11月25日~12月1日は犯罪被害者週間

「犯罪被害者週間」国民のつどい 茨城大会

議事内容

主催者あいさつ

西村 明宏(内閣府大臣政務官)

 皆様、こんにちは。

 犯罪被害者等施策を担当いたします内閣府大臣政務官の西村明宏でございます。平成19年度の「犯罪被害者週間」国民のつどい茨城大会の開催に当たりまして、一言ご挨拶をさせていただきます。

 本日は基調講演やパネリストをしていただく有識者の方々をはじめ、多くの皆様方にご列席をいただき誠にありがとうございます。さて、国民のだれもが安心して暮らせる社会を実現するためには、犯罪を予防するにとどまらず、不幸にして犯罪被害者になられた方々に対し再び平穏な生活を営むことができるようになるまで、途切れることなく支援を受けられるようにすることが重要でございます。

 政府は「犯罪被害者等基本法」に基づき、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の実現のため、平成17年12月「犯罪被害者等基本計画」を閣議決定し、各種の施策を総合的かつ計画的に推進しておるところでございます。

 基本計画に盛り込まれた258の施策のうちほとんどが既に実施されており、本年には基本計画に基づき設置された3つの検討会の最終取りまとめや刑事訴訟法等の改正がなされるなど、施策が着実に実施されております。

 また基本計画におきましては、基本方針として「国民の総意を形成しながら展開されること」、重点課題として「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」が掲げられています。そして、集中的な啓発事業などの実施を通じて、犯罪被害者等が置かれている状況などについて国民の理解を深めることを目的とし、基本法の成立日であります12月1日にちなんで、毎年11月25日~12月1日までが「犯罪被害者週間」とされました。2回目の実施となります本年度は「悲しみを希望にかえる社会のささえ」を標語といたしまして、様々な広報啓発活動を行っております。

 「犯罪被害者週間」国民のつどいは、犯罪被害者週間の中核的な行事として、国民が犯罪による被害について考える機会として開催されるものであり、この茨城大会は4つの地方大会のうちの1つとして、茨城県、茨城県警察との共催により開催しております。

 ここ茨城県におきましては、橋本知事のリーダーシップの下、総合的対応窓口の設置や「茨城県安全なまちづくり条例」において犯罪被害者支援にかかる条文が盛り込まれ、また茨城県警察におかれましても小風本部長の下、被害に遭われた方々に対する様々な支援の充実が図られるなど、関係機関・団体が連携しながら意欲的に犯罪被害者等施策を推進してこられたところであり、このような場所で国民のつどいを開催することができましたことは喜びに堪えません。

 本日は「被害者の現状と支援の必要性」についての基調講演や「地域社会と被害者支援」をテーマとしたパネルディスカッションを行うほか、被害者の方へのインタビューや関係機関・団体によるパネル展示をご用意いたしました。これらを通じて、ご来場の皆様方には、犯罪被害者等の置かれている状況や犯罪被害者等の名誉・生活の平穏への配慮の重要性などについて理解と関心を深めていただければ幸いでございます。

 最後に、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会が1日も早く実現されるよう、今後とも全力で取り組んでまいりますことをお約束申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。

 本日は皆さまにとりまして有意義な会となりますよう心から願っております。ありがとうございます。

主催者あいさつ

川俣 勝慶(茨城県副知事)

 皆さん、こんにちは。ただ今紹介いただきました副知事の川俣でございます。本来ですと橋本知事がご挨拶を申し上げるところですが、所用で来られません。代わりまして私から挨拶をさせていただきます。

 「犯罪被害者週間」国民のつどい茨城大会の開催に当たり、一言ご挨拶を申し上げます。本日はお忙しい中、このように大勢の皆様にご参加いただき、誠にありがとうございます。国民のつどい地方大会が、全国で4カ所開催される中、ここ茨城において開催できましたことを大変うれしく思っております。本県では安全で安心して暮らせる社会の実現を目指して、「茨城県安全なまちづくり条例」や「茨城県交通安全条例」等に基づき、県民・事業者・行政が一体となって安全なまちづくりに取り組んでいるところでございます。

 現在、県内におきましては、「自分たちの地域は自分たちで守ろう」との思いから、約830団体・6万人に上る自警団等の防犯ボランティア団体の方々が、防犯パトロール等の活動を展開されております。県としましても「防犯は 鍵かけ 声かけ 心がけ」をスローガンとした「安全なまちづくり県民運動」をはじめ、地域力を高め地域コミュニティーの活性化を図る「ご近所の底力活性化推進事業」や、県民一人ひとりが交通ルールを遵守し、交通マナーの向上を図る運動などを展開し、地域の力で地域の安全を守る取り組みを推進しているところでございます。

 その一方で犯罪の被害に遭われた方々に対しましては、ご本人やその家族の方々が再び地域において平穏な生活が送れるよう支援していくことが必要であります。県としましても、本年1月、安全なまちづくり推進室内に犯罪被害者相談窓口を開設し、被害に遭われた方々からの相談に応じて情報提供や助言を行うなど、必要な支援が円滑に受けられるよう努めているところでございます。

 また本県には、県公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」として全国2番目に指定を受けている「社団法人いばらき被害者支援センター」があります。この支援センターは、犯罪の被害に遭われた数多くの方々を支援し、被害者やご遺族はもとより多くの関係者などから高く評価され、その存在価値がますます高まってきております。

 犯罪被害者等を支援していくためには、行政や被害者支援団体などが連携して取り組むとともに、地域の一人ひとりの理解と配慮、そしてそれに基づく協力が不可欠であります。

 本日は、犯罪の被害に遭われたご家族のお気持ちとともに、関係機関の施策などを理解していただき、犯罪被害者等に対し、地域や職場、家庭で何ができるかということをお考えいただければ幸いです。そして、ここで感じられたことを周囲の方々に広めていただくことが、犯罪被害者等をともに支える社会づくりに通じていくことと思います。

 結びに、このつどいの開催に協力をいただきました関係者の皆様に改めてお礼を申し上げますとともに、この大会を通して、県民の皆様の犯罪被害者等に対する理解が一層深まり、支援の輪が広がりますことを祈念いたしまして、挨拶とさせていただきます。

主催者あいさつ

小風 明(茨城県警察本部長)

 警察本部長の小風でございます。主催者の一員といたしまして警察の行っております被害者対策の取組みなどを御紹介いたしつつ、一言御挨拶申し上げます。

 私共警察関係の会合などで御挨拶いたしますときに治安情勢のお話からいたします。その例によりますと、本県の治安情勢につきまして数字の面で出されるものとして、1つには刑法犯認知件数、それから刑法犯検挙件数、そして検挙率というものを出していくわけですけれども、刑法犯認知件数につきましては平成14年が本県では過去最高でした。それ以来皆様方の御協力、御支援を得まして4年連続で減少させてまいりましたし、検挙率につきましても平成14年当時は21%だったものが昨年は約35%まで向上させるという、一応の成果を上げておるわけでございます。

 しかし次なる課題としては、県民の皆様にこの安全を実感していただける、この県で暮らすことは安心できるという安全、安心の実感、すなわち体感治安を改善するということが大きな課題であると考えております。私共警察としても、これについて何が県民の皆様の体感治安の改善を阻害している要因であるかということを検討し、必要な対策をとっているわけでございます。

 この体感治安改善の対策の中で大事なものの1つとしては、犯罪あるいは事故といったものの被害に遭われた方々の被害の回復、これが大事ではないかと考えております。被害の回復の中にはいろいろなものがあろうかと思います。肉体的な回復もございましょう。精神的な面の回復も大事なことであります。さらには現在いろいろな方々から御議論いただいておりますけれども、経済的な損害の回復といったことまでも視野に入れていかなければならないと考えております。

 警察でこの犯罪被害者対策に組織的に取り組んだのが平成8年に「被害者対策要綱」を策定して以来と言われておりますけれども、実はそれ以前から個々の捜査員等が、個人の、その人のいろいろな思いから被害者に対して、被害者の立場に立った、そういう活動をしてきた経緯がございます。こう言いますとはなはだ僭越かも知れませんけれども、さまざまな行政機関、団体の中で一番被害者の身近な立場にいるのは自分たちだという自負から積極的に今まで取り組んできたものであります。これを個々の捜査員、刑事などの才覚によるものではなくて組織全体として取り組もうということで、平成8年に対策要綱を策定したわけでございます。

 以来、犯罪被害者相談であるとかカウンセリングの体制の整備、これは人的なものもございますし、各警察署などへ行っていただきますと被害者の方々との相談をするためのスペースといったものも確保するようにしてございます。また被害者の方々への情報提供、これも従前は個々の捜査員の才覚で行っていたわけですけれども、組織的に情報提供を行い、その状況についてもフォローするというようにきめ細かな施策を行ってきたわけでございます。

