2 安全の確保(基本法第15条関係)
《基本計画において〔今後講じていく施策〕とされたもの》
(1) 加害者に関する情報提供の拡充
法務省において、再被害防止のための犯罪被害者等に対する出所情報通知制度(P57(13)「再被害防止のための犯罪被害者等に対する出所情報通知制度」参照)について、引き続き制度実施に係る円滑な連携を図るため、会議などの機会を活用し、関係者などへの制度の一層の周知徹底に努めている。
警察において、子どもを対象とした暴力的な性犯罪により刑事施設に服役している者の出所予定日、出所後の帰住予定先などの出所情報について、平成17年6月から、法務省から提供を受け、出所者の改善更生や社会復帰を妨げないように配慮しつつ、犯罪の予防や捜査への活用を図ってきたところであるが、その運用状況を検証して制度の見直しを行い、平成23年4月から訪問による所在確認や同意を前提とした面談を取り入れるなど再犯防止措置について強化したところである。
(2) 犯罪被害者等に関する情報の保護
法務省・検察庁において、平成19年に成立した「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、裁判所の決定があった場合、起訴状の朗読などの訴訟手続を被害者の氏名などを明らかにしない方法により行うこと、検察官が、証拠開示の際に、弁護人に対し、被害者の氏名などがみだりに他人に知られないようにすることを求めることが可能となったことから、その円滑な運用に取り組んでいる。また、会議や研修などの機会を通じて検察官などへの周知徹底を図っている。
(3) 警察における再被害防止措置の推進
警察において、「再被害防止要綱」に基づき、同じ加害者により再び危害を加えられるおそれのある犯罪被害者等を「再被害防止対象者」に指定し
- 再被害防止のための関連情報の収集
- 関連情報の教示
- 連絡体制の確立と要望の把握
- 自主警戒指導
- 警察による警戒措置
- 加害者への警告
などの再被害防止措置を実施している。実施に当たっては、加害者を収容している刑事施設などと密接に連携している。
警察庁において、都道府県警察から、再被害防止対象者の指定状況や刑事施設との連携状況などについて、定期的又は随時に報告を求め、都道府県警察における再被害防止措置の徹底を図っている。
(4) 警察における保護対策の推進
全都道府県において暴力団排除条例が施行されるなど、社会全体による暴力団排除が進展する一方、暴力団との関係遮断を図る企業等に対する危害行為が相次いだことから、これら関係者の安全を確保し、保護対策の充実強化を図るため、平成23年12月、新たに「保護対策実施要綱」を制定した。
同要綱に基づき、身辺警戒員(略称「PO」(Protection Officer))をあらかじめ指定して警戒体制を強化するなど、組織の総合力を発揮した保護対策に取り組むとともに、防犯カメラ等必要な装備資機材を配備し、民間警備を活用するなどして関係者の安全確保の徹底を図っている。
(5) 保釈に関しての犯罪被害者等に対する安全への配慮の充実
法務省・検察庁において、加害者の保釈に関し、検察官が、犯罪被害者等から事情を聞くなどによりその安全確保を考慮して裁判所に意見を提出するほか、保釈申請に対する結果について犯罪被害者等に連絡するなど、適切な対応に努めている。また、会議や研修などの様々な機会を通じて検察官などへの周知徹底を図っている。
(6) 配偶者等からの暴力被害者の安全確保の強化についての検討及び施策の実施
(P5「配偶者等からの暴力被害者の安全確保の強化についての検討及び施策の実施」参照)
(7) 再被害防止に向けた関係機関の連携の充実
警察庁・厚生労働省において、配偶者からの暴力(DV)・人身取引・児童虐待の被害者等の保護に関する、警察・婦人相談所・児童相談所の連携を一層充実させている。
警察において、配偶者等からの暴力事案に対し配偶者暴力相談支援センターなど関係機関・団体と連携した被害者支援を講ずるなど、犯罪被害者等の立場に立った適切な対応を図っている。
人身取引事犯の被害者については、その適正な保護がなされるよう関係機関・団体と連携を図るとともに、犯罪被害者等が人身取引の被害を訴えることを容易とするようリーフレット約27万部を作成し、関係省庁、在京関係国大使館、関係国在外公館、NGO などの犯罪被害者等の目に触れやすい場所に広く配布するなどした。また、平成23年7月、人身取引に関係する国の在京大使館・国際機関・NGO などを集めてコンタクトポイント会議を開催し、人身取引被害者の発見・保護などに関する意見交換を行うなどした。さらに、人身取引事犯などの被害者となっている女性などの早期保護を図るため、警察庁の委託を受けた民間団体が、市民から匿名で事件情報の通報を受け、これを警察に提供して、捜査などに役立てる「匿名通報ダイヤル」を、19年10月から運用している(「平成23年中における子どもや女性を守るための匿名通報事業の運用状況について」:http://www.npa.go.jp/safetylife/hoan/h23_tokumei.pdf、「平成23年中における人身取引事犯について」:http://www.npa.go.jp/safetylife/hoan/h23_zinshin.pdf)。
