第4章 回復度合いの傾向分析結果

 パネル調査対象者の昨年度と比較した回復度合いとその傾向について考察するため、主観的回復度合いと客観的回復度合いを用い、それぞれについて利用した支援・制度等との関連性を分析した。

 主な分析結果としては、次の3点があげられる。

(1)主観的回復度合い、客観的回復度合いともに、回復傾向にある人が悪化傾向にある人よりも多くなっている。
(2)支援・制度のうち、「公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)」と「刑事裁判における意見陳述等」については主観的な回復傾向、客観的な回復傾向の双方との関連がみられる。
(3)支援・制度については、客観的回復度合いと関連がみられるものが多くなっている。

1.分析手法について

 分析手法としては、多変量解析等も考えられるが、サンプル数が少ないこともあり、ここでは、偏相関係数を用いた分析を行う。たとえば、生活上の変化、回復度合いの変化、被害からの経過年数の3つの変数それぞれの相関関係を求める場合、被害からの経過年数が、生活上の変化と回復度合いの変化との関係に影響を与えていると考えられる。生活上の変化と回復関係の変化を正しく理解しようとすれば被害からの経過年数による影響を取り除く必要がある。このように第3の変数が相関関係に与える影響を取り除き、2変数間のより純粋な関係を調べるための手法が偏相関分析である。

 昨年度からの主観的な回復度合いの変化を表す指標としては、今年度の主観的回復度合いに関する設問への回答と、昨年度の主観的回復度合いに関する設問(問15)への回答の差を用いる。この設問は、事件当時から「全く回復していない」=1、...、「もとどおり回復した」=10となっているため、これらの差が正の数値の場合は回復傾向にあり、負の数値の場合は悪化傾向にあるといえる。主観的回復度合いの差の分布は下図のとおりである。

○主観的回復度合いの変化の度数分布

主観的回復度合いの変化の度数分布

 

 昨年度からの客観的回復度合いの変化を表す指標としては、今年度のK6の合計値と昨年度のK6の合計値(問5)の差を用いる(※)。この差が正の数値の場合は精神健康状態が悪化傾向にあり、負の数値の場合は回復傾向にあるといえる。K6の差の分布は、下図のとおりである。

○客観的回復度合いの変化の度数分布

客観的回復度合いの変化の度数分布

※ここでは、客観的な回復度合いとして、K6の合計値を用いる。主観的回復度合いは健康状態、精神状態等を含む総合的な指標であるが、ここでいう「客観的回復度合い」とは、精神健康状態の客観的指標であることに注意が必要である。なお、主観的な回復度合いの変化と客観的な回復度合いの変化との相関係数は、-0.05と相関関係はみられない。

 次に偏相関分析に含める変数であるが、まず、統計学的現象として、昨年度の調査時点で主観的回復度合いが比較的高い場合、今年度の主観的回復度合いは低くなる傾向があり、また同様に、昨年度調査時点でK6の合計値が比較的高い場合には、今年度のK6の合計値は低くなる傾向がある。このような「回帰効果」を取り除くため、主観的な回復度合いの変化の分析には平成19年度の主観的回復度合い、客観的な回復度合いの変化の分析には平成19年度の客観的回復度合いを含める。

 また、その他の要因になんら変化がなくても、時間の経過とともに被害の影響から徐々に回復していくことも考えられる。事件からの時間的な経過が回復度合いに与える影響を取り除くため、分析モデルには被害からの経過年数(月単位)を含める。

 これらの変数に加え、昨年度調査結果報告書において、主観的回復度合いとの関連性が指摘された、事件直後と比較した経済状況等の変数と、利用率の比較的高い支援や制度の利用状況を分析モデルに含め回復度合いの変化との偏相関係数を求める。分析モデルに含める変数は以下のとおりである。

本年度調査より

▽ この1年間の生活上の変化「家族間で信頼が深まった」(Q12.12)
▽ この1年間の生活上の変化「家族間で不和が起こった」(Q12.13)
▽ 事件直後と比較した精神的な変化(Q13.2)
▽ 事件直後と比較した経済的な変化(Q13.3)
▽ この1年間に関わりのあった人「加害者関係者」(Q17.1)
▽ この1年間に受けた支援・使った制度(Q16)(利用率10%以上のみ)
  1.警察による加害者に関する情報の提供(Q16.3)
  2.地域警察官による被害者訪問・連絡活動(Q16.4)
  3.警察による相談・カウンセリング(Q16.5)
  4.公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)(Q16.10)
  5.刑事裁判における意見陳述等(Q16.12)
  6.民事損害賠償請求制度(Q16.17)
  7.民間支援団体等による電話やFAX、面接、メール等による相談(Q16.31)
  8.自助グループへの参加(Q16.36)