 そうした中で、先ほど御紹介いただきましたように本県では社団法人いばらき被害者支援センターという団体が、まだ任意団体であったころから活動されておりました。先ほど「平成8年に被害者対策要綱を警察庁が策定した」と申し上げたのですけれども、それ以前から被害者支援の活動をしていただいたのです。本県はこの被害者対策、被害者支援の関係については先進的な役割をこのいばらき被害者支援センターの皆様方を中心として行ってきたという経緯がございまして、私共といたしましてもこの団体を中心にきめ細かな施策を進めてまいりたいと考えております。

 本日この大会では、犯罪被害者の御遺族でもあられます社団法人被害者支援都民センター大久保恵美子事務局長に基調講演をいただきますほか、犯罪被害者遺族の声では御遺族の方のお話をお聞きします。さらに地域全体、社会全体でこの被害者支援に取り組むという観点からパネルディスカッションを開催するということになっております。このような取組みができますのは、おそらく全国でも数少ないのではないかと思っております。それだけこの県民の皆様方に御理解をいただいているというのは、非常に私共といたしましても心強いものだと思っている次第でございます。

 本日の大会は月末近く、また週の初めということで、大変皆様方にとってお忙しい時期だと思います。それにもかかわらずこれだけ熱心にお集まりいただいているということは、私共にとりましても心強いと思いますし、また被害者支援の必要性についても改めて思いをいたす次第でございます。これを契機として被害者支援の輪を地域社会全体に広めることにつきまして、皆様方の御理解、御支援をいただきたく御挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございます。

基調講演

~被害者の現状と支援の必要性~
大久保 恵美子(社団法人被害者支援都民センター事務局長)

 ただ今ご紹介いただきました大久保です。よろしくお願いいたします。今日は「犯罪被害者週間」国民のつどい茨城大会にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。犯罪被害者支援に関心を持ちここにお集まりの皆様、そして関係者の皆様のご尽力に対し心からの感謝を申し上げます。

 お話をさせていただくに当たり、皆様に質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。犯罪を犯した人に対してよく使われる、「罪を憎んで人を憎まず」という言葉を聞いたことがある方は手を挙げていただけますか? 100%の方がこの言葉をご存じですね。

では反対に、犯罪被害者の人たちはその衝撃があまりにも大きく、被害を受けたそのときから自分自身の力で回復をしていくことは大変難しいので、「もし身近に犯罪被害を受けた人がいたら、その人に温かい支援の手を差し伸べましょう。それが人としての当然の姿なんですよ」という言葉を、親あるいは学校教育の中で聞かされてきたという方がいらっしゃいましたら、手を挙げていただけますか? 全くいらっしゃらないですね。犯罪被害者が置かれている困難な状況については、ほとんど知られていませんし、また顧みられることがなかったというのが今までの日本の姿なのだと思います。そういう困難な状況にある被害者やその関係者が長年待ち望んでいた平成16年成立の「犯罪被害者等基本法」の前文の中にも、あるいはその基本法を受けてできました「基本計画策定の目的」の中にも次のように書かれております。

 「犯罪被害者等は例外的な存在であって、自分たちとは関係がないという誤った認識や、被害者等は、特別に公的に守られ、尊重され、加害者からの弁償に加えて十分な支援を、容易に被害から回復できているという誤解もある。このような認識の誤りもあり、被害者等に対する支援についての社会的関心は高いとはいえない。」

 その上被害者はどこに行っても制度と制度のはざまに置かれてしまい、適切な対応を受けることができない状況が長年続いてきました。なぜならば事件直後に被害者に接するのは警察です。そのあと刑事裁判が始まれば検察庁ですので法務省、その次は裁判所になります。自宅が殺害現場であれば、そこに住み続けるということは到底できません。あるいは強盗や強姦事件で犯人が捕まっていなければ危険もあり、そこに住むということはできませんので、被害者はみんな安全な公的住宅に入りたいと願います。そのときは国土交通省の管轄です。体を傷つけられたり、精神的ショックが大きすぎて医療が必要になる場合は厚生労働省です。子供が被害者になったり、あるいは学校での事件、事故であれば文部科学省。つまりどういう事件の概要だったのか、あるいは事件からどれぐらい時間がたったのかによって関係してくる省庁が異なるからです。

 そのために、途切れのないシームレスな支援を行うためには省庁を横断する新しい制度や施策が必要なので、内閣府に犯罪被害者施策の担当部署を置くということを強く希望していました。その希望に沿って、平成17年から内閣府に犯罪被害者等施策推進室が置かれ、その中で「犯罪被害者等基本計画」が有識者によって決定され、4つの基本方針と5つの重点課題が示されました。

 4つの基本方針のまず1つは「すべての犯罪被害者等の尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること」。2つめは「被害者の個々の事情によって適切に行われること」。3つめは「被害を受けたときから再び平穏な生活が営むことができるようになるまで途切れることなく行われること」。4つめは「国民は犯罪被害者等の名誉、または生活の平穏を害することのないよう十分に配慮するとともに、国および地方公共団体が実施する犯罪被害者等のための施策に協力するよう国民の総意を形成しながら展開されること」。となっております。

 後ほど犯罪被害者が受ける二次的な被害について詳しく触れますが、犯罪被害者は周囲の人たちから心ない言葉をかけられたりして、それがまた新たな心の傷となって残るということが大変多いことから、4つめの文言も盛り込まれています。

 また5つの重点課題として、1つは損害回復、経済支援への取り組み、2つめは精神的、身体的被害の回復、二次被害や再被害の防止への取り組み、3つめが刑事手続きへの関与拡充への取り組み、4つめが支援のための体制整備への取り組み、そして5つめが国民の理解の増進と配慮、協力の確保への取り組みという方針が出されました。

 これらの課題を受け各省庁では、新たな施策の制度設計が行われ、新聞等のメディア報道でご存じかと思いますが、法務省管轄では被害者が検察官のそばに座って被告人に質問ができたり、あるいは求刑などもできるという改正刑事訴訟法が成立しました。損害賠償命令を出してもらえる制度も今年6月に成立しました。また今までは加害者の社会復帰や更生のために存在していた保護観察所においても、専任の被害者担当官または被害者担当保護司が担当する犯罪被害者のための新しい制度が来週12月1日から始まります。

 さらに先ほどのご挨拶の中でも触れられていた3つの検討会が置かれました。「経済的支援に関する検討会」「支援のための連携に関する検討会」「民間団体への援助に関する検討会」各々の結果が、最終取りまとめとして19年12月に決定され、内閣府においてさらに推進されることになるというように、急速に被害者支援策は進んできたと大変喜んでおります。

 皆さんは犯罪被害者と聞きますとどのようなイメージをお持ちになりますでしょうか。中でも遺族ですとか、重傷を負って植物状態にされてしまった被害者と聞きますと、「なんとなく自分たちとは違う、大変な目にあった特別な人」と思いがちなのではないでしょうか。そのために、そういう被害者がそばにいても、どう声をかければいいのか分からなくて、なんとなく遠巻きにしてしまうのではないでしょうか。

 被害者自身も、ある日突然、なんの前触れもなく、同じ社会に住む人から理不尽に一方的に命や健康な体を奪われるために、その衝撃は非常に大きく、受けた心の傷そのものが脳に深く刻まれてしまいますので、もうだれも信じられないというような心境に陥ってしまいます。そしてショックのあまり、ものを考える力も自分で何かを判断する力もなくなってしまい、何をどうすればいいのか全く分からなくなってしまいます。まるで出口のない真っ暗闇のトンネルの中をはいずり回るしかなくなってしまう状況になります。

 そのため、日々の生活はもちろんのこと、社会生活、職業生活、そのすべてに途方に暮れてしまい、自分の努力だけでは到底乗り越えることはできません。また時間がたてば元の状態に戻れるわけではなくて、心配をかけてはいけないと思ったり、あるいは表面上の哀れみの同情など受けたくないと考えて元気になった振りをするのが上手になります。つまり自分でなんとか自分の気持ちをコントロールするということが上手になるだけで、脳に深く刻まれた傷そのものが消えるわけではありません。人や社会への安全感、安心感もすっかり失ってしまうため、またいつ被害に遭うかもしれないという、強迫観念にも似た不安感を常に抱えているために、いつも緊張して疲れ果てています。

 そこでまた皆さんにちょっとお聞きしたいと思います。皆さん、今日こちらに来るとき、車で、あるいは電車を待っているとき、道を歩いているとき、「もしかしたら前から来る人間が自分にナイフを振りかざして襲ってくるかもしれない。だからあの人が通り過ぎるまでそーっと物陰に隠れていよう」と思ってドキドキしていたという経験をした方はいらっしゃいますか? 皆さんは今そこに座っていらっしゃいますが、「後ろの人からいきなり殴られるかもしれない」、「横の人から飛びかかられるかもしれない」、「だから今この被害者の話は聞いていられない」と、不安で不安でたまらないという方はいらっしゃいますか?

