなど、きめ細かなパトロールを行うように努めている。
 また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカー、交番等に配置された約2,600台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒

表2-1 地域警察官の職務質問等による重要犯罪事件被疑者検挙人員(平成6年)

活動を行うとともに、事件、事故の発生時には初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。
 こうした活動の結果、平成6年に警察が検挙した重要犯罪事件被疑者検挙人員7,102人のうち2,580人(36.3%)が地域警察官の検挙によるものであった(表2-1)。
ウ 遺失物の取扱いと被害品の回復
 遺失物を早期に発見し、これを速やかに返還するための遺失、拾得届の受理業務は、交番等の地域警察官が行う重要な業務である。
 平成6年中に警察が取り扱った遺失届は約286万件(現金約476億円、物品約626万点)であり、拾得届は約369万件(現金約154億円、物品約871万点)であった。拾得届のあった金品のうち、現金については72.7%、物品については28.8%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物、拾得物の取扱状況は、図2-1のとおりである。

図2-1 遺失物、拾得物の取扱状況(平成2~6年)

エ 地域に身近な安全情報を提供する活動
 全国の交番等の96.6%に当たる約1万4,700箇所の交番等では、それぞれ独自にミニ広報紙を発行している。これらの広報紙は、交番等の地域警察官の手作りによるもので、所管区内の事件、事故等の発生状況とその防止方策、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれている。

 また、交番等では、地域住民の安心や利便に直接かかわる地域安全情報を迅速、的確に提供するため、ファクシミリ等の装備資機材を整備し、地域住民との間にファックス・ネットワークを構築するとともに、事件、事故の発生状況等を迅速に掲示、回覧する「交番速報」、CATV等の各種広報媒体の効果的な活用を図っている。
〔事例〕 京都府山科警察署では、管内の強制わいせつ事件の発生に伴い、交番勤務員がファックス・ネットワークにより学校関係者に注意を促すとともに、早期通報を依頼する「交番速報」を作成、掲出したところ、保護者等地域住民の警戒心が高まり、事件の再発を防止し、後日、住民の協力により被疑者を検挙した。
オ 手話交番
 聴覚障害者の利便と気持ちに配意した警察活動を図ることを目的として、手話ができる地域警察官等を配置した「手話交番」を13都府県39交番等で開設している。手話ができる警察官等は、(財)全日本ろうあ連盟の協力を得て、日本手話研究所研究員がデザイン作成した「手話の標章」を制服に着けて勤務している。



〔事例〕 警視庁小金井警察署A手話交番に勤務する地域警察官が、母親とはぐれて泣いていた聴覚障害児童を発見保護し、手話で事情聴取を行い母親を探し出し、無事引き渡した。
(3) 「生活安全センター」としての交番等の機能の向上
ア 交番所長制度と交番等のブロック運用
 交番には、日勤制の勤務を行い、交番の業務全体を把握し、統括する交番所長を置くものとされている。
 また、地域警察の行うべき業務が質量の両面で著しく増大し、困難化する中で、地域の特性に沿った弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒体制を一層充実させるため、近接した交番等を組み合わせてブロック単位で運用する制度を導入し、急訴事件への対応や夜間の合同パトロール等に当たっている。
イ 交番相談員の活躍
 交番等が地域住民の多様な要望にこたえるためには、事件、事故への対応やパトロール等の強化を図りつつ、事件、事故に関する急訴や困りごと相談を的確に受理する体制を整備する必要がある。警察では、比較的来訪者の多い都市部の主要な交番に、経験豊富で警察業務に精通している警察官OBを配置し、困りごと相談等の各種相談への対応、事件、事故の取次ぎや被害者に対する助言指導等を行う交番相談員制度の導入を進めており、交番の警察官がパトロール等の所外活動に従事している間においても、交番に来所した住民に適切な行政サービスを提供するように努めている。交番相談員は、全国統一の標章(注)を身につけて勤務している。