児童虐待の被害者については、街頭補導、少年相談など様々な活動の機会を通じ、その早期発見と児童相談所への確実な通告に努めている。また、各都道府県において国民に児童虐待事案の通告・通報を促すためのリーフレットを広く配布しているほか、平成22年2月から「匿名通報ダイヤル」の対象に児童虐待事案を追加し、運用している。さらに、都道府県知事・児童相談所長による児童の安全確認や一時保護、立入調査を円滑化するための援助を実施するとともに、子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)などへ積極的に参加するなど、学校、児童相談所などの関係機関との情報交換や連携強化に努めている。
厚生労働省において、配偶者からの暴力(DV)の被害者、人身取引の被害者などの保護に関しては、婦人相談所と警察や児童相談所などの関係機関との連携が不可欠であることから、その充実を図っている。特に、配偶者からの暴力被害者の保護と支援について、関係機関相互の共通認識・総合調整が必要不可欠であることから、連携を強化するためのネットワークの整備にかかる費用を補助している。
具体的には、婦人相談所は、配偶者からの暴力被害者の相談、保護、自立支援において、警察や福祉事務所などの関係機関との連携を図るため、連絡会議や事例検討会議を開催するとともに、事例集や関係機関の役割などの内容を掲載したパンフレットを作成し、関係機関に配布している。
児童相談所において、触法少年・ぐ犯少年の通告、棄児、迷子、虐待を受けた子どもなど要保護児童の通告などについて、警察と連携を図っている。
警察庁・文部科学省において、警察と学校など関係機関の通報連絡体制の活用、子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)の活用、加害少年やその保護者に対する指導などの一層の充実を図り、再被害の防止に努めている。
また、非行や犯罪被害など個々の少年の抱える問題行動に応じた的確な対応を行うため、学校、警察、児童相談所などの担当者からなる少年サポートチームを編成し、それぞれの専門分野に応じた役割分担の下、少年への指導・助言を行っている。平成23年度においても、少年サポートチームの効果的な運用等連携を図るため、警察庁と文部科学省と合同で、都道府県警察、関係機関・団体の実務担当者に対する協議会を実施した。
文部科学省において、各教育委員会に対し、学校と警察が連携し、児童生徒の問題行動に対応できるよう、会議の場や通知などで促している。
また、要保護児童などに関し、「要保護児童対策地域協議会設置・運営指針」を踏まえ、虐待を受けている子どもを始めとする要保護児童の適切な保護を図るための関係機関との適切な連携について教育委員会などへ周知している。
(8) 児童虐待の防止、早期発見・早期対応のための体制整備等
警察において、児童虐待防止対策に従事する職員、検視の専門官、少年補導職員などに対し、早期に児童虐待を発見するための観点や、関係機関との連携の在り方、カウンセリング技術などについて指導・教育を行うなど、児童虐待防止に関する専門的な知識・技能の向上のための教育を実施している。
また、児童虐待防止広報啓発用リーフレットを作成・配布したり、「匿名通報ダイヤル」の通報対象に児童虐待事案を追加(平成22年2月から運用)するなど、児童虐待の早期発見・早期対応に努めている。
文部科学省において、平成22年度に引き続き、平成23年度も、児童虐待などの問題へ対応するため、教育分野に関する知識に加えて、社会福祉の専門的な知識・技術を用いて児童生徒を支援するスクールソーシャルワーカーを、各地域の実情に応じて学校などの教育機関に配置する地方自治体の取組に対して補助を行っている。また、「生徒指導・進路指導総合推進事業」において、児童虐待などの問題を抱える児童生徒への支援に効果的な取組について、子どもの状況の把握の在り方、関係機関とのネットワークを活用した早期からの支援の在り方などの観点から、調査研究を引き続き実施している。
厚生労働省において、児童虐待の早期発見等に資するため、児童相談所を中心とした関係機関の連携による取組の好事例について、随時、各種関係会議における行政説明などにおいて報告している。
また、虐待を受けたと思われる子どもを見つけたときなどに、ためらわずに児童相談所へ電話してもらえるよう、児童相談所全国共通ダイヤルの周知徹底を図っている。
平成22年9月には、児童相談所に虐待通告のあった事例の安全確認の実施状況について調査結果を公表するとともに、児童虐待の通告のあった児童に対する安全確認の徹底を図るため、通告・相談への対応や調査、保護者・子どもへのアプローチにおける着眼点や工夫例等を盛り込み、児童相談所の虐待対応の参考とするべく「虐待通告のあった児童の安全確認の手引き」を作成した。