 被害に遭ったことのない方はあまりそういうことを感じないかもしれませんが、一度でも犯罪被害に遭った人はいつもこのようないわれない不安を抱えながら暮らしているので、それだけでも疲れ果てています。そのため被害にあったとしても、困ったことがあったとしても、自分から電話をしたり相談に出向くような気力も体力も何もかも失ってしまっているのが普通です。

 例えば司法関係者や医療関係者など専門家に対しても、専門家だからというだけでは、被害者は被害について詳しく話をしたり、その深い心の内を話すということはできません。ですからただ単に、例えば「民事裁判を起こしたいんですけれども」とか、「眠れないので薬をください」などと表面的なことから話を始めると思います。被害者が「相談できる。話せる」と思えるときは、「この人なら信頼できる。大丈夫。安心できる」と本能的に思えたときだけです。それは被害者になったあとの過酷な状況を生き延びるために、野生動物のように瞬間的に目の前にいる人が良い人かそうでない人かを判断し、二次被害を受けないように自分を守らないと自滅してしまうからです。

 また被害者自身も先ほどの言葉のように人を憎んではいけないという教育を受けているため、加害者に対する怒りなどをあからさまに言ってはいけないと思い込んでいます。

 これはある交通犯罪被害者ご遺族の方のことです。「加害者をどういう罪にしてほしいですか」と警察でも検察でも聞かれます。そのときにこのご遺族の方は「重罰にしてほしい」と言えませんでした。「なぜ言わなかったのですか」と聞きますと、「怒りをあからさまに言うと人間性を疑われると思って、本心は言えなかった」とおっしゃっていました。

 しかし2年ぐらいたって、ようやく「本当に自分の大切な子供はもう二度と帰ってこない」という実感が出てきたとき、なぜあのとき「重罰にしてほしい」と言えなかったのだろうかと後悔して、「子供の無念さに近づくことができなかった」と自分を責め続けました。その結果、原因不明で歩けなくなってしまいました。もちろん大きな病院へ入院しましたが、「子供の無念さに応えることができなかった自分なんか、もうどうなったっていい」という思いと、事件に関することを聞かれるだけで事件がよみがえりフラッシュバックしてしまうという状況にありましたので、結局必要な検査も拒否をして入院をした数カ月後に、亡くなった子供さんの後を追うようにそのまま亡くなってしまいました。

 このように脳に深く刻まれた傷の影響は想像を超える大きいものがありますが、日本の社会ではまだまだ認識されていないのが現状です。

 その一方で人は、取り返しのつかないような大きなダメージを受けたとき、それを跳ね返すために「模範的でなければいけない」、「道徳的でなければいけない」、「理想的な人間でなければいけない」と考えて行動することで自分を保つという二面性があります。

 これはある殺人事件ご遺族の方の例です。憎いはずの加害者が通っていた作業所にお香典を寄付してしまいました。それを知った周囲の人たちはそのご遺族に、「あなたは偉いわね」、「立派ね」、「すごいわね」、と言ってくれました。「一番つらいとき周りの人からそう言ってもらえたことで、自分はなんとか自分を支えることができた」とおっしゃっていました。

 しかしやはり先ほどの方と同じように3年ぐらいたってから、ようやく悲しい気持ち、怒りの気持ちが出てきたとき、周りの人に「本当は犯人が憎い。悔しい。許せない。悲しいんだ」という気持ちを漏らすと、周りの人から「何言っているの。事件直後のあの大変なときにあれだけしっかりしていたのに、今ごろ何?」と、言われてしまいました。「自分は事件の日以来時間が止まってしまっているのに、周りは何一つ変わらずに日常が流れている」ということに気づかされてショックを受けて、周囲から孤立して日常生活もできなくなってしまいました。

 また皆様のお手元にレジュメを配らせていただいておりますが、犯罪被害者が事件を受けたあと、さらに傷つくことという表がありますのでご覧ください。受けた被害そのものを「一次被害」と言います。一次被害を受けたあと、関係者や周りの人たちからの心ない言動によってさらに傷つけられることを「二次被害」といいます。事件から時間の経過別に時計回り順に載せましたので、その一部をご紹介させていただきます。

 まず日本の刑事司法そのものが被害者に二次被害を与えます。犯罪被害者は特有の精神状態にあり、事件直後は呆然自失状態になっています。何を聞かれてもしっかり答えられないので、あとで「あの時しっかりと話をすることができなかった」と後悔しがちになってしまいます。それと同時に例えば事件がよみがえったり、事件のことを聞かれたり触れられたりするだけで、また体がガタガタ震えてきてしまう。できればそのことは話もしたくないというような「回避症状」。あるいは周りの人が良かれと思って一言かけた言葉に過剰に反応してしまって、「あなたに何が分かるのよ」と思い、そう思ってはいけないと自分を抑えようとしても感情を自分でもコントロールできなくなってしまうような「過覚醒」。そういった状態のときに刑事司法に関わって話を聞かれるわけです。ですから事件について聞かれるということ自体が二次被害になるということを関係者は十分に理解をして、話を聞かなければいけないわけです。

 メディアスクラムと言われるメディアの過剰な取材のことは皆様もご存じのことと思います。事件直後はメディアが押しかけて買い物にも行けない、外に出ることもできなくなってしまうことがよくあります。メディアが一斉に引き上げたあと、被害者自身が隣近所の人たちに「お騒がせしてすみませんでした」と謝って回らなければいけないような状況、あるいは捨てられたタバコの吸い殻を泣きながら拾って掃除をして歩いたという被害者の言葉を聞いたことがある方はどれだけいらっしゃいますでしょうか。長きにわたる被害者の困難な状況を、継続的に取材をするメディアの人はとても少ないということも日ごろ感じております。

 また友人、知人の言動ですとか、隣近所の人たちの心ないうわさや中傷、あるいは配慮に欠ける職場の人たちの対応。元気に見せていると被害者は100%の人たちが、「あなたは強いわね。私だったら気が狂っているわ。生きてなんかいられない。」などと言われてしまいます。そう言われたとき、被害者はどういう顔をすればいいのでしょうか。

 また反対に元気がないと、「まだ元気になれないの。駄目じゃない」と軽く言われてしまいます。外で被害に遭えば「どうしてそんなところを歩いていたの」と言われます。家の中で被害に遭えば「なぜそんな時間に家の中に居たの」と言われてしまいます。何を言われるかと思うと怖くて近所で買い物もできなくなります。そのために被害者のほとんどはめがねをかけて、帽子をかぶって変装をして、だれも来ない遠くのスーパーまで行って買い物をしなければなりません。

 「何も悪いことをしていないのに、どうしてこんなコソコソとしなければいけないのか。自分でも分からないけれど、でも突然心ない言葉をかけられて自分が壊れてしまうと思うと、そうして人目を避けているしかなくなってしまうのです」、そんなふうに言います。どちらにしても被害者は世間から「特別な人」というレッテルと張られがちです。哀れみの視線は全身に突き刺さって、お友達もだれもなくしてしまったという被害者もたくさんいます。

 そのほか、家族間の不和、虐待や養育放棄、生活の困窮、あるいは経済的にも大変困るということがレジュメに書いてあります。一般には何か不幸なことが起こると家族そろって力を合わせて乗り越えると思われているようですが、極限状態に追い込まれてしまう被害者の家族は違います。極度の悲しみの中では自分を支えるだけで精一杯で、同じ家族であっても他の家族のことを思いやる気持ちを持つということができなくなります。反対にお互いに責め合うだけになってしまいます。

 また残された遺族は自責の念がとても強いので、普通に暮らすというだけでも罪悪だと思ってしまうために、犯罪の被害に遭うとまず家庭から崩壊を始めてしまいます。離婚に追い込まれてしまうということもよくあることです。小さな子供のオムツを替えたり、ご飯も食べさせたりすることができなくなります。思春期の子供であれば感情をコントロールできなくなってしまった親の怒りをもろに受けてしまいます。被害者の家族の中では養育放棄や心理的虐待が日常的に行われていますが、このような子供たちにどういう影響があるのか、どういう支えが必要なのかの調査や研究はされておらず、また支えるための専門的なチームなどは日本の中には全くありません。

 そして子供たちは、もし犠牲となったのが親であったり、自分より年上の兄弟であったりした場合には、「自分もあの年齢までしか生きることができない」、「自分も殺されるかもしれない」、「いつ被害に遭うかもしれない」という恐怖が染みついてしまって離れませんので、将来への夢や希望など考えることができなくなっています。

 被害に遭うと、生活にもとても困ります。これは平成18年度の予算です。唯一犯罪被害者へ直接渡される犯罪被害者給付金は11億1000万円です。それに比べて、刑務所内で加害者にかけられる衣・食・医療費は515億8000万円です。国選弁護人費用だけでも77億6000万円です。刑務所に入れば作業賞与金がもらえます。それは20億8000万円です。加害者の社会復帰、更生保護に使われる更生保護費は80億です。あまりにも被害者にかけられるお金と加害者にかけられるお金に差がありすぎるのではないでしょうか。

 これは被害者支援都民センターで支援を行った子供さんが言っていた言葉です。親を殺されたこの子供さんはこう言っています。

 「加害者は捕まったので雨露しのげてご飯も食べさせてもらえる。病気になれば税金で治してもらえる。刑務所に入れば賃金ももらえる。そんなことで本当に反省できるのだろうか。自分はアパートに住んでいたのでそこは出されてしまって住むところもなく、今は友達の家においてもらっている。これから児童相談所に行ってどこかの施設に送られる。不安で不安でこれから先どうやって生きていけばよいのか、考えることもできない」。

