第2節 多発した銃器犯罪と警察活動

 我が国の治安は、これまで諸外国に比べ良好であるといわれてきたが、これは銃器に対する厳格な規制により、市民生活の中に銃器が基本的に存在しないということが、その大きな要因であった。
 しかし、平成6年においては、ラッシュ時の駅構内における医師射殺事件、ファミリーレストランにおけるアルバイト中の女子短大生に対するけん銃使用強盗致死事件、住友銀行名古屋支店長射殺事件等、市民生活、企業活動等を対象とした事件の発生が目立ち、銃口が市民に対して向けられてきている。
 また、7年に入っても、3月に警察庁長官がけん銃で狙(そ)撃されて重傷を負うという、社会や法秩序に公然と挑戦する事件が発生するなど、銃器情勢は深刻さの度を増している。
 警察では、総力を挙げて所要の捜査に取り組むとともに、関係機関等と連携して総合的な銃器対策を進めることとしている。

1 銃器使用犯罪の現状

(1) 概要
 最近5年間の銃器の発砲回数と発砲による死者数の推移は、図1-1のとおりである。
 平成6年は249回(前年比16回(6.9%)増)の発砲事件が発生し、38人(8人(26.7%)増)が死亡しており、発砲回数、死者数ともに5年を上回った。発砲の内容をみると、暴力団の対立抗争に伴うものは近年減少傾向にあるが、それ以外の発砲回数は増加傾向にある。特に6年は、対

図1-1 銃器発砲回数と死者数の推移(平成2~6年)

立抗争に伴う発砲回数が5年に比べて半減したにもかかわらず、それ以外の発砲の増加が全体の発砲回数を押し上げている。
 一方、最近5年間における銃器使用犯罪の検挙件数の推移は表1-1のとおりで、検挙された事件の7割以上は暴力団勢力によるものであるが、ここ数年、暴力団勢力以外の者による事件の割合が漸増の傾向にある。
 なお、こうした犯罪に使用される銃器は、大半がけん銃である。

表1-1 銃器使用犯罪の検挙件数の推移(平成2~6年)

(2) 銃器を使用した凶悪事件等
 平成6年は銃器を使用した殺人事件、強盗事件等の凶悪事件及び企業幹部等に対する襲撃事件が多発し、耳目を引いた。
ア 銃器を使用した殺人事件
 銃器を使用した殺人事件の認知件数及び検挙件数は表1-2のとおりで、5年に比べて、認知件数は14件(28.0%)、検挙件数は10件(25.6%)増加している。

表1-2 銃器を使用した殺人事件の認知件数、検挙件数の推移(平成2~6年)

〔事例1〕 10月、都立病院に入院歴のある男(36)は、治療に当たった男性医師(47)を逆恨みし、出勤途中の駅構内において、医師の背後からけん銃を発砲して殺害した。同月検挙(警視庁)
〔事例2〕 9月、銀行の支店長(54)が名古屋市千種区の自宅マンション内において、頭部をけん銃で撃たれ死亡した。捜査本部を設置して捜査中(愛知)
イ 銃器を使用した強盗事件
 6年の銃器発砲を伴う強盗事件の認知件数は12件で、5年に比べて3件(33.3%)増加している。これを対象別にみると、表1-3のとおりであり、特にファミリーレストランにおけるアルバイト中の女子短大生に対するけん銃使用強盗致死事件や、現金輸送車襲撃事件等の発生が耳目を引いた。

表1-3 銃器発砲を伴う強盗事件の対象別認知件数(平成4~6年)