さらに、児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から、親権の停止制度を新設し、法人又は複数の未成年後見人を選任することができるようにするなどの措置を講ずるための民法等の改正が行われるとともに、里親委託中等の親権者等がいない児童の親権を児童相談所長が行うこととすることや、児童の福祉のために施設長等がとる監護等の措置について親権者等が不当に妨げてはならないこととするなどの措置を講ずるための児童福祉法の改正が行われた(平成24年4月から施行)。
(9) 児童虐待防止のために行う児童の死亡事例等の検証の実施
児童虐待による死亡事例等について、平成16年より、社会保障審議会児童部会の下に設置されている「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」において分析、検証し、事例から明らかになった問題点・課題から具体的な対応策を提言として、毎年とりまとめている。
(10) 再被害の防止に資する教育の実施等
法務省において、矯正施設に収容されている加害者に対し、被害者感情を理解させるためのオリジナルビデオ教材などを活用した「被害者の視点を取り入れた教育」を実施している。(刑事施設においては、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(平成19年6月からは「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」に名称変更)の施行に伴い、平成18年5月から、必要な者に対し同教育を義務付けて実施している。)。また、同教育の充実を図るため、平成18年度以降は、犯罪被害者等や支援団体の方々から被収容者に対し直接講話するゲストスピーカー制度を拡大するとともに、平成23年度は、犯罪被害者等や犯罪被害者支援に係る関係者等を構成員として「被害者の視点を取り入れた教育」検討会を開催している。
「被害者の視点を取り入れた教育」は、被収容者に対し、自らの犯罪と向き合い、犯した罪の大きさや犯罪被害者等の心情などを認識させ、犯罪被害者等に誠意を持って対応するとともに、再び罪を犯さない決意を固めさせることを目標としており、社会復帰後の犯罪被害者等への対応、再犯の防止などにいかされることが期待できる。
また、ストーカー事犯者、性犯罪事犯者などの保護観察対象者に対しては、事案に応じて、当該被害者への接近を禁止するなどの特別遵守事項を設定していることに加えて、「更生保護法」(平成19年法律第88号)の施行(平成20年6月)後は、性犯罪者については専門的処遇プログラムを受講することについての特別遵守事項も設定し、これを守るよう指導監督している。また、慰謝の措置や被害弁償に誠意を尽くすことなどの生活行動指針を設定し、それを守る努力をするよう指導監督している。
仮釈放等審理における意見等聴取制度の施行(平成19年12月)後は、犯罪被害者等から聴取した意見などを踏まえ、より一層適切に特別遵守事項を設定している。
保護観察対象者に対しては、再び罪を犯さない決意を固めさせるとともに、犯罪被害者等の意向に配慮しながら誠実に対応することを促すため、しょく罪指導のためのプログラムを策定し、全国の保護観察所において、一定の重大な犯罪をした保護観察対象者に対し、以下のとおり個別指導を実施している。
- 自己の犯罪行為を振り返らせ、犯した罪の重さを認識させる。
- 犯罪被害者等の実情(気持ちや置かれた立場、被害の状況など)を理解させる。
- 犯罪被害者等の立場で物事を考えさせ、また、犯罪被害者等に対して、謝罪、被害弁償などの責任があることを自覚させる。
- 具体的なしょく罪計画を策定させる。
また、文部科学省において、児童虐待の防止にも資する取組として、すべての親に対する家庭教育支援の体制が整うよう、家庭教育支援チームの組織化等による相談対応、保護者への学習機会の提供などの家庭教育を支援する活動を実施している。
《基本計画には盛り込まれていないが、基本法・基本計画を踏まえ、実施しているもの》
(11) 企業及び行政対象暴力対策の推進
警察において、企業及び行政対象暴力事犯に対して、検挙の徹底、暴力団対策法の効果的な運用に努めるとともに、都道府県暴力追放運動推進センターと連携して、不当要求防止責任者*8に対する講習を実施したり、パンフレットを作成したりするなどして、犯罪被害者等の保護、救済を図っている。
