3.インタビュー調査結果の整理・分析

3-1.犯罪被害者等施策を推進する契機

(1)犯罪被害者等施策に取り組むまでの背景や経緯

[1] 基本法・国の基本計画策定による影響

 国では、平成16年12月に基本法が成立し、平成17年4月に施行されたことを受けて、平成17年12月に基本計画を策定した。その中で、基本法の規定により地方公共団体においても国との役割分担を踏まえて、犯罪被害者等が被害を受けてから再び平穏な生活を取り戻すまでの間、途切れることなく支援を行うという観点から、地域の実情に応じた、相談・情報の提供、医療サービスの提供、居住・雇用などの広範な施策を、自ら策定し実施することが求められている。これらを受けて取組を進めたという団体が多く見られた。

(具体的な事例)
  • 基本法や国の基本計画を受けて、地元議員からの質問や要請を受けるようになるなど、話題に上るようになってきた(都道府県、市区町村)。
  • 基本法や国の基本計画を受けて、国による担当者会議が実施され、当該施策についての説明を受けたことで、地方公共団体としてもその準備に入る契機になった(熊本県など)。

[2] 都道府県警察本部や警察署からの要請

 事件発生直後から捜査機関として被害者等に接する都道府県警察からの要請を受けて、条例・計画等の策定や総合的な対応窓口の設置等の取組を始めた例が多く見られた。

(具体的な事例)
  • 県警本部が主体となって県の基本計画を策定に導くとともに、地元警察署と連携協力し、何度となく県下市町村の首長などを訪問して、当該施策について説明した上で、犯罪被害者等関連条例制定への取組要請を積極的に行った。その効果として県下25市町村のうち22市町村で犯罪被害者等関連条例が制定されている(秋田県)。
  • 警察署からの要請により、犯罪被害者等の専用窓口を決定し、窓口に看板を設置している(京都府与謝野町)。
写真:犯罪被害者支援総合的支援窓口(京都府与謝野町)

[3] トップダウン方式による取組

 庁内関係部局が当該施策の必要性について意識を共有し、部局横断的に被害者等の視点に立った取組を進めていくためには、首長のイニシアティブや地域住民の代表である議会からの要請も重要である。

(具体的な事例)
  • ボートピア(場外舟券売場)誘致の問題が浮上した際に、売場設置を反対する議員に対して、暴力団員らが襲撃する事件が発生し、それが契機となって町長を先頭に一気に機運が盛り上がり、全国で初の犯罪被害者等に関する条例が作られた。条例の策定作業を開始した当初、条例の運用に際して協力が欠かせない地元警察や県警の犯罪被害者相談センターに趣旨や内容の説明に足を運んだが、条例制定に向けての作業はなかなか進まなかった。そこで町は、上部機関である警察庁に連絡を取って説明の機会を持ったところ理解を得ることができ、その後の条例制定に向けて弾みがついた(埼玉県嵐山町)。
  • 区議会定例会における議員の一般質問を受けて、区長のリーダシップのもと条例制定に向けて検討会を立ち上げた(東京都杉並区)。

[4] 近年の犯罪被害の社会情勢

 近年の犯罪件数そのものが増加傾向であることと、犯罪の内容自体が凶悪化してきている現状を踏まえ、安全・安心なまちづくりを進めていく中で、被害者等に対して首長部局としても何らかの対応をする必要性が生じてきたことを背景に、取組を始めた団体も見られた。

(具体的な事例)
  • 刑法犯認知件数は、近年やや減少してきているものの依然として高い水準にあり、発生件数は全国の1割を超えている(大阪府)。
  • 刑法犯の認知件数を人口1万人あたりの件数(犯罪率)でみると、全国で中位に位置しているものの、人口が同規模の他県と比較すると犯罪率は高くなっている(滋賀県)。

(2)犯罪被害者等施策の庁内における位置づけ

[1] 上位計画等とのリンク

 当該施策について庁内をあげて取り組んでいくために、上位計画や関連施策の一環として位置づけている場合が見られる。

(具体的な事例)
  • 総合計画の中に当該施策に関する項目が盛り込まれている(神奈川県など)。
  • 安全・安心まちづくり施策の一環として位置づけられている(熊本県など)。

[2] 単独の取組

 特に上位計画等に位置づけせずに、単独の取組として実施している場合も見られる。