〔事例1〕 11月、けん銃を所持した強盗が、閉店直後のファミリーレストラン事務所に侵入し、帰宅準備中のアルバイト店員4人をガムテープで緊縛した後、アルバイトの女子短大生(20)の頭をけん銃で撃って死亡させた(千葉)。
〔事例2〕 10月、スーパーから集金した現金約1,100万円を車両で搬送中の銀行員が、男性1人にけん銃で撃たれ、車ごと現金を強奪された。捜査本部を設置して捜査中(福岡)
〔事例3〕 7月、無職の男(37)等は、客を装ってゲーム喫茶に侵入し、従業員(27)にけん銃を突き付け脅迫して、現金約132万円を強奪した。10月検挙(栃木)
(3) 暴力団による銃器使用事件
ア 暴力団による銃器発砲事件
 暴力団によるとみられる銃器発砲事件は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が成立した平成3年に激減し、4年、5年と横ばいで推移していたが、6年は、大規模な対立抗争事件は発生しなかったものの、北九州地区等における連続発砲等により増加した。
 6年中における、暴力団によるとみられる銃器発砲事件は210回(前年比32回(18.0%)増)であり、これらの銃器発砲に伴い、29人が死亡、24人が負傷した(図1-2)。
 発砲の内容をみると、対立抗争事件に伴うもののほか、企業幹部等に対する襲撃事件や暴力団組織内の内紛によるとみられるもの、暴力団員の試し撃ちとみられるものなどその形態は様々である。210回の発砲事件のうち、北九州地区等における連続発砲が18回、対立抗争事件に伴うものが38回であった。また、みかじめ料の徴収等に絡むとみられるパチンコ店やその関係者宅等を対象としたものが20回発生した。
〔事例1〕 9月から10月にかけ、北九州市内等福岡県内のホテル、パチンコ店、区役所出張所等を対象とする計18回のけん銃発砲事件が発生した。
 警察では、その犯行形態から同市を拠点とする二代目工藤連合草野一家による組織的犯行とみて捜査し、7年5月までに、4回の発砲事件について同一家傘下組織組員らを検挙(福岡)
〔事例2〕 東亜友愛事業組合(現東亜友愛)傘下組織組員(43)は、9月、千代田区内の毎日新聞東京本社を訪れ、雑誌社の所在を確認した後、3階社員食堂前において、「編集長を出せ」等と叫びながら、天井に向けてけん銃3発を発射した。同月検挙(警視庁)
〔事例3〕 稲川会傘下組織組長(36)らは、北見市内のパチンコ店経営者にみかじめ料を要求したが拒否されたことから、8月、同店正面ガラスに向けて、けん銃数発を発射した。同月検挙(北海道)

図1-2 対立抗争事件、銃器発砲事件の発生状況(昭和60~平成6年)

イ 暴力団の対立抗争における銃器使用事件
 6年中の暴力団の対立抗争は、事件数は11件、発生回数は44回で、5年に比べ、事件数は1件、発生回数は33回減少しており、銃器使用事件数も37回減少している。
〔事例1〕 1月、東組組員の山口組健心会へのくら替えを原因として、東組から4回、山口組健心会から6回、計10回のけん銃発砲を伴う対立抗争事件が発生した。2月までに双方の被疑者5人を検挙(大阪)
〔事例2〕 11月、都内の國粹(すい)会傘下組織事務所において、交通事故の示談交渉のもつれから山口組傘下組織組員2人が國粹会傘下組織組員にけん銃で撃たれた事件を発端として、東京都、岐阜県、山梨県において、山口組の報復とみられる6回のけん銃発砲を伴う対立抗争事件が発生した。同月中に双方の被疑者2人を検挙(警視庁、埼玉)
(4) 右翼による銃器使用事件
 右翼は、不安定な社会情勢を背景に、時局に敏感に反応して、政府、政党要人や報道機関等に対する批判を強めている。こうした中、平成5年11月に、東京都内及び埼玉県内で連続3件発生した「宝島社等に対する連続けん銃発砲事件」(6年3月、都内の右翼団体構成員2人を検挙)に引き続き、6年も4月に、神奈川県内の右翼団体構成員2人による「大手新聞社東京本社けん銃発砲人質立てこもり事件」、5月に、都内の右翼団体構成員による「細川前首相直近におけるけん銃発砲事件」の2件のけん銃使用事件が発生した。過去10年間における右翼による銃器使用事

表1-4 右翼による銃器使用事件検挙状況の推移(昭和60~平成6年)

