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6.韓国におけるテロ事件被害者等への経済的支援

韓国では、1987年に成立し、翌1988年から施行された犯罪被害者救助法に基づいて犯罪被害者等に対する経済的支援が行われているが、2005年には犯罪被害者保護に関する基本理念や基本的施策について定める基本法としての犯罪被害者保護法が制定され、この中で犯罪被害者の支援が国家や地方公共団体の責務であることを明確化したうえで、「国家及び地方自治団体は、犯罪被害者の被害程度、保護・支援の必要性等に応じ、犯罪被害者に相談、医療の提供、関連法令による救助金の支給、法律扶助及び就業関連支援等をすることができるよう必要な対策を講じなければならない」(第7条)として、犯罪被害者への経済的支援を行う責務を国と地方公共団体に課している。

また、韓国では、テロリズムに特化した法律、テロ事件の予防や対応に関する体系的な制度や仕組みが構築されておらず、テロ事件によって被害を受けた者の支援に関しても、特別な制度は制定されていない。しかし、テロ行為も全て犯罪行為であることから、テロ行為が韓国領域内で発生した場合は、上述の犯罪被害者救助法に基づき、その被害者に対し救助金(給付金)を支給することは可能である。もっとも、犯罪被害者救助法は犯罪行為が韓国領域内で発生したことを要するものとされているので(第2条1号)、韓国領域外で発生したテロ行為(犯罪行為)の被害者については、給付の対象とはならない。ただ、韓国領域外にあっても、大韓民国船舶もしくは航空機内で発生した犯罪行為の被害者については犯罪被害者救助法による給付の対象になるので、例えば、韓国領域外を飛行する大韓航空機内でテロ行為が発生した場合、その乗客や乗員で被害を受けた者は支援を受けることができる。

また、地方公共団体による支援に限れば、平成21年11月14日に発生した釜山での射撃場「ガナダラ実弾射撃場」の火災事件では釜山市が日本人を含む被害者に補償を行っているという現状もある。この点は6-2で触れていきたい。

韓国の被害者への経済的支援の状況を下記の表6-1に取りまとめたので、参照されたい。

表6-1:韓国における犯罪・テロ被害者への経済的支援制度
  犯罪 テロ
国内 国外 国内 国外
犯罪被害者救助制度 × ×

6-1:犯罪被害者への経済的支援

前述のとおり、韓国における犯罪被害者への経済的支援は「韓国領域内で犯罪の被害を被った者」に対して「犯罪被害者救助金制度」に基づいて行われている。ここではその支援の内容について解説を行いたい(注248)。


