4.調査結果のまとめ

4-1.取組の現状と今後の方向性

 ここでは、アンケート調査及びインタビュー調査の結果をもとに、犯罪被害者等施策(以下「当該施策」という。)に関する取組の現状と今後の方向性について整理する。

(1)被害者問題や地方公共団体の役割に対する理解の促進

 平成16年12月に成立した基本法では、地方公共団体に対し、相談・情報提供、保健医療・福祉サービスの提供、雇用・居住の確保、地域住民の理解の促進など、地域の状況に応じて多岐にわたる施策を自ら策定・実施する責務を課している。また、平成17年12月に閣議決定された基本計画では、内閣府において、各地方公共団体における当該施策を総合的に推進するための「施策担当窓口部局」の確定及びその体制を確認することとされている。

取組の現状

今後の方向性

施策担当窓口部局の早期の確定

 基本法の趣旨を踏まえ当該施策を総合的かつ計画的に推進する上で、施策担当窓口部局が担う庁内横断的な調整機能は重要である。住民に最も身近な行政主体である市区町村においても施策担当窓口部局を早急に確定する必要がある。

被害者問題や地方公共団体の役割に対する周知・理解の徹底

 市区町村の現状を見ると、当該施策を進める上で前提となる基本法・国の基本計画が策定された背景・策定の理念、被害者の心情や被害者支援に活用できる地域の社会的資源についての理解・認識が十分でなく、全体的に取組が低調である。

 今後は、市区町村においても、施策担当窓口部局が中心となって、基本法・国の基本計画や被害者問題に対する理解を深めるとともに、現行の保健医療・福祉、教育、住宅等の分野における各種制度を活用(又は拡充)するなど、地方公共団体全体として被害者支援のために何ができるかを自ら検討し実施していくことが求められている。

 一方、当該施策自体が施策担当窓口部局にとってなじみのない分野であり、「何からどう手をつけてよいのか分からない」といった声もあることから、国・都道府県においても、研修・連絡会議等を通じて周辺の地方公共団体の取組状況や先進事例に関する情報提供を行う、施策を推進する際の目安となる職員向けの手引きを提示するなど、市区町村への支援を積極的に進める必要がある。

職員の意識づけを行う際のアプローチ

 先駆的な事例を見ると、行政組織や制度全体を動かす意味で、首長のイニシアティブや議員、都道府県警察からの要請は取組促進の大きな原動力となっている。

 一方、当該施策が支援の現場において真に役立つものになるためには、職員一人ひとりが、被害者の視点に立ちその実情を十分に理解した上で支援に当たることも不可欠である。

 このため、研修・連絡会議等を開催する際には、参加者が被害者の声に直接耳を傾けたり参加者同士が意見交換できたりする機会を設ける、研修内容を参加者の職務内容に関連づける、地域ブロック別に開催するなど、きめ細やかな工夫が求められる。

(2)地域の状況に応じた庁内外の支援体制の整備

 犯罪の発生件数や都市部からの物理的な距離、被害者支援に活用できる社会的資源へのアクセスのしやすさ、人口規模、住民同士の関係の深さなど地域の状況は様々である。各地方公共団体では、こうした地域の状況に応じて、庁内関係部局や地域の関係機関・団体等と相互に連携協力を図りながら、庁内外で途切れのない支援体制を築いていくことが求められる。

取組の現状

今後の方向性

支援体制を整備する際の考え方

 アンケート結果では、対象となる被害者等が少なく、全国的に行財政改革が進む中で被害者支援に特化した形で推進組織や対応窓口を新たに設けにくいという意見が見られた。

 しかしながら、犯罪は時と場所を選ばず発生するものであり実際に発生した場合の影響の大きさを考えれば、犯罪が少ないことなどを理由として当該施策について取り組む必要はないということにはならない。

 まずは被害者等に接する際の留意点や被害者支援に活用できる庁内外の社会的資源について確認・点検し、関係者の間で情報を共有しておくなど、いざ事が起こったときに迅速かつ適切に対応できるよう最低限の準備をしておくことが求められる。

