3.インタビュー調査結果の整理・分析

3-2.施策を総合的に推進するための体制づくり

(1)施策担当窓口部局の果たす主な役割

[1] 施策担当窓口部局の業務特性

施策担当窓口部局の主な業務としては、以下の3つが挙げられる。

【総合的な対応窓口の運営】

 被害者等の相談を受けた上で適切なアドバイスを行い、関係機関・専門家等への紹介、庁内関係部局との調整業務を行う。

(具体的な事例)
  • 関係各部署への案内や事情説明、申請手続の補助、裁判所への付添いなど(都道府県、市区町村)。
写真:犯罪被害者等総合相談窓口(神奈川県)
【犯罪被害者等施策に関する広報啓発の実施】

 当該施策を推し進める上で住民への理解促進は重要である。特に地方公共団体にとって広報啓発は、多岐にわたる分野でノウハウを有した業務のひとつであることから、積極的に取り組んでいる事例が見られた。特に都道府県については、広報啓発に重点を置いている傾向が見られる。

(具体的な事例)
  • ポスター・リーフレットの作成・配布、講演会・シンポジウムやパネル展等のイベントの開催、関連グッズの作成・配布など(都道府県、市区町村)
写真:被害者支援シンポジウム(主催:NPOすてっぷぐんま・群馬県)
【庁内連絡会議等の運営】

 当該施策、あるいは安全・安心まちづくり全般にわたる施策を進めていく上で、庁内各部局間の調整や進行管理、計画等の策定に係る検討などを行う組織の運営事務局を担っていることが多い。

(具体的な事例)
  • 庁内関係部局からなる「安全安心まちづくり推進本部」、「庁内連絡会議」の運営事務局を担うなど(熊本県など)。

[2] 警察との対応の差別化

 アンケート調査の中で、市区町村から多く寄せられた意見として、「当該施策を進めるについて警察がより主体的に取り組むことが望ましいのではないか。」との声が聴かれた。

 インタビュー調査の中で、この意見について問いかけたところ、複数の地方公共団体担当者から、警察と地方公共団体の役割の違いとして、「警察では捜査機関としての立場から初期的な支援を行っており、捜査終了後の中長期的な支援まで行うのは困難である。」「地方公共団体では既に福祉・医療・住宅・雇用に関する様々な制度を有しており、これら諸制度を活用して被害者等の生活全般に係る支援を行う意味で地方公共団体も一定の役割を担うことになる。」といったことが聴かれた。

(具体的な事例)
  • 警察は事件発生直後の短期的な被害者支援を行い、地方公共団体は中長期的な支援を実施すべきである(熊本県など)。

(2)庁内外の推進体制の整備

[1] 各種連絡会議等の開催・参加

【被害者支援連絡協議会】

 都道府県及び警察署単位で設置されている「被害者支援連絡協議会」等に構成員として参加する、あるいは共同で事務局を担当するほか、施策担当窓口部局単独で事務局を担うところも見られた。

写真:群馬県犯罪被害者等支援連絡協議会
【庁内連絡会議】

 計画等の策定、施策等の進行管理、評価などを行うため、庁内連絡会議等を新設する、安心安全なまちづくりや防犯など関係の深い会議の下に、被害者等支援に関する専門部会を設置するなどの事例も見られた。

 各部署の関係者は、部課長級幹部クラスにより構成されるものや、担当実務者クラスにより構成されるものなど、団体によって異なっている。中には被害者等支援に携わる関係機関の相談担当者レベルによる体制が動き出すところも見られた。

(具体的な事例)
  • 安全安心まちづくり推進本部など(都道府県)
  • 犯罪被害者関係相談機関連絡会準備会(民間支援団体、弁護士会、法テラス等)を開催(神奈川県)
【既存の横の連携】

 小規模な団体では、日常的に部局を超えた横の連携が構築されており、当該施策に限らず、部署横断的な問題が生じた場合には、直ちに声を掛けて関係担当者が集まって対応を検討するなどの環境が整っている場合が見られた。

(具体的な事例)
  • 小さな役場ではいくつもの担当を兼任しているため、部局を横断しなくても課内で調整を図る、あるいは懸案事項が発生した場合には、その都度関係者を招集して話し合いができる環境が整っている(秋田県藤里町、埼玉県嵐山町)。

[2] 日常的な意識共有と連携協力

 当該施策を推進するためには、被害者等に関する情報や専門的なノウハウが必要になることから、警察や民間支援団体との連携協力が不可欠である。

 都道府県レベルでは、民間支援団体などとの意識共有や連携協力は、日常的に相互の職場を訪問して意見交換するなど、比較的良好に推移しているように窺える。しかしながら、市区町村レベルでは、民間支援団体と積極的に関わりを持っているところも少なく、会員であっても双方がお互いにどのような活動しているのか把握していない場合も見られる。

(3)職員の意識づけ

 インタビュー調査対象のほとんどの団体では、当該施策の理解促進や人材育成の目的から、都道府県単位での市町村担当職員研修を実施している。

 研修の内容としては、当該施策の理解や意義を伝えるために基本法、国の基本計画の説明、各地域における取組の意義と内容の説明、被害者等本人や民間支援団体関係者の体験に基づく講演会などが挙げられる。

(具体的な事例)
  • 市町村総合的対応相談窓口担当者研修会において、市町村取組事例の紹介、被害者・遺族の声、先駆的取組事例の講演、地域ブロック別での話し合いなどを行っている(秋田県)。

(4)条例・計画等の制定・策定

 多くの地方公共団体が施策を総合的に推進する一つの手法として、条例・計画等の制定に取り組んでいる。

[1] 条例・計画等の内容

 条例・計画等の策定に際し、多くの団体では国の基本計画に盛り込まれた258施策を参考にしながら、自らの団体が有する既存制度等に落とし込んで施策体系を作成している。その中でさらに補完すべきと認められる施策がある場合には、新規の取組として盛り込んでいる。また、地域の実情に即した独自の切り口を盛り込んだ例も見られる。

(具体的な事例)
  • 総合的支援窓口の設置、カウンセラーの派遣など精神的・身体的支援、ヘルパー派遣など生活への支援、一時利用住居の提供などの支援、支援金の貸付・給付など(神奈川県など)。
  • 安全安心に関する条例に県の責務として犯罪被害者等支援を実施することを定めたが、多岐にわたる支援施策を推進する根拠としては不十分であることから、犯罪被害者等に特化した条例を制定することとした。その中では具体的な支援策も盛り込むことなどを検討している(神奈川県)。
  • 近年、行政区域内に外国籍住民が増加していることに対応して、計画の中に外国籍住民が犯罪被害者等になった場合を想定した支援策の充実強化を謳っている(群馬県)。
  • 計画をより分かりやすくするために、犯罪被害分野別(身体犯〔殺人・傷害等〕、性犯罪、被害少年保護、配偶者等暴力、ストーカー事案、悪徳商法、暴力団犯罪、交通事故)にその対応と施策を簡潔に整理している(群馬県)。

[2] 住民や民間支援団体等とのコミュニケーション

 条例・計画等を策定するにあたっては、住民に対して計画案等についてのパブリックコメントを実施したり、民間支援団体や犯罪被害者等と意見交換する場を設けたりして、条例・計画等の内容に反映している例も見られた。

(具体的な事例)
  • 条例や計画等を策定する際にホームページ等を通じて住民からのパブリックコメントを実施した(熊本県など)。
  • 条例や計画等を策定する際に、実際に被害者に遭われた方や遺族などの関係者及び、被害者等の支援にあたっている民間支援団体のメンバーに意見を伺った(熊本県など)。