第1章 調査概要

7.調査結果について

2) 全体傾向について

 本年度調査の特徴としては、次の2点があげられる。まず、パネル調査において、同一対象者に継続調査を実施することで被害者等の置かれた状況のこの1年間の変化を把握・分析している。また、Web調査において、被害者等の現況の把握に加えて、一般対象者にも調査を実施することで、被害者等との健康上の問題や精神的な問題や悩み等について比較・分析している。

パネル調査結果

 過去30日間に精神的な問題や悩みがあったとする人の割合や、客観的な精神健康の指標において「重症精神障害相当」とされる人の割合は被害者等の間で依然として多い。

 しかし、精神的な問題や悩みが事件と関連しているとする人の割合は、昨年度に比べやや少なくなっている。また、客観的な精神健康の指標において「重症精神障害相当」とされる人の割合、この1年間に事件が関連すると思われることで仕事や日常生活が行えなくなった非就業日数、主観的に事件から現在までに「半分程度以上回復した」とする人の割合は、いずれにおいても昨年度の数値より低くなっている。これらのことから、このわずか1年の間にも被害者等は回復傾向にあることがわかる。

 このほか、今年度調査では、この1年間に受けた給付や支援、この1年間に経験した事件に関する出来事や二次的被害について尋ねている。犯罪被害者等給付金や自動車保険・生命保険の支給等をこの1年間に受けたとする人の割合は総じて低く、昨年度調査結果と比較すると、多くの給付や支給は被害から数年の間(特に事件から1年以内)に受け取る場合が多いことがわかる。このことは、被害から3年未満とする人で、給付や支給を受けたとする人の割合が多いことからもうかがえる。同様の傾向は、支援や制度の利用率にもみられる。

 被害者等は長い時間をかけて徐々に回復に向う傾向がみられるが、多くの給付や支援は、事件から数年の間に利用されており、事件から数年後の被害者等の回復を助ける支援や制度を今後さらに充実させていく必要があるだろう。

Web調査結果

 「過去30日間に健康上の問題があった」とする被害者等の割合は、殺人・傷害等で35%、交通事故で41%、性犯罪で48%となっている。一般対象者の間では41%となっており、被害者等の割合とそれほど大きく違っていない。しかし、「過去30日間に精神的な問題や悩みがあった」とする一般対象者の割合は39%であるのに対し、殺人・傷害等の被害者等では60%、交通事故では44%、性犯罪では68%と、特に殺人・傷害等及び性犯罪の被害者等で多くなっている。また、客観的な精神健康状態の指標において「重症精神障害相当」とされる一般対象者の割合は6%なのに対して、殺人・傷害等では23%、交通事故では13%、性犯罪では36%となっている。

 以上のことから、犯罪被害者等は、一般対象者に比べて精神健康上の問題がより深刻であることがわかる。

 昨年度調査において「過去30日間に健康上の問題があった」とする人の割合は、殺人・傷害等で40%、交通事故で38%、性犯罪で31%、また、「過去30日間に精神的な問題や悩みがあった」とする人の割合は、殺人・傷害等で52%、交通事故で39%、性犯罪で44%となっている。

 昨年度の調査結果と比べると、健康上の問題があったとする人の割合は、交通事故と性犯罪の被害者等で、また、精神的な問題や悩みがあったとする人の割合については、いずれの類型においても今年度やや増えている。

 また、昨年度の調査において、健康上の問題と事件が関連していると回答しているのは、殺人・傷害等で37%、交通事故で24%、性犯罪で6%なのに対して、今年度調査では、殺人傷害等で61%、交通事故で33%、性犯罪で52%と増えている。同様の傾向は、精神的な問題や悩みにもみられる。

 一方、受けた給付や支給、事件に関する出来事の経験有無や生活上の変化については、昨年度と比べ、全体的な傾向に大きな違いはみられない。

課題や問題点

(1) パネル調査結果からは、犯罪被害者等の回復は緩やかで長期間を要すること、また、Web調査からは、一般対象者に比べ、精神的な問題や悩みがより深刻であることがわかる。改めて、犯罪被害者等に対する支援を継続的に講ずる必要が示されている。

(2) 現状では、支援や制度の利用率は総じて低い。Web調査結果をみると、支援や制度の利用率が20%を超えるのは、性犯罪の被害者等で「警察による加害者に関する情報の提供」と「警察による相談・カウンセリング」のみとなっている。また、多くの支援や制度は事件から1年以内に利用されており、支援や制度の連続性に課題もみられる。

(3) 支援や制度の認知率も総じて低い。Web調査結果をみると、支援や制度の中で認知率が20%を超えるのは、殺人・傷害等と交通事故による被害では、「警察による事件発生直後からの付添い」、性犯罪による被害では、「警察による相談・カウンセリング」、「警察による加害者に関する情報の提供」、「警察による事件発生直後からの付添い」、「『被害者の手引』による情報提供」、「パトロール等による身の安全の確保」と、被害発生直後に接触する捜査機関の支援に限られている。

(4) Web調査結果をみると、認知をしている人の支援や制度の利用率は比較的高い。このことから、利用率の低さの原因として認知の低さが指摘できる。支援や制度の情報提供をより一層充実していく必要があると考えられる。

(5) 二次的被害については、依然として「加害者関係者」や「捜査や裁判等を担当する機関の職員」により傷つけられることが多かったとする被害者等の割合が多い。また、家族や友人、職場や地域の人など、普段の生活において身近な人々からも傷つけられたと感じる被害者等も一定の割合を占めている。犯罪被害者等の置かれた状況の理解の増進と配慮・協力の確保への取組を今後さらに推し進める必要があるだろう。

(6) パネル調査結果からもわかるように、事件から数年経った後でも健康上の問題あるいは精神的な問題・悩みを抱えている被害者等は多い。犯罪被害者等基本計画でも基本方針の1つとして途切れることのない支援施策の展開が示されているところから、今後なお一層の中長期的な施策の連携、展開が望まれる。

 平成20年7月には犯罪被害給付制度における遺族給付金や重度後遺障害者に対する障害給付金の引上げ等が行われ、また、12月には犯罪被害者等が刑事裁判に参加することができる被害者参加制度が施行される等、犯罪被害者等に対する支援や制度はより充実したものとなってきている。調査結果は被害が発生した当時の課題や問題点を示しているという解釈もできるが、今年度調査結果を踏まえ、犯罪被害者等が平穏な生活を取り戻せるよう、今後さらに支援や制度を充実させていくことが望まれる。

 

戻る > 目次  次へ > 1-7-3.各設問の調査結果について