 子供がこのように言っています。送られた施設でも18歳までしかいられません。その先たった1人でどうやって生きていくのでしょうか。こういう子供を支えるシステムも、まだ日本の社会の中では出来上がってはおりません。

 加害者は捕まれば弁護士さんがつきますが、被害者にはまだだれもつきません。もちろんいばらき被害者支援センターは被害直後から被害者の方の情報を得て付き添い支援などを行える体制ができてはおりますけれども、そのような体制ができているセンターがある都道府県は、日本の中でもまだ十数カ所しかありません。その中で被害者は適切な支援を受けることもできず、混乱状況に放置されているというのが現状でもあるわけです。

 このような状況に置かれております被害者の生の姿を、今日は皆さんにぜひ聞いて見ていただきたいと思います。今から流しますビデオは月1回被害者支援都民センターで行っている、犯罪被害者遺族の方たちの自助グループのある日の1日です。プライバシー保護のためにも記録、ビデオ、録音等はしないでください。それではビデオをお願いいたします。

 (ビデオ上映)

 (ビデオ終了)

 (大久保) 今見ていただきましたビデオが被害者の人たちの本当の姿でもありますけれども、そういう姿を人に見せてはいけないと思って、精一杯頑張って1日1日を暮らしているのが被害者の姿でもあるわけです。ですからこの「犯罪被害者等基本法」は本当に心から被害者の人たちが待ち望んでいたものなのです。

 皆さんのお手元の資料の中に?被害者支援都民センター発行の『もう一度会いたい』という小さな手記集が入っております。これは今ビデオに出てくださいました被害者ご遺族の皆さんが年に1回出している手記集ですので、お読みになってください。

 さきほど見ていただいておりました二次被害の表の裏に、被害者の人たちは、どういう対応を受けることができれば回復をしていくのかという一覧表を付けました。太字の部分は先ほどの二次被害の場合とほとんど同じものが並んでいます。被害者に二次被害を与えるのも「人」です。けれども、被害者は温かい血の通った「人」から支えてもらえたという思いをすることが、回復にとって一番大きく役に立つということがその表からお分かりいただけるかと思います。

 それとは別に実際に支援を行っておりまして、どういう支援が被害者にとって必要なのかということに少し触れてみたいと思います。まず1つは例えば自宅訪問や、警察、検察、裁判所などへ行くときの付き添いなどを行う直接的な支援といわれるものです。被害直後はぼうぜん自失状態で、被害者自身が自分に何が必要なのかも分かりませんので、支援をする側が積極的に介入をし、例えば司法関係機関ですとか、自治体、福祉事務所、病院などと連携をして必要な支援を提供するということが大切なことです。警察や検察で事情聴取を受けても質問の意味も分からないために、「どう答えればいいのか分からず不安だ」という被害者が圧倒的です。そのために付き添い支援を被害者の人たちは希望しています。

 2つめは情報提供です。特に加害者がどう裁かれるのか。被害者である自分は何ができるのかなど司法に関する情報を必死で求めています。もしその情報提供が遅れてしまったり、例えば意見陳述制度などについて理解できなかったが故に「やりません」ということで行わなかった場合など、あとで「なぜせっかくある制度を使わなかったのだろう」と後悔をして、被害者が自責の念を強めてしまうということもありますので、安心をして制度を使えるような情報提供が必要です。特に来年の12 月頃からは、被害者が刑事手続に参加をする制度もできます。けれども被害者は、裁判所に行くということだけでも不安で不安でたまらないわけです。被害者に接する人たちは、被害者が不安なく、今ある制度を自分で選んで使えるようにサポートをするということが一番大切なことなのだと思っております。

 3つめは精神的な支援です。精神的支援と聞きますとつらい気持ちに共感をして寄り添うことが支援と考える人も多いようですけれども、被害者支援にとってはそれは基本的なことであって、それだけでは全く足りません。被害を受けたあと起きてくるさまざまな精神的な症状は、犯罪被害に遭うことによって起きてきた当然な症状であるということを具体的に伝える必要があります。被害者自身が失ってしまった安全感や安心感を取り戻して、自尊心も回復して、歪んでしまったものの考え方を被害者自身で修正できるようにします。そして、新たな生き方が考えられるように回復をすることを支える精神的な支援でなければなりません。

 4つめは、被害者同士が助け合う自助グループです。仲間がいるということで孤立感から抜け出すことができますし、また一言で分かり合える安心感は被害からの回復に大きく役立ちます。ほかの被害者の話を聞いて希望が持てるようになれる場でもあります。

 被害者支援の原則は、被害者自身の主体性を尊重することです。その人が本来持っている自己回復力をそがないように、本人の意思を尊重しながら被害者自身ができることは自分で行うということを積み重ねていくことが、破壊されてしまった自分に対する自信をもう一度取り戻し、新たに生きていく目的を持てるように回復することにつながっていきます。

 またその方の回復度を確認しながら、被害者自身が「役に立つ存在である」、「この世に生きていて価値があるのだ」ということを実感してもらえるための場を支援センターとして被害者の人に提供する。こういうことも支援の一環としてとても大切なことです。

 被害者になって失った自尊心を取り戻すことができれば、被害者自身が「このような被害にはあったけれども、それでも自分を心配してくれている人たちがいる。この日本の社会は希望を持って生きていくことができるのだ」と思えて、もう一度誇りを持って自分の足で堂々と生きていくことができるようになります。

 被害者支援都民センターでも、このいばらき被害者支援センターと同じように被害直後からの被害者の方たちへの支援を行っております。それではどうぞ、そのビデオをご覧になってください。ビデオをお願いいたします。

 (ビデオ上映)

 (ビデオ終了)

 (大久保) 犯罪被害者が受けた衝撃は、脳に深く刻まれて一生消えるということはありません。それでも今のビデオの方のように、被害を受けたあと適切な支援を受けることができ、その被害者の周囲に温かい人間関係があれば、もう一度希望を持って生きていくことができるように回復をしていきます。そして同じような犯罪に苦しむ人を出さないために自分の被害体験をこの社会に生かして、良い社会づくりに役立てたいと思えるようになります。そしてまたそのような被害者の声を受け止めて、変われる社会というのはだれにとっても安心して暮らせる、安全な社会でもあると考えています。

 欧米先進国では、「犯罪被害者支援の充実度は、その国の文化のレベルと社会の成熟度を示す」と言われています。日本の社会も、だれでもいつでもどこに住んでいても、被害直後から途切れることのない支援を被害者が望むところで受けられるような社会にして、私たちの子供や孫が安心して暮らせる社会を築いていくということが、被害者支援の考え方の基本的なことでもあります。

 例えばこの茨城におきましても、地元の行政機関にはすでに被害者が必要としているさまざまな制度や施策はすべて整っているはずです。ですから良い連携の下、被害者にそれを提供することができれば、犯罪被害者の人たちは健康的に回復をしていくことができるわけです。そのような希望を持てる社会づくりのため、自治体として、関係機関として、そして地域に住む人として、この被害者支援を広めるために是非ご尽力をお願いしたいと思います。この大会が行われましたことを1つのきっかけといたしまして、さらに茨城の地で被害者支援が広まっていくことを願い、私のお話は終わらせていただきたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。

犯罪被害者遺族の声

(社)いばらき被害者支援センター照山美知子事務局長が犯罪被害者遺族小瀧寛治氏にインタビュー形式で話を伺いました。

(照山)

 いばらき被害者支援センターの照山です。よろしくお願いいたします。今の大久保さんのビデオで、いろいろ被害者の置かれている状況とかはご理解いただけたのではないかと思いますが、今日は大切な娘さんを強盗殺人の被害によって失われてしまった小瀧寛治さんにおいでいただきました。いろいろとおつらいことをお伺いすることになるのですけれども、小瀧さんは多分こんな大勢での前でのお話は初めてですよね。私がインタビュー形式でお話をさせていただいて、いろいろお聞きしていきます。おつらい体験をお話いただくのは本当に大変だと思うのですけれども、小瀧さんは被害に遭われた方のために、なんとか支援のためにお役に立つのであればということで、今日ここにご登壇してくださったわけです。本当に今日はありがとうございます。

 私のほうで進めさせていただきますが、まずどういう事件かということを私が概略をお話ししたいと思います。茨城にお住まいでしたらご存じの方がとても多いとは思うのですけれども、今から4年4カ月ほど前の平成15年7月です。小瀧さんの娘さんである寛子さんが当時那珂町、現在は那珂市ですけれども、那珂町のアパートの家に帰ったところ潜んでいた男に強盗殺人という被害に遭い、37歳という若い生涯を終えられることになってしまったという被害なのですね。

