11月25日~12月1日は犯罪被害者週間

「犯罪被害者週間」国民のつどい 中央大会(東京)

議事内容

挨拶

町村 信孝(内閣官房長官)

 「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会の開催に当りまして、一言ご挨拶を申し上げます。

 本日は、「犯罪被害者等基本法」が成立してちょうど3周年の記念日であります。この間、政府は、同法に基づき策定した「犯罪被害者等基本計画」に基づき、犯罪被害者及びそのご家族の方々の視点に立った施策を総合的かつ計画的に推進をしてまいりました。

 先般、基本計画に基づき設置された、三つの検討会において、最終とりまとめが行なわれ、犯罪被害者等に対する給付金の抜本的拡充や支援のための連携ネットワークの構築、民間団体への財政的援助の充実などの施策が打ち出されました。最終とりまとめは、私が会長を務めます、犯罪被害者等施策推進会議に報告され、これらの施策を政府をあげて強力かつ効果的に推進することが決定されました。

 また、先の通常国会においては、刑事訴訟法などの改正により、犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度や損害賠償請求に関して刑事手続の成果を利用する制度が導入されることとなりました。

 これらの詳細につきましては、後ほど政府からの報告があると思いますが、いずれにしても犯罪被害者等のための施策が大きく前進したことは、大変にうれしく思っているところであります。

 ただ、いくら制度が出来ても、それが被害者の方々にとって利用しやすいものでなければ意味がありません。そのため、基本法では、施策を検証・評価・監視するための機能を推進会議に与えており、私は、この推進会議の会長として、犯罪被害者等の視点に立った政策を総合的かつ着実に推進し、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の実現に向け、努力してまいります。

 皆様方におかれましては、引き続き、ご指導・ご支援をいただきますよう、よろしくお願いを申し上げます。

 最後に、本日の中央大会により、国民理解の一層の増進が図られますようお祈りをいたしますとともに、多くの関係者の方々のご協力に感謝申し上げ、私のご挨拶といたします。

挨拶

岸田 文雄(内閣府特命担当大臣)

 平成19 年度「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会の開催に当たり、一言ご挨拶申し上げます。

 本日は、基調講演やパネルディスカッションを行なっていただく有識者の方々をはじめ、多くの皆様方にご列席いただき、誠にありがとうございます。

 さて、国民の誰もが安心して暮らせる社会を実現するためには、犯罪を予防するにとどまらず、不幸にして犯罪被害にあわれた方々に対し、再び平穏な生活を営むことができるようになるまで、途切れることなく、支援を受けられるようにすることが重要です。そのためには、政府による施策の推進もさることながら、国民の皆様の理解と協力が不可欠です。

 このため、犯罪被害者等基本計画におきましては、基本方針として「国民の総意を形成しながら展開されること」、重点課題として「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」を掲げており、これを踏まえて、集中的な啓発事業などの実施を通じて、犯罪被害者等が置かれている状況などについて、国民の理解を深めることを目的として、毎年、11 月25 日から12 月1日までが「犯罪被害者週間」とされたところです。

 2回目の実施となる本年度は「悲しみを 希望にかえる 社会のささえ」を標語として、様々な広報啓発活動を行なっております。

 国民のつどいは、犯罪被害者週間の中核的な行事として、国民が犯罪による被害について考える機会として開催するものであり、犯罪被害者週間の締めくくりに当たります本日は、その中央大会となります。

 本日は、被害者の方からの講演や有識者によるパネルディスカッションなどを行なうこととしています。これらを通じて、ご来場の皆様方には、犯罪被害者等の置かれている状況や犯罪被害等の名誉・生活の平穏への配慮の重要性などについて、理解と関心を深めていただければ幸いです。

 最後に、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会が一日も早く実現されるよう、今後とも全力で取り組んでいくことをお約束申し上げ、私のご挨拶といたします。

表彰

(司会)

 それではこれより犯罪被害者等に関する「標語」の最優秀賞の表彰を行ないます。
この標語は犯罪被害者等に関する皆様の理解を深めていただくために、本年度初めて募集を行なったものです。

 本年度の最優秀作品は、先ほどご紹介がありましたように、滋賀県高島市の宮田啓次様の「悲しみを 希望にかえる 社会のささえ」です。
 それでは岸田大臣より賞状と副賞をお渡しいたします。宮田様、中央までお願いいたします。


(岸田大臣)

 賞状、最優秀賞。宮田啓次殿。あなたの作品は平成19 年度犯罪被害者等に関する標語募集において最も優秀と認められましたのでこれを表彰します。


(司会)

 宮田様、どうぞご着席ください。

 ここで岸田大臣よりお祝いの言葉がございます。大臣、よろしくお願いいたします。


(岸田大臣)

 本日、最優秀賞を受賞されました宮田様、おめでとうございます。

 また、この度の標語募集に際しましては、全国から約700 点のご応募をいただきました。 標語を応募していただいた多くの皆様にお礼申し上げます。

 犯罪被害者やそのご家族に対する支援のためには、国民一人ひとりの理解と協力が必要です。

 犯罪被害者等に対する支援の大切さなどを、わかりやすく簡潔に述べた標語を公募し、活用することは大変意義深いと考えております。

 特に、宮田様には、国民の皆様の共感を得られる素晴らしい作品を応募していただきました。今後も、様々な広報啓発活動の中で使用させていただき、一人でも多くの方に犯罪被害者等への支援の大切さを伝えていきたいと思います。

 おわりに、宮田様をはじめ、本日お集りいただいた皆様のご発展を祈念いたしまして、お祝いの言葉といたします。

基調講演

「犯罪被害者等の置かれた状況について」
高橋 シズヱ(地下鉄サリン事件被害者の会代表世話人)

 ご紹介いただきました、地下鉄サリン事件被害者の会の高橋シズヱです。

 「犯罪被害者週間」国民のつどいの第2回目を迎え、これまで犯罪被害者等基本法、基本計画にご尽力いただきました、内閣官房長官、担当大臣、関係機関、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

 この法律は常に被害者等の視点、意見、要望を採り入れて制定されたということ、被害者等の要望を広く受け入れるための窓口が内閣府に設置されているということ、「犯罪被害者白書」で進み具合の情報を得ることができることなど、とても充実していると思います。そして、何よりも忘れてならないのは、これまでの被害者、その家族や遺族の勇気ある発言があったことです。

 地下鉄サリン事件が起きた12 年前には、被害者支援という組織立ったものは何もありませんでした。被害者等に何ら権利がなかった時期から10 年の間に、このような具体的な施策決定までの進展を見ることができまして、まるで夢のような今日です。地下鉄サリン事件被害者の会としても、松本智津夫被告の初公判の被害者傍聴席を確保することからはじまって、これまで一つ一つ要望を出し、訴えつづけてきたことが形になったという実感があります。今はオウム事件の被害者救済のための法律ができるよう、ひいては私たちのように12年も何らの経済的支援がなされないようなことがないよう、テロ事件の被害者救済法ができるよう、活動を続けているところです。

 私の体験を思い起こせば、私は銀行でパート勤務をしており、両親と子どもと7人家族のごくありふれた主婦でした。地下鉄サリン事件が起きる4ヶ月前、次男がカラスにいじめられている子猫を2匹連れて帰りました。片手に乗るような子猫ももう13 歳になりましたが、今でも孫のように抱いていた主人の姿が忘れられません。

 事件が起きたことは、妹からの電話で知りました。学校や職場の緊急連絡網などは名ばかりで、メディアの即時性にまさるものはありませんでした。主人が搬送された病院に付き添ってくれたのは、そのとき一番身近にいた職場の上司でした。そこから私の生活は一変しました。

 病院では主人と同じ営団地下鉄職員で、当時六本木駅に勤務していた長男がすでに冷たくなった主人に付き添っていました。長女も駆けつけ、次男は検視のために移動した警察に後れてやってきました。葬儀の日、子どもたちはそれぞれ父親への手紙を棺の中に入れました。主人の遺体を前にして、私と子どもたち3人は家族でありながら、まったく他人のように別々に泣いていました。

 長い間、私は子どもたちの気持ちがわかっていませんでした。事件から5年目のお正月に、私は仏壇のまわりにあった遺影や表彰状などを片付けました。主人がいないことをこれ見よがしにしている、それだけの生活から一歩進み出たいと思ったからです。外出から帰宅した長女はすぐ仏壇に気がつき、「これで友達を呼べるわ」と言いました。聞けば、それまで長女は堅苦しい思いをしながらも、私の気が済むまでと我慢をしていたのです。

 次男との会話はほとんどありませんが、次男の気持ちを知ったのも事件から10 年目に放送されたテレビ番組がきっかけでした。長男から事件当日のことを聞いたのも、今年になってからです。大事な家族を失ったとき、残された家族が悲しみを分かち合い、支え合って暮らしているとは限りません。事件のことを話題にしないことが多いでしょうし、特に子どもの場合は、親が自分自身のことで精一杯ですから、周囲の人も子ども自身も長期にわたる心の痛みを気づかずにいることが多いと思います。

 事件翌日の司法解剖でもつらい思いをしました。「10 時までに来てください」と言われ、東大の法医学教室に行きました。何時間たっても、「終わった」という連絡がなく、あちこち探し回ったら、警察官に会ったので、「まだですか」と聞きましたら、「もう終わって葬儀屋に引き渡しましたよ」と言いました。何のために待っていたのか、と思いました。おまけに主人がどうだったのか、聞きたかったのですが、解剖医の話を聞くこともありませんでした。

 松本智津夫は昨年の9月に死刑が確定しましたが、松本の裁判で解剖医が証言したことがありました。死因がサリンであることを証言したのですが、日本で初めてのケースですし、解剖医は保存していた脳細胞でサリンの検出方法を研究し、証明した、ということでした。保存していた? 私は主人の臓器が解剖医の手元で保存されているんだ、と思いました。

 解剖から戻された遺体は葬儀の後、火葬され、お骨はお墓に納めましたが、主人の一部がまだどこかにある、というのはどういうことでしょうか。主人が身につけていたものは、押収品目録と引き替えに警察が持っていきました。大事な家族の身体の一部は遺族に無断で持ち去られた、としか言いようがありません。

 事件から8年後に私は東京地検の検事さんにお願いして、主人の臓器を確認してもらいました。するとその後、教授が名古屋の大学に転勤になったときに、冷凍保存していた臓器を持っていったということでした。臓器の保存に関して、「裁判が終わったら誰に権限があるのかの法律」はありません。慣例として解剖医の研究に使われるか、不要になれば荼毘に付されるということでした。事件で犠牲になったと同時に、大事な家族の身体は国のものになってしまい、しかも国は適切な遺族対応をせず、臓器に関しても責任を持たないのです。裁判で死因が究明され、刑が確定した後は、価値があれば研究に使われ、あとは使い捨てのような扱いをされているのです。今、私は関係省庁に司法解剖における遺族対応についての要望書を出しているところです。

 ところがつい最近、名古屋の教授がまた別の大学に転勤になったというので、主人の臓器は東大に返されました。たまたま私が要望を出していたので、持ち出されていた主人の臓器が返却されたし、返却されたという連絡も受けることができたわけです。そうでもなければ、遺族がこのような連絡を受けることなどなかったでしょう。つい2週間前ですが、東大医学部に行き、現在の教授にお会いしてお話を伺ってきました。主人が実際解剖された解剖室で説明を聞きました。30 人とも50 人とも言っていましたが、科警研の所長さんやら、警察官の方、検察官の方ですし詰め状態だったそうです。そして、私自身、主人の冷凍保存されている臓器とホルマリン漬けにされている臓器を確認しました。

 司法解剖に関しては遺族対応が不十分です。「犯罪被害者白書」には警察庁がパンフレットの配布や説明に努めていることなど書かれていますが、配布や説明を徹底させてほしいし、取り出した臓器については部位と量、使用目的、保存期間等の管理と連絡、慰霊祭の案内まで、警察が責任ある遺族対応をするような制度にしてほしいと思います。

 地下鉄サリン事件の被害者の中に重篤な被害者が二人います。一人はこれまでも入院先を何度か転院させられ、現在は兄夫婦が家を改築して介護にあたっています。もう一人は記銘障害という記憶ができない傷害で、そのために一人で生活することができません。二人とも一生介護が必要な被害者で、歳をとっていく家族が面倒をみることができなくなったらどうなってしまうのかと、家族にとっても精神的、経済的な負担を強いられています。

 重篤とまでいかなくても、精神的な症状で苦しんでいる被害者もまだまだいます。特にPTSD、心的外傷後ストレス障害と言われるものですが、関西では阪神淡路大震災から、関東では地下鉄サリン事件から、その名がよく知られるようになりました。しかし、PTSD の適切な治療を受けられなかったために、未だに通院している被害者等がいます。精神的な被害ははっきり目に見える傷ではないために、仮病とか、甘えていると周囲から誤解されることもあります。こうして、被害者等は家族の中だけでなく、職場や友人など、被害を理解してもらえないことで苦しみます。

 基本計画によって、昨年度に厚生労働省が行なったアンケートで、「被害回復のために休暇制度を導入すべき」という被害者等の意見があることを知らない企業と労働者は9割だった、という結果が出ています。つまり、治療のために通院すること、刑事裁判への関与、自助グループへの参加、「犯罪被害者週間」国民のつどいへの参加など、おしなべて被害者等の現状やニーズが知られていないということだと思います。犯罪被害者等が社会への信頼を取り戻し、社会の一員として事件前の生活に戻るために、周囲の人々の協力と理解が得られるよう、今後の周知徹底に期待しています。

 さて、葬儀も終わって、犯人が逮捕され、刑事裁判が始まりました。被害者等への対応のために、地下鉄サリン事件被害対策弁護団が結成され、民事提訴もほぼ同時期に行なわれました。迅速に加害者の資産の保全処分を行なう必要があったからです。しかし、原告になったのは、被害届を出した531 人の被害者のうち、たった40 人でした。その理由は、事件関係のニュースを見ることができない、そのための情報不足だったり、加害者であるオウム真理教からの報復を恐れていたり、そもそも提訴ということに考えが至らなかった被害者も多いと思います。

  民事裁判では被害対策弁護団の尽力で、被告の出廷が実現し、私は原告として訊問できました。しかし、大方は書面のやりとりで終わるということでしたから、被害者等が本来望んでいる事実の究明と謝罪がいかに実現しにくいものかと思っています。損害賠償訴訟は5年後に勝訴しましたが、しかし、現実として死刑になるような加害者から賠償金が支払われることはありませんでした。

 概して、犯罪被害者等が民事提訴し、大きな賠償金額が報道され、裁判の結果と言えば、勝訴の紙切れだけ、というのは地下鉄サリン事件の原告だけではないでしょう。賠償金という経済的被害回復については、大勢の被害者等が泣き寝入りしているのが現状ではないかと思います。

 しかし、地下鉄サリン事件は国を狙ったテロ事件でした。松本智津夫ほか、地下鉄サリン事件に関与した被告人の裁判の判決の中で、テロ事件と認定されています。オウム真理教は強制捜査が間近であることを察知し、警視庁の強制捜査を混乱させるために霞ヶ関を狙ってサリンをまいたのです。被害に遭ったのはオウム真理教と何ら関係のない、善良な一般市民でした。まさに国の身代わりになって命を奪われ、傷害を負わされたのです。誰もがサリン事件の被害者になる可能性があったのです。このような国や社会を恐怖に陥れるテロ事件の被害者には、迅速な被害者救済を行う必要があります。

 この度の基本計画の経済的支援に関する検討会でも、テロ事件の被害者救済は迅速に行うことがとりまとめとして決まりました。地下鉄サリン事件、松本サリン事件など、オウム事件の被害者は破産手続で自助努力を続けている現在、今まさに進行しているテロ事件の被害者です。地下鉄サリン事件被害者の会は1日も早い被害者救済がなされるよう、法律が制定されることを願って訴え続けているところです。

 刑事裁判も被害者等にとっては忍耐の場でした。地下鉄サリン事件に関しては、控訴審も終わり、あとは最高裁を残すのみになっていますが、裁判が始まったのは12 年も前のことでした。まず地下鉄サリン事件に関与した15 人の被告の公判予定日がわかりませんでした。被害者のための傍聴席がありませんでした。法廷へ遺影の持ち込みを禁止されました。開廷まで法廷の廊下では加害者の信者たちに取り囲まれて並びました。最初は法廷で何が行なわれているのか、法廷用語はさっぱりわかりませんでした。何が証拠採用されたのか、何が留保なのか、何号証などと言われても理解することができませんでした。泣きながら供述した調書は検察官が早口であっという間に読み終えてしまいました。被害者の証言のときに居眠りしていた裁判官がいました。論告求刑や判決言い渡しの直後はかなり緊張している状態なのに、報道関係者に取り囲まれてコメントを求められました。

