我が国における犯罪被害者等施策の経緯等 -年次報告書の第1回の作成に当たって-

第2章 犯罪被害者等の置かれている状況とニーズ



第2節  総合的な取組に関する犯罪被害者等のニーズ

1 損害回復・経済的支援等に関するニーズ

 犯罪被害者等は、犯罪等により、生命を奪われ、家族を失い、傷害を負わされ、財産を奪われる。そうした損害に加え、高額な医療費の負担や収入の途絶などにより、経済的に困窮することが少なくない。また、新たな住居の確保や雇用の維持に困難を来すことも少なくない。

 加えて、犯罪被害者等が直面する経済的困難は、それ自体重大であるだけでなく、精神的・身体的被害の回復に悪影響を与えたり、刑事手続等への十分な関与の障害ともなるなど、犯罪被害者等にとって重大な影響を与えるものである。

 これらに関して、犯罪被害者等からは、

  ・附帯私訴制度の導入

  ・損害賠償命令制度の導入

  ・損害賠償債務の国による立替払及び求償等

  ・公費による弁護士選任

  ・犯罪被害給付制度における給付金額の増加、給付対象の拡大、年金方式による支給等制度の充実

  ・罰金を財源とした犯罪被害者等補償制度の創設

  ・医療費、介護費、遺体搬送費、葬儀費用及び通院のための交通費等の補償制度の創設

  ・医療費の無料化

  ・公営住宅への優先入居

  ・被害回復のための休暇制度の導入

などに関する種々の要望が寄せられていた。

2 精神的・身体的被害の回復・防止に関するニーズ

 多くの犯罪被害者等は、犯罪等により、当該犯罪等が意図した直接的な精神的・身体的・財産的被害を受けるのみならず、犯罪等という攻撃の対象にされたということ自体から精神的被害を受ける。また、再被害あるいは再被害を受けることに対する恐怖・不安からも精神的・身体的被害を受け、さらには、犯罪被害者等が必要的にかかわらざるを得ない手続の過程で、また治療や回復の過程でかかわらざるを得ない関係機関において、配慮に欠けた対応をされることで二次的被害を受ける。

 これらに関して、犯罪被害者等からは、

  ・PTSDに関する医療・福祉サービスの充実

  ・後遺障害に関する医療・福祉サービスの充実

  ・女性被害者・少年被害者に対する医療・福祉サービス体制の充実

  ・刑務所出所及び少年院出院の際の住所、矯正の程度等犯罪被害者等が求める情報の開示

  ・刑事手続における被害者の氏名・住所の原則非公開

  ・加害者が逮捕されるまでの間、危険を回避するための犯罪被害者等専用シェルターの確保

  ・関係職員への研修の充実

  ・関係職員の対応・施設の改善

  ・弁護活動における配慮等

などに関する種々の要望が寄せられていた。

3 刑事手続への関与拡充に関するニーズ

 捜査や刑事裁判等は、加害者及び弁護士と、警察、検察、裁判所のみを主体として行われ、犯罪被害者等に認められた権利は貧弱であり、十分な情報も与えられず疎外され、証拠として扱われているに過ぎないという批判があり、刑事司法について社会の秩序維持という公益を図る目的が強調され過ぎているという指摘や、犯罪被害者等に信頼されない刑事司法は国民全体から信頼されないという指摘もなされている。

 犯罪被害者等が、捜査や刑事裁判等に対し、「事件の当事者」として、事件の真相を知りたい、善悪と責任を明らかにしてもらい、自己の、あるいは家族の名誉を回復したい、適正な処罰により自らの正義を回復してほしいなどと願うことは当然である。事件の正当な解決は、犯罪被害者等にとって最大の希望であり、その回復にとって不可欠であるともいえる。また、解決に至る過程についても、遺族がこれに関与することでその責任を果たせたと感じるなど、犯罪被害者等の精神的被害の回復に資する面もある。

 これらに関して、犯罪被害者等からは、

  ・起訴への関与等

  ・公訴参加制度の導入等

  ・公的弁護人制度の導入

  ・少年保護事件への参加等

  ・刑事司法手続に関する情報提供の充実

などに関する種々の要望が寄せられていた。

4 支援等のための体制整備に関するニーズ

 犯罪被害者等は、自分の身の回りのことすら満足にできない状態に陥る一方で、診療を受けたり、捜査・公判等に協力したり、損害回復のための請求を行うなど、次々に新たな対応を迫られ、再び平穏な生活を営むことができるようになるためには、様々な困難に立ち向かうことを余儀なくされる。

 犯罪被害者等の誰もが、被害直後から、望む場所で、必要なときにいつでも、犯罪被害者等が直面している各般の問題について、情報の入手や相談ができ、専門的知識と技能に裏付けられた支援が受けられる継ぎ目のない支援体制を構築していかなければならない。

 これらに関して、犯罪被害者等からは、

  ・犯罪被害者等支援窓口の一本化

  ・日本司法支援センターの相談窓口としての機能充実

  ・犯罪被害者等支援に関する情報取得の利便性向上

  ・PTSDに関する調査研究及び専門家の養成

  ・犯罪被害実態等に関する調査研究の充実

  ・民間の団体に対する財政的援助の充実

などに関する種々の要望が寄せられていた。

5 国民の理解の増進と配慮・協力の確保に関するニーズ

 犯罪被害者等は、受ける被害の実相を理解されず、配慮のない対応をされ、疎外され、孤立することが少なくなく、二次的被害を与えられることもある。また、例外的な存在と誤解され、軽視・無視されることもある。

 犯罪被害者等を理解することは、犯罪被害者等への配慮を可能にし、二次的被害を防止するのみならず、犯罪被害者等が我々の大切な隣人であることを改めて想起させ、隣人と共に生きる健全な社会をつくることを可能にする。また、犯罪被害者等への支援に協力することは、自己や周囲の者が犯罪被害者等となった場合に対処できる知識・能力を身に付けることにもなるとともに、犯罪等に対し、地域社会が一丸となって対決し、安全で安心な社会をつくることを可能にする。

 これらに関して、犯罪被害者等からは、

  ・教育活動を通じた理解の増進

  ・広報・啓発活動の実施

  ・犯罪被害者等の置かれた状況等についての国民理解の増進

  ・報道機関等における配慮

などに関する種々の要望が寄せられていた。



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