第1章 調査概要

7.調査結果について

3) 各設問の調査結果について

◆身体・精神状況について◆

健康上の問題

過去30日間の健康上の問題の有無(パW問1(※))
健康上の問題と事件との関連度合い【ベース:過去30日間に健康上の問題があった人】(パW問2)
健康上の問題の解決策【ベース:過去30日間に健康上の問題があった人】(パW問7)

 過去30日間に健康上の問題があったと認識している人の割合は、パネル調査では、殺人・傷害等で48%、交通事故による被害で65%、性犯罪による被害で、63%、Web調査では、殺人・傷害等で35%、交通事故で41%、性犯罪で48%となっている。過去10年間に深刻な犯罪にあっていない一般対象者においては、41%が過去30日間に健康上の問題があったとしている。

 パネル調査では、健康上の問題が事件と関係していると回答した人が約6割程度である。Web調査においても、殺人・傷害等また性犯罪による被害で過半数が健康上の問題と事件が関係していると回答しているが、交通事故ではその割合は約3割にとどまる。

 解決策は、被害者等を対象とした両調査ともに「医療機関に通った」という人が最も多く約6割以上を占めている。一般対象者では、約5割が「医療機関に通った」としており、この数値は被害者等でやや高くなっている。

※( )内は、各調査における設問番号を示している。なお、「パ」=「パネル調査」、「W」=「Web調査」。

精神的な問題や悩み

過去30日間の精神的な問題や悩みの有無(パW問3)
精神的な問題や悩みと事件との関連度合い【ベース:過去30日間に精神的な問題や悩みがあった人】(パW問4)
精神的な問題や悩みの解決策【ベース:過去30日間に精神的な問題や悩みがあった人】(パW問8)

 精神的な問題や悩みがあったと認識している人の割合はパネル調査では、いずれの類型においても約8割以上(殺人・傷害等79%、交通事故83%、性犯罪88%)、Web調査では、殺人・傷害等で60%、性犯罪による被害で68%と6割を超えるが、交通事故では44%となっている。一般対象者では39%が過去30日間に精神的な問題や悩みがあったとしており、健康上の問題よりも精神的な問題や悩みを抱えている被害者等が多いことがうかがえる。健康上の問題と同様、パネル調査では精神的な問題や悩みが事件と関係していると回答した人がほとんどであったのに対し、Web調査では半数程度(殺人・傷害等54%、交通事故32%、性犯罪47%)にとどまっている。

 解決策については、パネル調査の殺人・傷害等及び交通事故の被害者等では「自助グループに参加した」人の割合が最も多く、それぞれ37%、57%である。性犯罪の被害者等では「医療機関に通った」という人の割合が最も多く57%。次いで「家族や知人に相談した」の43%となっている。Web調査では、殺人・傷害等では「医療機関に通った」人が最も多く49%、交通事故と性犯罪では「家族や知人に相談した」が、それぞれ37%、50%と最も多くなっている。一般対象者では、55%が「特に何もしていない」と回答しており、「医療機関に通った」とする割合は13%にとどまる。

過去30日間の精神健康状態について【K6】(パW問5)

 被害者等の精神健康状態の測定について、本調査では「K6」(Kesslerら、2002年。日本語版は古川ら、2002年)と呼ばれるうつ病、不安障害に対するスクリーニング項目を用いている。6つの設問の合計値(合計24)が高いほど精神健康の問題があることが多いという意味となり、合計値13点以上が重症精神障害の診断に該当する可能性が高いとされている。

 合計値13点以上の重症精神障害の診断に該当する可能性が高い人は、パネル調査では約3~4割(殺人・傷害等31%、交通事故45%、性犯罪38%)、Web調査では約1~3割(殺人・傷害等23%、交通事故13%、性犯罪36%)となっている。一般対象者では、合計値13点以上の人の割合は約6%である。一般対象者と比較して、K6の合計値は特にパネル調査で極めて高くなっている。

 被害者との関係別、被害からの経過年数別にみると、パネル調査において、自身が被害にあわれた方で合計値13点以上の人は50%と、家族(42%)や遺族(37%)よりやや高くなっており、また、被害から3年未満の人で合計値13点以上の割合は47%と、被害から3年以上の人(36%)よりやや高くなっている。

 ただし、Web調査においては、被害者との関係別、被害からの経過年数別でこのような傾向はみられない。Web調査においては、自身、家族と遺族ともに約15%の人の合計値が13点以上、そして、被害から3年未満、3年以上ともに15%となっている。