 その男は室内に潜んでいて、帰ってきた寛子さんは背後から襲われ、そして殺害されるという大変な被害に遭われたわけです。その男は10日前にも別の一人暮らしの女性宅に侵入し、包丁で顔面を刺して瀕死の重傷を負わせていたということでした。その男は1年3カ月ほどして逮捕されましたけれども、結局狙いやすい女性の家を狙って忍び込んで、お金欲しさに殺害に及んだり傷害を負わせたりということだったわけですね。

そんな被害から4年4カ月という時間がたちましたけれども、小瀧さん、お父様から見て寛子さんはどのようなお嬢さんだったのでしょうね。


(小瀧)

 寛子は3人兄弟の一番上の長女として生まれました。幼いころからよく弟妹の面倒を見ておりまして、私が「3人兄弟が仲良く暮らすのは1つの物を3つに分けることから始まる」と言っていたので、常に私の手土産のようかん、リンゴ、ナシ、ミカン等1つの物を3つに分けて、3人で仲良く食べていたのであります。私が帰宅するときは、長女は「お父ちゃんが帰ってきた。迎えに行こう」と玄関まで駆けだしてきて「お帰り」と言い、私は「ただいま。よくお留守番したか」と一人ひとりを抱き上げて声をかけていたのであります。

 寛子が小学校に上がる前、動脈管開存症という病気があったということが初めて分かりまして、それで即刻入院、手術という運びとなりました。「もしや」という不安もありましたが、無事に手術も終え、輸血もなく、その後は風邪ひとつ引かず元気に育ってくれました。そして小学、中学、高校、大学と常に家族の中心であり、私たちの宝物として非常にかわいがっていたのでありますが、残念なことでした。

 そして10年勤めた会社を辞めて新しい人生を踏み出すということだったもので、最初は反対したのですが、それも人生の1つの試練と思って、将来は私たちと一緒に暮らすという約束で許しました。そして寛子が職場のテニス大会の栃木大会に出ることを唯一の楽しみにしておりましたが、その明日行くという前日に誠に残念なる事件が起きてしまったわけです。


(照山)

 寛子さんはそれまでご家族と住んでいらしたのに転職をして、アパートに1人で暮らしたいと、そういうことで那珂町のアパートに行かれたわけですね。そういう中で事件が起きたということですか。


(小瀧)

 事件が起きる10日前、私の家から自分の家に帰る寛子に妻が「必ず戸締まりと防犯だけは気を付けろよ」と言いました。そして見送ったのです。私も「今度の休みには必ず来るように」と言って送ったのですが、それが不幸な目に遭ったわけなのでございます。


(照山)

 気を付けるようにお母様も心配して注意していた矢先でのことだったわけですよね。職場のテニス大会があるというその日に、「連絡が取れなくなった」という連絡が入ったわけですよね。そのときは本当に不安でいっぱいだったでしょうね。


(小瀧)

 そうですね。7月18日朝、いつもの通り普段のまま私は起きたのですが、妻が用意した作業服を着ずに、娘が父の日に買ってくれたズボンをわざわざ押し入れから出して、それをはいて仕事に行ったのです。そして夕方5時ころ帰ってきましたら、こういう状態だということで、誠に残念極まりなく…。

 ただそれまでには私もシルバーセンターで植木班という仕事に携わっておりました。現在も携わっておりますけれども、その時「もしや」と思ったのです。弟の車で現場のアパートまで向かいましたが、その中で「もしかしたら事件に巻き込まれたんじゃないか」と、そういう気がしてならなかったのです。


(照山)

 寛子さんは連絡もなしに、全然電話も何も連絡が取れないということはそれまでに一度もなかったわけですよね。


(小瀧)

 「どこへ行く」、「出かける」、「帰ってきた」ということは必ず電話で連絡があった。それが今回に限り、1日たっても2日たってもない。これは完全な事件だと私はそういうふうに思いまして、早速那珂署に駆け込みまして、事情を説明し、捜索願いを出しました。


(照山)

 それでそのアパートにも行ってみられたわけですよね。


(小瀧)

 はい。アパートにも仕事の上司の方、あるいは友達の方が来ておりまして、いろいろ心配してくれましたが、アパートは鍵がかかっているし、ただ車がない。どうしても変だと、ますますその不安は募ったのですが、いかんせん、もう夜の9時も過ぎたころになるものですから、「いったんは帰りましょう」ということで皆さんと別れて自宅に戻ってきました。


(照山)

 確かそのとき、お部屋の中には入れなかったのですね。お部屋に入ったのは、そのあとですか。


(小瀧)

 それで翌々日、20日ですか、居ても立ってもいられなくて午後からアパートに向かい、鍵屋さんを呼んでドアを開けてもらい、そして中に入ったのです。そのときに警察の方にも連絡し、また仲間の人にも一緒に入ってもらった。ただこれはもう事件だとったので、みんなに物に触れないでくれと言って部屋をグルッと見て回ったのです。

 たまたま部屋の押し入れの前に立ったとき、押し入れが開いていて、「なんとなく布団が多い。普通にしては布団が多いから変だな。もしかして買ったのかな」と、そのときは思いました。

 ところがその日に旧友の大学の友達の方が車を探していて、そこから電話が入りまして、「車があった」と。今度はみんなその方へ駆けつけたわけです。車を各自見ましたけれどもロックされておって中を見ることができず、やむを得ずアパートに帰ってきましたときに、今度は妻が「寛子がいた」ということでした。


(照山)

 みんなは「車が見つかったよ」ということでそちらへ行って、お母様がお一人部屋に残っていて、そこで寛子さんを見つけられたということでしたか。


(小瀧)

 はい。


(照山)

 お母様は驚かれたことでしょうね。


(小瀧)

 ええ。半狂乱というか。姿を見たときにはこれが娘の姿かと、一瞬疑うほどの変形でした。それでパトカー、それから那珂署から刑事さんたちが来て、いよいよ捜査の段階のとき私たちは表に出され、そこで足止めされまして、夜8時ごろより調書等を取りまして、翌朝の4時ごろ私ら夫婦はうちに帰ってきたわけです。ちょっときつい時間だったのですが、女房などは足が青くなるほどむくんでました。


(照山)

 そういう長時間にわたって事情を聞かれるということがあったわけですね。そのあと司法解剖とかが。


(小瀧)

 司法解剖、それから火葬。傷みがひどかったものですから1日もうちには置けないということで、翌朝早く火葬にしました。そしてそのとき、葬儀の前日ですか、初めて寛子の夢を見まして、「お父ちゃん、苦しい。苦しい。助けてくれ」という夢を見たんです。それがあとにも先にも一回きりでした。


(照山)

 葬儀の前日に「助けてほしいよ」という声が聞こえたのですね。そういった突然の出来事の中で、家族は本当に混乱の中にいるわけですけれども、そういったご遺族に対して心ない人たちもいたようですね。


(小瀧)

 そうですね。突然の、なんて言いますか、最悪の出来事。まず一番先に債権取り立てのメールがむやみに入っていました。そのあとがイタズラ電話ですか。そして最後にイタズラの手紙。「誰々が関係している」、「誰々が犯人だ」とかと書いたのが3通ぐらい来ました。「心ないイタズラだな」と私は思いました。誠に心外に思っていました。


(照山)

 なんか、遠い九州からもイタズラ電話が来たりとかあったようですよね。いわゆるさっきの大久保さんのお話の中にもありましたように、いろいろな二次被害がある中の、これも二次被害だと思うのです。マスコミの取材などはどうでしたか。


(小瀧)

 事件を発見した翌日ですか。21日ですか。1人の記者が朝早く飛び込んできまして「感想を聞かしてください」と。こちらはまだ何も考えてないうちに、ちょうど長男がおりましたので一喝して追い返しました。それからは庭先に「マスコミ、報道関係の方はご遠慮ください」という立て札を出したものですから、しばらくの間、遠のいていただきました。


(照山)

 ただ信じられないような人もいたようですね。


(小瀧)

 そうですね。火葬のときですか、カメラを持って私たちのお手伝いのふりをして写真を撮っていた女の人がおりましたが、「誠にもって不埒なやつだな」と私は思いました。


(照山)

 ご家族が一番混乱の中にいる大変なときに、お手伝いさんのふりをして入り込んできて写真を撮ったということですよね。

そのようないろいろなことがあって、そのあと犯人は事件から1年3カ月後の平成16年に東京で逮捕されました。その間のご遺族は本当に…。私も支援の中で未解決事件をいくつか担当しておりますけれども、本当に犯人が見つからないという思いは想像を絶するものがありまして、小瀧さんもその1年3カ月も犯人が見つからないときは本当に大変な思いをなさって、懸賞金をかけたチラシ配りもなさいましたよね。


(小瀧)

 捜査本部から犯人が寛子の預金から166万円をキャッシュカードで下げたと知らされました。それで私も葬式が終わってからいろいろ考え、やはり鉄は熱いうちに打ての例えの通り、これは事件が風化されない、忘れられないうちにビラ配りをし、あるいは懸賞金を出して犯人を捕まえてもらったほうが早道と考えまして、捜査本部へお伺いを立てたわけでございます。


(照山)

 茨城の方だったら、そのころテレビでATMでお金を下ろしている犯人の映像が何回か流れたりしまして、目にしたかと思いますけれども、懸賞金をかけた情報提供というのは茨城県では初めてのようでしたね。


