第4章 回復度合いの傾向分析結果

2.分析結果について

 主観的回復度合いの変化と、平成19年度の主観的回復度合い、経過年数、そして27変数との偏相関、また客観的回復度合いの変化と、平成19年度の客観的回復度合い、経過年数と27変数との偏相関は、下表(主観的回復度合いと客観的回復度合いとの偏相関)のとおりである。

 主観的回復度合いと客観的回復度合いとの偏相関をみると、昨年度の回復度合いを除き、回復度合いの変化との相関関係は、総じて弱いことがわかる(※)。

※相関係数の2乗の数値は一方の変数が他方の変数をどのくらい説明できるかを表す。たとえば、0.2の場合、2乗した0.04、つまり一方の変数の4%の変化を他方の変数で説明できるということである。

○主観的回復度合いと客観的回復度合いとの偏相関

主観的回復度合いと客観的回復度合いとの偏相関

 偏相関を散布図(「偏相関係数の分布」を参照されたい。)に表すと、変数をいくつかのグループに分け、それぞれの変数と主観的回復度合い及び客観的回復度合いとの関係を特徴づけることができる。

 たとえば、「Q16.5 警察による相談・カウンセリング(この1年間)」については、主観的な回復度合いの変化とは正の相関があるが、客観的な回復度合いの変化とは相関関係がみられない。つまり、警察による相談・カウンセリングをこの1年間に受けた人と受けていない人を比べたとき、相談・カウンセリングを受けた人のほうが、主観的回復度合いに関する設問に対して、昨年度の調査に比べて、より回復したと回答する傾向がある。しかし、このような関係は、客観的な回復度合い(K6の合計値)には、みられない。同様の関係が、「Q17A.15 公判記録の閲覧・コピー(事件から1年以内)」や「Q13.2 事件直後と比較した精神的な変化」にもみられる。また、「Q16.3 警察による加害者に関する情報の提供(この1年間)」をみると、主観的な回復度合いとの相関関係はみられないが、客観的な回復度合いの変化とは負の相関がある。つまり、警察による加害者に関する情報の提供をこの1年間に受けた人と受けていない人を比べたとき、加害者に関する情報の提供を受けた人のほうが、K6の合計値が、昨年度に比べ低くなる(回復傾向にある)傾向がみられる。同様の関係は、「F3 事件からの経過年数(月数)」、「Q17A.13 優先的に裁判を傍聴できる制度(事件から1年以内)」、「Q17A.17 民事損害賠償請求制度(事件から1年以内)」、「Q17A.35 自助グループへの参加(事件から1年以内)」、「Q17B.13 優先的に裁判を傍聴できる制度(事件から1年以降、昨年まで)」、「Q17B.33 民間支援団体等による関係機関・団体の紹介(事件から1年以降、昨年まで)」、「13.3 事件食後と比較した経済的な変化」にもみられる。

○偏相関係数の分布

偏相関係数の分布

※たとえば、「Q16.17 民事損害賠償請求制度(この1年間)」の場合、この1年間に民事損害賠償請求制度を利用した人は利用していない人に比べ、K6の合計値が高い傾向(悪化傾向)がみられるということになる。しかしだからといって、民事損害賠償請求制度を利用したためにK6の合計値が高くなったというわけでは必ずしもない。ここで示している回復度合いとの関係は、あくまで相関関係であり因果関係ではないという点には注意が必要である。

 各変数を分類するとまず気付くのは、事件から1年以内に利用することと、主観的度合いあるいは客観的度合いの回復とに関連がみられる支援や制度が比較的多く、この1年間に利用することと、回復度合いの悪化と関連がみられる支援や制度が比較的多いことである。

 これは、たとえば「自助グループへの参加」の場合、事件から1年以内の「自助グループへの参加」が客観的な回復度合いにプラスに働き、この1年間の「自助グループへの参加」が客観的な回復度合いにマイナスに働いたということでは必ずしもない。自助グループに参加するきっかけとなる出来事があり、その出来事が客観的回復度合いにマイナスに働くとも考えられる。もし仮に客観的な回復度合いが低いときに自助グループに参加する傾向がみられ、その後、(自助グループに参加したことによるプラス効果もあるだろうが)時間の経過とともに回復に向かうのであれば、事件から1年以内の「自助グループへの参加」に客観的な回復傾向との関連がみられ、この1年間の「自助グループへの参加」に客観的な悪化傾向との関連がみられても不思議ではない。