(1)制度の根拠法令及び理念・趣旨
「犯罪被害者救助制度」の法的基盤は、1987年に成立し、1988年から施行された「犯罪被害者救助法」である。この法律は、1987年に全面改正された大韓民国憲法第30条が「他人の犯罪行為によって生命・身体に対する被害を被った国民は、法律によって国家から救助が受けられる」と規定し、この憲法上の犯罪被害者救助権を具体化するために制定されたものである。
  憲法によって被害者支援が規定されていることに関しては、「他人の犯罪行為により生命・身体に対し被害を受けた国民は国家より救助を受けることができる旨の規定が新設されたことは特筆に値する。(中略)韓国のように、一国の憲法に被害者支援に関する規定を置く例は珍しく、同国の被害者支援に対する姿勢を窺うことができる」と評価されている(注249)。
  この法律が施行された後、1990年に一部法律が改正され、救助金の支給対象が拡大されている(1990年12月31日法律第4297号一部改正、1990年12月31日施行)。改正の内容は、犯罪の被害者だけでなく、自己又は他人の刑事事件の捜査又は裁判において告訴・告発等捜査の端緒の提供、陳述、証言又は資料提出と関連して被害者となったときに、犯罪被害者救助金を支給するようにしたものである。
  2005年にも同制度の実効性を確保するための法律の改正が行われたが、その内容は以下のとおりであり、この改正によって犯罪被害者等がより受給を受けやすいものとなっている。
  1. 受給要件としての「生計維持が困難な事情がある」ことが削除された。
  2. 改正前は遺族救助金の支給対象たる遺族の範囲でもあり、また受給要件として、どの遺族についても「被害者の死亡当時、被害者の収入により生計を維持していた者」という要件が要求されていたが、改正により、その要件が削除され,被害者の収入により生計を維持していた遺族が優先とされるものの、被害者の収入により生計を維持していていなかった遺族に対しても支給対象となった(注250)。
  3. 救助金の申請期間を、犯罪被害の発生を知った日から1年とされていたものが2年に延長された。
  4. 仮救助金の支給は、職権又は本人の申請に基づいて決定することを明確に規定した(第14条1項関係)。それまでは、仮救助金の支給決定が、職権によるものなのか、仮救助金の申請が必要なのか、特に規定されていなかったが、改正によって規定された。さらに、仮救助金を申請すべき犯罪被害者救助審議会の管轄を新たに規定した。
  2005年の改正で特に重要なのは、やはり受給要件としての「生計維持が困難な事情がある」ことが削除されたことであろう。2005年の改正前は「生計維持が困難な事情がある」の要件があったために、「社会的弱者に対する保護及び援助」といった意味合いが強く、「韓国の救助法は,社会的福祉理論に基づいている」(注251)や「生活保護ないし社会福祉的な性格が強くなっている」との指摘もあったが(注252)、この改正により、被害者の生計状況に拠らず給付が可能になったほか、被害者の収入により生計を維持していなかった遺族も給付を受け取れるようになり、生計が困難でなくなった同制度は社会福祉的な限界から脱却している。さらに、2009年には、下級法令(犯罪被害者救助法施行令)の改正が行われ、障害給付金の対象が拡大されたほか、救助金の給付額が大幅に引き上げられている。
(2)救助金の法的性格および理念
犯罪被害者救助制度に基づく救助金の性格は、被害の損失補填の性格を持った「補償」ではなく、国家が犯罪被害により重大な被害を被った者の経済的影響を緩和し、被害からの回復や自立を支援するためのものである。なお、「犯罪被害者救助制度」は「人の生命又は身体を害する犯罪行為により死亡した者の遺族又は重障害を負った者を救助すること」を目的としている。
(3)給付の種類と対象
「犯罪被害者救助制度」による給付は遺族救助金と障害救助金からなっている。受給するための具体的な要件は、韓国領域内又は韓国領域外の大韓民国船舶若しくは航空機内で起きた犯罪によって被害を受けた者のうち、以下となる。
  • 遺族給付金
    (被害者が死亡した場合)
    犯罪行為により死亡した者の遺族(第2条1号)
  • 障害給付金
    犯罪行為により重障害を負った者
  ここにいう重障害とは、負傷又は疾病が治癒したとき(その症状が固定したときを含む)の身体上の障害(注253)で、大統領令が定める場合をいう(第2条2号)。法律に基づいて制定された犯罪被害者救助法施行令は、障害救助金の対象となる障害の程度を次のように規定している(第2条)
表6-2:障害等級の区分
等級 障害の内容
第1級
1.両眼が失明した人
2.話す機能と飲食物を噛む機能を両方とも永久に完全に失った人
3.神経系統の機能又は精神機能に顕著な障害が残り、常に看病を受けなければならない人
4.胸腹部臓器の機能に顕著な障害が残り、常に看病を受けなければならない人
5.両腕を肘関節以上で失った人
6.両腕を永久に完全に使えなくなった人
7.両足を膝関節以上で失った人
8.両足を永久に完全に使えなくなった人
第2級
1.一眼が失明し、もう一方の眼の視力が0.02以下になった人
2.両眼の視力がそれぞれ0.02以下になった人
3.両腕を手首関節以上で失った人
4.両足を足首関節以上で失った人
5.神経系統の機能又は精神機能に顕著な障害が残り、随時看病を受けなければならない人
6.胸腹部臓器の機能に顕著な障害が残り、随時看病を受けなければならない人
第3級
1.一眼が失明し、もう一方の眼の視力が0.06以下になった人
2.話す機能又は飲食物を?む機能を永久に失った人
3.神経系統の機能又は精神機能に顕著な障害が残り、一生労務に勤められない人
4.胸腹部臓器の機能に顕著な障害が残り、一生労務に勤められない人
5.両手の指をすべて失った人
第4級
1.両眼の視力がそれぞれ0.06以下になった人
2.話す機能と飲食物を噛む機能に顕著な障害が残った人
3.鼓膜の全部の欠損やその他の原因によって両耳の聴力を完全に失った人
4.一方の腕を肘関節以上で失った人
5.一方の足を膝関節以上で失った人
6.両手の指をすべてまともに使えなくなった人
7.両足をリスフラン関節以上で失った人
第5級
1.一眼が失明し、もう一方の眼の視力が0.1以下になった人
2.一方の腕を手首関節以上で失った人
3.一方の足を足首関節以上で失った人
4.一方の腕を永久に完全に使えなくなった人
5.一方の足を永久に完全に使えなくなった人
6.両足の指をすべて失った人
7.胸腹部臓器の機能に顕著な障害が残り、特別に簡単な労務以外には勤められなくなった人
8.神経系統の機能又は精神機能に顕著な障害が残り、特別に簡単な労務以外には勤められなくなった人
第6級
1.両眼の視力がそれぞれ0.1以下になった人
2.話す機能又は飲食物を噛む機能に顕著な障害が残った人
3.鼓膜のほとんどの欠損やその他の原因によって両耳の聴力が耳介に当てて話さなければ、大きな話が聞こえなくなった人
4.一方の耳がまったく聞こえなくなり、もう一方の耳の聴力が40cm以上の距離では、普通の話が聞こえなくなった人
5.脊柱に顕著な奇形もしくは顕著な機能障害が残った人
6.一方の腕の3大関節のうち、2つの関節をまともに使えなくなった人
7.一方の足の3大関節のうち、2つの関節をまともに使えなくなった人
8.一方の手の5本の指又は親指と人差し指を含めて4本の指をすべて失った人