地域の支援ネットワークへの参加

 都道府県警察が中心となった「被害者支援連絡協議会」等との関わりを見ると、都道府県・政令市と比べ、市区町村では関わりが薄い。地域の支援ネットワークに参加することは、被害者問題や被害者支援に関する制度等の理解・知識を深めるだけではなく、関係機関・団体との連携協力関係を築く端緒となるものである。まずは、こうした地域の支援ネットワークに参加することが求められる。

担当者・実務者レベルでの連携の確保

 当該施策に係る各種協議会・連絡会議等の大半は幹部クラスにより構成されており、組織としての意思決定には適しているが、顔の見える連携は築きにくいという点もある。今後は、実務者・担当者レベルの会合を開催するなど、より機動的な連携協力を図ることが必要である。

 小規模な団体では、担当者同士の顔が比較的見えやすく連絡会議等を設置しなくても庁内横断的な連携が図られる場合も見られるが、こうした場合にも関係の深い部局と平素から意思疎通を図り、上述の確認・点検を行っておくことが望ましい。

都道府県と市区町村の役割・連携協力

 市区町村については、住民に最も身近な存在であり、各種保健医療・福祉制度の実施主体であることから、まずは一次的な相談受付窓口としての機能を果たすことが求められる。

 都道府県においても、市区町村と同様に被害者等からの相談等に対し各種制度の実施主体として対応するほか、市区町村との連絡調整・支援を行うとともに、被害者支援に精通した地域の専門家の確保・紹介や県域全体にまたがる関係機関・団体等や支援制度に関する情報提供、窓口担当者向けの研修など、市区町村単独では対応の難しい事項を重点的に実施することが求められる。

 政令市については、道府県庁舎と同一地域に立地していたり道府県警察本部が市警察部を兼務している場合が多いなど、道府県と重複する面がある一方、被害者支援に活用できる各種福祉制度や住民により身近な拠点である区役所を有するなど、道府県と性格を異にする面もある。

 今後は、都道府県と政令市の役割を明確にするとともに、同一地域で無駄のない効率的・補完的な施策の実施が期待される。

民間支援団体との連携協力の推進

 都道府県・政令市では、民間支援団体との連携協力の動きが見られる一方で、市区町村では民間支援団体との積極的な関わりは少ない傾向にある。まずは、市区町村と民間支援団体との間でも情報共有等を通じて、顔の見える関係を構築することが重要である。

 また、民間支援団体の人的・財政的基盤が十分ではないために、道府県域単位で機動的な対応ができるまで至っていない場合も見受けられる。国、都道府県及び市区町村それぞれが、民間支援団体に対する援助等をさらに進めることも求められる。

(3)総合的な対応窓口の設置・運営

 国の基本計画では、内閣府において、地方公共団体に対し、犯罪被害者等からの相談等に対応する「総合的な対応窓口」の設置を要請することとされている。

 被害者にとって必要な情報を与えられることは、支援の第一歩となるものであり、その意味で窓口業務は、一連の当該施策の中で重要な位置を占めているといえる。

取組の現状

今後の方向性

対応窓口に求められる機能

 窓口の設置形態(被害者専用か他の窓口との共用か)や機能は、地域の状況や被害者等が抱える個々の事情により異なってくるが、まずは、被害者等から相談・問い合わせがあった場合に、被害者等の抱える問題やニーズを正確に把握し、庁内関係部局や関係機関・団体等が有する各種制度・窓口に関する情報提供や引き継ぎができるようにしておく必要がある。

 その際、相談者にとって受け入れる窓口を明確にしておくとともに、相談内容が直接犯罪被害とは関係のない場合でも、最後まで話を聴いた上で適切に対応することが求められる。

安心して相談できる環境づくり

 現状では、特に市町村において、被害者等からの相談等に十分に対応できる人材の不足を課題として挙げているところが多い。

 対応窓口において配慮に欠けた不適切な対応をすることにより二次的被害を与えないようにするためには、窓口担当者が被害者等の置かれた状況や心情、各種支援制度など被害者支援に必要な知識・技能を身につけておくことが求められる。

 具体的な方策の一つとしては、被害者等に接する際の留意点や地域の関係機関・団体等に関する情報をまとめた支援ハンドブックを作成・備え付ける、窓口担当者が継続的に研修を受けられる機会を設けるなどが挙げられる。

