近年、暴力団は、活動領域を海外に広げるとともに、来日外国人に絡む資金獲得活動を行うなど、その活動を国際化させる傾向がみられる。また、暴力団が外国の犯罪組織と連携し、さらに、擬制的血縁関係を結ぶ例もみられる。一方、世界には、日本と同様に、組織犯罪が治安に重大な影響を与えている国々が存在する。
暴力団は、銃器、覚せい剤等の調達、不動産投資、売春、恐喝等の資金獲得活動、逃亡先としての拠点づくり等を目的として海外に進出しているとみられる。在外企業拠点調査において、暴力団の進出動向について聞いたところ、23拠点(うちタイ5拠点、アメリカ4拠点、台湾3拠点)が暴力団の不当な金品や取引の要求等の被害を受けたことがあるとしている。また、現地での暴力団の活動のうわさについて聞いたところ(複数回答)、「現地の日本料理店等の経営に関与している」(24.0%)、「労働者の日本への送り込み等の活動を行っている」(18.3%)、「麻薬や銃器の調達を行っている」(15.0%)、「現地の犯罪組織と関係している」(13.3%)、「現地の不動産取引に関与している」(12.8%)の順となっており、国別ではタイ、フィリピン、ブラジルにおいてうわさを聞いたとする拠点の数が多くなっている。
また、暴力団は、外国人の不法入国を手引きするブローカーとして暗躍するとともに、外国人女性を売春婦、ホステス等として、外国人男性を建設現場、工場等における労働者としてあっせんし、その労賃をピンハネするなどして、暴利を得ている。
このほか、日本の暴力団は、単に海外へ進出するだけではなく、海外の犯罪組織と連携して犯罪を敢行するなどの動向もうかがわれる。
なお、暴力団の関与する外国人労働者に係る雇用関係事犯については、第2章2(2)参照。
〔事例1〕 山口組の傘下組織の組長(56)は、平成3年12月、カナダのバンクーバー市内の土地付き住宅を購入する契約を締結し、その支払代金約40万カナダドル(約4,600万円相当)を大蔵大臣の許可を受けずに送金した。4年7月、外為法違反で検挙(大阪)
〔事例2〕 極東会の暴力団員ら5人は、4年6月、日本からマレーシアのクアラルンプールに行き、その後オーストラリアのメルボルン入りしたが、その際、ヘロイン約13キログラム(末端価格約13億円相当)を所持していたことから、オーストラリア連邦警察が逮捕
〔事例3〕 山口組の傘下組織の組長らは、5年4月1日ごろ、東シナ海洋上において、船名不詳の船舶から有効な旅券等を所持していない中国人145人を日本船籍の漁船に乗船させ、同月3日午前1時過ぎごろ、鹿児島県阿久根新港沖合に至らせて日本国への不法入国を幇(ほう)助した。5年4月検挙(長崎、熊本、鹿児島)
在外企業拠点調査において、暴力団対策として期待することは何か聞いたところ表1-24のとおりで、「暴力団に対する徹底的な取締り」(73.7%)、「暴力団の海外での活動の状況に関する情報の提供」(73.4%)、「暴力団への対応ノウハウの提供」(56.9%)の順となっている。
表1-24 海外の日本企業の拠点が暴力団対策として期待すること(複数回答)
(1) アメリカ合衆国
アメリカ合衆国内において活動する犯罪組織は、その構成員の出身を反映して多種多様で、イタリア系でアメリカ社会全般に強い影響力を有する最大の犯罪組織のラ・コーザ・ノストラ(LCN)、南米に本拠を置くカリ、メデジン、ノースコースといったコカイン・カルテル、薬物の密輸等に関与するメキシコやイタリアの犯罪組織、三合会や日本の暴力団といったアジアの犯罪組織等がある。
現在、LCNは、組織数24団体で、構成員約2,000人を擁するとみられ、相当数の企業及び労働組合を支配しているといわれる。
アメリカ合衆国においては、犯罪組織による企業支配等の禁止、犯罪組織の解散命令、被害者への補償、マネーローンダリングの禁止、電話の秘聴等を内容とする組織犯罪対策法制が整備されている。