上記のものを対象として救助金を支払うこととしているが、被害者が犯罪行為を誘発した場合若しくはその犯罪被害の発生に関して被害者側に自責事由がある場合や、社会通念上救助金の一部や全部を支給しない方がふさわしいと認められる場合等、不支給となったり減額となる場合もある。それらの内容は以下のとおりである。

  • 被害者と加害者が親族関係の場合
    <<不支給事由>>
    加害者と被害者間に親族関係がある場合
    1. 夫婦(事実上の婚姻関係を含む)
    2. 直系血族
    3. 4親等内の親族
    4. 同居の親族
      ただし、救助金を支給しないことが社会通念に反すると認められる特別な事情がある場合には、救助金の一部を支給することができる。
    <<減額事由>>
    上記に列挙されていない親族関係がある場合

  • 被害者の行為に犯罪の要因があると認められる場合
    【誘発行為等(犯罪被害救助法施行令第7条)】
    <<不支給事由>>
    犯罪被害を受けたことにおいて被害者が次の一に該当する行為を行ったとき
    1. 当該犯罪行為を教唆又は幇助する行為
    2. 過度の暴行・脅迫又は重大な侮辱等当該犯罪行為を誘発する行為
    3. 当該犯罪行為に関連する著しく不正な行為
    ※ただし、救助金を支給しないことが社会通念に反すると認められる特別な事情がある場合には、救助金の一部を支給することができる。
    <<減額事由>>
    犯罪被害を受けたことにおいて被害者が次の一に該当する行為を行ったとき
    1. 暴行・脅迫又は侮辱等当該犯罪行為を誘発する行為
    2. 当該犯罪被害の発生又は増大に関わる不注意な行為又は不適切な行為
  • 社会通念上支給が好ましくないと思われる場合
    【社会通念(犯罪被害救助法施行令第8条)】
    <<不支給事由>>
    1. 当該犯罪行為を容認した場合
    2. 集団的又は常習的に不法行為を行うおそれのある組織に属している場合(その組織に属していることが、当該犯罪の被害を受けたことと関連がないと認められる場合を除く。)
    3. 当該犯罪行為に対する報復として、加害者又はその親族その他の加害者と密接な関係がある者の生命を害し、又は身体に重大な害を加えた場合
    ※ただし、救助金を支給しないことが社会通念に反すると認められる特別な事情がある場合には、救助金の一部を支給することができる。また、被害者又はその遺族と加害者との関係その他の事情を判断し、救助金の全部又は一部を支給することが社会通念に反すると認められるときは、救助金の全部又は一部を支給しないことができる。
(4)給付額および給付調整
前述の2009年の施行令改正により給付額の引き上げがなされた。遺族救助金と障害救助金のそれぞれの額は以下のとおりである。いずれの救助金も、被害当時の被害者の収入を給付基礎額とし、被害の程度に基づく倍数を掛けることで給付額を算出する我が国と異なり、被害の程度(死亡と障害等級)と扶養者の有無(さらに遺族の関係)に基づいて給付額を算出する。