 判決が下り、刑が確定すると、受刑者の釈放に関する書類が送られてきます。釈放されるまで、被害者には受刑者に関する情報がいっさいありません。裁判で謝罪した言葉は本当だったのか。服役して改心したのか。出所してからも償いの人生であることが自覚できるのか。被害者等がそれぞれに知りたいこと、聞きたいことがあると思います。受刑者が釈放後、保護観察になったときには贖罪指導プログラムで個人指導しているようですが、あくまで対象者の自己認識の域に止まり、再犯防止になっているのかどうか、矯正関係者の取組も重要になると思います。

 司法制度に関する様々な被害者等の要望は、現在ほとんど基本計画の施策に盛り込まれていると思います。特に犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度は画期的です。現在、被害者等は傍聴席に座っているか、証人出廷するか、証拠とならない意見陳述をするかの場面しかありません。被告人が何を言っても反論の機会がないのです。それが今年6月に被害者参加人として刑事司法に関わることができる法律が制定されました。特に私が期待をしているのは、「被告事件についての刑訴法上の検察官の権限に行使に関し、意見を述べ、説明を受けることができる」とあることです。

 オウム事件の場合にはすでに一審は全員済んでしまいましたが、証人や被告人に対して疑問に思っていることを質問できていたとしたら、証言が真実なのか、被告人の謝罪が本心なのかを直接問うことができたのに、と思います。被害者の検察官調書は弁護人が差し入れれば、文字として読むでしょうし、証拠採用されれば、検察官が早口で読み上げるでしょう。しかし、目の前にいる被害者等の生の声を聞かせることは被告人にとっても、被害者等にとっても、そのときしか言えない貴重な機会だと思います。

 先日、ある場所で講演を終えて控室に戻りましたところ、検事正の方がお見えになりまして、「高橋さん、お話の中で『早すぎた』とはどういうことですか」と私に質問なさいました。主人が死ぬことになった千代田線でサリンをまいた林郁夫は、現在、無期懲役で服役していますが、一審の裁判で私は証人出廷しませんでした。講演で私が話したことは、死刑にしてくださいと証言できなかったわけではなく、証言そのものができなかったこと。事件が3年目で一審の無期懲役判決が確定したことが早かった、ということでした。検事正の方がおっしゃるのは、これから裁判員制度も始まろうというときに、3年の判決では遅いのでしょう。

 私はもっと裁判を長くやってほしいと思っているのではありません。裁判そのものが、被害者置き去りでどんどん進んでいったら、どんなに長くかかっても被害者はスタートラインの位置のままです。事件の当時者でありながら、刑事裁判に関われずにいたのが、この法律が施行されるようになれば、当該裁判がどのように進められていくのか、法廷の内容をもっと理解することができ、全体的な流れの中で検察官と被害者等代理人とで役割を果たすことができるのではないかと思っています。

 また先月、九州でお嬢さんを同級生に殺されたご遺族に会いました。遺族であるお父さんがおっしゃっていたことは、「間もなく出院してくる同級生と会って、どうして娘を殺したのか聞きたくても、あの事件を起こしたときの同級生ではなくなっている」ということでした。少年審判は刑事裁判とは違いますが、遺族の気持ちは同じだと思います。一審の法廷でそのときに被害者が聞きたい、知りたいということは、この機会を逃せばなくなってしまうのです。さらに、法廷という公開の場で、被害者に向かって民事的な責任も確約させることができれば、書面だけということが多い民事裁判への不満も解消されるのではないでしょうか。

 また、被告人が有罪になった場合に、損害賠償命令が出されることも、今後導入されます。しかも、その手数料は2千円ですから、地下鉄サリン事件の民事裁判が5年もかかったこと、訴訟費用等の経費が百万円単位であることを考えれば、どれほど被害者等の精神的、経済的負担が軽くなるかわかりません。公判の最初から関わり、公判を通して、許されるかぎりの機会を与えられる法律が制定されたことは、ありがたいことだと思います。

 被害者参加制度と同時に検討されていた、公的弁護人制度ですが、被害者参加制度が来年の秋に施行するまでに導入されるようにしてほしいと思います。資力の乏しい犯罪被害者等にも、被害者参加制度の機会が平等に提供されるためには、必要なことです。先ほども言いましたように、地下鉄サリン事件で民事提訴したのは少数の被害者等でした。しかし、オウム真理教が破産になってからは、千人以上の被害者が債権届出を出しました。被害対策弁護団は破産手続に要する費用もほんのわずかな額に抑えていました。それでも経済的被害回復の機会にたどり着いたのは、地下鉄サリン事件の全被害者の2割しかいなかったのです。今後はこのように漏れてしまう被害者等がなくなるようになってほしいと思っています。犯罪被害者等基本法第3条にあるように、すべての犯罪被害者等に、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利があることを知らせてほしいと思います。

 話は前後しますが、地下鉄サリン事件被害者の会は、民事提訴した原告で結成され、その後、債権者も参加するようになりました。被害者の会のサポートをしてくれたのは、弁護団でした。当初は、民事提訴の相談会から出発したということもありますが、定例会の場所の設定、会場費の援助、被害者等への開催通知から、定例会の司会進行までお世話になりました。2年ほどたった頃から、私も取材依頼をほかの被害者にお願いするなど、だんだん仕事をこなせるようになってきて、それからは弁護団のアドバイスを受けながら、会を運営しています。

 自助グループを含む被害者団体は癒やしの場であると同時に、被害者の自立をめざし、また被害回復のための要望を出したりする活動の場でもあります。この運営や活動を長く続けるためには、ソフト面の大変さとハード面での大変さがあります。ソフト面ではいろいろな方々が集まるというむずかしさがあります。被害者自身か・遺族か・家族かの違い、犯罪の種類の違い、事件からどれぐらい経過しているかの違い、などです。それから適切なリーダーと会の活力を持続させることも必要です。ハード面ではやはり財政的な大変さです。何をするにも経費がかかります。会費を集めたり、寄付を募ったり、資金面での自助努力も欠かせません。

 地下鉄サリン事件被害者の会も風化という言葉を何度も聞きました。自分たちはまっただ中なのに、世間には忘れ去られていくのです。不幸なことに毎日のように悲惨な事件が起きて、メディアも地下鉄サリン事件だけをそうそう取り上げてくれるわけではありません。そんなとき、私はニューヨークにいる友人の紹介で「9・11 テロ事件」のご遺族、支援者、ボランティアの方々と会えることになり、ニューヨークに行ってきました。そこで、テロ事件の被害者の支援や補償について聞くことができましたし、何よりも私には心温まる出会いに巡り会うことができました。

 翌年にはその方々をお招きしてのシンポジウムを開きました。シンポジウム開催に携わってくれた多くの方々からも活動のエネルギーをもらいました。また、ニューヨークを介して、日本人の9・11 テロ事件のご遺族や支援者にまで交流の輪を広げることもできました。遺族同士のつながりは何の垣根もなくとけ込める独特なものです。そして、同じような事件の被害者同士ということも距離感をまったく感じないで、心を通わせることができました。

 地下鉄サリン事件被害者の会では、ほかの被害者団体と同じように、寄付のお願いもしてきました。今年の3月の追悼日にも冊子を作って配布させていただきましたが、皆様からの温かいご寄付をいただきまして、本当にありがたいことだと感謝しております。

 私たちのような、こういう被害者団体に国からの財政的援助はないのですが、今年の「犯罪被害者白書」を見て、うれしかったことは、地方公共団体が財政援助を行なっている例として、岡山県と大阪府の例が掲載されていたことです。このような取組が全国各地、各地方公共団体で行われるよう期待しています。また、犯罪被害者団体ネットワークが主催する、犯罪被害者週間全国大会というものがあります。これは北海道から沖縄までの被害者団体が毎年、犯罪被害者週間の日曜日に行なう行事で、今年も25 日にありました。内閣府の荒木室長、全国被害者支援ネットワークの山上理事長、法務省の三浦審議官ほか、多くの方々にお越しいただき、有意義な大会となったことで、被害者全員喜び合いました。皆様のご援助、ご支援を受けながら、このようなイベントを通して被害者団体同士がつながっていくことも大事だと思います。

 今、いろいろな情報が提供されていますが、一番早く、詳しく、しかも比較対象ができて、必要な情報を選び出すことができるのはインターネットです。とても便利なのですが、私も代表世話人の立場になっていなかったら、還暦を過ぎたこの年でパソコンを使うこともなかったことでしょう。基本的な情報は多くの人々が目にする方法で徐々に伝わるようになってきていると思いますが、事件直後の被害者等は衝撃と混乱の中にいますから、適切な情報が提供されることはもちろんですが、そこから必要な支援を得られるようなかたちで提供されることが望ましいと思います。

 それから、支援の地域格差とでも言いましょうか。基本計画が決定しても、被害者支援の必要性の認識が低いために、まだ連携が図れていないところが多いと思います。被害者等自身が体験談を話すことによって、その必要性をわかってもらうことはつらいことですが、地域の関係機関などには積極的に参加して、耳を傾けていただきたいと思います。

 最後に、内閣府はじめ、関係者のご尽力により、国から地方公共団体へ、そして国民全体へと徐々に被害者支援が浸透しつつあります。これまで言われていた欧米との後れを取り戻し、追いつき、追い越し、世界各地から視察に来ても、被害者等が充実した支援を受けている現状を示せるという状況になることを願っています。以上、長い間ご清聴、ありがとうございました。

政府からの報告

荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長)

 皆さん、こんにちは。ご紹介をいただきました、内閣府の被害者等施策推進室長の荒木と申します。どうぞよろしくお願いします。

 本日はご来場まことにありがとうございます。また、日頃から犯罪被害者施策の推進につきまして、何かと御指導とご支援を賜っております。大変高いところから恐縮でございますが、心から感謝を申し上げる次第でございます。

 今日は基本法ができて3年目の記念すべき日でございますけれども、私のほうからこの1年間にかなり施策が進捗いたしましたので、その推進状況につきまして、ご報告を申し上げたいと思います。お手元にメモ(資料(PDF形式:15KB)別ウインドウで開きます)があると思いますので、適宜ご参照を賜れば幸いでございます。

 推進状況をご説明させていただきます前に、もう一度復習みたいな話ですけれども、基本法の話と基本計画の話を若干させていただきます。「犯罪被害者基本法」はご案内のように、2004 年12 月1日に成立をしました。内容ですが、一番大事なところはやはり3つの基本理念です。「被害者の方が個人としての尊厳を受ける。その尊厳にふさわしい処遇を保証される権利を有する」ということが1つめの基本理念でございます。けっして被害者の方というのは哀れみの対象ではない。一人の人間として尊重されるというのが基本であるということであります。2点目の基本理念ですが、被害者の方の状況というのは犯罪の種類によっても、あるいは置かれた境遇によっても、全部違います。その置かれた被害者の方の、あるいは遺族の方の個別の状況に応じて、施策を実施しなければならないというのが2点目の理念です。3つ目でございますが、被害者の方が平穏な生活を営むことができるようになるため、それまでの間、途切れなく支援を行なう必要がある。我々役所でございますが、どうしても役所は縦割りでございます。警察も一生懸命やっている、検察も一生懸命やっている、あるいは厚労省も一生懸命やってる、保健所もやっている、病院もやっている。しかし、それがどうしても被害者の方から見ると、隙間がある。どっち行っていいかわからないとか、ということがないように、心の傷、身体の傷もいずれは癒えるときが必ず来ると思いますけれども、それまでの間、社会を上げて、必要な支援が行なわれるようにしなければならない、というのが3つ目の基本理念でございます。

 あと、国の責務、地方公共団体の責務、国民一人ひとりの責務。それから基本計画をきちんと閣議決定でつくりなさい、ということが書いてございます。

 さらに、先ほど官房長官にも来ていただきましたが、推進会議というものを国に設置をしております。官房長官を会長といたしまして、関係大臣と有識者の方々からなっておりますけれども、この推進会議におきまして、重要事項を審議し、また施策がきちんと実施されているかどうかを検証し、評価し、監視をすると。こういう役目を負ってところでございます。

 この基本法を受けまして、一昨年の4月から、だいたい9ヶ月かかりまして、犯罪被害者等の基本計画を策定いたしました。犯罪被害者等の基本計画策定にあたりましては、まさに被害者の方の声、あるいは支援に当たる人の声を十分に聞こうということで、延べ70 近くの団体の方からヒアリングを行ない、1066 の具体的な意見要望をいただきました。それを検討会におきまして、一つ一つをまな板の上に載せまして、この要望・意見をどういうふうに施策に活かすのかということを検討し、ここにございますように5つの重点事項に沿いまして、合計258 の施策をとりまとめたところでございます。現在、この基本計画の258 の施策を政府を挙げて推進をしているということでございます。

 ただ、この基本計画は9ヶ月ほどで作りましたので、大変むずかしい3つの問題、あるいは後ほど法務省のほうから報告ありますけれども、刑事裁判の参加の問題などについては、2年以内に結論をだしてくれという宿題が残されておりました。そこで、3つの検討会の開催ということで、これは昨年の4月から今年の11 月まで約1年半をかけまして、3つの検討会を開催をしまして、政府としてこういう方向にいこうという取りまとめを行なったところでございます。

 1つは、「経済的援助に関する検討会」でございます。被害者の方、ご遺族の方、特に一家の大黒柱の方が亡くなられたような場合に、大変年経済的困窮に陥ってしまうということで、被害者の方に対して、どういう経済支援を、どういうふうに拡充したらいいのかという、この行政財政改革のときに大変むずかしい課題ですが、なんとかしようということで、検討を重ねましたそこにございますように、最終とりまとめにおきましては、昭和55年から犯罪被害者給付金の制度が昭和55 年からございますけれども、この犯罪被害者の給付金につきまして、抜本的な拡充をはかると。その内容は何かというと、現在、亡くなった場合の遺族給付金の最高額が1千500 万余りですけれども、この最高額を交通事故で亡くなった方の、自賠責の最高額並みに引き上げようじゃないかということがございます。すなわち1千500 万円余りから、約3千万円に最高額を引き上げるということでございます。重度障害者の方について言いますと、現在最高額が1千800 万円余りですけれども、これを約4千万円に引き上げるということで、提言を出したところでございます。

 現在、これにもとづきまして、警察庁のほうで給付金支給金法の改正と、それから予算の要求を行なっておられるというふうに承知をいたしております。

 特に検討会でその際問題になりましたのが、労災なんかも全部そうですが、収入がどうしても低いと、どうしても額が低くなる。そういうシステムになっています。しかし、それだと若い人で重度障害にあったような場合に、若いのでもともと収入が低くて、その後長く苦しむわけですから、そういう場合はきちんと配慮をしてくれと。重度障害の場合はそれなりの拡充をしてくれという声がありましたので、それに配慮しましましょう。あるいはご遺族の方でも、扶養のお子さんがたくさんいらっしゃるという方は、当然のことながら配慮しましょうという提言をしているところでございます。

 それから、メンタルなケアについても、一つの大きな重点として検討をいたしたところでございます。特に認知行動療法と呼ばれるような、高度な精神的な医療があるのですが、これが保険の点数が低いために、どうしてもお医者さんがなかなかやれない。したがって、どうなるかというと、自費で保険が効かない診療にせざるを得ないというような問題があるということがわかりましたので、そういう高度医療を受けやすくするため、診療報酬の保険の点数を上げることを検討しようという提言をいたさせております。また、今、支援団体などで、カウンセリングを臨床心理士さんにやっていただいているのですが、これにつきましても拡充を大いにはかっていこうということにしています。

 それから先ほど高橋さんのお話にございましたけれども、無差別大量テロ事件の際に、アメリカの9・11 、あるいはロンドンの地下鉄テロ事件にならいまして、事後に政府が迅速に、かつ事案に応じた適切な救済を行なうべきであると。これは実は被害者の方からは、事前になんとか法律ができないかというお話がかなりあったのですが、無差別大量テロの場合、どこからどこまでテロと言うのかとか、あるいはテロの対応がサリンみたいな化学兵器のこともあるでしょうし、あるいは最近はいわゆる生物兵器みたいなものもありますし、あるいはあまり考えたくはないのですが、核物質テロみたいなものもあるし、要するにいろいろなことが想定されて、それに応じた適切な救済をはかるという、そういう中身が全然ちがってくるので、なかなかこれは一律にはむずかしいだろうということで、アメリカ、イギリスの例にならって、とにかく事後にきちんと迅速に救済するという提言を出させていただいたところでございます。また、先ほどちょっと話が出ておりましたが、被害者の方が刑事裁判に参加する場合には、弁護人の方を付き添い人として公費で面倒みようではないかということにしております。

