警察庁 National Police Agency

警察庁ホーム  >  犯罪被害者等施策  >  公表資料の紹介:犯罪被害者白書  >  平成24年版 犯罪被害者白書  >  コラム8 公共交通事故による被害者等への支援

[目次]  [戻る]  [次へ]

コラム8 公共交通事故による被害者等への支援

1 経緯

公共交通事故による被害者等への支援については、一義的には事故を起こした公共交通事業者により損害賠償等がなされるものですが、事故状況や事故原因に関する情報提供や心のケアなどの被害者・家族支援の在り方を国としても検討してほしいとの要請が、航空事故、鉄道事故の被害者や御遺族の方々から継続的に行われてきました。

このような声を背景に、平成20年、運輸安全委員会の設置等を内容とする、国土交通省設置法等の一部を改正する法律案の国会審議の際に、「航空事故、鉄道事故又は船舶事故の被害者等に対する支援の重要性にかんがみ、これまでの事故に関する経験や知見を生かし、関係行政機関等の密接な連携の下、総合的な施策の推進のために必要な措置を検討すること」との附帯決議がなされました。

これを受けて、国土交通省では、平成21年度から、冨田信穗・常磐大学人間科学部長を座長とし、被害者団体、有識者等をメンバーとする「公共交通における事故による被害者等への支援のあり方検討会」を開催しました。

「公共交通における事故による被害者等への支援のあり方検討会」有識者委員名簿
「公共交通における事故による被害者等への支援のあり方検討会」有識者委員名簿

2 平成21年度における調査

検討会では、まず平成21年度に、過去に発生した4つの公共交通事故(JR西日本福知山線列車脱線事故、信楽高原鉄道衝突事故、日本航空123 便墜落事故、中華航空機140 便墜落事故)の被害者や家族に対しアンケート調査を実施し、事故発生時における支援ニーズの把握を行いました。

また、平成17年4月25日に発生したJR福知山線列車脱線事故について、支援に当たった救急・医療機関、「心のケア」担当組織、行政防災担当部局に対し、被害者等支援実施側から見た課題のヒアリング調査を実施しました。また、過去の大規模事故に関わった事業者からも、支援の実施状況や課題についてヒアリングを行ったほか、犯罪被害者支援を始めとした、関連分野の被害者支援の内容・体制等の調査を実施しました。

さらに、米国における運輸等の事故被害者支援を行っている国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)の運輸災害支援オフィス(TDA:Office of Transportation Disaster Safety Board)を始めとした関係機関・組織について、現地においてヒアリング調査等を実施しました。

これらの調査で得られた被害者等の支援ニーズや、支援者、事業者等の支援の課題の要点についてまとめると、以下のとおりです。

  1. 公共交通事故の被害者等(直接の被害者、家族・親族)を取り巻く状況は一人一人異なり、また抱える困難も異なるため、求めるニーズもそれぞれ異なるということを認識することが大事である。
  2. 被害者等に対して、適切なタイミングで適切な内容の情報が提供されることが重要である。その際、関係機関が適切に連携すること、迅速かつ正確な情報提供を行うことが大事である。また、被害者等の多くは、なぜ事故が起きたのか原因を知りたいという気持ちが強いことに配慮が望まれる。
  3. 被害者等に対して、生活面、経済面、心身面などの多様なニーズに対して、総合的な支援が行われることが望まれている。その際、関係者が連携して支援を行うこと、事故後間断を置かず支援が提供されること、継続的かつ安定的に支援が提供されることが重要である。
  4. 突然の不幸や悲惨な現場に直面する被害者等に対し、十分な精神面での支援がなされることが重要である。専門家による精神的な診療・治療・カウンセリングだけではなく、すべての関係者が被害者等の心情に配慮した対応に努めること、激しいマスコミ取材から保護されること、事故の原因が究明され、今後の再発防止が図られること、同じ悲しみを持つ被害者同士の支え合いや情報交換などが、被害者等の心の回復にとって大きな要素である。

なお、平成21年度の調査結果の詳細については、国土交通省ホームページにおいて公表しています。

3 平成22・23年度における検討

平成22年度から23年度にかけては、21年度に実施した調査結果を踏まえ、支援の内容や関係機関の役割分担の在り方、被害者等への一元的な窓口機能の在り方、そのために必要とされる制度の在り方等について検討を行いました。その上で、平成23年6月、検討会としての取りまとめを行いました。

この取りまとめでは、まず、被害者等への支援の在り方の原点は、「被害者等に寄り添う」ことであることを示しつつ、情報提供についての課題、事故発生時における課題、被害者等が再び平穏な生活を営めるようになるまでの課題について整理しました。

そして、被害者等支援を行うに当たり求められる対応として、

  1. 「被害者等に寄り添う」という被害者等支援の考え方の原点に立って、交通安全対策基本法(昭和45年法律第110号)に基づく交通安全基本計画及び国土交通省交通安全業務計画において、国土交通省が公共交通事故による被害者等への支援の確保を行うことを明確にし、事故発生時から中長期にわたる被害者等への支援の確保のための具体的活動、交通事業者による被害者等に対する支援計画の策定等の施策を掲げ、これらの施策を実施するための体制整備を進める旨を規定すること
  2. また、同じく「被害者等に寄り添う」という被害者等支援の考え方の原点に立って、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく防災基本計画及び国土交通省防災業務計画の、事前の「災害予防」フェーズ、事故発生時の「災害応急対策」フェーズに、国土交通省による被害者等への支援に関する具体的な役割と活動を明記すること
  3. 事故被害者や家族等に対する必要な支援項目等を掲げたICAO(国際民間航空機構)のガイダンスや、米国、EU、豪州等の例にあるように、事故被害者や家族等に対し、交通事業者がどのようなサポートを行うかについて事前にその計画を定めることを求める「交通事業者による被害者等に対する支援の事前措置(Family Assistance Plan)」を我が国の実情に応じて導入すること。その際、事業者による計画作成のための指針となるガイドラインを国土交通省で策定し、事業者における自主的な計画作成を促進すること
  4. 国土交通省において、公共交通事故による被害者等への支援のための専門的な組織を設けること。同組織は、平時においては、これまでの公共交通事故による被害者等への具体的な支援を確保するための活動に当たるとともに、i)支援に当たる職員による活動のための体制の整備と運営マニュアル等の策定、ii)支援に当たる職員に対する研修・教育の企画立案・実施、iii)必要な訓練の企画立案・実施、iv)関係行政機関、日本赤十字社、民間支援団体、自助グループ等とのネットワーキングを行い、体制の充実・強化に努める必要がある

などの見解が示されたところです。

4 平成24年度以降の取組

検討会の取りまとめを受けて、国土交通省は、公共交通事故による被害者等への支援の確保を図るため、24年4月、公共交通事故被害者支援室を設置しました。同支援室では、①万が一、公共交通事故が発生した場合の情報提供のための窓口機能、②被害者等が事故発生後から再び平穏な生活を営むことができるまでの中長期にわたるコーディネーション機能等を担うことを目指して、今後、支援に当たる職員に対する教育訓練の実施、業務マニュアルの検討、外部の関係機関とのネットワークの構築、交通事業者による被害者等支援計画の策定促進等を進めていくこととしています。

なお、公共交通事故被害者等支援を行うための人的・組織的基盤を一朝一夕に整えることは困難であり、犯罪被害者支援における経験・知見の蓄積等を参考としつつ、可能な施策から、順次着実に取組を行っていくこととしています。

[目次]  [戻る]  [次へ]
警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)