件の検挙状況の推移は表1-4のとおりで、頻繁にけん銃使用が行われていることが分かる。
〔事例〕 4月、右翼構成員2人は、大手新聞社東京本社にけん銃、日本刀、ダイナマイトを持って侵入し、同社役員2人を人質として立てこもり、けん銃を威嚇発砲した(警視庁)。

2 銃器規制及び銃器摘発の現状

(1) 我が国の銃器規制
ア 現在の銃器規制
 銃器を規制する主な法律としては、銃砲の所持、輸入、発射等を規制する銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)と、銃砲の製造、販売等を規制する武器等製造法がある。
 銃刀法が規制の対象としている銃砲とは、けん銃等(けん銃、小銃、機関銃、砲)、猟銃(ライフル銃、散弾銃)、その他の装薬銃砲及び空気銃であるが、このほか銃砲以外の模造けん銃や模擬銃器も規制の対象となっている。
 銃砲を所持するには、原則として都道府県公安委員会の許可が必要であるが、一口に銃砲といっても猟銃や産業用銃のように社会的な意義を有するものから、けん銃等のように本来的に対人殺傷の用に供されるものまで多様であり、それぞれその規制の軽重、内容に違いがある。特に、けん銃等については規制が厳しく、警察官や自衛官等を除き一般人の所持はほとんど認められてない。
 平成6年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は49万8,279丁であり、このうち、猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)は45万2,134丁で、全体の90.7%を占めているが、その数は16年連続して減少している。
 また、6年の猟銃等による事故の発生件数は59件、死傷者数も59人であった。猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は15件で、このうち許可を受けた猟銃等を使用したものは6件であった。
 なお、けん銃等に関する規制に違反した場合の罰則は表1-5のようになっている。

表1-5 けん銃等の主な違反に関する罰則

イ 規制の変遷
 我が国における銃器の規制は、天正16(1588)年に豊臣秀吉が武士以外の者、特に農民が所持する銃砲や刀剣等を提出させ、その所持を厳しく禁じた「刀狩り」に始まり、こうした不要な銃器を基本的に所持させないという規制方針は徳川幕府にも継承された。
 明治維新以後、国内法制の近代化につれて、明治5年に銃砲取締規則が制定されるなど、銃砲の取締り法令も整備されたが、その後、43年に銃砲火薬取締法が制定され、昭和20年の終戦まで存続した。その主な内容は、銃砲等の製造及び販売の許可制、軍用銃砲等の譲渡し及び譲受けの許可制、けん銃等の授受、運搬及び携帯の許可制等であるが、銃砲の所持そのものが原則的に禁止されたものではなかった。
 第二次世界大戦後、我が国を占領した連合国軍最高指令部(GHQ)は、秩序維持のため民間に保有されている銃砲及び刀剣類の回収を行った。その後、銃器規制のための法令として、25年に銃砲刀剣類等所持取締令が、さらに、33年には同令を廃して銃砲刀剣類等所持取締法が制定され、銃砲、刀剣類の所持の一般的禁止という原則が確立された。同法は、その後の法律名の変更を含む10回の大改正により、銃砲の凶器としての使用の防止と、銃砲を適正に使用する際の安全確保の両面からの規定の整備が図られ、今日に至っている。
ウ 銃器に対する国民のかかわりの変化
 我が国においては、過去の銃器規制の経緯により、国民がけん銃等の銃器に接する機会がこれまで比較的少なかったが、最近の海外渡航の増加等により、外国において国民が銃器に接する機会が増加している。また、資金に窮した末端の暴力団員等から、けん銃が流出していることなどにより、暴力団員以外の者がけん銃を入手できる環境が生じている。このような現象は、相次ぐ発砲事件とあいまって、国民の銃器に対する健全な抵抗感の希薄化につながりかねないものと危ぐされる。
(2) 銃器の押収状況
ア 概要
 最近5年間のけん銃の押収丁数の推移は、表1-6のとおりである。
 平成6年中のけん銃の押収状況をみると、全国一斉取締りの実施等け