(注) 地域住民が手をつなぎ、桜の花を形づくる姿を表現したもので、花の図柄の下に「交番相談員」と明記されている。
ウ 地域に密着した「交番、駐在所連絡協議会」
 地域ぐるみで犯罪や事故、災害のない明るい街づくりを進めるために、交番、駐在所を単位として各界、各層の住民により構成された「交番、駐在所連絡協議会」において、地域住民から地域の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、住民と相互に検討、協議することにより、地域に密着した警察活動が実施できるように努めている。平成6年末現在、協議会は全国で8,674箇所設置されている。

エ コミュニティ-・ルームの設置
 地域住民と交番等がより一層交流を深めることができるように、地域住民が気軽に立ち寄り、警察への相談や防犯についての会合等を行うためのコミュニティー・ルームを交番等の所内に設置している。
オ ミニパトカー等の整備
 駐在所は、管轄面積が大きいことが多く、巡回連絡や所管区内のパトロール等には機動力を有する車両が不可欠である。このため警察では、当面、警察署から遠隔地にある駐在所を中心にミニパトカーを配車することとし、3年度から5箇年計画で整備を推進している。
(4) 国際的に注目を集める交番等
 交番等を中心とした地域警察活動は、我が国の良好な治安を支える大きな要素として広く海外からも関心が寄せられており、なかには交番の制度を新たに導入した国もある。このため、警察庁では、諸外国からの視察団等を受け入れ、我が国の地域警察の制度、活動状況等を紹介し、地域警察関係者の国際的な交流に努めている。平成6年には17箇国からの視察団を受け入れた。
 また、警察庁では、アジア諸国において地域警察等の活動に携わる警察幹部を対象とした「アジア地区・地域警察セミナー」を開催している。このセミナーでは、我が国の交番等の制度や最新の科学技術を活用した通信指令システム等を体系的に紹介し、我が国の地域警察活動の中で培われた情報、ノウハウを参加各国に提供するとともに、参加各国の警察事情について相互に認識を深め、アジア諸国の地域警察関係者の交流を広げている。6年には、ASEAN諸国をはじめとする10箇国から18人を招請した。

2 地域住民を犯罪、事故等から守るための諸活動

(1) 身近な犯罪の防止活動
ア 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗は、発生件数が多く、地域住民が最も被害に遭いやすい犯罪であるとともに、これらは初発型非行として少年によって単純な動機で安易に行われることも多い。
 警察では、自動車盗の防止対策として、自動車のユーザーに対して「キー抜き取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動を行うとともに、(社)日本自動車工業会等の自動車関係業界、駐車場管理者等に対して自動車盗難防止装置の機能強化等を要請し、自動車盗難防止装置の付いた自動車が生産されている。
 一方、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策としては、(社)日本防犯設備協会と協力してハンドルロックの強化等オートバイの盗難防止対策の検討を行うとともに、駐輪場の整備拡大について関係機関への要請等の諸対策を推進している。
 なお、自転車防犯登録は、自転車の盗難を防止するだけでなく、盗難に遭った自転車の早期被害回復のための有力な手掛かりになる。こうした自転車防犯登録の有効性にかんがみ、平成6年6月、自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律が改正され、自転車を利用する者は、その利用する自転車について、都道府県公安委員会が指定する者の行う防犯登録を受けなければならないこととされた。この自転車防犯登録の義務化は、地域安全活動の推進とあいまって、刑法犯総認知件数の約4分の1を占め、昭和63年以降急激に増加し、刑法犯総認知件数の押し上げの要因ともなっていた自転車盗の発生の抑制に多大な効果を上げた。図2-2のとおり、平成6年は、自転車盗の認知件数が39万4,850件と5年に比べて約4万件も減少し、その結果、刑法犯総認知件数も178万4,432件と5年に比べて約2万件も減少した。都道府県警察においては、自転車防犯登録のデータの電算化を推進している。

図2-2 刑法犯・自転車盗の認知推移(指数)(昭和60~平成6年)