※K6の算出方法については、昨年度は「全くない」=1として算出したが、本年度は、「国民の健康状況に関する統計情報を世帯面から把握・分析するシステムの検討に関する研究」に基づき、「全くない」=0として算出している。(詳細は、P34参照。なお、本報告書に掲載している昨年度調査結果は、本年度の算出方法により、新たに集計し直したものである。)

この1年間での非就業日数(パW問6)

 この1年間に事件が関連すると思われること(事件による心身の不調や、刑事手続きなど)によって仕事や日常の生活が行えなくなった「非就業日数」は、パネル調査では殺人・傷害等で平均54.2日、交通事故で平均92.0日、性犯罪で平均71.1日となっている。Web調査の非就業日数は、殺人・傷害等で平均39.4日、交通事故で平均22.1日、性犯罪で平均29.5日となっている。

 被害からの経過年数別にみると、パネル調査で、被害から3年未満の人は、平均102.3日なのに対して、被害から3年以上の人は平均67.8日となっている。Web調査でも同様の傾向があり、3年未満で平均32.4日、3年以上で平均18.0日となっている。

◆経済状況について◆

現在の生活の経済的な状況(パW問9)

 現在の経済的な状況については、パネル調査、Web調査ともに全体的な傾向に大きな違いはなく、生活に困っていると回答した人が全体の約3~4割程度となっている。一般対象者でも32%が生活に困っているとしており、被害者等と大きな違いはみられない。

被害にあう前の年収(家族と同居していた場合は世帯収入)(W問10)

 年収300万円未満と回答した割合が3~4割(殺人・傷害等41%、交通事故29%、性犯罪36%)を占める。現在の年収と比較すると、全体的な傾向に大きな違いはみられないが、殺人・傷害等で年収がやや減少している傾向がみられる。

事件後から現在までに受けた給付や支給と事件との関連性(パ問10、W問11)

 受けた給付や支給を尋ねたところ、パネル調査では、殺人・傷害等の被害者等でこの1年間に「遺族年金の給付」を受けたとする人(23%)が最も多く、交通事故では、「自動車保険の支給」(32%)、「生命保険の支給」(21%)が多くなっている。経過年数別にみると、事件から3年未満とする人の間で支援や給付を受けている人の割合がやや多くなっており、特に47%の人が「自動車保険の支給」を受けたとしている。

 Web調査では、事件後から現在までに受けた給付や支給を尋ねているが、殺人・傷害等や性犯罪では、無回答(いずれの支給や給付を受けていない人を含む)の人が過半数を占める。交通事故の被害者等では、「自動車保険の支給」(68%)や「生命保険の支給」(28%)を受けたと回答した人の割合が多い。被害者の関係別、被害からの経過年数別にみても、受けた給付や支給に大きな違いはみられない。

 受けた給付と事件との関係性については、大半の給付や支給について「事件と関連がある」との回答が多数を占める。

事件に関する様々な出来事の経験有無(パ問11、W問12)

 事件に関する様々な出来事の経験有無を尋ねたところ、パネル調査対象者でこの1年の間に事件に関する出来事(捜査や裁判等)を経験したとする人の割合は総じて少ない。その中でも比較的多かったのは、「事件に関して捜査が行われた」(殺人・傷害等15%、交通事故9%)、「加害者が逮捕された」(殺人・傷害等12%、交通事故8%)、「刑事裁判が行われた」(殺人・傷害等14%、交通事故13%)、「実刑判決が確定した」(殺人・傷害等10%、交通事故12%)といった捜査を始めとした一連の刑事事件の手続きを経験していると回答した人の割合である。

 Web調査では、性犯罪の被害者において「事件に関して捜査が行われた」と回答した人の割合が71%と他類型(殺人・傷害等59%、交通事故55%)よりも多くなっている。交通事故では、「加害者から謝罪があった」(56%)、「加害者から示談金・賠償金が支払われた」(47%)とする人が4割以上と他類型より多くなっている。

◆生活状況について◆

事件後の生活上の変化(パ問12、W問13)

 パネル調査では、この1年間の生活上の変化を尋ねているが、殺人・傷害等では「家族間の信頼が深まった」が25%と最も多くなっている。交通事故による被害では、「家族間で不和が起こった」が36%と最も多くなっている。また、いずれの類型においても、起こった生活上の変化と事件との関連性はあるとする回答者がほとんどである。

 Web調査では、事件後から調査時点までの生活上の変化について尋ねている。いずれの類型においても、「学校または仕事をしばらく休んだ」(殺人・傷害等52%、交通事故49%、性犯罪40%)、「長期通院や入院をしたりするようなけがや病気をした」(殺人・傷害等39%、交通事故49%、性犯罪27%)、「学校または仕事を辞めた、変えた」(殺人・傷害等37%、交通事故26%、性犯罪35%)とする人の割合が比較的多い。