諸外国の銃器に対する規制
 諸外国でも銃器の所持等を法令で規制しているが、我が国とは規制の内容や実態に差異のある国が多い。
〔アメリカ合衆国〕 銃器の製造、輸入は連邦法で、所持、携帯は州法等で規制されている。各州ごとの規制内容は多岐にわたるが、大部分の州では未成年者、アルコ-ル中毒者、薬物中毒者等でなければ所持が認められている。
〔フランス〕 銃器は、製造、所持等について規制されている。けん銃は、精神障害者、アルコール中毒者、一定の前科を有する者等でなければ、護身用のものを含め所持が許可される。
 銃器の無許可所持は、1年以上3年以下の懲役又は罰金となる。
〔フィリピン〕 けん銃を含む銃器については、21歳以上であること、前科がなく品行方正であることなどの要件に該当すれば、自宅内や勤務地内の所持が許可される。また、銃器を自宅内等以外で携帯するには別に許可が必要である。
 銃器の無許可所持は、無期又は12年を超え20年以下の懲役となる。
このように多くの国で年齢制限、一定の前科等の欠格事由に該当しなければ、原則として所持を認めており、日本ほど厳格な銃器規制を行っている国は少ない。そして、このような我が国と外国との規制の差は、銃器の国内外の価格差等となって現れ、銃器の調達の容易な外国からの密輸入を誘発する一因となっている。


ん銃摘発を一層強力に進めた結果、1,747丁(前年比75丁(4.5%)増)が押収され、このうち暴力団勢力からの押収は1,242丁(46丁(3.8%)増)、それ以外の者からの押収は505丁(29丁(6.1%)増)で、いずれも5年を

表1-6 けん銃押収丁数の推移(平成2~6年)

上回った。
 また、けん銃の不法所持、密輸入等で813人が検挙されたが、このうち暴力団勢力が646人、それ以外の者が167人であった。4年以降、暴力団勢力以外の者の検挙が増加傾向にあり、暴力団員以外の者へのけん銃の拡散が続いているとみられる。
〔事例1〕 1月、乗馬クラブ経営者(47)は、自宅応接間に真正けん銃2丁及びけん銃実包等を隠し持っていた(静岡)。
〔事例2〕 12月、モデルガン収集が趣味の漫画家(47)は、改造けん銃4丁を自宅に、分解した改造けん銃2丁、ライフル銃1丁、けん銃実包及びライフル銃の実包を近所の雑木林の土中に隠していた(北海道、警視庁)。
 けん銃等の隠匿方法は、事情を知らない知人に預ける、土中に埋める、ぬいぐるみやベットのスプリングの中に隠すなど、年々巧妙化しており、摘発は困難化している。
〔事例1〕 暴力団員(42)は、内妻が経営する中古車販売会社にある廃車及び物置小屋にけん銃等を隠していた(熊本)。
〔事例2〕 暴力団組長(45)は、妻が経営する金融会社の庭の土中にけん銃を隠していた(宮城)。

図1-3 押収けん銃に占める真正けん銃の割合(平成2~6年)

表1-7 真正けん銃の製造国別押収丁数の推移(平成2~6年)

 最近5年間の押収けん銃に占める真正・改造けん銃の割合は、図1-3のとおりで、押収けん銃の大半が真正けん銃である。
 その製造国は、表1-7のとおりで、アメリカ、中国、フィリピンが多くなっている。
 特に、押収けん銃の中で、威力の強い弾丸を発射できる中国製トカレフ型けん銃が占める割合が、元年以降増加しており、6年は303丁で、真正けん銃全体の17.3%を占めている。

イ 暴力団勢力からのけん銃の押収状況
 暴力団勢力からのけん銃押収は2年以降増加傾向にあり、6年中には1,242丁のけん銃を押収し、5年に比べ、46丁増加している(図1-4)。
〔事例1〕 会津小鉄傘下組織幹部(48)らがけん銃を不法に所持しているとの情報を入手し、10月、京都市内の友禅職人宅に対する捜索を実施し、けん銃10丁等を押収し、同人らを逮捕(京都)
〔事例2〕 稲川会傘下組織組長(55)がけん銃を不法に所持しているとの情報を入手し、9月、新潟県村上市内の自宅に対する捜索を実施し、トカレフ型けん銃3丁、実包70個を押収し、同人を逮捕(新潟)