・遺族救助金
  改正前 1,000 万ウォン
  改正後 以下の表6-3に拠る。
表6-3:遺族救助金の支給区分と給付額
区分 給付額
1 次の各目の一に該当する者が3名以上いる場合
  イ 被害者の配偶者(事実上の婚姻関係を含む。以下同じ。)
  ロ 犯罪行為の発生当時、被害者とその配偶者の収入によって生計を維持していた子、孫、兄弟姉妹
  ハ 犯罪行為の発生当時、被害者とその配偶者の収入によって生計を維持していた父母又は祖父母
3,000万ウォン
2 第1項に該当しないが、次の各目の一に該当する者がいる場合
  イ 被害者の配偶者
  ロ 被害者の子、孫、兄弟姉妹
  ハ 被害者の父母又は祖父母
2,000万ウォン
3 第1号及び第2号以外の場合
1,500万ウォン
注1
被害者とその配偶者の子、孫、兄弟姉妹は、それぞれ19歳未満である者、父母又は祖父母は、それぞれ60歳以上である者だけが該当。
注2
障害者福祉法第32条により障害者として登録された者は、第1号の年齢制限を受けない。
表6-4:障害救助金の支給区分(改正後、改正前)
等級 改正前 改正後
1級 600万ウォン 3,000 万ウォン
2級 400万ウォン 2,500 万ウォン
3級 300万ウォン 2,000 万ウォン
4級 - 1,500 万ウォン
5級 - 1,000 万ウォン
6級 - 600 万ウォン


  立法当初から、「生計維持が困難」という受給要件が定められていたため、重大な犯罪被害を受け、収入の途絶や医療費などから経済生活が厳しい状況になりながら、生活が著しく困窮するまでには至らないために給付の対象にならないというのは、経済的支援の在り方として不十分であるとの批判が強かったことから、2005年の法改正により、生計維持の要件が廃止され、支給対象となる遺族も、被害者の死亡当時、被害者の収入によって生計を維持していた者に限らず、支給の対象となることとなった。

  また、これらの給付は、国家賠償法をはじめとする、政府からの他の給付(注254)や、加害者から損害賠償を受けた場合には、その給付額の範囲内又はその賠償額を限度として、支給しない。
(5)申請方法および裁定手続
犯罪被害金の申請は、被害者の住所地または犯罪発生地を管轄する地方検察庁に設置されている「犯罪被害救助審議会」に行う。犯罪被害救助審議会は、全国の各地方検察庁に設置される行政委員会で、地方検察庁の次長検事を委員長とし、当該地方検察庁の所属公務員、裁判官の資格を持つ者及び医師の中から、法務部長官が任命又は委嘱する4人の委員から成る(注255)。「犯罪被害救助審議会」にて審議を行った後、被害者へ支給の可否と、支給する場合にはその金額が伝えられる。なお、犯罪の発生を認知した日から2年、若しくは犯罪発生日から5年経過の後には申請を行うことができないことと定められている(12条2項)。
  申請の際に提出する書類は以下のとおり、被害者遺族の場合と被害者本人の場合で2通りである。
  1. 遺族の場合:救助金支給申請書(注256
    ・死亡診断書、死体検案書など、死亡日付と死亡した事実を証明できる書類
    ・戸籍謄本等、被害死亡者と申請人の関係を証明できる書類又は被害者と申請人が事実婚の関係にあったことを証明できる書類
  2. 被害者本人の場合:救助金支給申請書
    ・障害診断書、障害等級が明示された障害診断書
(6)財源および給付実績
2009年度の同制度の予算は22億4600万ウォンである。
なお、2004年以降の同制度への給付金支給申込件数と支給された件数については次ページの表6-5の通りである。
★表6-5:1988年度以降の申込件数と給付の実績 表示箇所
注248
本章の韓国の犯罪被害者救助制度については、慶應義塾大学の太田達也教授から最新の法改正を含む法令の内容や制度の実施状況に関する情報提供を受けた。
注249
太田達也「被害者支援を巡るアジアの最新事情」『宮澤浩一先生古稀祝賀論文集第一巻』(2000)成文堂P.364。
注250
受給の順位としては、まず
  1. 配偶者(事実上の婚姻関係を含む)と被害者の死亡当時、被害者の収入により生計を維持していた被害者の子
  2. 被害者の死亡当時、被害者の収入により生計を維持していた被害者の父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順とされ、被害者の収入により生計を維持していた訳ではない、被害者の子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹については、その次の順位とされた。
注251
朴光燮「韓国の犯罪被害者救助法に関する研究」被害者学研究5号(1995)35頁。
注252
太田達也「被害者支援を巡るアジアの最新事情」『宮澤浩一先生古稀祝賀論文集第一巻』成文堂(2000)P.364。
注253
救助法では「身体上の障害」という文言が用いられているが、表6-2からもわかるように、これは身体障害だけを意味するのではなく、精神の重大な障害(例えば、PTSD)をも包摂した概念、即ち「心身の障害」に近い概念と捉える必要がある。
注254
犯罪被害者救助法施行令第9条により、被害者又はその遺族が次の各号のいずれかに該当する補償又は給与等を受けられる時は、その支給を受ける額の範囲内で、法第7条の規定により、救助金を支給しないこととされている。
  1. 国家賠償法第2条第1項の規定による損害賠償の支払
  2. 産業災害補償保険法による障害給付・遺族給付傷病補償年金
  3. 自動車損害賠償保障法第30条による損害補償
  4. 義死傷者(救助行為による死傷者)の礼遇及び支援に関する法律第8条による補償金
  5. 船員法第10章の規定による災害補償
  6. 船員保険法第3章第2節の規定による療養措置及び傷病手当金,同法第36条の規定による養老年金残額,同法第37条の規定による養老年金一時金,同法第3章第4節による肺結核年金と肺結核手当金,同法 第3章第6節による死亡手当金
  7. 勤労基準法 第8章による災害補償
  8. 消防基本法第39条第2項の規定による傷痍・死亡に対する補償
  9. 国家公務員法第77条,地方公務員法第68条及び公務員年金法第42条第2号第3号各目(退職年金受給権者の死亡による遺族年金は除く)との規定による給付
  10. 私立学校法第60条の2及び私立学校教員年金法第33条の規定による給付
注255
当審議会の組織については「犯罪被害者救助法施行令」により以下のとおり定められている。
  1. 管轄:審議会の管轄区域は各審議会が設置された地方検察庁の管轄区域(地庁がある場合は地庁の管轄区域を含む)とする。
  2. 構成:審議会は当該審議会が設置された地方検察長の次長検事を委員長とし、
  3. 管轄の指定等に関して、管轄が不明確な事件に対しては、法務部長官が申請人若しくは審議会の請求によって、又は直権でこれを管轄する審議会を指定する。
  4. 法務部長官の指揮・監督:[1]法務部長官は各審議会を指揮・監督するために必要な命令又は措置を取ることができる。[2]法務部長官は第1項の職務を行うために必要であると認められる時は、所属職員又は各級検察庁の検事に各審議会の業務処理を監査させることができる。
注256
2005年の改正前は、「所得金額証明書、非課税証明書、生活保護対象者証明書など、被害者世帯の生計維持が困難であることを証明できる書類の提出」が必要であったが、改正後不要となった。

