[目次]  [戻る]  [次へ]

第2節 性犯罪被害者のための総合的支援としてのワンストップ支援センター

前述の第2次基本計画策定時における要望聴取会では、「性暴力の被害者が二次被害を受けずに1か所で法的、医学的(心身両面で)、心理学的、社会的支援を受けて回復できるワンストップセンターを各地域に整備してほしい。」など、性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターの設置を求める要望が寄せられた。

そして、第2次基本計画では、以下のとおり、ワンストップ支援センターの設置を促進するための施策が盛り込まれた。

「第2次犯罪被害者等基本計画におけるワンストップ支援センターの設置促進のための施策
イ~エの進捗状況については前掲第1章第1節 P5参照

1 設置促進に必要な調査・検討

(1) 性犯罪被害者への聞き取り調査

内閣府が平成23年10月~12月に行った性犯罪被害者11名への聞き取り調査では、性犯罪被害者は、身体的影響もさることながら、精神的な影響も甚大であり、日常生活を送ることが困難な状況となる場合も少なくないことがうかがえた。また、適当な相談先を探すのに相当な苦労をしたり、相談先等で、被害者の心情への配慮を欠いた対応をされるなど、二次的被害を受けている状況もうかがえた。(「性犯罪被害者ワンストップ支援センターの開設・運営の手引(仮称)作成のための聞き取り調査報告書」参照:http://www8.cao.go.jp/hanzai/kohyo/report/h23-2/pdf/kikitori.pdf(PDF形式:489KB)別ウインドウで開きます

ここでは、被害による影響、被害後の相談状況等について、回答の一部を紹介する。

聞き取り調査における回答(一部)

(2) 我が国におけるワンストップ支援センターの先行事例の調査・検討

○ 先行事例の活動

我が国における性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターとしては、大阪府松原市内の「性暴力救援センター・大阪(Sexual Assault Crisis Healing Intervention Center Osaka)」(通称「SACHICO」。以下「SACHICO」という。)及び愛知県一宮市内の「ハートフルステーション・あいち」がある(平成24年3月末現在)。

ア SACHICO

SACHICOは、同意のない・対等でない・強要された性的行為は全て性暴力であると位置づけ、これを人間の尊厳の問題であると同時に医療の問題ととらえ、大阪府松原市内にある社会医療法人阪南医療福祉センター阪南中央病院(以下「阪南中央病院」という。)の一角に、待合・面談室、診察室、スタッフルームを設け、平成22年4月から事業を開始している。

SACHICOでは、支援のコーディネート・相談等はSACHICO支援員が担い、産婦人科医療は、「阪南中央病院の外来診療」として常勤の女性医師6人がシフトを組んで担当しており、両者が共同事業の形で、24時間365日対応のワンストップ支援を行っている。

主な支援内容は、SACHICOの支援員による24時間ホットライン、電話相談・来所相談、他の支援団体に関する情報提供、阪南中央病院産婦人科女性医師による産婦人科医療・証拠採取、院内ケースワーカーによるケースワーク、協力弁護士による法的支援、院内臨床心理士又はウィメンズセンター大阪のカウンセラーによるカウンセリングなどであり、大阪府警察、大阪産婦人科医会、近隣の児童相談所等とも連携して支援に当たっている。

利用者からは、「SACHICOでは、親身に話を聴いてもらった。また、自分で決めることの大切さを教わり、自分で決めた道をしっかりとサポートしてもらった。」などといった声が寄せられている。

SACHICO見取図
SACHICO見取図
イ ハートフルステーション・あいち

警察庁及び愛知県警察では、性犯罪被害者に必要である初期的な被害相談、医療、各種支援を1カ所で受けられるようにすることにより、被害者の心身の負担をできる限り軽減し、及び警察への被害申告を促進して性犯罪の潜在化防止に寄与することを目的に、平成22年度モデル事業として性犯罪被害者対応拠点「ハートフルステーション・あいち」を愛知県一宮市にある医療法人大雄会大雄会第一病院内に設置した。

ハートフルステーション・あいちでは、愛知県警察が設置・運営主体となり、支援のコーディネート・相談等を社団法人(現公益社団法人)被害者サポートセンターあいちに、産婦人科医療を医療法人大雄会に、それぞれ委託して性犯罪被害者へのワンストップ支援を行っている(相談受付は、月曜日から土曜日(祝日及び年末年始を除く。)の9時から20時まで)。

主な支援内容は、支援活動員による電話相談・面接相談、事情聴取や診察における付添、関係機関の支援施策に関する情報提供、精神科医・カウンセラーや弁護士等法律専門家への引継、大雄会第一病院産婦人科医師による産婦人科医療・証拠採取などである。また、愛知県警察の支援担当警察官が常駐して支援を行っている。

ハートフルステーション・あいちは、現在も、愛知県警察において運営されている。

○ 性犯罪被害者対応拠点モデル事業の検証

上記モデル事業については、警察庁において、有識者や省庁の関係者を構成員とする検証部会を立ち上げ、検証を行い、その結果について、平成23年12月に公表したところである(警察庁ホームページ(「警察による犯罪被害者支援ホームページ」の中の「資料編」)に報告書の全文を掲載している。)。