 このほか、類型別にみると、殺人・傷害等では、「転居した」が31%と比較的多くなっており、性犯罪では、30%が「家族の信頼が深まった」、23%が「転居した」としている。

 被害者との関係別でみても、全体的な傾向に大きな違いはないが、自身が被害にあわれた方で「長期通院や入院をしたりするようなけがや病気をした」(51%)、「学校または仕事をしばらく休んだ」(46%)の割合が他より多くなっている。

生活上の変化の時期と事件との関連性(パ問12、W問13)

 パネル調査、Web調査ともに、通学・通勤に関する変化について、多くの人が事件と関連があると受けとめている。Web調査からは、「休学・休職」や「長期通院・入院」について、いずれの類型においても事件から1年未満の間に経験したという人の割合が多いことがわかる。また、起こった変化と事件と関連があると回答した人の割合も多くなっている。

事件直後と比較した状況の変化(パ問13、W問14)

 事件直後と比較した状況の変化を尋ねたところ、パネル調査では、身体的な状況及び精神的な状況について、回復傾向にある(「回復した」あるいは「少し回復した」)と回答した人は、殺人・傷害等でそれぞれ54%、58%と過半数を占め、交通事故では、31%、36%とやや低くなっている。一方で、悪化傾向(「悪化した」あるいは「やや悪化した」)と回答した人は、殺人・傷害等で25%と27%、交通事故で37%と34%となっている。昨年度調査結果と比較すると、全体的に「悪化した」あるいは「やや悪化した」とする人の割合がやや少なくなっており、回復傾向にあることがうかがえる。

 Web調査では、殺人・傷害等において、身体的な状況が「悪化した」は19%、精神的な状況が「悪化した」は23%、経済的な状況が「悪化した」は22%と、いずれの割合も他類型(交通事故はそれぞれ11%、9%、13%、性犯罪は9%、16%、11%)よりやや多くなっている。被害者との関係別でみると、自身が被害にあわれた方で身体的、精神的、経済的な状況が悪化したとする人の割合はともに15%と、家族(7%、7%、11%)や遺族(2%、6%、10%)よりやや多くなっている。

状況の悪化と事件との関連性【ベース:状況が悪化したと回答した人】(パ問14、W問15)

 状況が悪化傾向だと回答した人のうち、「事件に関連する問題によって悪化した」と回答した人の割合は、パネル調査の殺人・傷害等及び交通事故の被害者等では、いずれの状況についても8割以上にのぼっている。Web調査でもいずれの類型においても6割以上を占め、事件と関連して状況の悪化が起こったと受けとめている被害者等が多数存在することがうかがえる。

現在の主観的な回復度合い(パ問15、W問16)

 現在の主観的な回復度合いについては、特にパネル調査において回復していない被害者等が多く、半分程度以上回復したとするのは、殺人・傷害等で42%、交通事故で33%、性犯罪で63%(8名中5名)にとどまる。しかし、昨年度調査と比べると、これらの数値は、いずれの類型においても約10ポイント程度高くなっており、被害者等が回復傾向にあることがうかがえる。

 パネル調査では多くの被害者等が現在まで十分に回復していない状況にあるが、Web調査ではいずれの類型においても、被害者等の6割以上(殺人・傷害等62%、交通事故86%、性犯罪75%)が、現在までに半分程度以上回復したとしている。

 Web調査結果を被害者との関係別、被害からの経過年数別にみても、全体的な傾向に大きな違いはみられない。

◆支援及び制度の利用率、満足度について◆

支援及び制度の利用率、満足度(パ問16、W問17)

 パネル調査では、この1年間に利用した支援や制度について尋ねているが、全体的に、支援や制度の利用率は低く、利用率が20%を超えるものは、殺人・傷害等では、「自助グループへの参加」(46%)、「警察による加害者に関する情報の提供」(21%)、「地域警察官による被害者訪問・連絡活動」(21%)、交通事故では、「自助グループへの参加」(56%)、性犯罪では、「民間団体等による電話やFAX、面接、メール等による相談」、「民間団体等による警察、病院、公判への付き添い」、「民事損害賠償請求制度」(いずれも25%(8名中2名))にとどまる。

 被害者との関係別にみると、被害者の家族で「公判期日、裁判結果等に関する情報提供」、「刑事裁判における意見陳述等」(ともに21%)を利用した人は、自身が被害にあわれた方や遺族に比べてやや多くなっている。