イ 路上犯罪等の防止対策
 近年、路上強盗、ひったくり等の路上における犯罪が増加傾向にある。また、わいせつ等性的犯罪の6年中の認知件数は6,954件で、依然増加傾向にあり、被害者も幼児から成人に至る広い年齢層にわたっている。一方、幼児等を対象とする誘拐事件の認知件数は5年に比べ29件減少したものの、下校途中の児童等に声を掛ける事案等が後を絶たない状況にある。
 警察では、路上強盗、ひったくり等の防止対策として、自治体と連携して、防犯灯の増設、歩道と車道を分離するフェンスの設置等を進めるとともに、地域住民に対し、パンフレット、ビデオ等を活用した防犯広報、防犯研修会等を実施している。また、携帯用防犯ブザー、自転車用ひったくり防止ネット等防犯器具の紹介、普及に努めている。
 性犯罪の防止対策としては、夜道、公園等の危険箇所を重点的にパトロールするとともに、自治体に対して防犯灯の増設等を促している。また、防犯懇談会等を開催して、児童、保護者、教育関係者等に対し、被害に遭わないための防犯心得を対象に応じて指導している。さらに、女子寮等の管理者に対する防犯設備の整備と管理体制の強化の要請、防犯ブザー等防犯機器の推奨等、地域住民の側での防犯体制の構築を促している。
 幼児等を対象とする誘拐事件の防止対策としては、教育機関、PTA、家庭等に対し、防犯研修会等を通じて防犯指導を推進するとともに、防犯キャラバン車等を利用して、幼稚園児や児童向けに、劇や紙芝居を取り入れた出張広報活動を行っている。

(2) 家出人、行方不明者等の発見・保護活動
 警察では、個人の生命、身体を守るため、警察官職務執行法等の規定に基づき、酔っ払い、迷い子等応急の救護を要する者についての保護活動を行っている。
 平成6年中の保護総取扱い人員は19万193人であり、そのうち交番等の地域警察官による保護は14万2,541人で、保護総取扱人員の74.9%を占めている。最近5年間の保護取扱状況は、表2-2のとおりである。
 また、6年中の家出人捜索願の受理件数は8万2,287件(前年比829件(1.0%)増)である。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は表2-3のとおりとなっている。このうち、犯罪に巻き込まれたり、自殺するおそれがあったりする家出人については、これを特異家出人として取り扱うなど特に迅速な発見、保護に努めている。6年の件数は、全捜索願受理件数の18.0%を占めている。

表2-2 保護取扱状況(平成2~6年)

表2-3 家出人捜索願の受理件数の推移(平成2~6年)

 6年の家出人の発見数(捜索願未受理の家出人を発見した場合を含む。)は7万7,029人(前年比609人(0.1%)減)である。家出人の発見の端緒別状況は、表2-4のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、地域警察官の職務質問等により発見されるものが10.2%で最も多い。

表2-4 家出人の発見の端緒別状況(平成6年)

(3) 犯罪等の被害に遭いやすい人の保護活動及び支援活動
ア 高齢者対策
 警察では、高齢者対策として、犯罪や事故からの高齢者の保護及び地域安全活動や交通安全運動等への高齢者の社会参加を2本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 昭和62年度からは、警察では、長寿社会対策等の効果的な推進を図るため、高齢化が進んでいる90地区の地域を「長寿社会対策パイロット地