利用者から、「知り合いに勧められてきたが、診察やカウンセリングを受けることができて安心した。」といった声が寄せられるとともに、ハートフルステーション・あいちへの相談が端緒となり警察が事件を認知した事案があるほか、誰にも相談できずに悩んでいた被害者がカウンセリングや治療を受けるなど、検証により、性犯罪被害者の負担軽減や性犯罪被害の潜在化防止という観点から一定の効果があったことが明らかになった。

一方、財政的基盤の確立、医師等に対する研修・啓発活動の必要性等、この種事業の実施のための課題も明らかになったところである。

(3) 諸外国における性犯罪被害者支援の状況

ここでは、内閣府が訪問調査した、カナダ・オンタリオ州オタワの性犯罪被害者支援の概要や、韓国のポラメワンストップ支援センターの概要を紹介する。

○ カナダ・オンタリオ州の性犯罪被害者支援の概要
ア 性的暴行プロトコール

オタワでは、性犯罪被害者への対応を中心的業務とする刑事司法、保健医療、社会保障サービスの分野の組織からなるプロトコール委員会が、コミュニティ内のサービス提供機関、その内容・利用方法などをまとめた性的暴行プロトコールを作成し、これを性犯罪被害者を含め、広く一般に知らせている。また、同委員会は、性犯罪に対してコミュニティとして包括的かつ効果的に対応するため、互いに連携しながら活動し、プロトコール参加組織間の協力関係と意思疎通の改善に取り組んでいる。

オタワにおける性犯罪被害者へのサービスの提供は、次の図のように、カウンセリングサポートサービス、医療サービス及び刑事司法の3つが中心となっている。オタワでは、これらのサービスを提供する各機関が性的暴行プロトコールによって結びつき、連携して支援を提供することで、機能として、被害者への途切れのない支援を提供している。

性的暴行プロトコール
イ オタワレイプ救援センター(カウンセリングサポートサービス)

オタワレイプ救援センターは、1973年にフェミニストグループによって設立された。提供するサービスは、24時間365日対応の電話相談、警察署・病院への付添いサービス、カウンセリング(危機カウンセリングと12か月以内の長期的カウンセリング)等であり、全てのサービスは無料である。

ウ オタワ病院性的暴行・パートナー虐待ケアプログラム(医療サービス)

オタワ病院性的暴行・パートナー虐待治療プログラムは、オンタリオ州の病院を拠点とした35の性的暴行治療プログラムの1つであり、オタワ病院市民キャンパスの救急部門に拠点を置き、性的暴行やパートナー虐待の被害者に対して、24時間365日の支援を実施している。性的暴行が起こってから2週間以内の被害者に対して医療が提供され、薬代はプログラムの一部として無料である。1年間、最高8回まで、精神的・治療的なサポートを行っている。

エ オタワ警察(刑事司法)

オタワ警察は、性的暴行の通報を受けると、できる限り速やかに警察官(可能な限り性的暴行捜査官)を被害者の元に派遣し、オタワ病院市民キャンパスの性的暴行・パートナー虐待ケアプログラムにおいて行われる証拠採取や医学処置の内容に関する情報提供等を行うほか、将来の証拠とするため、できるだけ早い時期に、捜査官が被害者から詳しい供述を得る。

○ 韓国のポラメワンストップ支援センター
ア 韓国のワンストップ支援センター

韓国では、2006年8月、ソウル市の警察病院内に最初のワンストップ支援センターが設置されており、2012年3月現在、警察病院などの国公立病院、大学病院、民間病院など16か所に設置されている。設置のための特別な要件はないが、いずれも300床以上の大型病院に併設されている。

これら国内のワンストップ支援センターに対しては、34億5900万ウォン(うち国費が50~60%)が予算措置されている。なお、治療費に関する予算は、女性家族部が別途計上している。

イ ポラメワンストップ支援センター

ポラメワンストップ支援センターは、ソウル市、ソウル地方警察庁及びポラメ病院の協定に基づき、2008年12月、ソウル大学の施設であるソウル市立ポラメ病院内に設置された。

センター内には、院内の産婦人科とは別に、婦人科治療の設備が設けられている。また、事情聴取室及び録音録画モニタリング室も設けられている(韓国では、19歳未満の者及び一定の障害者から事情聴取をする場合、被害者の同意を前提とした録画が義務付けられており、これらは児童や障害者の事情聴取に利用されている。)。

支援対象は、性暴力、家庭内暴力、性売買、校内暴力による被害者であり、支援内容は、相談、医療的支援(婦人科治療、感染症検査、緊急避妊薬投与、証拠採取、外傷治療等)及び事情聴取等である。これらの支援は全て無料で提供されている。

※ ワンストップ支援センターは、緊急支援を目的としており、カウンセリング等の長期にわたる支援が必要なケースは、性暴力相談所など関係機関へ引き継がれる。また、2回目以降の事情聴取など、以後の捜査手続への協力は、管轄警察署の警察官が行う。

ポラメワンストップ支援センター
[目次]  [戻る]  [次へ]
警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)