 Web調査では、事件当時の支援や制度の認知率と、事件から1年以内と1年以降に利用した支援や制度を尋ねている。

 各支援や制度の認知率は総じて低く、認知率が20%を超えるのは、殺人・傷害等と交通事故で、「警察による事件発生直後からの付添い」(それぞれ25%、20%)、性犯罪で「警察による相談・カウンセリング」(43%)、「警察による加害者に関する情報提供」(30%)、「警察による事件発生直後からの付添い」と「『被害者の手引』による情報提供」(ともに25%)、そして「警察によるパトロール等による身の安全の確保」(23%)となっている。

 支援や制度の利用率も総じて低く、利用率が20%を超えるのは、殺人・傷害等と交通事故では該当はなく、性犯罪でも事件から1年以内で「警察による相談・カウンセリング」(32%)と「警察による加害者に関する情報の提供」(21%)、事件から1年以降で「警察による加害者に関する情報の提供」(23%)にとどまる。

◆二次的被害について◆

二次的被害について(パ問17、W問18)

 パネル調査では、この1年間に関わりのあった人を尋ねているが、関わりがあったとする人の割合は、昨年度調査に比べて総じて低い。その中でも、関わりの多かったのは、「近所、地域の人」(殺人・傷害等50%、交通事故48%、性犯罪13%(8名中1名))、「民間団体」(殺人・傷害等40%、交通事故40%、性犯罪38%(8名中3名))である。これら2項目に加えて、殺人・傷害等では「報道関係者」(44%)、交通事故では「家族・親族」(57%)や「友人・知人」(51%)と関わりがあったとする人の割合が多い。

 被害者との関係別にみても、全体的な傾向に大きな違いはみられない。いずれの類型においても、「近所、地域の人」、「友人、知人」、「家族・親族」の割合が多くなっている。

 経過年数別でみると、3年未満では「加害者関係者」(59%)、「捜査や裁判等を担当する機関の職員」(47%)、「病院等医療機関の職員」(35%)を選ぶ人の割合が多くなっている。

 Web調査では、事件から現在までに関わりのあった人を尋ねているが、事件から1年以内であれば、いずれの類型においても、「友人、知人」や「家族、親族」に加えて、「加害者関係者」、「捜査や裁判等を担当する機関の職員」が多くなっている。

 Web調査においても、被害者との関係別、被害からの経過年数別で全体的な傾向に大きな違いはみられない。

 全体の傾向として、パネル調査、Web調査ともに、二次的被害を受ける対象の傾向は変わらない。両調査ともに、いずれの類型においても、「加害者関係者」や「捜査や裁判等を担当する機関の職員」、「世間の声」から気持ちが傷つけられることが多かったとする人の割合が多い。さらに、家族や友人、職場や地域の人など、普段の生活において身近な人々から二次的被害を受けた人も一定割合を占めている。

◆今後実現・充実させていくことが望ましい施策について◆

今後実現・充実させていくことが望ましい施策(パ問18、W問19)

 全体としては、いずれの類型においても「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充」や「民事損害賠償請求への援助」の充実を望む声が大きい。

 パネル調査結果を類型別にみると、殺人・傷害等では、「犯罪被害者等に対する給付制度の拡充」が50%と最も多くなっている。また、「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充」と「民事損害賠償請求への援助」を別にすると「地方自治体における支援体制の充実・強化」が37%と多くなっている。交通事故では、「司法・行政機関職員の理解・配慮の増進」、「PTSD等ストレス反応の治療専門家の養成」(ともに35%)が比較的多くなっている。

 被害者との関係別でみると、家族と遺族で「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充」(54%、56%)が最も多くなっている。自身では、「民事損害賠償請求への補助」と「PTSD等ストレス反応の治療専門家の養成」(ともに50%)が最も多くなっている。

 被害からの経過年数別では、全体的な傾向に大きな違いはみられない。事故から3年未満及び3年以上、双方で「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充」(47%、54%)が最も多くなっている。

 Web調査調査結果を類型別にみると、殺人・傷害等で「PTSD等ストレス反応の治療専門家の養成」(31%)が最も多く、次いで、「犯罪被害者等に対する加害者の情報提供の拡充」(28%)となっている。交通事故では、「日常家事や同居家族の世話の補助、病院等への付き添い等」(28%)が最も多くなっており、「民事損害賠償請求への援助」や「社会保障・福祉制度の充実、利便性の促進」(ともに25%)等が続いている。性犯罪ではPTSD等、精神的ケアの項目が多くなっている。これらに加えて「報道機関からのプライバシーの保護」(25%)を求める声も比較的大きい。

 被害者との関係別、あるいは被害からの経過年数別で、全体的な傾向に大きな違いはみられない。

 

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