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7.終わりに

ここまでの本調査における各国別の調査結果を踏まえ、最後に全体を整理する。


一般犯罪被害者に対する公的補償制度については、今回の調査対象国のうち国家政府として支援を行っているのはスペイン、韓国のみであった。カナダ、オーストラリアについては国家政府ではなくそれぞれの州もしくは準州において支援が行われていた。オーストラリアは程度の差こそあるものの全州で支援が行われているが、カナダでは一部支援が行われていない州もあった。また、イタリアにおいては一般犯罪被害者に対する支援策が整備されていない代わりに「マフィア型犯罪被害者」に対しての支援策が整備されており、同国の状況をうかがわせる結果となった。財源については、スペイン、韓国は政府の予算すなわち一般税収が補償の財源となっているのに対し、オーストラリアの各州及びカナダの支援が行われている州における補償制度においては、州の収入が補償の財源となっているケースもあるものの、犯罪・違反者からの課徴金収入によって財源が賄われているケースが多いことがわかった。イタリアの「マフィア型犯罪被害者」に対しての支援については、政府の予算すなわち一般税収が補償の財源となっていることに加え、マフィア組織から押収した資産の売却金が財源になっていることが特徴だと言えよう。

また、昨年度調査の調査対象国であったアメリカ、イギリス、ドイツと同様であるが、本年度の調査対象国においても、補償によるカバーの薄い部分として、海外における一般犯罪被害を指摘することができる。国外での犯罪を対象とする国家的な補償制度はカナダ連邦政府による「被害者基金(Victims Fund)」のみである。スペインにおいてはEU諸国内に限り国内の一般犯罪被害者の制度が援用されるが、残りの調査対象国は国外で起こった犯罪被害を救助する制度は有していない状況である。

一方、テロ被害者に特化した国家的補償制度を有している国はイタリアとスペインのみであったが、それぞれの国の行っている(あるいは行っていない)テロ被害に関する支援にはそれぞれの特徴があった。本報告書の結びとして、今一度各国の状況を確認したい。

イタリアの「テロ及び同種の無差別殺戮犠牲者支援新規定」は国内・国外両方のテロ被害を救済の対象としており、心理的ケアと治療の権利を受けられるなど、マフィア型犯罪よりも手厚い支援を受けることができる。一方、スペインにおいては「テロ被害者との団結法」は国内のみのテロ被害を救済の対象としているが、2006年にはアムステルダム条約に基づいた勅令が発令され、EU諸国内に限り国外のテロ被害も救済の対象となった。また、同国ではバスク地方でのETAによるテロ被害に対する事務局「バスク政府テロ事件被害者事務局」が設けられ、脈々と繰り返される同地域でのテロ被害に対する支援を厚くするといった形でテロ被害者への支援体制を築いている。政治的組織ではないテロ事件被害者組織(AVT)が1981年から設立されているところからも、同国におけるテロ被害者支援への関心の強さ、必要性の深さが見受けられる。イタリア、スペインの両国とも、テロの被害に悩まされてきた歴史を持っており、そういった背景から現在のテロ被害者支援の体制が取られてきたと考えられる。他方、少なからずテロの被害を受けてきた歴史を持つカナダでは連邦政府レベルでのテロ被害者支援は行われておらず、オンタリオ州政府によるアメリカ同時多発テロの際の支援制度についてもアメリカの同テロ事件に対する支援の前では脆弱なものであり、活用されることはまれであったことからは、テロ被害の歴史と支援体制の構築が必ずしも結びつくものではないことを示している。また、オーストラリアにおいてはテロ事件のみに特化した支援制度は存在しないが、オーストラリア国内外で起きた「災害」によって被害を受けた被害者に対する経済的支援制度は存在しており、テロ事件が「災害」として認可された場合、テロ事件被害者に対する経済的支援が可能となる。

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