図1-4 暴力団勢力からのけん銃押収丁数の推移(平成2~6年)

ウ 右翼からのけん銃押収状況
 右翼に対しても、銃器使用テロ、ゲリラ事件を未然に防止するため銃器の取締りを推進した結果、6年中、右翼及びその周辺者からけん銃102丁を押収した。2年以降の右翼及びその周辺者からのけん銃押収状況は図1-5のとおりであり、5年に比べて、78丁増(約4.3倍)となっている。
〔事例〕 9月、長期にわたる粘り強い内偵捜査の結果、右翼団体構成員がけん銃を隠匿しているアジトを突き止め、同所を捜索して、けん銃8丁、日本刀2振等を押収した上、同人を逮捕(三重)

図1-5 右翼及びその周辺者からのけん銃押収状況(平成2~6年)

エ けん銃以外の銃器の押収状況
 6年中におけるけん銃以外の銃器の押収丁数は、小銃・機関銃・砲21丁(前年比11丁増)、ライフル銃20丁(同数)、散弾銃172丁(13丁減)、空気銃55丁(12丁増)、その他の装薬銃砲44丁(14丁増)となっている。
(3) 密輸事件の摘発状況
 押収した真正けん銃のほとんどが国外で製造され、密輸入されたものと認められることから、新たなけん銃の供給を遮断するためには、密輸入を水際で阻止する必要がある。
 しかし、最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙件数の推移は、表1-8のとおりであり、平成6年に密輸入事件で押収したけん銃は64丁(前年比4丁(6.7%)増)で、押収けん銃全体に占める割合は3.7%と低い。
 その理由としては、国内への輸入貨物量が年々増加して、けん銃の発見が困難になってきていること、密輸の仕出し国が従来のアメリカ、フィリピン等に加え、ロシア、タイ、オーストラリア等多様化していること、漁船等を利用した不開港への持込みや、国際郵便の利用による密輸等その手口が巧妙化したことなどが挙げられる。

表1-8 けん銃密輸入事犯の検挙状況(平成2~6年)

〔事例〕 9月、タイ人船員(28)が、日本にけん銃を運べば金になると思い、けん銃61丁と実包254個を麻袋に入れて自己の乗船するタイ船籍の貨物船の中に隠して、タイから密輸したところを直ちに検挙(兵庫)