区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害者となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会、防犯教室を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、地域安全活動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。
イ 障害者に対する保護活動
 障害者は、犯罪等の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、警察では、障害者の気持ちに配意した各種施策の推進に努めている。
 障害者の犯罪等の被害に対する不安感を低減させる施策の例としては、身近な犯罪等の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に資する情報の提供、防犯協会、障害者団体等を介しての障害者とのフォーラムの開催による障害者に身近な危険や警察への要望の把握、防犯協会や障害者団体等が連携して行う点字やビデオテープによる「地域安全ニュース」の発行支援等が挙げられる。
 また、自治体、消防機関、関係団体等との情報交換及び連携活動を密にし、障害者の生活実態に応じた施策の推進を図っている。
(4) 住民の立場に立った相談業務の推進
ア 警察総合相談室
 警察では、従来、相談の種類ごとに窓口を設置し、相談業務の充実を図ってきたが、その反面、窓口が多数になり、相談者にとって分かりにくいという問題が生じてきたため、平成2年から窓口を一本化した警察総合相談室を警察本部に設置している。
 また、電話による各種の相談についても、「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談の種類ごとに各種の相談専用電話を設置してこれに応じていたが、相談者の利便を図るため、警察総合相談室に全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置し、プッシュホン電話で「#9110」を押せば、警察総合相談室につながるようにしている。
イ 困りごと相談
 6年における困りごと相談の受理件数は21万6,098件で、5年に比べ1万3,298件(6.2%)増加した。また、6年に受理した困りごと相談の内容は表2-5のとおりで、防犯問題が最も多く全体の34.6%を占めており、5年に比べ民事問題は287件(0.9%)減少した。

表2-5 困りごと相談の内容(平成6年)

 6年における困りごと相談の処理状況は、表2-6のとおりである。

表2-6 困りごと相談の処理状況(平成6年)

(5) 地域住民による地域安全活動
ア 防犯協会、防犯連絡所の活動
 防犯協会は、安全で住みよい地域社会を実現するため、生活に危険を及ぼす犯罪・事故・災害を未然に防止する活動(地域安全活動)のうち、地域住民による活動の中心的担い手であり、地域の実情に応じ、「地域安全ニュース」を発行するとともに、犯罪の予防、青少年の非行防止、覚せい剤等薬物の乱用防止、風俗環境の浄化等の諸活動を警察と協力して行っている。
 防犯連絡所は、地域住民による地域安全活動の拠点として、平成6年末現在、全国で61万4,162箇所(71世帯に1箇所)設置され、防犯座談会の開催、地域住民の要望の取りまとめ、防犯協会等が作成した資料の配布等の活動を行っている。

イ 草の根的なボランティアによる活動
 近年、地域の住民や企業等のボランティアによる草の根的な地域安全活動が活発化しつつある。この活動の参加者は、主婦、年長者、青少年、企業の従業員等様々であり、広範な層から構成されている。
ウ 各種防犯運動の展開
 全国防犯運動は、(財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会が中心となって、毎年実施されており、6年も10月1日から10日までの10日間、地域安全に対する意識啓発を目的として実施された。
エ 地域安全活動に対する警察の支援活動
 警察では、地域住民に身近な犯罪や事故について、現場臨場等により発生状況の把握や被害実態の資料収集、分析等を行っているが、これにより得た情報については、地域住民による地域安全活動の推進に資する地域安全情報として、地域住民や防犯協会等へ積極的に提供している。
 また、地域住民による地域安全活動を活性化させるとともに、警察活動との有機的な連携を図るため、地域住民のパトロール活動への同行等の共同活動を積極的に推進することはもとより、地域住民が行う地域安全活動の内容、方法について防犯等の専門的立場から助言を行う「防犯活動アドバイザー」を7年3月現在、全国22府県の警察本部、警察署に計64人を配置している。
 さらに、自治体等とも連携の上、地域住民による地域安全活動の中心となる防犯協会、防犯連絡所等民間防犯組織の体制強化や、地域住民による地域安全活動への助成等の支援も積極的に行っている。

3 職域防犯と安全産業

(1) 金融機関等における防犯活動
ア 金融機関を対象とする犯罪の防止活動
 平成6年における金融機関対象強盗事件の認知件数は153件で、5年に比べ13件増加し、依然として高水準で推移している。この種の事件は、社会的な反響が大きく、模倣され続発するおそれもあることから、警察では、金融機関との連絡会議の開催や防犯訓練等を実施しているほか、防犯設備、管理体制の充実を促進するため「金融機関の防犯基準」を作成し、(財)日本防災通信協会等と協力して基準に基づいた防犯指導を行っている。金融機関の防犯設備の設置率は年々高くなっているが、警察では、更に防犯設備の設置を促していくこととしている。
 また、過去において無人の現金自動支払機等の現金をねらった窃盗事件が多発したことから、これらの施設に対するパトロールを強化するとともに、設置者、管理者、製造会社、警備業者等を交えた連絡会議を開催している。
 さらに、「現金自動支払機(CD)等の防犯基準」を策定して、関係機関、団体に対し、防犯対策の強化を要請している。