 2つ目の検討会ですが、「支援連携に関する検討会」ということで、サポートのネットワークがなかなかうまくいってないと。これをどうしたら連携がうまくいくようになるだろうかということで、1つは被害者の方が病院に行っても、保健所に行っても、警察に行っても、検察に行っても、支援センターに行っても、どこの機関に行っても、きちんと受け止めてもらえると。きちんと相談に乗って、然るべきところを紹介してもらえると。あるいは被害者の方と接するときに、どうしても心ない対応が多いわけですが、そういうことがないように、被害者の方と接するときの留意事項でありますとか、あるいはお互いの連絡先、その地域の連絡先などを網羅したハンドブック的なものを作って、これをそういう関係の機関に全部置こうではないかという提言でございます。

 2点目ですが、これは被害者の方から、特に性犯罪のような場合に、何回も何回も繰り返し事件の申告をするのがつらいと。それが第二次被害になってしまうという声がありました。サポートする側で、被害者カードみたいなものを出してもらえないか。こういう被害に遭いましたというカードを出してもらえば、それを持っていけば、説明が少なくてすむと。そういうカードを出してもらえないかという話がありました。これについてもかなり検討したのですが、捜査機関が出すとなると、捜査の秘密の問題があります。あるいは医療機関が出すとなると、医療のまさに個人のプライバシーの問題があって、それがどこに行っても使えるということになると、これまた違う意味で被害者の方にご迷惑をかけてしまうと。しかしながら、負担の軽減はなんとかはかりたいと。そこでちょっと中途半端かもしれませんけれども、まず被害者の方に自分で作ってもらうおうと。そのための様式はインターネット等で示しますが、とにかく自分で「私はこういう被害に遭った。しかも、こういう支援が必要です」と。ちょっと経済的に困っているとか、弁護士さんを紹介してほしいとか、そういうチェックみたいな、簡便なかたちのものを持っていけば、これは自分で書いたものですから、自分で管理するわけですから、これだといけるのではないかということで、被害申告表と呼んでおりますが、そういったものを作ってはどうかという提言をいたしました。

 それから、民間で研修にあたっておられる支援員の方の研修がなかなかできていないと。レベルに差があり、必要な支援が受けられない。あるいは資格がはっきりしていないということで、「何者だ?」と言われたときに、答えようがないというような問題がございます。そこで、全国被害者支援ネットワークさんにそういう民間の支援員の研修、それから資格の認定をやっていただこうではないかということで、結論を得ております。

 その民間の支援員の中で、一番最上級の支援員というようなイメージですが、とにかく被害者支援というのは裁判のことも、司法のことも、刑事事件のこともわからなくてはいけないし、民事のこともわからなければいけないし、メンタルな医療、税金、福祉もわからなければいけないという、本当にすごい知識と経験が必要ですが、そういったことを備えた方をきちんと育成しなければいけないと。コーディネータと呼んでいますが――アドボケーターと呼んでもいいと思いますが、そういうコーディネータの研修・育成をはかっていこうという提言をしております。

 3つ目の「民間団体援助に関する検討会」でございます。民間団体が被害者支援に果たす役割は大変重要であります。先ほどの基本理念にもありますように、個々の状況に応じて、個別に支援が必要ですが、役所ではどうしても法律や規則に縛られますから、フレキシブルな支援はできません。やはり民間団体の方が機動的に動いて、柔軟な、本当に被害者の方に役立てる支援をしていく必要があると考えています。そういう意味で、民間団体に対して、財政的援助を拡充していく必要があるということで、1つは、現在警察から補助金が早期援助団体等に出ております。この補助金がより拡充されるようにしていこうではないかと。警察から補助金は出るのですが、実はなかなか都道府県で予算化がされていないところがけっこうあり、結局支援団体まで届かないという問題もありますので、そのへんも含めて、援助の拡充をなんとかしようと。

 一方で、警察はそうやって補助金も出ているのですが、都道府県知事部局、あるいは市町村といったところの取組みが実はまだまだというところがあります。基本法におきましても、国、地方公共団体の責務ということで、国の責務はほとんど地方公共団体の責務でもあるというふうに、法律で明示をされています。したがって、地方公共団体の取組みを強化する必要がある。もともと地方公共団体には福祉のスタッフも揃っていますし、医療のスタッフもいるわけですから、そういう被害者の方をケアする仕組みというのはあるわけです。ですから、それを被害者の方に役立てていただくのは大変大事なことだと考えています。ただ、今申し上げたように、まだまだ認識が足らないところがあります。そのために地方公共団体を通じて、民間の支援団体の人と一緒に事業をやるということで、国のモデル事業みたいなことをやろうではないかと。これにつきましては、すでに来年度の概算要求で要求をしているところでございます。

 それから、民間資金の活用と書いてありますが、民間団体はあくまで民間団体でありまして、税金が入ってないので、そういうフレキシブルな支援も可能になるわけです。そこで民間の資金を活用しなければいけないのですが、今でも資金をお願いに行くと、企業のほうで「被害者支援て何のことですか」と言われることも多いわけです。そのへんを民間の方にもうちょっときちんと、最後の国民の理解と協力というところにも行き着くのですが、そういったことをきちんと広報・啓発をより一層強化して、支援団体の方が民間資金を活用しやすいようにしていこうではないかということです。

 さらには、そういう支援団体の方の支援について、財政的援助を行なっているわけでありますから、それが本当に被害者のためになっているのかどうか、どの点がまだ足りないのか、どの点を強化したらいいのかということを、被害者の視点に立って評価をしようではないかということも盛り込んでございます。以上が検討会の結論です。

 それ以外に、この1年間でかなり進んだ状況がございますので、簡単にご報告をさせていただきます。1つは「損害回復、経済支援」の関係では、性犯罪の場合に、緊急避妊の予算、診断書を提出しないとなかなか被害届けできないのですが、診断書料について公費で支出できるようになっています。それから公営住宅へは優先的に被害者の方が入居できるようなシステムに、いちおうシステムはなっています。損害賠償命令制度の創設につきましては、後ほど法務省からご説明があろうかと思います。

 それから「精神的、身体的被害の回復・防止への取組」ということで、高橋さんの話にも、同じところで待たされたという話がありましたけれども、被害者専用の待合室を順次整備をされております。DV 法、児童虐待防止法の改正によりまして、被害者保護の拡充がはかられております。

 さらに、「刑事手続への関与拡充の取組」で、刑事裁判に被害者の方が参加する制度、等々がありまして、これにつきましては、三浦審議官に譲りたいと思います。

 それから「支援のための体制整備への取組」ということで、全都道府県に被害者の施策の窓口ができました。1年半前に第1回の都道府県の被害者担当課長会議を開催しました。そのときは都道府県の窓口がどこかもよくわからなかった。それがこの1年たって、全都道府県にいちおうここが施策の担当だと。そこに行くと、ちゃんと被害者の方の相談にも乗れます、情報提供もできますというところが28 ですから、もう半分以上できています。これを全部の都道府県に総合窓口ができるように、引き続き取り組んでいきます。やはり身近な地方自治体の役割、後ほどパネルでもあると思いますけれども、これがこれから大変重要ではないかと考えています。

 それから、これは法テラスですけれども、昨年の10 月から運用開始になっています。被害者専用ダイヤルの番号をご存じでしょうか。0570 ― 079714「泣くことないよ」という語呂合わせでできておりますので、よろしくお願いしたいと思います。

 それから、国民の理解がまだまだだということで、「白書」は今、1500 円でアマゾンでも買えますので、ぜひ買っていただければと思います。それから、被害者週間はこういうことで実施しています。もう1つ、意識調査をやりました。これは被害者の方と一般の国民の方に同じようなアンケートをとりまして、ギャップがどこにあるかを調べました。1つだけご紹介しますと、被害者の方は誰か話かける、相談する相手がほしいと思っています。ところが、一般論ですが、国民の方の多くは被害者の方はきっとほったらかしてほしいと、そっとしておいてほしいと思っているのではないかと。このへんが意識のギャップが見られるのではないかと思います。そのほかにもいろいろな興味深い結果はあるのですが。いずれにしましても、その結果を踏まえまして、学校での被害者問題についての教育が大事だということで、「中学生向け」と書いてありますが、中学生、あるいは高校生向けにDVD、あるいは冊子を作り、これを全国の中学校、高校等でご活用いただこうということで、今、文科省と話をしているところでございます。

 ちょっと時間がオーバーしてしまって申し訳ございませんが、いずれにしましても官房長官が冒頭申し上げましたように、この1年間に制度としては大変すばらしいものが揃ってきたと言えるかと思いますが、問題はこれが現場に下りて、本当に被害者の方が支援を求めたときに、それぞれの機関、団体においてきちんとこれを受け止められるか。本当に被害者の方が平穏な生活を取り戻せるまで、切れ目のない支援ができるかというのは、まだまだ私はこれからだと思っております。そういう意味ではメニューが揃っただけで、スタート地点だと考えております。今後も被害者の方のために、微力を尽くしたいと考えておりますので、一層のご指導とご鞭撻をよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。

資料:犯罪被害者等施策の推進状況(PDF形式:15KB)別ウインドウで開きます

政府からの報告

三浦 守(法務省大臣官房審議官)

 ただ今、ご紹介いただきました、法務省の三浦でございます。私のほうからは今年の6月20 日に成立しました、ちょっと長い名前ですけれども、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」という法律の内容等についてご説明をいたしたいと思います。お手元に資料として「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」というタイトルで始まります3枚つづりの紙(資料1(PDF形式:263KB)別ウインドウで開きます)があるかと思いますので、それをご覧いただきたいと思います。その1枚目からご説明をいたします。

 この法律は今年の6月20 日に成立したものでありますが、元をたどりますと、「犯罪被害者等基本法」、それに基づく「犯罪被害者等基本計画」の中の事柄を実現するためのものでございます。その1枚目の、左側に基本計画の5つの項目が水色で記載してあります。それに対応するかたちで、右側がこの法律の内容を簡単にまとめたものであります。右側を見ていただくと、3つの法律を改正していることがおわかりいただけるかと思います。具体的には5つの内容が盛り込まれているものでございます。上から順に簡単にご説明をします。

 1点目は被害者等が刑事裁判の公判期日に出席し、被告人に質問をする等、刑事裁判に参加する制度を創設するというものでございます。この点につきましては、また後ほどもう少し詳しくご説明をいたします。

 2番目はその下になりますが、性犯罪等の被害者の氏名等につきまして、それを公開の法廷で明らかにしないようにする措置などを定めるものでございます。刑事裁判では、例えば検察官の起訴状の朗読の中で、被害者の名前を読み上げることがございますし、被告人質問ですとか、証人尋問の中で被害者のお名前を明らかにすることが、どうしても伴うわけであります。しかしながら、性犯罪などの事件ですと、具体的にどういう方がその被害者であるのかが公開の法廷で明らかにされることになりますと、まさにそれは被害者の方にとって大変つらい、苦しいことになるわけであります。そういうことで、この法改正におきましては、裁判所が被害者の方々からの申し出を受けまして、その被害者の方々の氏名などを公開の法廷で明らかにしないという決定をしまして、その決定があった場合には起訴状の朗読などの手続において、被害者の方々の氏名などを明らかにしないという措置をとることになったものであります。

 3点目は、損害賠償請求に関しまして、刑事裁判の成果を利用する制度、損害賠償命令制度と呼んでいますが、これを創設するものでございます。これもまた後でもう少し詳しくご説明をさせていただきます。

 4つ目は、公判記録の閲覧謄写の関係です。これまで被害者の方々が現に刑事裁判が行われている記録、いわゆる公判記録と呼んでおりますが、これを閲覧謄写ができますのは、損害賠償請求権の行使のために必要な場合など、一定の場合に限られておりました。しかしながら、被害者の方々にとりましては、まさに事件の内容を知りたいということで、そういう記録を見たい、コピーをとりたいというご要望が多く寄せられていたところでございます。当然、そういうお気持ちは法律上も大切にしなければならないだろうということで、今回の法改正におきましては、被害者の方々は原則として、その公判記録の閲覧謄写ができるということになりました。さらに、例えば悪徳商法ですとか、振り込め詐欺など、大勢の方が被害に遭うという事件の場合には、実際に被害に遭われた方はたくさんである場合でも、実際に起訴される事件の被害者の方はその一部という場合がございます。これまでの法律ですと、閲覧謄写ができるのは起訴された事件の被害者だけであったわけですが、同じ犯人、あるいは同じ犯人グループから同様の被害に遭った方々が起訴状の中には入っていなくても、やはりその公判の記録を閲覧謄写ができるというかたちで改正がされたところでございます。

 5つ目ですが、一番下にありますように民事訴訟法の改正であります。犯罪被害者の方々を証人尋問する際に、付き添い、遮蔽、あるいはビデオリンクの措置といったものがとれるようになったというものでございます。こういったかたちで5つの項目の法改正が行われたわけです。

 それではもうすこし詳しく、2枚目の紙でご説明したいと思います。「犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度の概要」という紙をご覧ください。この図の中で、これまでの刑事裁判の手続の流れが黄色い大枠の中で、起訴状朗読に始まって、証人尋問、被告人質問等々というかたちで、これまでの刑事裁判の手続の流れが水色で書いてあります。今回の法改正によりまして、新たに被害者の方々ができることとされた部分が赤色の部分で、これが被害者の参加制度であります。犯罪被害者等基本法では、その基本理念として、「すべて犯罪被害者等は個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保証される権利を有する」というふうに規定しております。刑事事件の裁判手続の中でも、その尊厳にふさわしい処遇が保証されなければならない。そういう考え方に基づくものであります。

 これまでの刑事裁判では、ご承知のように検察官と被告人弁護人という対立する二つの当事者が立証し合うという、そういう手続であります。被害者の方々は証人として証言をするか、あるいは意見陳述ということで、心情を述べるという制度はございましたが、あくまでもそれはそのかぎりでそういった発言ができるというわけで、実際には当事者として、積極的な訴訟手続の中での活動はできないということになっていたわけであります。しかしながら、その被害者の方々はまさに事件の当事者であるわけでありまして、裁判の推移ですとか、結果に大変重大な関心があるというのは、当然であります。そういったことで、その刑事裁判にできるだけ関与をしたいという方々のご要望が寄せられておりましたし、私どもとしてもそういった方々の心情は十分に尊重されるべきであろうというふうに考えたところでございます。

 そこで、そういったことを考えて、この制度が作られたわけでありますけれども、具体的には殺人とか傷害など、故意の犯罪行為によって人を死傷させた罪、あるいは自動車運転過失致死傷といった罪の被害者の方々、一定の犯罪の被害者の方々が裁判所の許可を得て、被害者参加人というかたちで訴訟手続上の地位を取得した上で、公判期日に出席するとともに、一定の訴訟活動を行うということができるようになりました。

 具体的にはどういうふうにするかと言いますと、まず被害者の方々からは、刑事裁判に参加をしたいという場合、検察官に申し出をしていただきます。検察官のほうでそれを裁判所に通知をしまして、裁判所が犯罪の性質など、いろいろな事情を考慮して相当と認めるときに、参加を許可するという手続に進むことになります。その参加を許可された被害者の方々が参加人ということで、手続に関与ができるわけです。

 どういうことができるかと言いますと、まず上のほうにありますように、公判期日に出席ができるようになります。それから被告事件についての刑事訴訟法上の検察官の権限の行使に関して、意見を述べ、説明を受けることができるようになります。まず出席ということですので、今までは傍聴席で裁判を後から聞いているだけでありましたけれども、いわゆる「バー」の中に着席をすることができるようになります。それから、検察官との関係でも、やはりこの制度がスムーズに運用されるためには、被害者参加人と検察官との間のコミュニケーションが十分とられることが大事ですので、検察官としても被害者参加人の要望を十分把握するということが必要ですし、それから被害者参加人のほうでも、検察官のいろいろな訴訟活動の内容とか、あるいはその理由について十分理解することが必要ですので、この検察官の権限の行使に関し、意見を述べ、説明を受けることができるとなったわけです。

 具体的に被害者参加人として参加を許された方々が、訴訟活動として何ができるかと言いますと、その図の下のほうに3つ書いてあります。証人尋問、被告人質問、意見の陳述という3つのことができるようになります。証人尋問につきましては情状についての証言の証明力を争うための訊問と書いてあります。具体的には、例えば被告人の親族などが示談とか、あるいは謝罪の状況など、いろいろな情状の関係について証言をする場合があります。それに対して被害者の方々のほうから、その証言はうそじゃないか、あるいは信用できないのではないかということで、その証言の証明力を争うということで、一定の事項を訊問することができるわけであります。