3 銃器総合対策の推進

(1) 政府における対策
 政府においては、けん銃等を使用した凶悪事件の多発に対応するため、平成6年11月、初めて「銃器犯罪対策に関する関係閣僚会合」を開催して銃器対策の強化を申し合わせ、更に翌12月には内閣官房及び9省庁(警察庁、法務省、外務省、大蔵省(税関)、水産庁、通商産業省、運輸省、海上保安庁、郵政省)で構成する「けん銃取締り対策に関する関係省庁連絡会議」を開催し、取締りの徹底と関係省庁の連携強化、水際対策の強化、国際協力の推進及び国民の理解と協力の確保を柱とする「けん銃の摘発強化への取組について」を申し合わせた。
 また、取締りに当たる警察庁、法務省、大蔵省(税関)及び海上保安庁の4省庁で構成する「けん銃取締り対策部会」において、取締りの具体的方策を随時協議、調整しているほか、地方レベルでの連携を一層緊密化するため、全国を7ブロックに分け、各ブロックごとに関係地方機関で構成する「けん銃取締り対策部会地方機関連絡協議会」の機能を強化し、更に都道府県等取締りの現場を単位とした協議機関を設置するなど、関係機関が連携してけん銃密輸入の水際摘発等を推進している。
(2) 警察における対策
ア 銃器摘発体制の強化
 警察庁では、平成6年7月、生活安全局に「銃器対策課」を新設し、都道府県警察では、7年春までに、銃器摘発を専門に担当する「銃器対策課・室」等を設置するなど、銃器摘発体制の強化を図るとともに、専門的捜査員の計画的育成、金属探知機等の取締り資機材の整備・充実等に努めている。
イ 取締りの推進
 警察は、発砲事件の徹底検挙に努めることはもとより、国内に流入、拡散、潜在しているけん銃を摘発するため、密輸、密売事件の摘発や暴力団等の組織管理に係るけん銃の摘発に重点を置いた捜査を強力に推進している。また、大蔵省(税関)、海上保安庁等との共同摘発班の編成等関係機関との連携を強化し、水際でのけん銃等の取締りと水際監視力の強化に努めている。
 特に、4年以降、「けん銃取締り特別強化月間」を設け、全国一斉のけん銃特別取締りを実施しており、6年は、春と秋に計約5箇月間実施し、期間中に1,178丁を押収した。
ウ 銃刀法の改正
 6年12月に行われた関係省庁連絡会議の申合せにおいてけん銃等に対する法制の強化が申し合わされたことを受け、政府における対策の一環として、改正銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律)の制定作業が進められた。同法は、5月12日公布され、6月12日から施行された。
 改正の概略は、次のとおりとされた。
・ 最近におけるけん銃使用事犯の実情にかんがみ、公共の場所・乗物において又はこれらに向けてのけん銃等の発射は、具体的な被害の有無を問わずその所持とは別に公共の静穏に対する危険犯として処罰することとされた。また、けん銃実包については、これまで災害防止の観点から火薬類取締法により一定の規制が行われていたが、更にけん銃の発射の抑止力を強化するため、けん銃実包の所持、輸入等を一定の場合を除き禁止し、違反した場合には重く処罰することとされた。そして、5年の銃刀法改正で導入されたけん銃等に係る提出、自首に対する必要的減免規定と同様に、けん銃の実包についても提出して自首した場合における必要的減免規定が設けられた。
・ けん銃等の密輸防止対策を強化するため、けん銃等の営利目的の密輸入等に対する罰則が強化された。また、けん銃密輸入の予備罪等を犯した者が密輸の実行着手前に自首したときの必要的減免規定が設けられるとともに、国外でけん銃等の密輸入の資金等を提供した者に対する処罰規定が設けられた。さらに、密輸入事犯に対する有効な捜査手法であるクリーン・コントロールド・デリバリー(通関等の際にけん銃等を抜き取り又は別の物品と差し替えた後の監視付移転)の実効を挙げるための規定が整備された。
 けん銃等に対する取締りを強力に推進するため、警察官等がけん銃等に関する犯罪の捜査に当たり、けん銃やけん銃実包等の譲受け等を行うことが必要であるとして申請してきた場合には、都道府県公安委員会の許可によりけん銃等の譲受け等を行うことができる旨の規定が設けられた。
エ 国民の理解と協力の確保
 島国である我が国においては、警察等の取締機関だけで水際全体を監視することは困難であるため、水際監視協力員等のボランティアや漁業協同組合、通関海運業者等民間の協力確保に努めている。
 また、各種メディアを活用した広報活動を積極的に行い、けん銃対策に関する国民の理解と協力の確保に努めている。

(3) 国際的な取組み
 警察庁では、銃器問題に関する情報交換の促進等を目的として銃器対策国際会議を開催したほか、我が国で押収された外国製真正けん銃の流入ルートの解明、海外からの密輸入阻止のための情報交換等を目的として、ICPO(国際刑事警察機構)ルートの活用、職員の海外派遣等により、関係諸外国との緊密な情報交換及び捜査協力体制の強化を推進している。
 また、平成7年5月、エジプトのカイロで開催された第9回国連犯罪防止会議において、我が国を中心とした30箇国が、適切な銃器規制を推進すること、銃器の違法取引に対して効果的な手段を講じるように加盟各国に求めることなどを内容とした「犯罪の防止と社会の安全のための銃器規制決議」を共同提案し、全会一致で採択された。これを受けて、6月にオーストリアのウィーンで開催された第4回国連犯罪防止刑事司法委員会においてその具体化方策が議論され、今後、各国が協力して銃器管理に関する議論を継続的に行っていくこととなった。
〔事例〕 6年11月、銃器の密輸入等に関する情報交換を通じて、国際的な銃器の不正取引を阻止するため、中国、インドネシア、フィリピン、大韓民国、ロシア、タイ、アメリカ合衆国の7箇国及びICPOの銃器対策の責任者を東京に招き、銃器対策国際会議を開催した。会議では、各国の事情に応じた実効的な銃器管理を推進すること、迅速かつ緊密な情報交換ネットワークを構築すること、銃器に係る犯罪の防止策を国際的なフォーラムにおいて重要な協議テーマとして検討する必要があることなどについて、認識の一致をみた。