イ 深夜スーパー等を対象とする犯罪の防止活動
 深夜スーパーマーケット対象強盗事件の認知件数は、平成2年61件、3年93件、4年127件、5年145件、6年193件と激増傾向にある。地域的には、大都市圏を中心に発生しているが、地方への波及傾向もみられる。
 このような状況に対処するため、警察では、県単位、警察署単位の職域防犯組織の結成を促進し、業界全体の防犯意識を高めるとともに、各店舗の構造、営業時間、勤務体制、防犯設備等を点検するなどの防犯指導を行っている。また、事件発生時における的確な対応要領について、強盗模擬訓練を実施するなど店員等に対する指導を行っている。
ウ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講ずるための職域防犯団体が結成されている。  6年末における結成状況は、表2-7のとおりである。

表2-7 職域防犯団体の結成状況(平成6年12月)

(2) 社会へ貢献する安全産業
ア 警備業の安全への貢献
(ア) 警備業の現況
 警備業の業務は、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、各種イベント等の場での雑踏警備、現金等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでいる。特に最近は、ホーム・セキュリティ・システム等、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が順調な発展を遂げており、地域住民の多様な需要にこたえている。
 平成6年末現在、我が国の警備業者数は7,677業者、警備員数は34万2,357人で、5年に比べ565業者、2万636人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移は表2-8のとおりで、いずれも増加傾向にある。

表2-8 警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移(平成2~6年)

(イ) 警備業の犯罪検挙への協力
 6年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.6%に当たる1万298件であり、また、6年の民間協力等によ

る主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は表2-9のとおりで、「警備業者又は警備員の協力」によるものが、「第三者の協力」によるものを上回っている。

表2-9 民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況(平成6年)

(ウ) 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域安全活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
(エ) 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度は、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認めるものである。6年末までに検定に合格した者の数は3万191人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている(図2-3)。

図2-3 QGマーク

イ 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要であるが、近年広く利用されている防犯警報機やホーム・セキュリティ・システムは、利用者の操作ミスや機器の性能等による誤報が発生するなどの問題点がある。
 警察では、誤報を減少させて機器の信頼性の向上を図るとともに防犯機器の性能の向上と普及に資するため、優良な防犯機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりを促進している。さらに、防犯機器の設計、施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ、これらの業務の実施の適正化を図るため、(社)日本防犯設備協会が行う防犯設備士制度を3年に認定し、6年末までに2,200人が資格認証試験に合格している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
(3) 古物営業、質屋の健全育成
 古物営業法の規定により都道府県公安委員会から許可を受けている古物商及び古物市場主の数の推移は表2-10のとおりであり、これらの古物商が主として取り扱っている物品は、表2-11のとおりである。

表2-10 許可を受けている古物商及び古物市場主の数の推移(平成2~6年)

表2-11 古物商が主として取り扱っている物品(平成6年10月)

 また、質屋営業法の規定により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋の数の推移は、表2-12のとおりである。

表2-12 許可を受けている質屋の数の推移(平成2~6年)