平成23年11月、犯罪対策閣僚会議の下に設置された「暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム」において、これまで進めてきた公共事業等からの暴力団排除の取組及び企業活動からの暴力団排除の取組についてフォローアップを行い、あらゆる公共事業等からの暴力団排除を一層推進するため、警察庁と各府省が引き続き緊密に連携すること、企業活動については、特に中小企業において認知度の低い「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の更なる普及啓発により暴力団排除の取組を支援していくことを確認した。こうした取組を推進しているところ、平成23年12月末には、行政機関などにおける不当要求防止責任者数は13万1,454人となり、平成23年中の「企業及び行政対象暴力事犯」の検挙は509件であった。
(12) 悪質商法等の再被害防止に係る広報啓発活動の推進
警察庁において、悪質商法やヤミ金融被害の防止を図るため、検挙状況や主要な検挙事例などをホームページに掲載している(「平成23年中おける生活経済事犯の検挙状況等について」:http://www.npa.go.jp/safetylife/seikan25/h23_seikeijihan.pdf)。また、利殖勧誘事犯被害の拡大を防止するため、ポスター(「投資被害でお困りの方-警察庁-」http://www.npa.go.jp/safetylife/seikeikan/poster.pdf)、リーフレット(「社債、未公開株、投資被害でお困りの方への御案内-警察庁-」http://www.npa.go.jp/safetylife/seikeikan/leaflet.pdf)を作成してホームページに掲載するとともに、インターネットテレビ等の政府広報などによる被害防止広報を実施している。都道府県警察において、ホームページ上での被害防止のポイントの紹介のほか、地元のメディアや通常の警察活動などあらゆる媒体、機会を通じて被害防止広報などを実施している。
(13) 再被害防止のための犯罪被害者等に対する出所情報通知制度
法務省において、犯罪被害者が加害者との接触回避などの措置を講じることにより再被害を避けることができるよう、出所情報通知制度を実施している。警察から再被害防止措置上必要とする受刑者の釈放などに関する情報の通報要請があった場合、通報を行うのが相当であると認められるときは、受刑者の釈放などに関する情報(自由刑の執行終了による釈放予定と予定年月日・帰住予定地、仮釈放による釈放予定と予定年月日・指定帰住地など)を通報している。
また、犯罪被害者等が希望する場合に、検察官が相当と認めるときは、犯罪被害者等に対し、受刑者の釈放前に釈放予定に関する通知を行っている。
本施策については、実施後10年経過したところであるが、各会議などにおいて制度について周知を図り、実務担当者からも犯罪被害者等に対して案内をしている。
警察において、独自に把握した情報や刑事施設などから通報を受けた情報について、提供の必要性を個別に判断した上で、犯罪被害者等に対して教示している。
通知希望者数 | 通知者数 | |
平成13年 | 131 | 37 |
平成14年 | 264 | 125 |
平成15年 | 344 | 250 |
平成16年 | 622 | 440 |
平成17年 | 787 | 559 |
平成18年 | 1,135 | 779 |
平成19年 | 1,080 | 782 |
平成20年 | 855 | 663 |
平成21年 | 371 | 487 |
平成22年 | 391 | 490 |
平成23年 | 298 | 395 |
合計 | 6,278 | 5,007 |
(14) 犯罪被害者等に関する情報の保護
犯罪被害者等の保護の観点も含め住民基本台帳の閲覧制度などの抜本的見直しを行い、何人でも閲覧を請求できるという従前の制度は廃止し、個人情報保護に十分留意した制度として再構築を行うため、「住民基本台帳法」の一部が平成18年11月1日に改正され、各市町村において同法に基づき、適切な運用がなされている。
(15) 犯罪被害者等の安全確保
海上保安庁において、犯罪の手口、動機・組織的背景、被疑者と犯罪被害者等との関係、被疑者の言動などの状況から、犯罪被害者等に後難が及ぶおそれがあるときは、被疑者などに当該犯罪被害者の氏名などを告げないようにするほか、必要に応じ犯罪被害者等の保護のための措置を講じている。
(16) 児童虐待・配偶者等からの暴力(DV)の早期発見のための医療施設における取組の促進
厚生労働省において、医療施設における児童虐待や配偶者等からの暴力(DV)の早期発見のための取組を促進するため、平成19年3月に各都道府県・関係団体あてに「児童虐待・配偶者等からの暴力(DV)の早期発見のための取組の促進について」(通知)を発出し、医療関係者が、児童虐待の早期発見に努めること、配偶者からの暴力によって負傷したか疾病にかかったものの発見・通報に積極的な対応が求められていることについて周知徹底を図り、引き続き医療施設における取組の促進を図っている。
また、配偶者からの暴力の被害を受けた女性の保護に関する医療施設における研修に補助を行っており、医療関係機関に対し、積極的な受講を求めている。