(小瀧)

 はい。初めてです。ですから犯人の早期検挙を願いながら、マスコミの方々の報道のお手伝いを受けたほうがこれからは良いんじゃないかと私は判断しまして、今まではなるたけ会わないようにしていましたが、これから会っていろいろ協力を求めたいと考えたわけです。


(照山)

 そして懸賞金を出すことを検討したわけですね。


(小瀧)

 懸賞金を信用ある知人の方にいろいろ相談いたしまして、その方がこういう問題に明るかったものですから、いろいろと参考資料を取り寄せいただきまして、その上捜査本部へ伺い、並びに遺族会を立ち上げましてチラシを配る方向になったわけでございます。


(照山)

 確か100万円という。


(小瀧)

 100万円ですね。


(照山)

 今遺族会ということがありましたけれども、こういった懸賞金をかける、情報を呼びかけるためにはやはり遺族会を立ち上げることが必要だということですか。


(小瀧)

 やはりそういうことをしないと、法律になんかちょっと抵触するようなお話があったものですから。


(照山)

 なるほどね。チラシ配りも随分、何回もされたようですね。


(小瀧)

 そうですね。延べ9回、10カ所やりました。10カ所というのは、第2回目が60何名かのお手伝いをいただきましたので、2カ所に分けて行いました。1回目の水戸駅でチラシを配ったときも、那珂町の防犯協会の方、それから寛子の学友、職場の方、私たちの親族と約60名いましたが、このときはだいぶチラシは出たんですが、駅のわりには反応が少なかったんですよね。配っているうちにいろいろ考えてみると、「私は通りすがりの人」、「用事があって水戸に寄っただけ」という人が多くて、反応がほとんどない。

 それで、これはやはり地域に密着したスーパーとかホームセンターとか、そういうところがいいと考えまして、2回目以降は全部そういうところを回ってチラシ配りをした。それで2回目ですか、やはり娘が住んでいたところのそばで配ったときには早速情報が入ってきたわけですね。ですからやはり地域に密着したところが一番ということで、ほとんどそういうところをグルッと、水戸市内あたりを回りました。


(照山)

 本当にその間も大変なご苦労だったと思います。その後犯人が逮捕されて起訴され、刑事裁判が近々ありますよというころ、私共いばらき被害者支援センターにつながってご依頼が来たわけです。

 私共はどんなことから支援に入ったらいいのかという状況で、まず小瀧さんと私で面接をしたのですよね。そのときに印象的だったのは、はじめてお会いして「できる限りの支援をさせていただきますよ」ということでお話をしたのですけれども、小瀧さんが犯人が逮捕されたことによっての動揺が来て7キロぐらいやせてしまわれ、そして事件のショックから左の耳が聞こえなくなってしまったこと。そういったお話を伺って、私としては胸が詰まる思いをしたのを覚えております。

 その後、刑事裁判が始まりましてご家族で傍聴されたのですよね。私共も付き添いをさせていただいたり、傍聴席を確保したり、それからマスコミの対応をしたりといろいろなご要望に応じた支援をさせていただきましたけれども、刑事裁判の間というのはどんな思いをされていましたか。


(小瀧)

 犯人はパチンコで借金を重ね、その借金の穴埋めのために娘の金を狙った。私の娘を狙う前に千波のやはり女の人のアパートのところを狙った。けれどもそれは騒がれて顔を傷つけただけで未遂に終わった。その10日後にうちの娘が被害に遭ったということですね。被告人の質問などを聞いてますと、肝心なところは「分からない」、「忘れた」、「覚えがない」。何ひとつ肝心なところの答えが出てこないのですよね。全く詭弁者だと私は思いました。

 裁判所もそのわりには深く突っ込んだ質問をしなかったようだし、ただ1回きり質問しただけと記憶しております。だから遺族としてはもう少し突っ込んだ質問をしていただき、これはおかしいんじゃないか、再質問があってもいいんじゃないかと感じました。


(照山)

 裁判の中で印象的だったのが、小瀧さんがご自分から要望して意見陳述をなさいましたよね。あのときは本当に父親としてき然とした態度で意見陳述をなさった。あの姿、そしてそのとき傍聴席から本当にすすり泣く声がたくさん聞こえてきまして、やはりそのときのことは私も本当に忘れられないのです。やはり意見陳述は父親としてしたいという思いで?


(小瀧)

 裁判の行程を見ていまして、「なんとしても自分で一言言わなければ」という思いで意見陳述をしました。被告人は要するに人間ではないと、犬畜生だと私は思い、卑劣な犯行を批判はしたのですが、いかんせん一方通行でございますので。


(照山)

 被告人に言いたいことが山ほどあったと。それは水戸地裁で一審でしたね。そのあと刑が確定していくことになるのですけれども、確か一審のときの求刑は死刑だったのですよね。求刑はね。でも判決がね。そのへんをちょっとお話をいただけますか。


(小瀧)

 検察側としての求刑は死刑なのですけれども、裁判の判決は無期懲役ということで、私たち夫婦はがっかりしたのですが、検察側が量刑不当ということで控訴していただきましたのでホッとしました。やはり東京に行っても同じ判決で、「もうこれで終わったのか」と力が抜けたような感じだったのです。


(照山)

 無期懲役ということで確定したということですよね。


(小瀧)

 はい。確定したということですね。


(照山)

 それは小瀧さんとしては納得のいかない思いだったのですね。


(小瀧)

 人を1人あやめれば、やはり身をもって償うのが人の道じゃないかと私は思うのです。自分だけ助かるというようなことをするならば人をあやめない。それが私は大事なことではないかと思います。


(照山)

 そうですね。犯人は寛子さんを殺害しただけではなく、ほかにもそういう未遂だとか余罪がたくさんありましたよね。そういった中で無期懲役ということで刑が確定してという経過になりましたけれども、事件から4年ちょっとが過ぎましたが、小瀧さんの今の思いとしてはどうですか。


(小瀧)

 先ほども大久保さんのお話があったように、ともすれば落ち込みがちな自分を一生懸命というか、事件をしっかり見つめて、私は私なりに頑張ってきたつもりです。ですから家族の者も私の背を見てここまで一緒についてきてくれたと深く感謝しております。また会社の上司や友達、大学の友達、並びに親族の方々の手厚い援助の下に10回ものビラ配りができたということは、ひとえに感謝のほかはないと思っております。

 今は休みのときなどに墓参りに行きますけれども、行っても「なあ寛子、おまえが帰ってくるわけではないな」と言って、話しかけて帰ってきます。ただやはり寂しい限りです。夜も今は仏間に寝起きしていまして、暗くても仏壇のほうを向いているような状況でございます。


(照山)

 今毎日のように殺人事件の報道とか、そういったものが流れていますけれども、そういうニュースとかを聞いたりして、小瀧さんとしては社会に対しての思いがあるのではないでしょうか。


(小瀧)

 そうですね。今は毎日殺人事件が報道されていて、本当に世の中から事件がなくなるような社会ができないのかといつも思うのです。それには私は家族の団らんというか、話し合いが一番大事ではないかと考えます。そして親が、大人が子供に向かってき然というか、しっかりした生活態度を見せなければ、子供さんもそれについていかないのではないかと私は考えます。

 また事件を未然に防ぐには、パトロール、防犯灯とか監視カメラとかいろいろあると思います。やはりそういうものも設置してもらったほうがいいのではないかと。事件当時、私も一時不安なときがありまして、うちの周りにパトカーが通っただけでホッとしたことが何度かあります。現在も朝暗いうちには散歩に出ないです。それがあってからというものは、なんとなく危険という感じがします。夜も出ない。外出したときは夜遅くなればタクシーで帰ってくると、そういうふうに決めています。夕方も日が暮れると雨戸を締めてしまう。そういう状態です。


(照山)

 そういう経験をしていない人には分からないだろうということ、ひとたびそういう被害に遭ったりすると、また何かあってはいけないという不安が起きてきてしまうことは、さっきの大久保さんのお話と合致する部分がたくさんありますね。

 小瀧さん、私は裁判のときもずっとそう思っていたのですけれども、小指に指輪をなさっていたのですよね。裁判のときもいつもなさっていた。今日もなさってますけれども、確かこの指輪は寛子さんのものでしたよね。


(小瀧)

 はい。これは寛子が殺害されたときにはめていた指輪なのです。いったんは遺骨と一緒にと思ったのですが、形見として残して私が親の墓参りとか、そういうときに「寛子、一緒に行こう」とこれをはめて行きます。そして遠い県外とかへ外出したときには、これをやはりはめて「寛子、一緒に行こう。見守ってくれよ」というふうにしています。そういうときにこれをはめております。


(照山)

 今日も寛子さんが見守ってくれているのでしょうね。きっとね。

 今日はこういうことでお話をしていただくのも大変おつらかったかなと思いますけれども、こういった突然の被害によって大切な家族を奪われてしまったという遺族の思いを、小瀧さんに語っていただきました。きっと今日お話をいただいたことは、ここに参加なさっている皆さんの心に響いたのではないでしょうか。私はそう願いたいです。本当に改めて寛子さんのご冥福をお祈りしたいと思います。