6-2:(参考)釜山市の射撃場火災について同市で行われている被害者支援

先頃発生した韓国釜山市の室内射撃場における火災事故(経営者は業務上過失致死で起訴)において地方公共団体が経済的支援を行った例があるので、ここでその内容を紹介したい。

(1)事件の概要
釜山射撃場火災は、2009年11月14日に韓国釜山広域市の室内射撃場で発生した火災である。この火災では15人(日本人観光客10人を含む)が死亡し、日本人観光客1人が負傷した。本火災では約1時間半後に2階部分の250平方メートルを焼いて鎮火し、消防によって10人の遺体が収容された。遺体が収容されたのは日本人観光客7人と韓国人ガイド1人、射撃場従業員2人で、11月18日に意識不明となっていた韓国人ガイド1人が、11月22日に日本人1人、11月24日に韓国人従業員1人、11月27日に重体となっていた日本人2人がそれぞれ死亡し、死者は15人となった。また日本人1人が負傷している。釜山の警察は射撃の火花が施設内の火薬の残留物や防音壁などの可燃物に燃え移ったのが火災の原因であるとして、経営者と現場管理者の2人の逮捕状を請求し、12月2日に逮捕した。
(2)根拠法令および理念・趣旨
上記の火災に対し、釜山市は「釜山広域市中区新昌洞射撃場建物火災事故死傷者に対する補償金支給条例案」を制定し、本事件の被害者に対しての経済的な支援を行うこととした。本条例の目的については「この条例は2009年11月14日に釜山広域市中区新昌洞3街13-1番地に所在した射撃場建物の火災事故によって発生した死傷者に対して補償金を支給することで、死傷者及びその家族を慰め、地域社会の安定と観光産業の発展に資することを目的とする。」とされている。
(3)給付対象
補償金の審議・議決等のために「補償審議委員会(注257)」が設置され、補償金の受領権者、決定、通知、再審議、請求、取り戻し等の手続きを規定することとされている。
(4)給付内容および併給調整
上記の委員会で額が確定されるため定められた金額はなく、補償額は被害者の年齢と職業などによって異なることもあるが、釜山市は逸失利益、慰謝料、葬儀費用、治療費などを含めて、1人当たり3億~5億ウォン規模になると推定している(注258)。
(5)対象者
補償金の支給対象は射撃場火災事故による死傷者に限定されている。
(6)財源および給付実績
財源については条例の中に記載されておらず、給付実績も今のところない。補償金額については、「21億ウォン程度は責任者に対する求償権の行使を通じて、17億ウォンは韓国訪問年委員会の寄付金募金であて、残りの額は行政安全部と文化体育観光部など、政府から補填される計画である。」と報道されている(注259)。
注257
委員会の構成員は以下のとおりである。委員会の委員長は政策企画室長が務め、副委員長は委員の中で委員長が指名し、委員は次の各号の人の中から釜山広域市長が任命または委嘱することとなっている。
  1. 釜山広域市の公務員
  2. 釜山広域市議会が推薦する人
  3. 弁護士
  4. その他に死傷者補償業務に関する学識と経験の豊富な人
注258
2010年2月2日 国際新聞掲載記事より
注259
2009年12月17日 連合ニュース記事より