4 今後の銃器対策の方向

 我が国の銃器情勢は、警察をはじめとする関係各機関の懸命な取締りにもかかわらず、深刻な事態にあり、平成7年に入っても冒頭に述べた警察庁長官狙撃事件のほか、オウム真理教による小銃密造事件等、国民を不安に陥れる事件が発生している。
 このような事態を克服し、治安の良い安全な社会を次代に残すため、これまで主として対策を推進してきたけん銃をはじめ、けん銃以上の威力を有する小銃等銃器全般を対象として、次のとおり総合的な対策を講じる必要がある。
(1) 銃器摘発体制の強化
 警察庁及び各都道府県警察に設置された「銃器対策課・室」等を中心に、けん銃をはじめとする銃器摘発の専従体制の充実強化と資機材の整備に努めるとともに、銃器捜査に対する専門的技能・ノウハウを有する捜査員の計画的な育成・確保を図るなど、総合的な銃器摘発体制を構築・強化する。
(2) 改正銃刀法等を活用したけん銃等銃器摘発の推進
 改正銃刀法によるけん銃等発射罪等の規定を有効に活用し、銃器使用犯罪の発生を未然に防止する一方、検挙した事件については厳正な科刑が行われるようその悪質性の立証に努める。また、クリーン・コントロールド・デリバリーの手法等の活用により、警察の総力を挙げて銃器の密輸入・密売組織を壊滅させ、そのルートを遮断する。
(3) 暴力団対策の強化
 暴力団が大量の銃器を隠匿している実態にかんがみ、暴力団等が組織的に管理する銃器を摘発するとともに、銃器事犯の根源となっている暴力団の壊滅に向け、凶悪な銃器使用事件を敢行する危険性の高い組織を対象に、重点的な取締りを推進する。
(4) 情報の収集強化と関係機関との連携等による水際対策の推進
 海外から流入するけん銃等の銃器の水際阻止を図るため、不審者、船舶及び貨物等に関する情報の収集と、港湾関係者や沿岸住民等の協力を得た監視体制の強化を図るとともに、税関等の関係機関との連携基盤の一層の促進に努めるなど、密輸情報の収集から事件捜査にわたる水際対策を強化推進する。
(5) 国民等の理解と協力の確保
 けん銃等の銃器の危険性、反社会性等についての国民の意識を高め、銃器に関する不審情報の積極的な提供を促すことを目的として、各種の広報啓発を、また、我が国へのけん銃等の銃器の持込みを防止するため、在外公館や旅行業者等を通じた対外広報を、それぞれ積極的に展開することにより、内外の理解と協力の確保に努める。
(6) 各国における実効ある銃器管理の推進
 銃器犯罪は、我が国だけでなく全世界的に深刻な問題となっている。
 特に銃器規制が我が国より緩やかな国においては、犯罪に銃器が使用されることが多く、このために多数の人命が失われ、多大な社会的損失が生じているところである。
 また、国際化の進展に伴い、銃器規制の分野においても、一国の銃器管理の適否が他国の銃器情勢に大きな影響を与えるようになっており、一国の国内規制だけでは、その国において深刻化する銃器情勢を根本的に改善するのは困難な状況にある。
 このような現状にかんがみ、我が国としては、国際捜査協力だけにとどまらず、各国における銃器管理が実効のあるものとなるように、国際連合等の場を通じて関係諸国に働き掛け、人的物的な国際協力を積極的に推進していく。


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