(小瀧)

 ありがとうございます。


(照山)

 そして小瀧さんもどうぞお体に気をつけて、これからも頑張っていただきたいと思うのですけれども、今日は本当にありがとうございました。


(小瀧)

 ありがとうございました。


(照山)

 皆さん、ご清聴ありがとうございました。

パネルディスカッション

「地域社会と被害者支援」
コーディネーター:
冨田 信穗(社団法人いばらき被害者支援センター理事長)
パネリスト:
幡谷 浩史(茨城トヨタ自動車(株)代表取締役会長)
渡邉 昭(茨城県弁護士会)
森田 ひろみ(社団法人いばらき被害者支援センター事務局次長)
本澤 直子(茨城県警察本部警務課犯罪被害者対策室心理カウンセラー)
岡崎 美智子(茨城県生活文化課安全なまちづくり推進室主査)

(冨田)

 こんにちは。それではただ今よりパネルディスカッション「地域社会と被害者支援」を始めたいと思います。私はただ今ご紹介いただきました社団法人いばらき被害者支援センターの理事長を仰せつかっております冨田でございます。

 最初に私からこのパネルディスカッションの趣旨について、ごく簡単に説明をさせていただきます。皆さんのお手元の資料の中にも「犯罪被害者等基本法」が入っているかと思いますけれども、皆さんご存じの通り、「犯罪被害者等基本法」はその3条におきまして基本理念を掲げております。

 その3条の2項は次のように規定しております。「犯罪被害者等のための施策は、犯罪被害の状況及び原因、犯罪被害者等が置かれている状況その他の事情に応じて適切に講じられるものとする」となっているのです。これの意味するところはいろいろあるのですが、1つには犯罪被害者に対する支援活動というものが地域社会の状況に応じたものであり、また地域社会に根ざしたものであることも求めていると考えることができると思います。

 また、「犯罪被害者等基本法」はこの基本理念を受けまして5条において次のように言っております。「地方公共団体は、基本理念にのっとり、犯罪被害者等の支援に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、および実施する責務を有する」と言っているのですが、これは言うまでもなく犯罪被害者支援において、地方公共団体の果たす役割の重要性を指摘するものであるわけです。

 また7条では、地方公共団体が国、法テラスですけれども日本司法支援センター、その他関係機関、民間の団体との連携と協力を行うことが求められているわけです。

 このような状況の中で、このパネルディスカッションにおきましては、私たちが住んでいるこの茨城県という地域社会の中で、犯罪被害者支援についてさまざまなお立場から議論をしていただくということであります。具体的には茨城県における犯罪や犯罪被害はどのような状況にあるのかとか、犯罪被害者の方々にどのような支援が現在なされているのか、そしてこれからどのような支援がなされるべきかということにつきまして議論していただきたいと思っております。このような議論の中で茨城県における犯罪被害者支援を発展させるためのヒントと申しましょうか、方向付けというものを得たいと思っております。

 前置きが長くなりましたが、早速パネリストの皆さんからご報告をいただきたいと思います。まず本澤直子さんからお願いしたいと思います。本澤さんは茨城県警察本部警務課犯罪被害者対策室のカウンセラーをなさっています。本澤さんのご経歴等につきましてはお手元の資料に書いてございますので、そちらをご覧いただきたいと思います。それでは本澤さんよろしくお願いいたします。


(本澤)

 ただ今ご紹介いただきました本澤と申します。よろしくお願いします。私は皆様にお配りしてありますプロフィールにもあります通り、現職に就きましたのが昨年の4月からで、まだまだ駆け出しの身でして、そのような私がこのような場で発言させていただくことを大変恐縮しております。私がカウンセリングという場を通して、被害に遭われた方ですとかご家族の方とお話をする中で感じることをここで皆様にお伝えすることで、被害者の置かれた状況の理解に少しでも繋がればと思いましてお話しさせていただくこととなりました。よろしくお願いします。

 私からは警察による犯罪被害者支援ということで、主に3つのことをお話ししたいと思います。まず初めに茨城県内の犯罪情勢ということ、2番目には警察による被害者支援の具体的な施策について簡単にご紹介します。最後に私が携わっておりますカウンセリングの活動状況についてご紹介する中で、被害者の方のお声等についてお話ししたいと思います。

 まず初めに茨城県内の犯罪情勢ですが、この棒グラフになっているところが犯罪、刑法犯の認知件数となっています。平成8年から昨年平成18年までの統計です。認知件数というのはちょっと聞き慣れない言葉の方もいらっしゃるかもしれませんが、犯罪が発生して、そこで被害に遭われた方が警察に届け出をして、警察が犯罪として認知をした件数になっております。その認知件数はこの平成14年の6万7672件が一番多い年だったのですが、そこから4年連続下がっておりまして、昨年平成18年は4万7183件になっております。

 続きまして、凶悪事件(性犯罪、放火、強盗、殺人)に限った認知件数の状況について取り出してみました。こちらもなだらかに下がっているのが分かると思います。例えば強盗ですと平成16年の207件がピークです。それが昨年平成18年は127件ということで、こちらも減少傾向にあります。

 続きまして、今度は地域別の事件の発生状況ですけれども、これは強盗の地域別の発生状況になっております。一番上のクリーム色が路上強盗。続いて金融機関の強盗。そして青色がコンビニ強盗です。この青色のコンビニ強盗は県央や県南地区での発生が目立っております。クリーム色の部分、こちらの路上強盗ですと県南地区の発生が目立っております。平成19年1月~9月の統計となっております。

 続きまして性犯罪の地域別の認知状況です。これも平成19年1月~9月末現在なのですが、性犯罪、つまり強姦ですとか、強制わいせつの事件なのですが、こちらは県南が60件、県央が35件で、この地区の認知が多くなっております。

 続きまして、交通事故の統計ですけれども、人身交通事故の発生件数と交通事故の死者数です。この棒グラフが人身交通事故の発生の件数になっておりまして、この丸でプロットしてあるところが年間の死者数になっております。平成18年は239名の方が交通死亡事故で亡くなっております。本年に関しましては、平成19年1月~10 月末までで、147名の方が交通事故で亡くなっています。これは昨年の同時期と比べますと、昨年は1月~10月末までが190名でしたので43名の減少になっております。

 ここ数年の傾向ですと、刑法犯の認知件数とか交通事故の死者数は減少傾向にあります。ただ体感治安というものがありますが、本当に皆様が「安全だ」、「安心だ」と思えるというところに関して、体感治安の改善がこれからの課題だと思っております。

 続きまして大きなテーマの2番目です。警察による被害者支援のために具体的な施策についてご紹介したいと思います。皆さんが、もし犯罪の被害に遭われましたら、おそらく最初にかかわる機関が警察だと思うのです。平成8年に「被害者対策要綱」という被害者対策に関する基本方針を取りまとめたものが制定されました。もちろんそれ以前からも被害者対策、被害者の方への支援は行っておりましたが、組織を挙げて、組織だってということで平成8年の「被害者対策要綱」以降さまざまな施策を実施しています。

 こちらに大きく5点について分けてありますが、その中で今日は簡単に2つほどご紹介したいと思います。被害者の方への情報提供ということで、この「(1)被害者の手引」と「(4)指定被害者支援要員制度」というこの2つの制度についてお話をしたいと思います。

 被害に遭われた方にこのような冊子を警察でお配りしています。これは「被害者の手引」といわれる冊子です。どのようなことが書いてあるかと申しますと、刑事手続きの流れ、どういうふうに捜査が進んで、どういうふうに裁判があってとか、その辺の流れですとか、あとは相談窓口の一覧が載っていたりですとか、被害に遭われた方が役立つ情報が一冊の冊子にまとめられています。

 突然被害に遭いまして、被害に遭うこと自体とても大変なのですけれども、「何をしたらいいかということが分からない」という早期の段階で、1冊にまとまった情報としてこの「被害者の手引」をお渡しします。被害者の方やご家族の方から、「ああ、あのときこの情報があれば利用できたのに」、「ああ、こういう機関があったのね。もっと早く知りたかった」というお声を聞きますので、そういったことを解消するために、早期の段階にこういった「手引」というまとまった情報をお渡しして、被害者の方やご家族の方への支援に当たるように努めています。

 もう1つ、「(4)指定被害者支援要員制度」。ちょっと言葉が長くて、どういうことかなとお思いの方もいるかと思うのです。例えば、殺人事件が起きましたというときに捜査員がバーっと駆けつけるイメージを皆さんはお持ちだと思うのですけれども、捜査員とはまた別に被害に遭われた方を支援する被害者の支援の係の者も同時に行くことになっております。この指定被害者支援要員という、「被害者の支援をする係」と指定された者が茨城県内の全警察署に配属されています。現在は全警察署に、326名の者が被害者等の方に当たる支援要員ということで指定されています。