 多くの支援や制度は、事件と関連する出来事をきっかけとして利用する場合が多いだろうため、後者のような解釈が自然と考えられる。

 次に気付くのは、分析モデルにいくつかの時期にわたって含まれている支援や制度については、経年で回復度合いとの偏相関が逆転しているものが多いことである。たとえば、公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)の場合、事件から1年以内(Q17A.10)の場合は「(1)主観的度合い、客観的度合いともに回復傾向」、事件から1年以降、昨年まで(Q17B.10)であれば「(7) 客観的度合いは悪化傾向」、そして、この1年間(Q16.10)については「(8) 主観的度合いは回復傾向、客観的度合いは悪化傾向」となっている。また、刑事裁判における意見陳述等の場合は、事件から1年以内(Q17A.12)であれば「(4) 主観的度合いは悪化傾向、客観的度合いは回復傾向」、事件から1年以降、昨年まで(Q17B.12)は「(2) 主観的度合い、客観的度合いともに回復傾向」、そして、この1年間(Q16.12)では「(5) 主観的度合いは悪化傾向」となっている。

 たとえば、「自助グループへの参加」については、前述のように自助グループに参加するきっかけとなった出来事があり、その出来事が客観的回復度合いにマイナスに働くと考えることができる。同じような解釈は、「公判期日、裁判結果等に関する情報の提供(被害者等通知制度)」、「公判記録の閲覧・コピー」や「民事損害賠償請求制度」にもできるだろう。

 しかし、警察による加害者に関する情報の提供のように、事件から1年以降に利用した場合には、客観的度合いに悪化傾向がみられ、この1年間の場合には、回復傾向がみられる支援や制度もある。これは、たとえば、加害者に関する情報の提供を受けることにより、客観的な回復度合いが一時的に改善し、その後、回帰効果により回復度合いが低下する傾向があるのかもしれない。あるいは、客観的度合いが(一時的に)回復傾向にあるときに、情報の提供を受けたと被害者が認識しやすい傾向にあるのかもしれない。回復度合いの経年変化と関連付けた同なじような説明は、刑事裁判における意見陳述等についても可能であろう。

 しかし、この分析モデルに含まれていない様々な要素が被害者等の回復度合いに影響を与えるであろうから、ここで取り上げているいずれの回復度合いとの関連性についても、その原因を断定的に説明することはできない。よって、特に経年による相関の逆転がみられる支援や制度については、回復度合いとのプラスやマイナスの関係に注目するのではなく、その支援や制度と主観的回復度合いや客観的回復度合いとの関連性の有無を表していると考えるほうが妥当かもしれない。

 このような考え方に基づき、支援や制度と回復度合いとの関連性の有無をまとめたのが下表である。

○回復度合いとの関連性の有無

回復度合いとの関連性の有無

 全体的な傾向として、犯罪被害者等のための支援や制度は、客観的回復度合いと関連性があるものが多い。これは、分析モデルに含まれている支援・制度の多くが散布図の(3)あるいは(7)に位置していることからもうかがえる。多くの支援や制度は、被害者の精神健康状態との関連性が比較的強いということであろう。

 このほか、「その他の要因」としてモデルに含まれている項目については、次のようなことがいえる。

 まず、被害からの経過年数(F3)については、客観的な回復傾向との関連はみられるが、主観的な回復度合いとの関連はみられない。

 次に、「Q13.2 事件直後と比較した精神的な変化」は、主観的な回復傾向との関連はみられるが、客観的な回復度合いとの関連はみられない。「Q13.3 事件直後と比較した経済的な変化」は、逆に客観的な回復傾向との関連はみられるが、主観的な回復度合いとの関連はみられない。

 そして、「Q12.12 この1年間の生活上の変化『家族間で信頼が深まった』」と「Q12.13 この1年間の生活上の変化『家族間で不和が起こった』」はともに客観的な悪化傾向との関連がみられる。しかしこれは、家族間の信頼が深まればK6の合計値が上がるということでは必ずしもなく、「家族間で信頼が深まった」あるいは「不和が起こった」と感じるきっかけとなった出来事があり、その出来事が客観的な回復度合いにマイナスに働く傾向があると解釈することもできる。

 

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