昨年度調査より

▽ 事件から1年以内に受けた支援・使った制度(Q17A)(利用率20%以上のみ)
  1.「被害者の手引」による各種支援内容や刑事手続に関する情報提供(Q17A.2)
  2.警察による加害者に関する情報の提供(Q17A.3)
  3.地域警察官による被害者訪問・連絡活動(Q17A.4)
  4.警察による相談・カウンセリング(Q17A.5)
  5.「被害者支援員」による法廷への付き添いや各種手続きの補助(Q17A.8)
  6.公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)(Q17A.10)
  7.冒頭陳述の内容を記載した書面の交付(Q17A.11)
  8.刑事裁判における意見陳述等(Q17A.12)
  9.優先的に裁判を傍聴できる制度(Q17A.13)
  10.公判記録の閲覧・コピー(Q17A.15)
  11.民事損害賠償請求制度(Q17A.17)
  12.家事や家族の世話、育児などの支援(Q17A.32)
  13.民間支援団体等による関係機関・団体の紹介(Q17A.33)
  14.自助グループへの参加(Q17A.35)

▽ 事件から1年以降、昨年度の調査時点までに受けた支援・使った制度(Q17B)(利用率20%以上のみ)
  1.警察による加害者に関する情報の提供(Q17B.3)
  2.公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)(Q17B.10)
  3.冒頭陳述の内容を記載した書面の交付(Q17B.11)
  4.刑事裁判における意見陳述等(Q17B.12)
  5.優先的に裁判を傍聴できる制度(Q17B.13)
  6.公判記録の閲覧・コピー(Q17B.15)
  7.民事損害賠償請求制度(Q17B.17)
  8.民間支援団体等による関係機関・団体の紹介(Q17B.33)
  9.自助グループへの参加(Q17B.35)

 主観的回復度合いの変化と、平成19年度の主観的回復度合い、経過年数、そして上記37変数との偏相関、また客観的回復度合いの変化と、平成19年度の客観的回復度合い、経過年数と上記37変数との偏相関を算出した場合、いくつかの変数は、主観的回復度合いとの偏相関、及び客観的回復度合いとの偏相関がともに低い(絶対値0.15以下)ことがわかる。このような10つの変数は、以下のとおりである。

本年度調査より

▽ この1年間に関わりのあった人「加害者関係者」(Q17.1)
▽ この1年間に受けた支援・使った制度(Q16)(利用率10%以上のみ)
  1.「被害者の手引」による各種支援内容や刑事手続に関する情報(Q16.2)
  2.-地域警察官による被害者訪問・連絡活動(Q16.4)

昨年度調査より

▽ 事件から1年以内に受けた支援・使った制度(Q17A)(利用率20%以上のみ)
  1.「被害者の手引」による各種支援内容や刑事手続に関する情報提供(Q17A.2)
  2.警察による加害者に関する情報の提供(Q17A.3)
  3.警察による相談・カウンセリング(Q17A.5)
  4.民間支援団体等による関係機関・団体の紹介(Q17A.33)

▽ 事件から1年以降、昨年度の調査時点までに受けた支援・使った制度(Q17B)(利用率20%以上のみ)
  1.冒頭陳述の内容を記載した書面の交付(Q17B.11)
  2.民事損害賠償請求制度(Q17B.17)
  3.自助グループへの参加(Q17B.35)

 たとえば「Q17B.35 事件から1年以降に自助グループに参加した」の場合、事件から1年以降に自助グループに参加することが回復度合いに影響しないということではなく、他の変数との相関関係も高く、その変数と同じような影響を回復度合いに及ぼすため、ここでは回復度合いとの相関関係が「かき消されている」と考えることもできる。いずれにしても、これらの変数は、回復度合いとの偏相関が比較的低いため、分析モデルから除き、あらためて偏相関係数を算出する。

 

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