6-3:総括

以上の制度概要を踏まえ、韓国における犯罪・テロ被害者への経済的支援の特徴をまとめる。

韓国では、テロの被害者に特化した特別な支援策を行ってきておらず、ただ韓国内や韓国外でも大韓民国の航空機や船舶内で発生した犯罪行為による被害者であれば、犯罪被害者に対する経済的支援について定めた犯罪被害者救助法による給付金が支給される可能性があるにすぎず、ましてやそれさえも、韓国領域外(大韓民国の航空機や船舶内以外)で発生した犯罪行為であれば対象とはならない。

しかしながら、2009年の釜山市の射撃場火災の際には迅速な対応が取られるなど、被害者等に対する経済的支援については意識が高まっていると言え、従来の制度では支援の対象とはならないような事案であっても、個別に政府が支援策を整備する可能性は十分にあり得る。

また、国内の犯罪被害者に対する支援については、憲法に規定された制度の基での支援が行われるなど充実した支援が行われているものの、一方では2008年時点では「犯罪被害で死亡した場合も補償金は最高1000万ウォン(約75万円)にすぎない」と、保障の薄さを指摘する声もあった(注260)。しかし、犯罪被害者救助金制度に関しては、2009年の法の改正に際して支給額が増額されたこともあり、更なる広がりが期待されるところである。また、現在、韓国の国会に犯罪者から徴収した罰金額の一部等を原資とした犯罪被害者保護基金を創設し、これを用いて犯罪被害者救助金の支給を含め、犯罪被害者に対する支援策の充実を図るための法案が提出されている(2009年3月現在)ことから、今後、国内で発生したテロ行為を含む犯罪被害者に対する支援が今後広がりを見せることが期待される。

一方、「犯罪被害者保護法」の基で行われている民間被害者支援団体による犯罪被害者の支援が行われていることにも言及しておきたい。韓国では、初の総合的な犯罪被害者支援団体「被害者支援センター」が2003年の9月に設立された後、全国で57か所(注261)の犯罪被害者支援センターが設けられている。その活動の内容については、「一般相談、法律相談、医療相談などの相談業務(電話相談、面接相談)や刑事手続及び医療等に関する一般情報の提供と紹介を行っている点では共通しているが、それに加え、警察での事情聴取や証人尋問の際の付添いや自助グループに対する支援活動を行っているところもある。」(注262)。また、犯罪被害者支援センターとして立ち上げられたものの中には、被害者に対する経済的支援を行っているところもある(注263)。今後このような動きの中から官民による犯罪被害者に対する経済的支援の充実が期待されるところである。

注260
シン・ソンホ首席論説委員「名前だけの犯罪被害者保障」『中央日報』
2008年10月24日 http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=106446&servcode=100&sectcode=120
注261
韓国法務部掲載の資料より
注262
太田達也 「韓国における被害者支援と修復的司法の現状と展望」『警察学論集』第58巻第8号 立花書房 / 警察大学校(2005)128頁。
注263
太田達也 「韓国における被害者支援と修復的司法の現状と展望」『警察学論集』第58巻第8号 立花書房 / 警察大学校(2005)129頁。