 それから、被告人質問につきましては、意見を陳述するために必要な質問をすることができるということで、実際にその後で意見を述べていただく、あるいは現在の制度にもあります、事件についての心情を述べるという、そういう意見陳述について必要だということで、被告人に対して自分の尋ねたいことを質問することができるようになるわけです。

 3つ目が論告求刑と最終弁論の間になりますけれども、意見陳述ということで、訴因の範囲内で事実または法律の適用について意見を陳述することができる。この事件の事実関係はこうだと考える、あるいはこの事件についてはこういう法律が適用されるべきだ、あるいはこういう法律を適用してどういった刑が相当だといったことについて意見を述べることができるようになるわけです。

 こういったかたちで、被害者参加人は自分で直接こういった活動を行うことができるようになるわけですが、この法律の中では自ら直接行うだけではなくて、それを弁護士さんに委託をして行ってもらうということもできるというふうになっております。当然、自分で弁護士さんをお願いして委託をすることができるわけですが、国会審議の過程におきまして、こういった被害者参加人に対する弁護士による法的援助というものが大変重要だということで、国会の審議の中の修正によりまして、付則に一項追加されました。その項目の内容は「政府は被害者参加人の委託を受けた弁護士の役割の重要性に鑑みて、資力の乏しい被害者参加人も弁護士の法的援助を受けられるようにするため、必要な施策を講ずるよう努めるとする」と、そういう規定が設けられました。

 その上で、先ほどご紹介もありましたけれども、内閣府に置かれた経済的支援に関する検討会におきましても、この参加制度に伴う、公費による弁護士選任について、できるだけ早期の制度導入に向けて、検討を行うべきであるというふうにされたところでございます。私ども法務省といたしましては、この被害者参加人が公費で弁護士の公的援助を受けられる制度の導入に向けまして、現在、詰めの検討を行なっているという状況でございます。これが参加制度であります。

 もう1枚めくっていただきます。「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度の概要」という図でございます。これは損害賠償命令制度というふうに呼んでおりますが、これまで被害者の方々が加害者に対して損害賠償を請求する。特に裁判所でその請求をするという場合には、刑事裁判とはまったく別に自分で民事訴訟を起こさなければならなかったわけです。これに対しまして、この新たな制度は被害者の方々の申立てによりまして、刑事の裁判所――刑事裁判を行った同じ裁判所がその刑事事件についての有罪の言い渡しをした後で、引き続きこの損害賠償請求についての審理・決定をすることができるという制度であります。

 具体的には殺人・傷害などの故意の犯罪行為により人を死傷させた犯罪などにつきまして、その被害者の方々が刑事裁判所に対しまして、刑事事件で起訴されている事実を原意とした不法行為を理由とする損害賠償を被告人に命ずるという、そういう申立てをすることになります。この図でいいます、一番左の下から上に矢印が上がっている、その申し立てであります。この左の青色の枠の部分が刑事裁判でありまして、損害賠償命令の申し立ては刑事裁判の起訴のところから、その事件の審理が終わるまでにしていただくということになっています。

 この損害賠償命令の申立てがされますと、刑事裁判で有罪の判決が終わった後、右側に移って、黄色い部分で損害賠償命令についての審理が行なわれます。これは刑事事件の審理をした裁判所が引き続き行うというもので、最初の審理期日に刑事事件の記録を職権で取り調べた上で、原則として4回の口頭弁論、あるいは審尋という期日を開いた上で、裁判をするということになっています。この損害賠償命令の決定に対して、お互いに異議がないという場合は、そのままそれが通常の民事裁判の判決と同様の効力を持つことになります。それに対して、どちらかが異議を申立てるとか、あるいは4回以内の期日で審理が終わらないという場合には、右側の赤い、本来の民事裁判の手続に移っていくことになります。

 ただ、この民事裁判に移る場合も、この刑事の手続の記録は基本的にその民事裁判のほうに使われる仕組みになっておりますので、これまでのように被害者の方々が一から、その被害の状況を立証していくという面倒な部分が相当簡略化されるということになるということでございます。先ほど、高橋さんのお話にもありましたけれども、この黄色い部分の手続を利用する申立ての手数料は2千円とされたところでありまして、この制度の導入によって損害賠償請求についての被害者の方々のご負担はそのかぎりでは相当緩和されるのではないかと期待をしているところでございます。

 先ほどご説明した参加制度と、この損害賠償命令の制度につきましては、法律が成立しまして、まだ施行はされておりません。来年の12 月までに施行するということになっておりますので、おおよそ今から1年ぐらい後に実際にはスタートをするということになっております。私どもといたしましては、これらの制度が被害者の方々にとって、本当に利用しやすいものになるように、十分な準備を進めたいと思っておりますし、この制度の存在、あるいは内容が被害者の方々に広く知っていただけるように、これからも努力をしていきたいと考えているところであります。

 本日の私のお話の中心は以上申し上げたところですが、あと二点、お知らせをさせていただきたいと思います。一つは、今日お配りした資料の中に、「犯罪被害者等の方々のための『加害者の処遇状況等に関する通知制度』」という紙が1枚(資料2(PDF形式:176KB)別ウインドウで開きます)入っているかと思います。これはちょうど本日、法務省から新たに通知を行うものでございます。これまで被害者の方々にいろいろな刑事手続の状況を通知する制度がございました。主として検察庁から犯罪被害者の方々に刑事事件の処分の結果ですとか、裁判の結果、出所の情報などの通知を行ってきましたが、本日からその通知制度を拡充いたしまして、被害者の方々からのご要望に応じて、刑事裁判確定後の加害者の受刑中の処遇状況に関する事項、仮釈放審理に関する事項、保護観察中の処遇状況に関する事項などを通知することとしております。また、少年審判につきましても、保護処分を受けた加害者について、やはりご要望に応じて、少年院在院中の処遇状況、仮退院の審理に関する事項、保護観察中の処遇状況に関する事項などを通知するというものでございます。さらに詳しい内容をご説明する時間はございませんが、この紙を見ていただくと共に、その詳細はホームページ、あるいは実際にそれを取り扱う検察庁や保護観察所などにお問い合わせいただければと考えています。

 もう一点、最後に簡単に付け加えさせていただきますが、ちょうど一昨日になりますが、法務大臣から法制審議会に新たな諮問が行われました。これは犯罪被害者等基本法の主旨及び目的に鑑みて、少年審判における犯罪被害者の権利利益の一層の保護を図るため必要な法整備を行うということで、4つの項目を挙げて諮問をしております。その詳細もホームページ等でご覧いただければと思いますけれども、一つは少年審判はこれまで非公開ということで、被害者、遺族の方々がその審判を傍聴することはできませんでしたが、それを一定の場合に傍聴ができるようにしてはどうかという、そういう諮問でございます。これにつきましては現在、法制審議会で審議中ということでございますので、私どもとしてはその審議の結果をふまえて、法整備を進めていきたいと考えているところでございます。

 私の本日の説明は以上でございます。ご清聴ありがとうございました。

 資料1:犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(PDF形式:263KB)別ウインドウで開きます

 資料2:犯罪被害者等の方々のための「加害者の処遇状況等に関する通知制度」(PDF形式:176KB)別ウインドウで開きます

パネルディスカッション

「被害者支援の一層の充実のために」
<1>医療・福祉分野における被害者支援
<2>民間団体における被害者支援
<2>地方公共団体における被害者支援
コーディネーター:
高津 守(内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官)
パネリスト:
大久保 恵美子((社)被害者支援都民センター理事兼事務局長)
小田部 耕治(警察庁長官官房犯罪被害者対策室長)
鎌田 恵子(秋田県生活環境文化部安全・安心まちづくり推進課課長)
金 吉晴(国立精神・神経センター成人精神保健部長)
高際 みゆき(日本司法支援センター犯罪被害者支援室長)
冨田 信穂(常磐大学大学院被害者学研究科教授)
松村 恒夫(全国犯罪被害者の会幹事)

(高津)

 皆さん、こんにちは。内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官の高津です。今からの時間は私が司会役を務めさせていただきまして、「被害者支援の一層の充実のために」をテーマにしたパネルディスカッションを行いたいと思います。本日はそれぞれの分野の専門家の方々にパネリストとしてご出席をいただいておりますので、これからパネリストの皆様に医療福祉分野における被害者支援、民間団体における被害者支援、そして地方公共団体における被害者支援という、3つのサブテーマについてそれぞれ議論をしていただきたいと思います。また、2つ目のサブテーマが終わりました段階で、「このパネリストにこれが聞きたい」というコーナーを設けることを予定しております。すでに本大会の参加者を募集させていただきました際に、併せて国民の皆様からご質問を募集しましたところ、9件ほどご質問が来ております。もし時間が許せば、ご来場の方からもご質問をいただきたいと思っていたのですが、時間的にはちょっとむずかしいかもしれません。そういうコーナーを設けさせていただきます。それでは皆様のご協力をいただきながら、進めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 まず最初にパネリストの皆様に自己紹介を兼ねまして、日頃の取組や感じていることなどについて、時間の都合で短くて恐縮ですが、一人3分程度でコメントをいただければと思います。まことに勝手ながら、ご発言順は勝手に決めさせていただきました。単純にアイウエオ順とさせていただきます。まずは被害者支援都民センターの大久保様に口火を切っていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。


(大久保)

 大久保でございます。よろしくお願いいたします。私自身は17 年前、長男を飲酒ひき逃げ事件で奪われた被害者遺族でもあります。私は被害者は加害者よりも守られているはずだと思いこんでおりました。ところが、当時は、被害者の人権もなく、相談できる場所もなく、どこに相談しても「被害者のことは法律に書いていないから、どこに相談してもムダだよ」という、冷たい一言が返るだけでした。

 そんな日本に絶望して、アメリカの被害者支援団体を訪ねました。そこでは被害者と支援者が一緒になって国や社会に働きかけ、被害者支援にも関わっているということを知りました。そのような姿に接して感銘を受け、私自身も泣き寝入りをしないで、自分にできることをしようと思って帰りました。

 帰ってすぐ、犯罪被害給付制度ができて10 年たったということで、シンポジウムがありました。その席で日本でも犯罪被害者を支援する制度をつくってほしいとお願いをする機会がありました。もし日本でもその被害者を支援する制度をつくってもらえるのであれば、私はどんな協力でもしますと発言をしたことで、今があります。

 私自身は昭和45 年から行政の立場で心身の健康に問題を抱える人々への支援とか、関係機関との連絡調整、市町村の保健衛生担当課長を集めて会議を開いたり、研修会を行ったり、調査研究をしたり、あるいは学生指導を行ったり、地域社会への啓発活動を業務とする保健師として働いておりました。このような仕事は、被害者支援活動にそのまま役に立つことでもありましたので、長男の死を無駄にしてはいけないと思い、公務員を退職して、被害者支援都民センターに勤務するようになりました。

 事件当時は被害者支援の必要性を訴える私に、同じ仲間の公務員からも「公務員のくせに目立つことをしてはいけない」というような中傷を受けることもありましたが、犯罪被害者支援は地方公共団体の責務であるとされた今、隔世の感を感じています。後ほど発言してくださいます、秋田県の鎌田課長さんも先ほどおっしゃっていましたが、最近は犯罪被害が起きると、その地域に保健所から保健師が行って、地域ケアを行なっているというお話を伺いまして、ますます時代は本当に変わってきたと感じています。

 私が勤務しております被害者支援都民センターは、初めは被害者からの電話を聞くということが支援だと相談員自身も思っていましたので、被害者は様々な情報提供や、付き添い支援、自助グループ支援などを必要しているということを相談員に理解してもらうことは大変でした。しかし、当センターは犯罪被害者等早期援助団体となってからは、直接支援の必要性が相談員にも理解され、支援センターとしての共通の認識と方向性を持ち、支援を行う体制を整えることができました。年間相談件数は電話が約2千件、直接支援が約400 件、面接相談が約400 件、ほかにもメール相談、ファックス相談、あるいは関係機関への講演なども行っております。

 関係機関の講演では当初は警察、司法関係へ出向くことが多かったのですが、現在では学校、自治体、あるいは保護司会などへの講演も広がり、基本法ができた意義の大きさを日々実 感しながら、支援センターの相談員一同、総務の人たちとも一緒になって支援活動に邁進しているという現状になります。


(高津)

 ありがとうございました。続きまして、警察庁の小田部室長からお願いいたします。


(小田部)

 ただ今ご紹介にあずかりました小田部でございます。警察は犯罪被害発生直後から、いろんな事件の捜査、あるいは被害者の相談窓口という形で、多くの事件においては第一次に私どもが最初に被害者の方に接することが多い立場であります。この犯罪被害者対策室という部署に限らず、警察に対する様々な観点から被害者の方の心情を配慮した取組を進めておるわけです。

 特に私自身が最近、非常に感じているのは、先ほども内閣府の荒木室長からもお話ありましたように、積み残しになった3つの検討会の課題につきましては、最終とりまとめということで、その中に私どもも関係いたします、犯罪被害給付制度の充実等、いろんな関連施策があるものですから、そういったものの具体化に向けて、いろいろと検討を進めているという状況です。

 それから、例えば、犯罪被害給付制度にしましても、犯罪被害者等基本法にいたしましても、あるいは民間の被害者支援団体が日本でどういう経緯で発足したか――大久保さんからもお話がありましたけれども、本当に被害者の方々の様々な思いが、こういった制度を制度化していくということにつながっているというのを私も感じているところでございまして、いろいろな施策を進めていくにあたっては、そういったこともお聞きしながら、進めていくことが非常に大切だなと思っているところでございます。


(高津)

 どうもありがとうございました。それでは秋田県の鎌田課長、お願いいたします。


(鎌田)

 鎌田でございます。秋田県は昨年の2月に秋田県犯罪被害者等基本計画を策定しております。基本計画の策定の1年目にあたる昨年度は内閣府のご協力を得まして、国民のつどい秋田大会を開催いたしました。開催するにあたりましては、秋田県の警察、被害者支援センター、そして我々県、三者が主催となっての開催です。参加された方々からは、「残された家族の苦しみがどれほど大きいかを痛感した」、また「他人事でないことを感じた」、「二次被害というものを初めて知り、衝撃的だった」などの意見が多数寄せられました。

 今年度は県民のつどいとして、今週の26 日(月)に開催しております。350 名ほどの参加がありました。少年犯罪被害当事者の会代表の武るり子さんをお迎えいたしまして、「少年犯罪で息子を奪われた母の想い」というテーマで講演をいただきました。また、犯罪被害者の手記を高校生による朗読で発表したところ、非常に大きな反響がありました。これは今年の5月から募集したところ、犯罪被害者、遺族の方5名の方が原稿を寄せていただきまして、作成したものです。それを読みますと、時を経ても、また時間に関係なく、犯罪被害者の家族の方々が、なおその悲しさ、苦しさの中にあるということが改めて伝わってくるものでした。

 捜査や公判における付き添いの支援、医療・福祉などの犯罪被害者等のニーズは多岐にわたっております。支援を必要としている人たちに、身近な場所で、できるだけ細かく、迅速に対応していくことが求められますが、そのためには犯罪被害者の方々の抱える問題に必要な情報とか支援などが、けっして途切れることなく、スムーズにつながっていく体制を確かなものにすることが、行政に求められる重要な役割だと思っております。

 今年も総合的対応窓口となっております市町村や県、警察の担当者の研修を被害者支援センターのスタッフと一緒に実施しました。現在、秋田県は25 市町村がありますが、22 の市町村で犯罪被害者等基本条例を制定しております。私どもの安全・安心まちづくり推進課は、日本一安全で安心な秋田県を推進しようということで、今年の4月に組織再編により新設された課です。犯罪の起りにくいまちづくり、消費者被害の防止、交通事故の防止とともに、犯罪被害者等の支援も大きな柱と位置づけて、様々な事業を実施しております。今日はこのつどいで犯罪被害者支援に携わっておられる方々のいろいろな声を伺ってこれからの業務推進のエネルギーとしたいと思いましてやってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。


(高津)

 ありがとうございました。続いて、国立精神・神経センターの金部長、お願いします。


(金)

 精神・神経センターの金でございます。私どもではペルーの人質事件以降、いわゆるトラウマ、PTSD に関する治療教育援助について活動をしております。今現在、地震の被災者であるとか、交通事故の被害者、あるいはいわゆるドメスティックバイオレンスのお母さんや、特に巻き込まれたお子さんたち、そしてこの犯罪被害者の当事者が4つの柱になっております。また、私どもは医療機関、医療研究をしておりますので、PTSD ならPTSD という病気をどういうふうに考えて治療したらいいのかということに力を入れています。

 犯罪被害も自然災害もすべてそうなんですけれども、よくPTSD という言葉が言われますが、もちろん何でもかんでもPTSD というわけではございません。ですから、いたずらに人々の不安を煽ってはいけないわけです。ただし、中には長い間、PTSD、あるいはその他の精神疾患で苦しんでいらっしゃる被害者の方がいらっしゃるということもまた事実でありますので、こういう方をどういうふうに手当てしてさしあげたらいいかということを考えています。