 平成6年中に古物商、質屋等が盗品等を発見したことなどを端緒として被害者に被害品が返還された件数は、古物商が1,202件、質屋が3,435件である。警察では、全国古物商組合防犯協力会連合会、全国質屋組合防犯協力会連合会、(財)全国防犯協会連合会等と緊密な連携を保ちつつ、古物営業法及び質屋営業法の施行や古物商等による中小企業団体の指導、監督等を通じて、古物営業及び質屋営業の健全育成に努めている。
(注) 古物営業法は昭和24年に制定されてから大きな改正がなされなかったことから、近年の犯罪情勢や新しい取引実態に対応できなくなっていた。そのため、買取りの相手方の確認義務や帳簿記載義務の緩和を行うほか、古物営業の健全な発展を阻害する現象に対応するため、管理者に関する規定の整備を行うとともに、いわゆる金券ショップを規制の対象に加えることなどを内容とした古物営業法の一部を改正する法律が平成7年4月19日に公布された。

4 事件、事故に即応する警察活動

(1) 市民に定着した110番
ア 110番の現状
 平成6年に全国の警察で受理した110番の件数は約526万件で、5年に比べ約21万件(4.1%)増加した。これは6.0秒に1回、国民24人に1人の割合で利用されたことになる。110番の受理件数を内容別にみると、図2-4のとおりで、交通事故、交通違反の通報が約187万件(35.6%)と最も多く、刑法犯被害の届出は約35万件(6.6%)となっている。なお、過去10年間の110番受理件数の推移は、表2-13のとおりである。

図2-4 110番の内容別受理件数(平成6年)

表2-13 110番受理件数の推移(昭和60~平成6年)

 警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の一層適切かつ積極的な利用を呼び掛けている。
イ 通信指令システムの概要
 110番通報その他事件、事故等の発生時における緊急通報を迅速かつ集中的に処理するため、警察では、都道府県警察ごとに通信指令室を設けている。通信指令室は110番通報をはじめとする各種情報を集中的に運用している。
 通信指令室では110番通報を受理すると、直ちにパトカーや交番等の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察本部への通報等を行い、警察官を迅速かつ組織的に動員することにより、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている。

ウ 緊急配備
 重要事件が発生した際、犯人の迅速な検挙と事後の捜査資料の収集を目的として、交番等の地域警察官を臨時かつ集中的に検問、検索、張り込み等に配置することを緊急配備という。6年における緊急配備(広域緊急配備を含む。)の実施件数は6,476件で、検挙率は39.3%であった。
〔事例〕 交番勤務の地域警察官が、隣接警察署管内で発生した女子高校生に対するナイフ使用の強姦(かん)未遂事件で緊急配備に従事し、逃走方向を予測した検索によりズボンに泥が付着した不審者を発見、追跡して職務質問を行い強姦未遂犯人を検挙した(高知)。
エ リスポンス・タイム
 6年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室が110番通報を受理してから警察官が目的地に到着するまでの所要時間をいう。)の平均は5分45秒であった。刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人検挙との関係をみると、表2-14のとおりで、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場近くで犯人を検挙する確率が高くなっている。

表2-14 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙状況(平成6年)

(注) 110番集中地域とは、110番通報すると自動的に警察本部の通信指令室につながるようなシステムが設けられている地域をいい、それ以外の地域では110番通報すると所轄の警察署につながるようになっている。
 しかし、交通事情の悪化、建物や住宅構造の複雑化等様々な要因により、リスポンス・タイムの短縮は年々困難となっている。こうしたことから、警察では110番通報の集中的処理及び警察官やパトカー等に対する一元的指令を行う通信指令室に、最新の科学技術を活用した設備を導入することによって、リスポンス・タイムの短縮に努めている。
 都道府県警察では、通信指令室に地図自動現示システム等を導入し、事案発生場所を早急に把握するとともに、コンピュータを導入することによる各種情報の処理、伝達の迅速化、タクシー会社、警備会社等への円滑、迅速な連絡体制の整備等、高度な機能をもつ通信指令システムの構築に努めている。また、パトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システム等警察の各活動単位を組織的に管理し、有効に活用できるシステムの導入も図っている。
エ 外国人等からの110番通報
 国際化の進展に伴い、外国人からの110番通報も増加している。警察では、通信指令室へ語学堪能者を配置するなどの対応措置に努めており、そのほかにも、通報を内部の通訳センターの係員やあらかじめ委託している民間の通訳者にも転送し、3者間通話で会話をするなどの手法も導入し、外国人からの110番通報に迅速的確に対応している。最近5年間における外国人からの110番通報件数は、表2-15のとおりである。