(2) イタリア
現在イタリアの犯罪組織は、マフィアと呼ばれる組織が約170団体(約5,000人)、カモッラと呼ばれる組織が約130団体(約6,300人)、ウンドランゲタと呼ばれる組織が約150団体(約5,200人)、サクラ・クローネ・ウニータと呼ばれる組織が約30団体(約1,800人)それぞれ存在し、このほかにも、麻薬組織、身代金誘拐組織が存在しているとみられる。
マフィアにおいては、「県委員会」、「州委員会」が組織され、各団体及びその構成員の規律を定め、内部の抗争を調整しており、さらに、イタリア全体の組織犯罪をコントロールする「全国会議」が存在し、マフィアのほか、カモッラ、ウンドランゲタ等の主な犯罪組織が参加しているといわれている。マフィアの構成員には、服従及び沈黙の掟が課せられており、首領の命令への絶対的な服従が求められるとともに、組織の活動を他に漏らすことは固く禁じられ、違反者には制裁が加えられるという。マフィアは、組織犯罪対策を進めるなどのマフィアの利益に反する活動を行う政治家、司法、警察関係者に対するテロを繰り返しており、最近では、リーマ欧州議会議員(1992年4月)、ファルコーネ司法省刑事局長(同年5月)等が犠牲になった。
イタリアの犯罪組織の収入は、年間約20兆リラ(約1兆5,000億円)に上るとみられ(「CONTORO E DENTRO」(1992)による。)、イタリア社会に大きな経済的損失を与えている。
イタリアにおいては、マフィア対策が国政上の最重要課題の一つと位置付けられており、イタリア南部の貧困、失業等の問題解決のため、社会基盤の整備、企業誘致等の施策が講じられている。また、マフィア型結社の組織及びそれへの加入やマフィア型犯罪で得た資金等のマネーローンダリングを罰するほか、マフィア型結社の構成員等に対する予防処分、秘聴、おとり捜査等を内容とする組織犯罪対策法制が整備されている。
また、民間の活動として、シチリア反マフィア女性協会が組織され、署名、カンパ等の活動を行っている。
(3) 香港
中国においては、17世紀に満州族の清朝の支配に抵抗する政治的な団体が生まれ、これが天、地、人を形どった三角旗を使用していたため、三合会と呼ばれるようになったという。その後、三合会は、政治的な団体から組織犯罪を行う団体に変質し、第二次世界大戦以降、香港において売春、賭博(とばく)等を支配するようになったといわれる。現在は、大小50の三合会が存在するとみられている。三合会は、現在、売春、賭博(とばく)、恐喝、薬物の密売等の犯罪に関与しているといわれているが、1950年代後半の警察の取締りにより、その活動は弱まっているとみられる。また、三合会は、中国人の近隣のアジア諸国、アメリカ等への移住とともに、その活動領域を海外に広げてきたとみられる。
香港においては、三合会を違法とし、その組織の会員となることなどを禁止する法律が制定され、また、海外に置かれた連絡官が、外国の捜査機関と協力して海外の三合会の活動の取締りを行っている。
(4) 韓国
韓国においては、組織数約300団体、構成員数約7,000人の犯罪組織が存在するとみられている。これらは、それぞれ地域的なものであるが、近年広域化の動きがみられる。
これらの団体の内部においては、擬制的な血縁関係が形成され親分の命令は絶対とされるとともに、一般社会とは異なる文化が形成されているという。その活動は、遊技場に対する恐喝、賭博(とばく)場の開張等のほか、近年は、遊技場、不動産業の経営等企業化されたものへの進出に及んでおり、また、海外進出、韓国に進出した外国の犯罪組織との連携等、活動の国際化傾向がみられるという。
韓国における対策としては、犯罪を目的とする団体の組織及びそれへの加入を禁止する法律が整備され、また、1990年には大統領の「犯罪と暴力に対する戦争」が宣布され、組織犯罪をはじめとする犯罪を徹底的に取り締まっている。