 そのために、例えば薬を使うとか、あるいは認知行動療法をする。中でもエクスポージャー療法というのは非常によく効く治療法でありまして、これは日本で初めて私どもが導入しておりまして、私自身も地震があると現地に行って、いろいろな雑用が多いんですが、この治療だけは自分自身が患者さんを治療していまして、大変教えられることが多く思っております。本当は医者に来る前に、適切な支援を当初から受けて、医者に来なくても済むというのが一番よろしいわけですが、やはりそういう病気になられて、私どものところに来たからには、適切な最善の治療をしてさしあげたいというふうに考えております。また、そういう治療をしている目から振り返ってみますと、どうしてこの方たちをもっと早く適切にケアすることができなかったんだろう。何年間も何年間も苦しんで、治療に来られる方が後を絶たないわけですが、どうしてもっと早い段階で援助できなかったのか。こういうふうに重症化することを予防できなかったんだろうということを考えております。

 そういう立場から、今日は私自身も勉強させていただきたいなと思って、ここに参加させていただきました。どうかよろしくお願いいたします。


(高津)

 どうもありがとうございました。続いて、日本司法支援センターの高際室長、お願いいたします。


(高際)

 日本司法支援センター、通称法テラスと申しておりますが、高際です。今日はよろしくお願いいたします。

 法テラスは昨年の10 月に業務を開始いたしました。今日お手元に緑のリーフレットをお配りしておりますので、こちらをご覧いただければと思います。開いていただきますと、左 側に、先ほど荒木室長からご紹介をいただきました、犯罪被害者支援ダイヤル0570 - 079714「なくことないよ」という語呂合わせをしておりますが、こちらの番号を記載しております。こちらでは、平日の9時から夜9時まで、土曜日は9時から5時まで、犯罪被害者の方からのお問い合わせをお受けしております。法テラスは役所がやっているというふうに思われて、夜や土曜日はやっていないと思っておかけいただいていない面もあるのかもしれませんけれども、平日は夜9時まで、土曜日もやっております。この犯罪被害者支援ダイヤルでは、被害者支援の経験、知識をもった専門の担当者がお話をお伺いしております。また、リーフレットの裏面に記載しておりますように、法テラスは全国に地方事務所があり、こちらでも犯罪被害者支援業務を行っております。

 業務開始から1年2ヶ月たちましたけれども、犯罪被害者支援ダイヤルでは7300 本のお電話をお受けいたしました。中身としては殺人、傷害、性被害、脅迫、ひき逃げ、DV、セクハラ、いやがらせ等々、様々なお問い合わせをいただいており、深刻な被害をお受けになった悲痛なお電話が数多くあります。予期しない犯罪・事故に遭われて、皆さんどうしたらいいんだろう、何ができるんだろう、どこにどういう相談をしたらいいのかということで、非常に不安な状況でお電話をいただくケースもかなりございます。私どもとしては、そうした、やっとの思いでかけてくださった一本一本のお電話を、できるだけ丁寧に、たらい回しにすることなく、その方が必要な支援を行っている窓口まで橋渡しをさせていただくということをめざして、全国で被害者支援業務を行っております。

 被害者の方の中には、警察で早期援助団体のご案内をお受けになって、かなり早い段階から支援をお受けになっている方もいらっしゃいますが、その一方で、ご案内はお受けになっていても、とてもどこかに電話するという状況にならず、しばらくたってから、はたと「どうしよう」というふうに不安な状況になられる方もいらっしゃいます。また、警察に被害届を出すこと自体に躊躇されて、裁判は起こしたくないし、だけどなんとかならないのかという方もたくさんいらっしゃいます。私ども法テラスとしては、そういったお一人お一人の状況、ご要望を踏まえまして、できるだけご負担をおかけしないような橋渡しに努めております。

 リーフレットの右側を見ていただきますと、相談窓口のご案内、法制度のご紹介、弁護士のご紹介という3つが書かれておりまして、こちらが今、私どもが行なっている橋渡しの3つの柱になります。一つ目の相談窓口のご案内ということでは、その方によっては弁護士の支援が必要な方もいれば、カウンセリングを受けたいという方もいらっしゃいます。その方が必要とされている支援を行っている窓口、それがどこにあって、具体的にどういう支援をされていて、何時から何時まで相談できるのか、どういう方が相談を受けてくださるのか、料金はかかるのか、車で行けるのか、女性の相談員がいるのか、そういった細かな情報を全国の支援機関、団体の皆様のご協力のもとに、情報を頂戴いたしましてご案内をしております。

 また、相談窓口をご案内するにあたっては、そちらで受けられる支援の制度、それからあらかじめ刑事手続、民事訴訟等々についてご説明させていただき、それではこれからご案内する窓口で、こういうご相談をされたらいかがでしょうかといったように、法制度もあわせてご案内をしています。

 それから、これは私どもで一番得意としているところですけれども、被害者支援の経験や理解のある弁護士を法テラスで直接ご紹介をしております。私どもでは、各弁護士会から被害者支援の経験や理解をお持ちの、被害者の方に二次被害を与えない弁護士のご推薦を頂戴しておりまして、お問い合わせいただいた方の個々の状況に応じて、全国の地方事務所でご紹介をしています。

 また、弁護士費用等がご心配だという被害者の方には、下にイラストで描いておりますけれども、損害賠償請求やDV の保護命令申立てといったことについては、民事法律扶助という、弁護士費用の立て替えの制度がございます。また、告訴、告発ですとか、法廷傍聴に同行してほしいとか、マスコミ対応してほしいというようなことについては、日弁連から私どもが委託を受けまして実施している、弁護士費用の援助の制度がございます。こちらについては、両方とも私ども法テラスで受付もしておりますので、弁護士のご紹介とあわせて、こういった制度のご利用が必要な方が適切にご利用いただけるようにご案内に努めているところでございます。つらい状況に置かれている被害者の方が、普段あまり身近な存在でない弁護士をご自身で探すというのは、かなり大変なことだと思いますので、弁護士の紹介については法テラスが全国で力を入れて行っているところでございます。

 ご説明申し上げましたように、私どもは病院等へ付き添いをするとか、カウンセリングを行うとか、そういった直接的支援を行う団体ではないのですが、被害者の方のお話を伺って、どんなところにお困りなのか、どのような支援を必要とされているのかをきちんと聞き取って、一番いい、その方に合った窓口におつなぎできるように努めております。


(高津)

 ありがとうございました。では、常磐大学の冨田さん、お願いいたします。


(冨田)

 常磐大学大学院被害者研究科の冨田と申します。本日はよろしくお願いいたします。

 私は日本ではただ一つであります、被害者学研究科というところで、被害者学と被害者支援につきまして、研究と教育を行っております。それと同時に、地域の民間の犯罪被害者支援の団体の運営に関わっていると同時に、そのような団体の全国的な傘団体と申しますか、上部団体である全国被害者支援ネットワークの運営に、設立当初に関わっております。

 非常に個人的なことですが、以前は主として犯罪被害者支援に関わる海外の制度などを勉強して紹介するというようなことが中心的な仕事でしたが、最近は犯罪被害者支援に関する施策に直接関わることができ、また、それを通じて、日本のこの10 年ぐらいの間の犯罪被害者支援の発展を同時代的に見ると同時に、それに関わることができて、研究者、教育者として大変得難い経験をしたと感じております。これからも研究者として、被害者支援の研究を続けるつもりであります。

 そして、もう一つは民間による犯罪被害者支援というのを発展させていきたいと考えています。とりわけ、民間の被害者支援団体における支援活動が、一つの専門職として定着できるように私なりに努力したいと考えています。よろしくお願いいたします。


(高津)

 どうもありがとうございました。最後に全国犯罪被害者の会の松村様、お願いいたします。


(松村)

 ただ今ご紹介いただきました、全国犯罪被害者の会の松村です。私は1999 年11 月22 日に、孫娘の春奈を知り合いの近所の主婦にあやめられ、世間では「お受験殺人」と騒がれ、春奈の母である娘が犯罪被害だけでなく、報道被害に遭いました。そして、2000 年から2005 年にかけて、刑事裁判、損害賠償裁判、名誉毀損裁判を経験しました。2001 年から全国犯罪被害者の会に関わりまして、その年の秋の第3回大会で幹事に選任され、岡村代表に寄り添うかたちで活動してまいりました。大学や各地の催し物で犯罪被害者に対する理解、協力を求める活動をさせていただいております。2007 年、今年の初めですが、内閣府の犯罪被害者等に関する国民意識調査の企画分析会議を経験し、同じ犯罪被害者と言われても、その罪種によってその意識がかなり違うということを再確認させていだきました。

 今後は、私ども全国犯罪被害者の会「あすの会」の悲願でありました、犯罪被害者の司法参加というものが、来年の秋以降にスムーズに実施されるように努力してまいりたいと思います。今日はよろしくお願いいたします。


(高津)

 どうもありがとうございました。様々な方からお話をいただいていることに象徴的だと思いますけれども、犯罪被害者等施策はここ数年で非常に変化をしてきて、劇的に進んできたものと思います。基本計画ができまして、先ほども報告がありました通り、3つの検討会の最終とりまとめもなされました。当面行われる国の施策としては、ほぼ出そろったと言っていい状況であると思います。

 本日のテーマは「被害者支援の一層の充実のために」ということですけれども、これからの被害者支援を考える上では、それらの施策が被害者の視点に立って、迅速、着実に、また中身の整ったものとして実施されること。同時につどいを開催している主旨でもあるわけですけれども、これらの施策や犯罪被害者等の方々の実情につきまして、国民の皆様の正しい理解を得ていくと、こういうことであろうかと思います。本日のディスカッションを通じまして、そのきっかけとなれば大変うれしく思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 それでは最初のテーマ、「医療・福祉分野における被害者支援」に進みたいと思います。犯罪被害に遭われた方々は、犯罪そのものによる直接的な被害に止まることなく、様々なかたちで被害の影響を被ることは現在では知られてきています。そうした被害者の方々が被害の痛手から立ち直り、再び社会で平穏な生活を営めるようになるためには、肉体的な傷を癒すだけではなく、精神的な被害に対する医療サービスや障害者等の福祉制度、雇用・住居の確保への援助等々、非常に広い分野における支援が必要になる場合が少なくありません。

 しかしながら、こうした多様なニーズがあるということが知られるようになってきたのは、ごく最近のことでありまして、国民の皆様はもちろんのこと、支援の現場、専門家においてさえも、犯罪被害者等がどのような状況にあり、何が必要とされているのかということが、正確には知られていないというのが現状であります。このテーマは非常に広い範囲に及びまして、散漫になってしまいます。本日は国立精神・神経センターの金部長にご参加いただいておりますので、これからの時間は犯罪被害者等の精神的被害の問題に絞って議論していきたいと思います。

 まずは事件後に犯罪被害者の方々がどのような精神状況に置かれるのか、などにつきまして、犯罪被害者の遺族として松村様からご発言をいただきたいと思います。よろしくお願いします。


(松村)

 私の事件が起きましたのは、もう8年も前の1999 年です。その日ですけれども、かなりその日のことは鮮明に覚えております。犯罪被害に遭遇したのは初めてです。何をどうしていいかわからない。とりあえず自分たちで春奈を捜す。だけど、やっぱり見つからない。警察へ頼んで捜してもらおうというふうになりました。私のところにもその日の午後には電話がかかってまいりました。「パパ、春奈がいなくなっちゃったの」というのが、私と事件の関わりの最初でありました。それは鮮明に覚えておりますし、私は直ちに娘のところへとるものもとりあえず駆けつけたことも覚えております。

 このような状態を含めまして、初期の段階では犯罪被害者等になりますと、3つの不信にとりつかれるというか、陥ります。まず第1の不信は自己不信であります。娘は「私が目を離さなければ、こんなことにならずに済んだのに」と自責の念にかられ、夫や夫の両親に何度も何度も謝っていました。また、犯人がわかる。「ああ、あのときに公園で何かしなければよかったのに」と自分を責めていました。このように自分を責めることで、この悲しみの原因が自分にもあるんだと納得させようとしていました。

 そして、第2の不信は人間不信というか、他人不信です。家族、友人以外の人は、警察官を除きますけれども、いっさい信頼することができなくなりました。よく思い出すのですが、事件発生直後でしたが、ここにおられる大久保さんが私の娘のところへも来てくださいました。そして、名刺を置いてお帰りになりました。そのときは、そのような犯罪被害者を支援する組織があることは知りませんでした。富山県の人がなぜわざわざ東京まで来てくださったのかと、かえって不信の念を覚えたことを思い出します。

 そして、第3の不信はマスコミ不信です。うちの事件の場合は、当時は孫娘が行方不明になったものですから、マスコミに捜してもらおうと、写真、ビデオ、もちろん住所の情報を提供しました。しかし、捜索が終わり、その捜索後、孫が悲惨な結果に終わった段階で、すべてこのような情報が破棄されるものだと思っておりました。しかし、私どもの了解も得ずに、事件の追跡を伝える道具として、これらの情報が使われてしまいました。なお悪いことには、各種マスコミが娘に関する誤った情報を垂れ流ししました。「そのような情報は違う」と友人・知人がマスコミに抗議しましたが、取り上げられることはありませんでした。このようなことから、娘はマスコミ不信になり、マスコミとはいっさい接触しない決心をしてしまいました。それが現在も続いております。

 このような不信を生まないためには、頼りになる相談員という人が事件発生の初期から関与してくださると助かったのではないかと思います。なお、私が思います、もう一つの不信は司法不信というものがあるのですが、それは最後のテーマのときにお話したいと思います。犯罪被害者になると、どういうような精神状態になるかの一端としてご披露させていただきました。どうもありがとうございました。


(高津)

 どうもありがとうございました。基調講演の高橋様からもありましたし、今のお話にもありましたように、犯罪被害者の方々は被害の日を境に劇的に環境が変わってしまいます。このため、精神的な治療を要するようになる場合も少なくありませんが、この分野はもともとむずかしいということもありますが、偏見などもありますし、いろいろとご苦労されることもあると思います。続きましては、精神医療分野の専門家である金様から被害者の精神状態、精神医療の必要性などについてご発言をいただきたいと思います。


(金)

 金でございます。それではご指名を受けましたので、すこしお話をさせていただきたいと思います。犯罪被害に遭われた当事者、ご家族、ご遺族の方の様々な精神の苦しみは、これはすべて医学的な問題というわけではありません。すべてが病気だとか、治療しなくてはいけないということではありません。むしろ、医者の側がそれをすべて引き受けるべきではないという場合もあるかと思います。しかし、そのなかで、多くの方に共通に見られる反応がありまして、それがなかなかよくならずに、長年にわたって苦しむという場合が見受けられます。それの一部として、今日は時間がありませんので、PTSD ということについてお話をしたいと思います。(資料1(PDF形式:241KB)別ウインドウで開きます

 これが私どもの研究所で、先ほど申し上げましたような様々な研究活動をしております。事例をまず1つ挙げさせていただきます。A子さんという女性ですが、会社で飲み会があって遅く帰宅したところ、暗い夜道で男性に羽交い締めにされ、ナイフを突きつけられて、強姦をされてしまったという事例です。これは架空の事例です。こういう事例の後に、この方はどうなったかというと、普通にしていても、突然事件のことが頭に浮かんで、凍り付いたようになってしまう。夜一人でいることや、男性と二人でいることなどが引き金になって、思い出してしまう。事件のことは考えないようにしているし、ニュースや新聞も避けている。外を歩いているとき、男性が近づくと、頭がぼんやりして霧の中にいるようになる。夜は眠れない。悪夢ばかり見る。ちょっとした物音で飛び上がるように驚くし、ドキドキする。いつもびくびくしている。これは非常によく見られる訴えであります。これは、実はこの方だけでなくて、非常に多くの方が同じような訴えをされます。これを私たちはPTSD という言い方をしているのですが、なぜこういう症状になってしまうか。

 1つは、この薄いブルーは心でありますけれども、つらい事件が起きると残って、いつまでも消えていかない。そうすると、これが外に投影されて、同じことが何か起っているのではないかなと感じてしまう。また、身体もそこで反応してしまうんですね。現実と過去の記憶の区別が瞬間つかなくなってしまう。そうするとますます昔の記憶が強化されてしまうという、悪循環を繰り返してしまいます。

