企画分析会議構成員コラム 5

国立精神・神経センター精神保健研究所 中島聡美

 本調査も2年目になりました。今年度は2つの点で従来の調査にはない重要なことが明らかになったのではないかと思います。1つは、Web調査において年齢、性別をマッチさせた対照群(被害を経験していない人:一般対象者)を取り入れたことです。従来の調査では対照群がないために、例えば犯罪被害者の方の精神健康が被害者でない人と比較してどの程度悪いのかということをはっきり示すことができませんでした。しかし、今回の調査では、犯罪被害者の方は、被害を受けていない人と比較して「過去30日間の健康上の問題」を有している人の割合はあまり差がなかったのですが、「過去30日間の精神的な問題や悩み」を有する割合が多く(殺人・傷害等被害、性犯罪被害)、K6(精神健康のスクリーニング尺度)による評価で重度の精神障害に相当する方の割合が多いことが明らかにされました。特にK6における重度精神障害相当者の割合は、一般対象者(6%)の2~6倍(交通事故被害13%、殺人・傷害等被害23%、性犯罪被害36%)であり、被害から数年経過した被害者において精神健康上の問題が非常に大きいことがわかり、精神的回復のための支援の重要さを改めて認識させられた次第です。また、今年度は本来なら精神科的な治療が必要と思われる重度精神障害相当者の方がどれくらい精神科医療を受けているのかということも分析されましたが、このような重度の症状を抱えた方でも医療機関に通った方は半分に満たず(43%)、20%以上の方は特になにもしていませんでした。医療機関に通院した割合は、一般対象者より(13%)よりもずっと高いことから、医療機関の受診を促すようななんらかの支援があったのではと考えることもできますが、まだまだ多くの方が治療を受けることができていない状況であり、今後は安心してかかれる医療機関や紹介を促進するネットワークつくりが必要だと思われます。

 もう1つの新しい点は、パネル調査で縦断的な変化を見ることができたということです。縦断的な調査の目的は2つあり、1つは、被害者の方の時間の経過に伴ってどのような回復が見られるのかということと、もう1つは受けた支援によってその回復に差が見られるのかということを評価することです。時間の経過に伴う変化については、被害から3年以上たった方に、より精神的な状況や身体的な状況において回復したと回答した割合が増えているようでした。このことから被害者の方の回復は少し時間がたってからゆっくりすすんでいくのではないかということと、支援の内容のほとんどが急性期のものであることから、少し時間がたってからの方の精神や生活の回復を助けるような支援が必要であることが示唆されたと思います。残念ながら、今年度の段階では受けた支援による回復の差といったものを明らかに示すことはできませんでしたが、多くの被害者の方が数年経過した時点でも、精神的な問題、生活上の問題を抱えており、中長期的な支援策の推進が必要であることを知ることができました。今回の結果を踏まえて、今後の支援に取り組んでいければと思っています。

 

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