表2-15 外国人からの110番通報件数(平成2~6年)

 また、聴覚障害者は、通常の電話機による意思の伝達が困難であるため110番緊急通報をファクシミリにより受け付ける「ファックス110番」の通信指令室への整備を進めている。
(2) 水上、鉄道等の安全のための諸活動
ア 水上警察活動
 近年、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化が水上(海上及び内水面をいう。)にも広がり、水上オートバイ、モーターボート、スクーバダイビング等の事故が多発している。また、海上からの覚せい剤、大麻等の薬物やけん銃の密輸、密入国事犯等海上犯罪も多発しており、水際対策を強化する必要がある。警察では、水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署に警察用船舶229隻を配備し、パトカーや警察用航空機と連携して、パトロール等の警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を行っている。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表2-16のとおりである。
 また、海上における広域事案に的確に対処するため、平成6年には、

表2-16 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(平成2~6年)

日向灘で福岡、大分、宮崎、愛媛、高知県警察が参加して、警察用航空機との連携による警察用船舶の広域運用訓練を実施するなど、警察用船舶の広域運用のための基盤づくりに努めている。

イ 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、鉄道沿線を管轄する警察署と連携の上、列車内においては、主要な鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特急、寝台列車等を重点的に警乗し、盗難、迷惑行為等の予防、検挙、少年補導、要保護者の保護のほか、乗客に対して犯罪や事故の防止に必要な指導を行っている。また、駅構内においては、パトロール、立番等を通じて、すり、置引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷い子、家出人等の保護等を行っている。
 さらに、踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、学童通行の多い踏切における交通安全指導や悪質危険な踏切通行車両の取締りを実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導及び広報、幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等を行っている。
 鉄道施設内の治安を維持していくためには、鉄道事業者との連携、協力が不可欠であることから、警察では、鉄道事業者との連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして、事件、事故発生時における通報の迅速化や必要な措置等について連絡を密にするとともに、列車事故を想定した共同訓練を行うなど、鉄道事業者と一体となって諸対策を講じている。

〔事例〕 鉄道警察隊では、電車内で女子高校生を対象としたスカート切り事件が多発しているとの情報を得て、特別捜査班を編成して先制的、重点的警戒を強化していたところ、6月、早朝に車内で挙動不審な男を発見。手にしたはさみでスカートを切るのを現認し、現行犯逮捕(千葉)
ウ 警察用航空機の活動
 6年末現在、警察用航空機は、各都道府県警察に計64機配置され、機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、空からのパトロールを通じた交通情報の収集、災害等危険箇所の調査、環境事犯の監視等を行っている。また、事件、事故や災害が発生した場合は、速やかに現場に出動し、通信指令室、パトカー、警察用船舶等と連携を図り、事件、事故の状況把握、犯人の捜索、追跡、被災者等の救難救助等、事件、事故に即応した活動を行っている。
 6年中における警察用航空機のパトロールの出動回数は1万8,967回であり、犯罪検挙等に大きな成果を挙げている。また、山岳遭難や水難等の救難救助活動では1,079回出動し371人を救助している。

〔事例〕 11月、逮捕監禁容疑事件が発生したため、機動警ら中のヘリコプターが直ちに事件現場付近一帯の上空からの捜索を行い、逃走車両を発見し、追尾しながらパトカーを誘導し空陸一体となった追跡活動を実施したところ、パトカーが犯人車両を停止させ検挙(栃木)
 警察では、広域的な事件、事故等に対応し、より機動的な捜査活動、遭難救助活動等を行うため、警察用航空機の増強配備や大型化、装備資機材の整備充実、パイロット、整備士を対象とした外国での訓練による高度技術の修得等に努めるとともに、パトカー、警察用船舶との連携を強化した警察用航空機の効率的運用の強化を推進することとしている。


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