 それに伴いまして、「過覚醒」という症状が出るのですが、これは心のまわりにバリアを張ってしまう。そして、何か新しい危険が来るときに、すぐに反応できるようにしようとしてバリアを張るんですが、これは具体的に言うと、いつも不安であって、夜も寝て油断してはいけないわけです。苛立ってしまう。物音にドキドキしてしまう。これは実は本当に危険なことだけでなくて、ちょっと音がするとか、光が光るとか、話しかけられることについて、すべてが危険であるかのように全部に反応してしまう。ですから、24 時間落ち着くことがない。いつも警戒態勢である。そういう状態になってしまいます。ですから、被害に遭った方とお話すると、なんか急に怒りっぽくなって、話すことを忘れてしまう。こっちはよかれと思って話しているのに、どうして話が通じないんだろうかと思うことがあるかもしれませんが、まず被害者の多くはこういう状態にいるということです。

 それから、「麻痺」という症状があります。これは記憶が意識に出てこないように押さえつけてしまうという症状です。そうすると、つらい記憶をすこし和らげる。怖かったことがちょっと薄らいでしまうわけですけども、これは本当になくなっているわけではなくて、一時的に押さえつけているだけですから、いつかまた出てきてしまう。ところが、こういう状態になると、なんか大丈夫そうに見えてしまいますね。「この人落ち着いているな。だからほっといてもいいんじゃない」と、こういう誤解をされてしまいます。 自分が本当に波があって、だれが、どういうふうに助けてくれるか、何がどうしたのかという記憶が、普通の人は正確じゃないんですね。これが歪んだまま残ってしまうし、必要以上に自分を責めたり、助けてくれようとしたときに怒りを向けてしまう。逆に犯人に怒りを向けられなかったり、こういう混乱した状態が一人きりになって閉じこめられてしまいますから、治すのができずに、ずーっと続いてしまいます。人と話し合うことができない。

 もう一つは、他人と話し合ったりするときに、この他人との時間が全部ぼんやりしてしまう。特に被害に関係したこと、例えば男性から被害を受けた人は、他の男性と話をするときなんかぼんやりしてしまうんですね。現実の生活にも支障が出ることがある。甚だしい場合は事件の記憶がまったくないとか、別人格になってしまうとか。これは本当に子どもさんとか、そういう被害の方には認められます。

 こういう方にどういうふうに接したらいいかということですが、まず被害に遭った方に接するにはどうしたらいいかというお話ですが、これはたぶん大久保さんからお話があると思いますけれども、大ざっぱに言いますと、心のケアは、じゃあお話をしなきゃいけない、カウンセリングをしなきゃいけない、どんな不安になったのですかと聞かなければいけないというふうに思いこみがちですが、それはあまりいいことではありません。まずご本人が自分で治っていけるような、落ち着いた環境や安心できるような状況をつくってあげる。また、安心できる相談相手になってあげる。すぐに相談してもらえなくても、何かのときに「この人がいたな」と思い出してもらえる。そういう存在になってあげることが大切です。よく安全・安心・安眠と言ってますが、これ実現するのは大変なことです。

 わりと見逃されてしまうのが、カフェインとかアルコールです。薬物の使用に頼ってしまったり、投薬がありましたけれども、いわゆる安定剤に対する依存が生じてしまうことがあります。これは注意をする必要があります。こういう方でも、半年ぐらいで多くの方が立ち直っていく方が多いのですが、やはり事件そのものが非常に悲惨であるとか、ご本人の事情によって、一部PTSD が先鋭化してしまう場合があります。これは専門的な治療になります。

 では、専門的な治療は何か。1つはお薬であります。今、国際的にもお薬の使い方、こういう手順でやるんだということが、もうできあがっております。これは私も参加して、アメリカで作りまして、日本にもあるお薬ですけども、1つはお薬による治療。もう1つは認知行動療法でありまして、これ1回90 分ぐらいで、だいたい10 回ぐらいなんですけども、なかなかよく効きます。これは日本でも導入しまして、つい先月もうちのセンターで講習会をしたところ、20 人の予定に80 人ぐらい希望者が殺到しまして、お断りするのが大変つらかったのですが、こういう治療をします。

 これは治療前と治療後の脳の写真ですが、治療する前、事件のことを思い出してしまったと。後のこれはものを見るときに光る。ご本人も事件の光景が目の前に広がって、圧倒されてしまって、何もしゃべれなくなるんですが、この人が今現在、何か見ているわけではないんです。思い出してるだけなんですが、まさに脳の中ではものを見ているのと同じようにありありと活動してるわけです。これが治療が終わりますと、こういうところがなくなってしまいます。そして、本人も落ち着いてきちんと話ができるようになります。もうPTSD が治ってるんですね。そうすると、ものを考える部分がちゃんと活動するようになります。ですから、PTSD、心のケアと言いますけれども、本人の心とか気持ちというのは脳のレベルでそういう症状がつくられてしまうと反応が起っていること、これをよくご理解いただきたいと思います。心と脳と身体と全部いっしょくたになってる反応がPTSD です。

 今後、私ども医療のほうでどういうことを考えているかというと、まず治療研究が中心になります。よい治療法は何か、それから個人の状況に応じた最適な治療は何か。すべての被害者にこの認知行動療法をやるわけにいかないのです。本当に時間がかかってしまいます。それから、日本全国どこでもできるようにならないといけない。ですから、最適な治療の開発、そして検査法、評価法、治療のできる人を研修で育てていく。そして、もう一個は治療拠点を整備するということです。東京のある一ヶ所でしか治療ができないというのでは、これはもう医療ではありません。全国にトラウマ拠点になるような治療センター、あるいは病院をつくったり、それから外国ではワンストップセンターと言いますが、そこに来れば、医療にも法律にもすべてつながるというセンターがあります。これはないのは、おそらく日本だけではないかと思うんですけども、こういうのを整備する必要があります。そして、今言ったお薬も認知行動療法も保険診療の点数がまったくつきません。PTSD で認可されている薬もありませんし、認知行動療法は90 分ぐらいかかるのですが、たった5分の診療と同じ点数しかないということで、これをなんとか変えていかないといけない。 先ほど、内閣府の拠点ネットワークのお話の中に、医療という部分が入ってなかったのは、むしろ私たちの責任であって、この部分は人から言われるまでもなく、自分たちの責任として、医療のネットワークというのを今後発展させていきたいと思っています。いろんな連携が考えられておりますけれども、この部分は私どもが誰に言われるまでもなく、責任を持ってやっていかなくてはいけないと考えています。

 また、学会もつくりまして、このトラウマの力になるようにということで、お陰様で会員も1200 人の学会になります。このホームページは誰でも見ることができます。いろんな事件、犯罪被害等になりますと、文章をほとんど載せています。自由に閲覧することができます。こういういろんな人の力を借りまして、私たちは10 年前のペルー事件の後にこういう活動を始めたときに比べますと、治療方法も確立してきました。昔はPTSD は一生悲惨な病気のように思われていましたけれども、今ははっきり言って治り得る病気ですので、その治り得る医療に向けて、あるいは防止、予防活動を含めて、多くの方々が恩恵を受けることができるように、皆様のお力を借りて、今後も進んでいきたいと考えています。どうもありがとうございました。


(高津)

 どうもありがとうございました。まず専門家の数自体を増やすということも重要ですし、連携をとっていくことも重要だという課題が見えてきているのではないかと思います。精神被害に関する支援に関しましては、医療のほかにも、臨床心理の関係であるとか、相談等の取組もあるわけですが、この関係については大久保先生からお話を伺おうと思いましたが、次の民間団体における被害者支援の中であわせてお話をいただければと思います。

 時間がかなり押してきましたので、次のテーマ「民間団体における被害者支援」に進みたいと思います。犯罪被害者の、多様で長期にわたる支援ニーズに応えますためには、公的な支援だけでは足りず、民間団体による支援が非常に重要な役割を果たすと期待されているところであります。そこで、まずはこれまで支援団体として取組に尽力してこられた大久保様から、現状の民間団体が果たしている役割や重要性、それからあわせて精神支援などの取組なども含めて、お話いただければと思います。よろしくお願いいたします。


(大久保)

 被害者支援都民センターは、犯罪被害者等早期援助団体に東京都公安委員会から指定されていますので、支援の対象となる被害者の方は、生命、身体に重大な被害を受けた方になります。そのため、先ほどお話くださいました、松村さん、あるいは金先生の精神的な症状に対する説明がそのまま当てはまる被害者の方たちばかりを日々支援しております。

 民間の被害者支援センターの役割は犯罪被害に遭う前の心身の健康を回復することを支えることと、破壊された日常生活や社会生活を取り戻すための総合的な生活支援をその時期に応じて、提供するところであると考えています。支援を行うときには、誰も信用できない心理状態に陥っている被害者の方との信頼関係を築いて、被害からの時間の経過や、被害に遭う前の心理状況、あるいは社会的な立場、経済的状況などをしっかりと把握した上で、被害者の方自身が、自分で回復をしていく力を削がないために、被害者の方の主体性を尊重して、自分でできることは行ってもらうというような支援の積み重ねが被害からの回復には重要です。また被害者自身が自責の念に苦しむことを少しでも軽減するためには、自分も役に立てる存在であることを実感して、自尊心をもう一度取り戻すということがとても大事なことだと思っています。そのため、相談員は、被害者が必要としている情報や知識をしっかりと持って、積極的に被害者に接する直接的支援を提供することが大切だと思っています。

 ただ、支援センター自体には法律や、医療の専門家が常駐しているわけではありません。行政機関にはすでに、医療ですとか、福祉等の制度や施策がありますが、支援センターにはありませんので、他機関との有機的な連携を視野に入れた支援活動がとても重要だと思っています。支援センターでは既存の社会資源と結びつけるコーディネータ役としての機能も欠かせない、大切なことです。また、支援の原点は、やはり被害者の方の声を聞くことにあると思いますので、被害者同士が集まって、支え、励まし合う、自助グループ活動は支援活動の一環として重要な位置づけとして支援活動を行なっています。

 ただ、まだ法律家や、医療関係者であっても、犯罪被害者に対する具体的な対応、あるいは治療に精通した人材も少ないために、安心して紹介できる先が少ないということが、支援センターの悩みでもあります。それと、これは全国の支援センターに共通のことですが、安定した財源確保ができていない状況にあります。普段の支援活動だけではなくて、次の世代を育てるということも大切ですし、また支援活動をしながら、財源確保のため、寄付金集めに出歩くこともありますので、支援活動を進めるには、まだまだ困難がつきまとっていると感じています。

 支援の充実を図るには、支援センターがどれだけ多くの機関と有機的な連携を持つことができているかどうかが、とても重要なことです。また信頼関係を築くためには、日々の支援活動に関する事例検討や、連絡会などを開いて、それを通して関係機関と顔の見える、信頼される関係を常日頃から構築をしていくことも大変重要だと思っています。

 そのためには、相談員の力量も必要です。このようなコーディネーターの役割を果たせる相談員はとても少ないのが現状です。これからの被害者支援の世界には社会福祉を専攻した若い人材が就職先として支援センターに入ることができるようにすることも、急務だと考えています。

 とにかく、日本のどこで、いつ被害に遭っても、同じような、適切な支援が受けられるようになるためには、支援センターの財政基盤の安定と人材育成が図られなければいけませんので、いつも支援センターの活動が行いやすくなるようにと願いながら、精一杯の支援活動を行っております。


(高津)

 どうもありがとうございました。こうした支援団体にこれまで援助をなさっていた立場から、警察庁の小田部室長から、早期援助団体の制度やこれに対する援助の現状や、警察庁として今後の取組、課題などについてご発言いただきたいと思います。


(小田部)

 先ほど、大久保さんからもいろいろお話がございましたように、今の民間の被害者支援団体は、犯罪被害者の方の様々な相談に応じていろんなアドバイスをされたり、あるいは被害直後、なかなか自分で、今までのことすらままならない中で、いろいろな日常のことであったり、様々な活動をされておられるのですが、そういう民間被害者支援団体の方のそういった支援の手が早く行き届くようにということで設けられている制度の一つが、犯罪被害等早期援助団体という制度でございます。これは法律に基づきまして、都道府県公安委員会が、先ほど申しましたような相談業務等、一定の場合に犯罪被害者早期援助団体というかたちに指定をいたします。指定を受けますと、警察のほうから被害者の方のご同意を得てなんですが、一定のそういった被害状況についての情報を、その早期援助団体に対して通知をいたします。

 被害者の方も、私が説明をするまでもないのですが、本当に被害直後はいろんなご自身のショック状態であるとか、混乱状態の中で、なかなか自分自身がどうしていいかわからないということで、相談に行くということすらも思いつかない。あるいはご相談先がなかなか見いだせないという状況がある場合がございます。そういった場合に、早期援助団体のほうから、被害者の方を訪れて、支援の手をさしのべていくと。そういう制度でございまして、そういった早期の援助を開始していく上で、一定の機能を果たしている制度なのかなと思っているところです。

 私ども警察といたしましては、早期援助団体はいろいろな民間団体があるのですが、先ほど大久保さんからお話がございましたように、民間団体でございますので、まだまだ財政的基盤が非常に厳しい部分がございます。それで現在でも、警察のほうで民間団体のほうでやっております、相談業務でありますとか、あるいは被害者の方に付き添いを行う、直接支援業務と呼んでいるのですが、こういった業務についての委託経費という形での財政的援助を進めておるところですが、まだまだそれでも十分ではないという状況がございます。これは、実は先ほど荒木室長のお話の中で、民間団体の援助に関する検討会でも大きなテーマになりました。そこで警察の立場としても、すでに今までも援助をやっているのですが、さらにこの援助を拡充していくという努力をこれからもやっていきたいと思っております。地方公共団体のほうからも、様々な援助が必要であるということが検討会のほうでもなされたと承知しています。

 これから、やはり警察、あるいは民間の被害者支援団体、それぞれの立場でいろんな支援活動をやっているのですが、これも大久保さんからお話があったのですが、やはりいろんな関係機関が多岐にわたっていて、そういう関係機関が本当に緊密に連携して、途切れのない支援がなされていかなければいけないんだろうと。これも検討会でお話があったのですが、支援連携に関する検討会でハンドブックを作って、連携を進めていくという話がありましたが、それも早期援助団体に関係する話ではないのですが、援助ということでは重要な課題なのかなと思います。

 もう一つ、犯罪被害者早期援助団体の存在が、まだまだ知られていないと思っておりまして、例えば11 0 番といえば警察とか、11 9 番なら消防であるわけですね。犯罪被害者支援といえば、犯罪被害者早期援助団体があるなということだけでも、例えば知識として持っていただければ、何かあったときには、そういった団体があるから相談してみようかなということになると思うんです。また、そういった早期団体の活動の重要性をご認識いただければ、そういった団体の活動が促進されていくのかなと思っております。そういった意味で、こういった早期団体の活動を皆様方により広く知っていただくという、そういった取組もやっていくつもりでおります。


(高津)

 どうもありがとうございました。全国的な傘団体の立場から、冨田先生からも、民間支援団体の意義や課題などについてご発言いただきたいと思います。


(冨田)

 民間団体の果たす意義につきましては、先ほど荒木室長のご説明がありましたので、ここでは省略したいと思います。民間被害者支援団体の役割は、基本法、基本計画が制定された後は、ますます重要性が増していると思います。

 課題はいくつかあるのですが、1つはまだまだ全国に設立されていないということです。これについてはまず何よりも全国に設立されなくてはならないことが1点。それから、早期援助団体の重要性については、今、小田部室長のほうからお話がありましたけれども、この指定を受けている団体は、全国被害者支援ネットワークに加盟している団体の3分の1弱です。早期援助団体以外の団体の活動というのを否定するものではありませんけれども、早期援助団体というのが、もっともっと設立される必要があると思います。

 民間援助団体の活動というのは、かなり多様化しているというか、いろいろサービスを提供できるようになってきています。直接的支援ということもだいぶ定着してきましたし、被害直後の早い時期のいわゆる危機介入サービスというのもだんだん定着してきていると思いますけれども、まだまだ提供されてないサービスがあるので、これをもっともっと広げていく必要があると思います。

 それから財政的基盤の充実については、非常に大事なことなのですが、なかなかいい方法がないわけです。私も携わらせていただきましたが、民間団体への援助に関する検討会のほうでは、主としてその地域の実情を知っている地方公共団体が中心になって、この民間団体への財政的援助を考えていくという方向が示されましたので、それを推進していく必要があると思います。

 断片的になりますが、支援を行う者が適切な支援サービスを提供できるように、訓練・教育というのが必要で、この点については、支援のための連携に関する検討会のほうで、かなり具体的な方向づけが示されましたので、それに従って進んでいるということだと思います。  連携の重要性というのは何度も何度も出てきました。私も民間団体の活動を進めていく上で、地域の様々な機関との連携が非常に必要だと思っています。そこで、とりわけ警察を中心として、被害者支援連絡協議会というのが置かれていますので、このますますの活用、とりわけ私は市町村レベルで被害者支援連絡協議会が設置されていますので、これをもっともっと活用していくことが大事だと考えています。以上でございます。