 また、来庁した被害者等の相談は別室で拝聴する、専用電話を設置して特定の職員が対応するなど、被害者等が安心して相談できる環境を整えていくことが必要である。

関係機関・団体との連携の確保

 現状では、特に都道府県・政令市において、関係機関・団体との連携を課題として挙げているところが多い。

 被害者からの相談等を関係機関・団体に適切に引き継ぐためには、関係機関・団体相互で所掌や役割分担、連携方法等について認識・情報を共有しておくことが不可欠になる。こうした意味でも、関係機関・団体が連携協力して支援ハンドブックを作成することは有意義である。

 地方公共団体による支援は、被害者等からの要請を受けて対応する応答的なものが中心となるため、対応窓口について、地域住民はもちろん、都道府県警察や民間支援団体など早期に被害者に接する機関・団体に対しても総合的な対応窓口や支援制度の周知を図り、必要に応じ対応窓口を被害者に紹介等してもらうようにする必要がある。

(4)広報啓発、人材育成

 被害者等が再び地域において平穏な生活が営めるようになるためには、国、地方公共団体及び関係機関・団体等の取組が着実に実施されるだけではなく、地域住民全体の理解と協力を得ることが必要になる。

 また、地域で支援の輪を広げていくためには、行政機関や地域の関係機関・団体等の職員向けの研修・啓発を行うとともに、地域住民やNPOなどから幅広く人材を発掘・育成及び活用していくことが重要である。

取組の現状

【広報啓発】
【人材育成】

今後の方向性

被害当事者の声を伝える広報啓発

 被害当事者による講演や手記に対し反響があったように、統計的なデータや各種支援制度・事業など客観的な情報だけではなく、被害当事者の生の声を発信することは、受け手の内面に奥深く届く点で効果的であると考えられる。ただし、広報啓発に当たって被害当事者に協力を求める際には、精神的な負担を与えないよう配慮する必要がある。

被害者問題と関連の深い分野と連携した広報啓発

 防犯や交通安全、人権など被害者問題に関連の深い分野と連携して被害者支援の必要性を訴えることは、防犯・人権等の分野で活動している人々を取り込み、より多くの理解者や支援者の輪を広げていく上で有効であると考えられる。

地方公共団体同士が連携した広報啓発

 広報啓発活動の現状を見ると、地方公共団体単独で行う、又は民間支援団体が主催する行事に後援名義を付与する形態が多く見られ、地方公共団体同士で連携はあまりみられない。

 都道府県と市区町村との間を始め地方公共団体間で連携することは、広報啓発に要する労力や費用を分担し、より幅広い対象に効率的に情報提供を行える点で有効であると思われる。

新たな人材の発掘・育成、地域の人材活用

 ボランティア入門講座の開催等を通じて被害者問題に関心がある地域住民の中から新たな人材を発掘・育成することは、そこから派生する多くの人々に理解を促す、地域の社会的資源が蓄積されるなど、被害者支援の取組の幅を広げ進展させる効果が期待できる。

 このほかにも、他の分野において地域活動に積極的に取り組んでいる住民、専門家など既に地域に存在する様々なスキルを有する人材を活用することも、新たな連携協力関係が構築され、地域における支援体制が強化される点で有効であると思われる。

(5)地域独自の取組の展開

 犯罪被害者等の置かれた状況は様々であり、必要とする支援も医療・福祉、住宅、雇用など生活全般にわたることから、基本法において、地方公共団体に対し、地域の状況に応じ多岐にわたる施策を策定・実施することを求めている。

取組の現状

今後の方向性

 各地方公共団体では、それぞれの施策の進捗状況や地域の被害者のニーズ、国(市区町村においては国及び都道府県)の動きを見ながら、保健・福祉、保育、住宅等の分野における既存施策を拡充する、あるいは既存施策を基に新規施策を策定・実施するなど自治体独自の取組の充実を図ることが望まれる。

 アンケート及びインタビューでは、条例・計画等の策定や団体独自の支援を行っているところもあり、国及び都道府県においては、こうした先駆的な事例を研修・連絡会議等を通じて啓発・情報提供することにより、各地方公共団体の取組を促すことが求められる。