(高津)

 どうもありがとうございました。今までのお話を総合しましても、民間支援団体の課題としましては、財政基盤、連携を確保していかなければいけない、広報も足りないのではないかというお話がありました。いずれも、この3つの検討会の最終とりまとめの中にこれに関する施策が盛り込まれているところでもございますので、まずはこれらの施策をしっかりと着実に推進していかなければいけないなと感じたところであります。

 地方公共団体の立場から、民間の支援団体との連携状況など、冨田先生からも今お話がありまして、お話を伺おうかと思いましたが、第3のテーマのときに、あわせてお話をいただきたいと思います。

 最後のテーマに進みます前に、「このパネリストにこれが聞きたい」というコーナーを設けさせていただきます。先ほどもいいましたように、参加申し込み時に9件、質問が来ております。1件目の質問は「犯罪被害に遭った方たちが、例えば医療費の支援やカウンセリングなどについて、行政から即時に適切な支援を受けられるような仕組みづくりはどの程度進んでいるのでしょうか」というご質問でありました。医療費の援助が一部警察で行われているとお聞きしています。カウンセリング等、警察の取組があると思いますので、警察庁のほうから若干ご説明いただけないでしょうか。


(小田部)

 警察のほうで行っております医療費関連の支援、カウンセリングについていいますと、まず1つは、内閣府の荒木室長のご説明の中にもあったのですが、例えば性犯罪被害者の方の緊急避妊等に要する経費の公費負担ですとか、あるいは怪我等になった際は診断費等の医療費の公費負担という形で負担軽減を図る措置を進めているところでございます。

 それから、身体犯罪で怪我、病気が重大な場合、これは重傷病給付金という給付金制度がございまして、支給の要件は、3日以上の入院、かつ、1ヶ月以上の加療、精神疾患の場合は3日以上の入院要件に代えて3日以上労務に服することができないような精神疾患、そういう要件なんですけれども、それについて重傷病ということで、保険診療の自己負担相当額を一年を限度として給付するという、そういった制度が設けられているところでございます。

 それから、カウンセリングにつきましては、私どもとしても第一次に被害者の方に接する機会が非常に多いということで、警察職員へ、例えば臨床心理士の資格を取得した者を配置するといったような取組を進めることとあわせて、部外にも民間のカウンセラー、あるいは精神科医の方に対しての委嘱制度を作って、それで私どものほうで、そういった専門的なカウンセリング等が必要な方については、そういった機関を紹介さしあげるということをやっております。ただ、この医療費、カウンセリングにしても、警察だけでなくて、いろいろな機関で行われていますが、とりあえず警察のほうでやっていますものをお話させていただきました。


(高津)

 どうもありがとうございました。医療費などは一定の犯罪以上であれば、自己負担分をみるような制度等があるということですが、ご質問の主旨の「即時に」というところは、どうしても行政機関が援助をするとなると、認定の問題があるのでむずかしいのかなというところはあるとは思います。例えば杉並区などでは短期に貸し付ける制度などを設けておりまして、経済支援の検討会でもそういう制度が全国に広がるよう、内閣府でも啓発等を行っていくという施策も盛り込まれたところであります。そういう取組を進めてまいりたいと考えております。

 次の質問ですが、「被害者の方が望む支援のあり方について伺いたい。金銭以外の支援で、国、地方自治体、支援センター、学校、民間団体へ望むことは何ですか」というご質問です。これについては、被害者のお立場から、松村様にご回答いただきたいと思います。全部お答えになっていると時間がいくらあっても足りないと思いますので、特に重点を置いてほしいことなどを二、三点絞ってお話いただければと思います。


(松村)

 まず、国と地方にお願いしたいことだけ申し上げたいと思います。犯罪被害者等基本法、さらに基本計画ができまして、数々の施策、258 施策があります。その中でも特に私が、会の関係もあるのですが、一番心配していることは、三浦審議官のお話にありましたけれども、司法制度そのものができたとしても、実際どれぐらい活用されるか。活用できるようなシステム、そういう環境がどう整っているかということが非常に心配であります。そういうような環境をぜひ国、あるいは地方、これは検察官、あるいは警察の方からの働きかけが必要だと思うのです。いずれにしても現在の段階では、日弁連が反対するような姿勢を示している段階では非常にむずかしいことなのですね。ですから余計、検察官、警察の方、あるいは国のほうが働きかけをしていただきたいと思っております。

 もう一点は、これからいろいろと施策が施行されてきますと、まず被害者が接する相談員、あるいは支援員の方の役割は非常に大きくなってくるのではないかと思います。ですから、支援員、相談員の方の質もさることながら、数の上でも大変なことになってくるのではないかと思います。そういうことから行きましても、国による、そういう支援員、相談員の養成をどのように進めていくのか。これは先ほどの話にもありましたが、犯罪被害者が求めているものは非常に多種多様です。全部の犯罪で全部違います。極論ですけれども、それが正しいのではないかと思います。それだけ広範囲な知識を持っている人が相談員になっていただかないと、全然役に立ちません。たらい回しにされてお終いです。ですから、そういうことをぜひ避けていただきたいので、さらに質の高い相談員の方の養成にぜひ国が努めていただきたいし、また数的にもそれを確保するような施策をぜひ進めていただきたいと思います。あとは基本法、基本計画に書いてあるものをその通りやっていただければと、7~8年前の犯罪被害と変わって、すごくいい環境になってくることが期待できると思います。


(高津)

 どうもありがとうございました。3点目の質問は「事件現場が遠隔地の方の体験を聞きたい。居住地は首都圏だが、九州の実家で被害に遭ってしまった。実家は空き家のままです」というご質問をいただきました。残念ながら、本日この質問に適切に回答できる回答者がおりませんので、お答えはできないのですが、この質問にもありますように、事件現場が遠隔地ということは、時々ある話であります。ところが事件現場で捜査、裁判が行われると、居住地からは遠く離れているということで、非常にご不便をおかけするようなケースがけっこうあります。居住地でもちろん捜査、裁判が行えれば一番いいんですけれども、証拠は現地にしかないということ。これはいかんともしがたい問題としてあるわけです。この場では大変むずかしい、被害者の方がこういう大変な迷惑に直面することがあるということを皆さんに知っていただけたというところで、質問としては閉じさせていただきたいと思います。

 続いて4点目、「各地域における犯罪被害者の支援体制のあり方。窓口担当の研修方法について伺いたい」というご質問がありました。地方公共団体における支援体制ということだと思うんですが、全国の状況についてお話するのはなかなかこの場ではむずかしいのですが、これは自治体ごとに現時点でもまったく異なっております。本日は秋田県の鎌田課長にいらしていただいていますので、次のコーナーでこれについて、現在秋田県ではどういうふうにしてらっしゃるのかについてお話を伺いたいと思います。

 5点目のご質問、「11 月6日に決定された犯罪被害者支援策や被害者担当保護司、早期支援の充実について伺いたい」というご質問でありました。11 月6日の支援策、これは先ほど室長の荒木からご説明しました3つの検討会の最終とりまとめのことであります。「その通り」ということで回答させていただきます。それから早期支援の充実というのはちょっと漠然としているのですが、これも支援のための連携体制の整備などの中に入ってくると思いますし、早期援助団体制度については、先ほど小田部様からご説明があった通りであります。

 被害者担当保護司について、これは法務省の施策になるのですが、私のほうから代わりにご説明しますと、これはまさに本日12 月1日からスタートする制度でありまして、全国保護観察所に被害者担当の保護司さんというのが設置されて、被害者の方の対応に当たるという制度です。具体的には被害者の方からお話をお聞きし、不安などの軽減解消に努めるとともに、相談内容に応じて、適切な関係機関を紹介したり、関係機関に連絡したりして、途切れない支援の実現に努めることとされていると伺っております。基本的には加害者の保護観察とは独立した制度と伺っておりまして、保護観察になっていない事件なども含んで、あらゆる被害者への対応が予定されていると伺っています。正確には法務省の方にお尋ねになっていただければと思います。私のほうでお聞きした内容をお話させていただきました。

 6点目から8点目まで3件、マスコミ報道関係についてのご質問です。「事件そのものの被害のほかに、実名報道や誤報など、マスコミの影響で受けた犯罪被害者のさらなる被害について伺いたい。マスコミはどのような報道を心がけるべきか。例えば事件発生直後や公判前後など、段階に応じてどのような対応が望まれるのか」というご質問でありました。おそらく内容からして、報道機関の方からのご質問と思います。報道の問題はサブテーマにするどころか、3時間メインテーマで議論してもいいくらい、非常にむずかしい問題をはらんでいると思います。この点をあまり掘り下げますと、時間がいくらあっても足りませんので、この問題につきましては、まさに松村様が直面された問題でもありますので、思うところなど、コメントをお願いたいと思います。


(松村)

 私はたしかに報道被害に遭いました。正確にいえば私というより私の娘が遭ったと。その体験を通してお話をしたいと思います。

 事件発生直後の報道の仕方に問題があることは明らかだと思います。メディアそのものは事件が発生しますと、すぐ取材報道といいますか、メディアスクラムの段階になってしまいます。ですけれども、その時、被害者そのものは精神的にもその取材に答えられるような状況でないことは明らかであります。そのことは皆さん、ご理解いただけるのではないかと思います。そのため、本人からだめならば、被害者にちょっとでも関わりのある人にコンタクトして、裏付けもとらずに記事にしてしまう。それが記者自身の考え、あるいは世間の偏見に沿うものなら間違ってないだろう、と記事にしてしまうわけです。これが誤った報道の原因になっているのではないかと思います。

 なお悪いことには、賞味期限があるように、一刻を争って報道してしまうことが多いのです。スクープだと思えば、新聞の場合は大きな活字で、ワイドショー、テレビならば長時間の放映となりまして、視聴者、あるいは読者に第一印象として頭の中にインプットされてしまいます。そして、これが消えないんですね。このインプットされた情報のために、さらなる被害がもたらされるといったことが我が家の場合にはありました。

 それはどのようなことかといいますと、事件から1年2年3年たったときに、第一印象のせいで、類似した事件が起きると、「あのときにそう言えば、文京区でこういう事件がありましたよね」と、誤ったことをベースに話として出てきます。そのために、我々の家族はあの時点にまた立ち戻って、嫌なことを思い出さなければならないということになるわけです。

 これがもしも誤った報道そのものが匿名報道でなされたならば、少しは救われるかもしれませんけれども、実名だともういけません。中には実名を望む被害者もいらっしゃるのは事実ですから、そのように匿名か実名かということは、現在の基本計画では警察が決めるということになっておりますけれども、私ども犯罪被害者は、それは犯罪被害者に決めさせてください。犯罪被害者が実名でもいいよといえば、実名で報道してかまいません。けれども、犯罪被害者が匿名でお願いしますといったら、匿名でしかいけないのです。というのが犯罪被害者の立場だったのです。ですけども、一部報道側が絶対実名という主張と相容れなかった。それで、警察が発表することに落ち着いたと聞いております。ですから警察が匿名か実名かを決めるのでなくて、あくまで犯罪被害者の意志で決定していただきたいというものです。

 ですから、裏付けがとれて、また事実だと確信できた時に、そのことを報道しても問題があるのでしょうか。おそらくないはずです。裏付けもとらずに誤った報道をしてしまう。メディアには、まだそれが残っているのは非常に困ったものです。これに犯罪被害者は泣かされて、二次、三次被害となるわけです。メディアは報道する自由があるのは確かですけれども、その裏返しで責任もあります。そのことを理解しているメディアは少ないのです。これは残念なことです。ですから、報道の使命というものは、正確な事実だけを報道することだと思いますし、事実だという裏付けがないことは報道してはいけないのだと思います。

 この一つの解決策としては、アメリカなどのように事件が発生した直後から、被害者側に信頼できるスポークスマンがついて、メディアの担当窓口になる。そうすれば、被害者の意志も通じて報道され、報道被害も減るのではないかと考えられますので、日本でもそのような方向に進んでいただきたいと思います。以上です。


(高津)

 どうもありがとうございました。最後の9点目の質問は「全国の学生・生徒にどのような教育指導をすれば被害者支援の一助となるかを教えてください」とのご質問でした。おそらく先生なのかなと思いますが。これは非常にタイムリーでございまして、内閣府では中高生を対象とした教材を作成させていただきました。内閣府のブースを見ていただければ、置いてあります。DVD と小冊子ですが、こちらを利用して、ぜひ教育に役立てていただければと思っています。基本的に有償のものではございませんので、ぜひお問い合わせをいただければと思います。これは大久保先生も出演なさっているもので、大久保先生に協力していただいて作成したものですが、何か一言ございますか。


(大久保)

 例えば学校でしたら指導要領やカリキュラムに載っているだけ、あるいはビデオを見るだけでも効果はあると思いますが、命の本当の大切さというのはなかなか伝わらないと思うんですね。ですから、子どもたち自身が被害者に関する資料を探して、被害者や関係者にインタビューをして、そして発表しあって、議論を深めていく過程というものが重要だと思っています。一方的に伝えることだけでは身につかないと思います。ただ聞いたり見たりするだけでは考え方とか行動の変化に結びつかないということを念頭に置いて、そのビデオも役立てて、さらにそれを題材としてぜひ深めていっていただきたいと思います。弱い立場の人、犯罪被害者の人たちがどういうことで苦しんでいるのかを一人一人が理解をすれば、きっと学校の中でのいじめなども減って、みんなが安心して通えるような学校づくりにも大いに役立つのではないかと思っていますので、またぜひご覧になってみてください。


(高津)

 ありがとうございました。それでは最後のテーマ、「地方公共団体における被害者支援」に進みたいと思います。もうすでに予定の時間を大幅にオーバーすることが確定しているのですが、もうすこしお付き合いをいただきたいと思います。犯罪被害者の方々が被害から回復して、再び平穏に暮らせるようになるために、地域社会全体で被害者を支えていく必要があるということが言えると思います。まずは自らのご体験もまじえ、松村様から、身近な地域社会に対する支援の重要性や、その期待についてご発言いただきたいと思います。


(松村)

 私の事件を振り返ってみますと、事件発生直後から、一部分ではありますが、地域社会が関わってくれていたというふうに思います。これはどういうことかといえば、例えば発生直後に、文京区の総務課長さんが見えて、区のケーブルテレビ網を使って孫娘を捜したらどうだろうかという提案をしてくれまして、実際にそのようにしてくださいました。この効果のほどはわかりませんが、地元が応援してくれているということは、娘の気持ちの上で一つの支えになっていたのではないかと思います。

 基本法、あるいは基本計画でも、地域社会の支援が犯罪被害者の被害回復に不可欠であるとありますけれども、地域社会が犯罪被害者のことを深く理解してくれることが一番肝要だろうと思います。今年の内閣府の調査でも、犯罪被害に関する国民の意識というもの、知識というものは、おそらく1割ぐらいということで非常に低いレベルでありまして、今後改善する必要があることは明らかであります。

 犯罪被害者を支援する、最も身近な窓口は市役所、あるいは区役所だろうと思います。そういうところに、窓口がずいぶん設けられてきているようになりました。それは非常に喜ばしいことであります。そして、たとえその窓口が設けられたとしても、その担当者がどのようなことをするのか理解してくれているのか。犯罪被害者にとって、頼りになる相談員なのか。先ほど申しましたけれども、非常に広範囲なことを要求しますから。またさらに、その頼りになる相談員がどのような訓練を受けて配置されてくるのか。そのような相談員を訓練する人が本当にどこかにいるのだろうか、という数々の不安があります。犯罪被害者は、先ほども述べましたように、人間不信に陥りやすく、被害の相談に行ったら、二次、三次被害を受けたということがないように、より親身になってくれる相談員の誕生を待っているわけです。よろしくお願いいたします。


(高津)

 どうもありがとうございました。続いて、各地に地方事務所を置いて支援を行っております法テラスの高際室長から、地方における取組に絞って、取組状況、課題などについてお話いただきたいと思います。


(高際)

 私どもでは10 月に業務を開始いたしまして、これまで被害者の方からのお話を丁寧にお伺いし、法律、制度、支援窓口についてご案内するという、情報の提供をやってまいりました。1年たってみて非常に思いましたのは、情報の提供はたしかに非常に重要ですが、例えば大切なご家族を亡くされた方や、強姦被害に遭った方、心身共に本当に重大な被害をお受けになった方に、相談窓口の電話番号をお伝えして、はたしてその後、法テラスの電話を切った後に、すぐにそちらに電話できるのか。また、いくつもの窓口での支援が必要な方に、例えば5ヶ所の電話番号を申し上げて、全部お一人で回ることができるのか。そういうところに非常に問題意識というか、心配になってまいりまして、私ども1年たったところで、情報の提供プラス、必要な場合に被害者の状況やご希望によっては、窓口までお取り次ぎするところまで、地方事務所でやっていこうということで、新たな取組を今始めたところでございます。

 先ほど大久保さんから、関係機関・団体との連携というお話がございましたけれども、私どものほうでもまったく同じに考えておりまして、法テラスにアクセスいただいた方を、その方がその とき必要とされる支援を行っている団体に、きちんと橋渡しをさせていただく際の大前提が、やはり連携関係にあると考えています。支援団体も被害者支援ネットワーク加盟の団体をはじめ、DV や虐待、また、交通犯罪による被害など、特定の被害に対する支援を行っていらっしゃる団体もございますし、それから司法、捜査、福祉、医療等々、各領域の支援機関ともきっちり連携をとっていかなければいけない。それぞれがどういう支援をやられているのかというのを法テラスとしてしっかり勉強させていただかなければいけないと思っています。

 橋渡しの基盤のもう一つ、これは当然ではあるのですが、法テラス内の連携ということで、犯罪被害者支援ダイヤルと地方事務所の連携にも今、力を入れています。全国の支援窓口の情報がデータベースに入っていますので、犯罪被害者支援ダイヤルで各地の窓口について情報提供することは可能なのですが、ただ被害者の方の心身の状況から、特に慎重にご案内しなければいけないという場合、それから適切な弁護士を選定してご紹介しなければいけないという場合には、各地の支援情報を収集・把握し、地元の支援機関・団体との連携関係の構築・強化に今、一生懸命取り組んでいる地方事務所に対応を引き継ぐということで取り組んでまいりたいと考えております。

 連携先という意味では、特にこれから自治体との連携も高めていきたいと思っています。やはり市民に最も近い総合窓口は自治体ですし、自治体のほうで福祉、保健、医療、住居、就業、学校など、各分野を所管されていますので、法テラスとしても、自治体窓口へ適切に橋渡しできるよう、連携に力を入れてまいりたいと考えています。私自身、役所の出身なので、非常に実感としてあるのですが、とにかく所管がタテ割りであったり、窓口がたくさんあります。DV の方などが支援を求めたときは、おそらくご自身の被害については女性福祉課に行って、子どもが受けた被害については児童福祉課に行って、生活については生活保護課に行って、障害が関係すれば障害福祉課に行って、カウンセリングが必要であれば保健所に行ってということで、5ヶ所か6ヶ所回らなければいけないという状況ではないかと思います。

 私どもでは、そういったときに、役所の総合窓口に法テラス地方事務所から、ご案内方法等についてご相談をさせていただいたり、こういうような被害のときは、例えば女性福祉課さんにおつなぎするので、そこで関係各課に内容を取り次いでいただけませんかというような、そういった事前のご相談をさせていただくことができないか。それをこれから全国の地方事務所で、自治体と協議が入れるように準備してまいりたいと思っております。いずれにしても、犯罪被害者支援を行っていらっしゃる各窓口がどういう活動をされているかを私どもの地方事務所の職員が十分勉強させていただいて、その方にとって一番適切なところにおつなぎできるように、今後とも努めてまいりたいと思っております。


(高津)

 どうもありがとうございました。先ほど松村様からも市区町村という話がありましたし、今のお話でも自治体の役割について非常に期待する、というお話が出たと思います。こうしたお話も踏まえまして、地方自治体の取組の重要性や期待される役割などについて、冨田先生にお話を伺いたいと思います。


(冨田)

 ごく簡単に申し上げたいと思います。まず、民間団体と地方公共団体との役割分担のことについて、お話したいと思います。

 民間団体も地方公共団体も地域に基礎を置いて活動をしていますので、両方の活動が重複する場面というのはかなり出てくると思います。私は今の段階では無理やり線引きをする必要はなくて、お互いそれぞれできる活動をしていけば、自然にその線引きが決まっていくので、今はあまり抑制的になる必要はないというのが基本的な考えです。

 それから、地方公共団体に期待されることの一つは、これはすでに私も申し上げましたし、他からも出ていますけれども、民間団体等に対する財政的援助が重要なことだと思っています。

 もう一つは、地方公共団体は地域の被害や被害者の状況を知っているはずですが、それをどれだけ実際に知っているのかという問題があると思います。そこで基本法の21 条でも調査・研究の必要性ということを強調していますので、地方レベルでも、この被害や被害者の実態ということについての調査研究をどんどん進めていって、それにもとづいて施策を展開していくというのが大事だと思います。

 地方公共団体も、与えられた仕事なのでしなければならないという意識でなくて、先進的な施策やいい施策を打ち出していけば、それはその地域の魅力にもなりますし、人々にもアピールできますので、ぜひそういういろいろな試みをしていくのがいいのではないかと思います。

 最後に一つだけ。総合窓口についていろいろ意見が出ていますけれども、今、都道府県レベルでは全部できていますが、市町村レベルではまだです。住民に一番近い自治体は市町村ですので、やはりここにもぜひつくる必要があると思います。また、先ほどから資質、トレーニングの話が出ていますが、これを自治体と民間団体との連携で行っていくという可能性があると思います。最終的には具体的なガイドラインといいますか、具体的な行動規範を策定していくということが大事なのではないかと考えています。以上でございます。


(高津)

 どうもありがとうございました。今、民間団体の役割分担というお話がありましたけれども、地方公共団体レベルで言いますと、従来は都道府県警が中心で支援が行われてきたと。基本法制定以来、知事部局の役割などが非常に重要であるということが認識されてきている。しかし、一方で第一次的に被害者と接するのは依然として警察であることが多いわけでありまして、警察庁の立場から、今後の都道府県警と知事部局、総合窓口の役割のあり方などについて、お考えをお聞かせいただきたいと思います。


(小田部)

 本当に犯罪被害者の方の様々なニーズに応えた支援をしていくという中で、私ども警察ができる支援もありますが、例えば医療であるとか、社会福祉、社会保障、あるいは公営住宅への優先入居とか、例えば児童虐待とか、DV の被害者の方の一時保護、こういった本当に地方知事部局、あるいは市町村しかなかなか提供することが難しい、そういうサービスもあるわけです。これから、被害者の方のニーズに即した、途切れのない支援を全体として提供していくという意味では、警察の立場からいきますと、先ほどお話がありました、第一次的に対応する中で、私ども以外の関係機関が提供しているような、そういったサービスがあれば、そういったことに関してもできるかぎり、情報提供をしていけるようなことを、今後さらに心がけていかなければいけないという、情報提供の関係が一つございます。

 もう一つは、先ほど何人かの方が例に挙げておられましたが、私ども警察のほうでいろいろな関係機関と連携した支援を提供するために、犯罪被害者支援協議会といった関係機関との連携のネットワークを作っていますが、こういった既存のネットワークをさらに活用して、個々具体の事案に応じた情報提供、支援の連携をやっていけるようにしたいと考えています。

 もう一つ、これから大事だなと思っているのは、知事部局で窓口を作る、あるいは市町村で窓口を作るということですが、窓口でいろいろ相談を受けて、でもそこで何か具体的な施策をやっていかなければいけないのではないかと思います。実は昨日、山形でこの被害者週間のイベントに行っていたときに、市町村で具体的にどういうふうなことをしていったらいいかわからないという声があるというお話も出ていました。皆さん方、ご案内のように、すでに東京であれば杉並区で被害者支援条例をお作りになって、本当に被害直後でなかなか日常のこともままならないような状況の中に、例えばヘルパーの方を支援に派遣されたり、公営住宅の優先的入居とか、あるいは当座の資金の貸し付けとか、いろいろなことを条例で定めて、業務としてきちっと制度化して取組を進められているところもあります。

 また、都道府県単位でいえば、やはり条例をお作りになったり、国の基本計画に準じた計画をお作りになって、ただの窓口だけでなくて、さらに一歩進んで、施策も具体的に提供していくための、大きな枠をきちっと作っていくことをやっておられて、すでにこれまでつくられたところのお話などを県警などを通じて聞きますと、こういった基本計画作り、あるいは条例作りをしていく中で、関係機関とまさにこれからどういう支援を提供していくのかという協議をしていくと。そのなかで、また連携の密度も高まっていくし、それぞれ、こういうことをどういうふうにやっていくのかということの共通認識を持って、それぞれの立場でさらに施策を進めていけるという、そういう効果もあると聞いております。やはりこういった関係機関が連携した支援の枠組み作りも非常に大事なことかなと思っております。


(高津)

 どうもありがとうございました。だいぶ時間も超過しておりますが、お待たせいたしました。秋田県の鎌田課長から、地方自治体における取組状況、今までのお話も踏まえて、お話いただければと思います。


(鎌田)

 今日、皆さん方に配布した資料の中に秋田県の取組の資料(資料2(PDF形式:116KB)別ウインドウで開きます)がございますので、それをご覧になりながら聞いていただければと思います。民間団体との連携も含めまして、お話させていただきます。

 秋田県では先ほど述べましたように、県民のつどいとか、総合窓口担当者研修とか、様々な事業を秋田県警察、被害者支援センター、そして我々県と三者が主催というかたちで行ってきております。例えば今回手記を募集しましたけれども、我々は我々の広報、市町村を通じて広報していきますし、あとメディアでも広報する。それを私たちが担っております。それから、秋田県警察は自分たち自らの広報と、また警察の関係団体への広報、警察の臨床心理士さんや支援センターのスタッフ、自助グループなど、そういう方々を通じていろいろ広報してくださるというかたちになっています。それから、県民のつどいそのものも企画の段階から被害者支援センター、秋田県警察、そして我々と、常に検討して進めてきました。今回のつどいのときにはNHK さんが関心を持っていただき、その連携の部分を打ち合わせしている状況なども放送で流していただきました。そういう意味もありまして、県民のつどいには、多くの方が参加してくれたのかなと思っております。

 秋田県では連携というよりも、それこそ三者が、それぞれの関わる分野に働きかけて、事業をやってきているという状況です。これは秋田県の犯罪被害者対策の歴史のようなものが大きく反映されたものと考えております。平成8年に国が被害者対策要綱を制定したのを受けまして、秋田県警察で平成9年に要綱を定めております。その翌年の平成10 年に、警察本部を事務局としまして、32 の民間団体、関係機関が会員となりました、秋田県被害者支援連絡協議会が設立されました。平成10 年の設立は当時はまだ先駆けだったと思っております。医師会や経営者協会など、県内の教育・防犯・医療などの民間団体、消費生活センター、福祉の相談、女性相談所も含めまして様々な相談機関がそこに参加しております。

 当初から民間などを巻き込みながらのスタートが今のこの連携といいますか、協力しあうかたちの基本になっていると思っております。その後、そこから平成13 年には任意団体、秋田被害者支援センターが設立されております。そして、平成15 年には社団法人化しておりまして、平成17 年には早期援助団体の指定も受けて、現在に至っております。秋田県が早い段階で基本計画を策定したのも、この連絡協議会がベースとなって、そこでグランドデザインを検討したりというようなかたちで進めてきたことが大きく影響していると思っております。

 民間団体や様々な相談機関の総会とか部会のなかで、いろいろな意見交換、情報交換ができます。そのことが今、事業を進める上で大いに役立っておりますし、そこのなかで助けられているということが、いろいろな面であります。ただ、その状況の中で、被害者支援センターの相談員の方々もおりますが、そこに集まられる様々な相談機関の相談員の方々との、そういう大きなネットワーク、つながりをこれからもっと強化していかなければいけないなと、今思っているところです。

 市町村との関係ということですが、県では、住民の福祉、医療など、住んでいる地域の身近なところでの支援がとても大切ですので、計画策定の前後から市町村の理解がとても重要ということで、市町村に総合的対応窓口をぜひ設置していただきたいと、2回ほど説明会を開催しました。平成18 年の4月からは、秋田県は25 の市町村がありますが、すべての市町村で総合的対応窓口を設けていただいております。また、県内の様々な相談機関のリストも作成しまして、いろいろなところに配布しております。

 計画策定2年目になりますが、昨年度、今年度、全県1回、それから県内3ブロックに分けまして、総合的対応窓口担当者研修会を実施しております。市町村、警察署、県の地方部も含めた担当者を対象とした研修会です。内容は被害者遺族による講演、被害者支援センターの支援状況、警察の被害者支援状況、その報告をお願いしております。また、そこで意見交換を行っています。今年の例ですが、被害者のお話の中から、生の思いを話してもらうのが、参加された方々への反響といいますか、効果があると思っています。

 被害者の方々は「いきなり被害者になって質問も出ないんです」「声を上げられない状況なんです」「コーディネートがあってほしい」と。また「支援される方々から、私どもにつながってほしい」。このような生の声が聞かれました。また、交通事故で小学校に入ったばかりの子どもを亡くした遺族の方からは、「児童手当の打ち切りの文書の理由欄に『事故死亡』とだけ書かれてあった。非常につらかった。でも給食センターから来た還付金の連絡文書には温かい手紙が添えられて救われました」とか、「警察のカウンセラーを通しまして、自助グループから温かい手紙をもらって支えられました」とか、本当にそのような生の話を聞くことができます。このように、この研修会は市町村、警察署、県担当者が被害者家族の生の声を聞く機会でありまして、直接聞くことが意義深いことだと思っております。

 被害者支援センターのスタッフの方々も支援する際に心がけていることをお話していただいております。被害の大きさを比べないとか、ゆっくり元気になればいいということを伝えていますとか、そのようなお話をしてくださっています。警察のほうからは様々な制度を説明してもらっています。研修を受けた市町村、県の担当者から次のような意見がありました。「不適切な発言で二次被害を与えることがないように、対応マニュアルがあればいい」と、それから、他の相談機関の窓口との連携など、問題点がいろいろある。そういうような話が出ております。

 ちょっと時間も押しているのですが、秋田県のある市の担当者が被害者支援センターの会報に載せた文章がありますので、その一部分を読ませてください。「この度の研修で犯罪被害者等の講話を初めて耳にし、胸が締め付けられる思いで聞き入ってしまいました。今まで数多くの犯罪報道を耳にしてきましたが、あくまでも他人事とのスタンスでいる自分がおりました。今回の講話を聞いて、犯罪被害に遭われた方々が、世間の目を気にしながら生きる。なんとつらいことでしょう。今の私に何ができるのだろう。他人には理想が言えるのに、自分は何も言えない。でも、手助けしたい。公務員としての自分が考えることは、市役所ではすぐに対応できる体制にあるかということです。専門的な研修を受ける機会もなく、窓口対応は不安がいっぱいです。市役所各課の支援可能な業務事項を把握し、支援に携わる業務をたらい回しにすることなく、円滑に進め、せめて継ぎ目のない支援が行えるよう努力することが、現在できる精一杯のことではと考えましたが、なんと微力なことかと慄然としています。もっと時間をかけ、一歩一歩自分たちができることを考え、拡大していきたいと思います」。このような文章が載せられております。

 基本的には痛みを思いやる気持、姿勢が大事だと思っております。このようなことを思いながら、また戸惑いながら、何かをしなければならないという、行政の担当者が確実に増えているということを、2年目にあたる今年、実感しております。まだまだ犯罪被害者支援について多くの方の理解を進めなければいけません。市町村の担当者の話にあったように、総合的対応窓口から先の様々な相談窓口とどうつながっていくのか。それから、相談機関と相談支援する方々とどうつながっていくのか。まだまだ課題はありますが、これから、それこそ先ほどの市町村の担当者の言葉にもありましたけれども、今日このようなつどいを通しまして、いろんな意見を伺って、それを活かして進めていかなければいけないと、自戒の思いも込めて、今感じているところです。以上です。


(高津)

 どうもありがとうございました。地方公共団体につきましては、被害者支援の輪、ネットワークの中でも要の拠点として非常に期待の高いところでありまして、内閣府でも地方公共団体向け施策など、たくさん企画し、考えているところであります。いろいろお話もございましたが、関係機関・団体におきましては、犯罪被害者施策を懸命に進めている最中であります。しかし、犯罪被害者等が再び平穏な生活を営めるようになるために帰っていく先は、結局は国民の皆様のところになるわけです。このつどいを機会にいたしまして、犯罪被害者等の人々がどんな悩みを抱えていらっしゃるのか理解しようと。平穏を取り戻すために自分に何ができるのかということを考えるきっかけとなっていただければ幸いだと思います。

 これをもちまして、「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会のパネルディスカッションを終わらせてただきます。ご協力、誠にありがとうございました。

 資料1:PTSDについて(PDF形式:241KB)別ウインドウで開きます

 資料2:秋田県における犯罪被害者等施策の取組状況(PDF形式:116KB)別ウインドウで開きます