 捜査に当たる者はもちろん犯人を追ったりするのですけれども、それと同時に被害に遭われた方に対しても配慮ある行動を心がけていますが、やはり捜査と被害者の支援を両方一緒にやりますと被害に遭われた方の支援がなかなか難しいので、被害に遭われた方に寄り添ってお話を伺う等の支援は、捜査とはまた別の者が担当します。

 例えば、お一人にならないようにそばに付き添ったりですとか、「何かお困りのことはないですか」とご要望をお聞きしたりですとか、被害の直後にご家族に付き添ったり、ご要望をお聞きして被害者支援を専門に担当する職員を配置して、被害者ですとかそのご家族の方のケアに努めるという制度がこの「指定被害者支援要員制度」です。そのほかにも、例えば経済的な支援として「犯罪被害給付制度」ですとか、被害者の安全を確保するためにパトロールを強化するとか、いろんな支援を行っているのですけれども、時間の都合もございますので、皆さんにお配りしてありますこちらの「警察による犯罪被害者支援」というパンフレットをご覧いただければと思います。

 続きまして茨城県警の心理カウンセラーのカウンセリング活動についてご紹介したいと思います。先ほどの被害者支援のための具体的な施策で、この(2)相談、カウンセリング体制の整備 があります。それに伴いまして茨城県警には心理カウンセラーが3名おります。3名とも臨床心理士という心理の専門の資格を持った者です。現在は2名が、私が所属しますこの犯罪被害者対策室におりまして、もう1名が少年課におります。この3名体制で被害者等へのカウンセリングを行っております。では私のおります犯罪被害者対策室のカウンセラーはどんなことをしているのかということですが、主に大きく3つあります。1つは電話相談。もう1つは面接相談。そして直接支援です。電話相談は性犯罪の被害に遭われた方の相談電話で、「勇気の電話」というものが被害者対策室の中にあります。どうしても性犯罪という犯罪の性質上、なかなか届け出しにくいという方も多いので、匿名でも構わないということでこの電話で受け付けております。

 この電話は、女性カウンセラーが対応しております。実際に匿名でかけてくる方が多くて、また被害直後の方もいらっしゃれば、数年たってからの方もいらっしゃり、いろんな方がいますが、ご家族にもやはり言えなかったりとか、ちょっとだれにも言えなくてということが多いですね。それと実際に警察に届けたときにどんな手続き、どんなふうになるのだろうと心配される方が多いので、「届け出をした場合にはこういうふうに警察で受けます」というお話をします。また必要があれば、届け出するときに1人で心配だということであれば、「私が一緒に付き添うことができますよ」ということで警察署への付き添いなども行っております。

 続きまして2番目の面接相談ですが、これがカウンセリングなのですけれども、被害に遭われた方やご家族、それからときには被害に遭われた方の上司ですとか職場の方なども対象に行っております。やはり皆さん、被害に遭ったということで動揺されていろんなことが心配になっておりますので、まずはじっくりとお話を伺っています。あとはご家族ですとか、上司ですとか、お友達、恋人といった方は、身近な人が被害にあったということでご自身もショックですし、被害者にどういうふうに接したらいいのかと周りの方もすごく悩んでいらっしゃることが多いので、そうした周りの方への相談にも応じています。

 3番目の直接支援ですが、これはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。直接支援というのは何かというとなかなか難しいのですが、電話とか面接相談とかそれ以外の支援、あらゆる支援のことを直接支援というのかなあと…。全般的な支援ですね。具体的に言いますと、例えば事情聴取をするときの付き添いとか、検察庁に行くときの付き添いとか、被害に遭われた方のニーズを踏まえて支援を展開しています。実際に性犯罪被害に遭われた女性の方などはどうしても動揺が強いということで、事情聴取に付き添ったりということもございます。

 こういった大きく3つに分けて活動しているのですけれども、その中で被害に遭われた方がどんなことを感じているかということをご紹介したいと思います。これから被害に遭われた方のいろんなお話をするのですが、それは特定の事件や特定の被害者のことではなくて、被害に遭われた方全般の話ということで、特定の方ではないということについてご了承いただければと思います。

 実際に被害者やご家族の声はどんな声があるかというと、よく聞かれることなのですけれども、「私はおかしくなってしまったのですか」という方が多いですね。「被害に遭ったショックで、どうしていいか分からない」というときに「私はどうなっていくのだろう」、「私のこんな状態はおかしいですよね」とか、また涙が止まらないという方は「私は弱いからこうなんでしょうか」とか、そういうことをおっしゃる方が多いです。

 そういうときには「おかしくなったわけではないのですよ。被害というすごく大変なことが起きたら、いろんなことがいつもと違い、ちょっと具合が悪くなったりとか、気持ちの落ち込みがひどいとか、そういうことは当たり前の自然な反応なんですよ」ということをお伝えするようにしています。

 あるいは「私があのとき○○しておけば」というように非常に後悔される方も多いですね。例えば「私があのとき駅まであの子を迎えに行っていれば」とか、「あの時に5分家を遅く出れば」とか、そういうことで非常に強い自責感に苦しむ方がいらっしゃるなという印象があります。

 そういったご自身でご自身の行動を責めたりとか、自分がいけなかったんじゃないのか等自責感に苦しみ、さらに被害に遭われた方は二次被害ということで、最初の大久保さんの講演の中にも出てきましたが、周りの方によっても傷つくということです。被害に遭われたこと自体すごく大変なのですが、被害のあとの出来事でだいぶ傷つくということがあったりします。

 例えば「頑張って」とか「しっかり」とか、悪気があるわけではなくて励ましの言葉をかけるのですけれども、「もう目いっぱい頑張ってなんとか立っているというときに、これ以上何を頑張ればいいのだろう」と思ったりします。あるいは交通事故に遭った方は「命が助かるだけよかったね。骨折くらいで済んで良かったね」ですとか、そのあと何週間か後に、「元気そうで安心した」とか。そんなに悪い言葉ではないような感じがしますよね。「元気で何より」ということです。でも、「被害に遭って『良かった』と言われるとちょっと」と思われる方もいらっしゃるし、本当は裏で泣いているのだけれども、みんなの前では取り繕って元気にしているという方もいるので、「元気そう」と言われたことで傷ついたりという方もいたりします。

 では被害に遭われた方に、どのように対応していったらいいのかということですが、先ほどの傷ついたという言葉も人によってはすごくうれしかったりもします。これからお話しする望ましい対応というのも、これがベストというわけではないのですけれども、お聞きしていると、「ああ、こういうふうなことをすると、被害に遭われた方は少しホッとするのかな」ということをご紹介したいと思います。

 まず被害による影響は人によって違うのだなということを理解した上で接することが必要なのかなと思います。例えば事件の被害に遭って、大事な方を亡くされて、もう涙が止まらないという方もいれば、本当にショックのあまり感情が麻痺した状態になって涙すら出ないという方もいて、涙の量の多さで悲しさを測ることはもちろんできない。そういうときに「あの人が泣いているからどうだ」、「泣いていないからどうだ」ということではなくて、「いろんな状態になるのだな」、「同じ被害を受けても、それが同じ家族の中でも出方は違うのだな」と思うだけで、接するときに偏見ではなくて、自分の「被害者ってこうなんじゃない」という思い込みではない部分で接することがいいのかなあと思います。

 あとは、被害に遭われた方のお話をゆっくりじっくり聞いたりですとか、泣いているところを「泣くんじゃないよ」とか、怒るところを「怒ってもしょうがないじゃない」という言葉ではなくて、まず被害に遭われた方のお言葉をゆっくり聞いたり、あとは「泣いてもいいんだよ」と、そういうふうに感情を出すことを妨げないことも必要なのかなと思います。

 その上で自分に何ができるのかを具体的に伝えることも大事なのかなと思います。例えば皆さんのお知り合いの方、友人でも親せきでも職場の方でも何か被害に遭ってお困りだっていう方がいたときに、「何かあったらお声をかけてください」とか、「何でも言ってね」とか、「できることならなんでもしますよ」みたいに親切なお気持ちから言葉をかける方がいらっしゃると思うのです。けれども、「何かあったら声をかけてね」と言われても、なかなか被害の直後のときに「何かあったら」ということで被害者から声をかけることは難しくて、そのへんは具体的に出来ることを伝えるということが大事なのかなと思います。

 例えば被害に遭われたおうちのお子さんが幼稚園生で、自分のお子さんも幼稚園でという ときに、「幼稚園の送り迎えぐらいだったら一緒にできるよ」とか、例えばおかずとか買いにいくついでに「これ買ってこれるけど」とか、そういうふうに自分が何ができるのかということを具体的に言う。「なんでも言ってね」よりは具体的なことが大事なのかなと思います。それも押しつけがましいのではなく、必ず被害者の方、ご家族の方に確認、同意をして、「こういうこともできますけど、どうですか」と、最終的な判断は被害者の方にお任せするという対応がいいのかなと感じております。

 私はカウンセラーとして接しているのですけれども、もちろんカウンセリングでお話を伺うだけではとてもとても解決できないことも多く、お話を伺えば伺うほどすごく色々支援が必要だなと感じるのですね。被害に遭われた方は精神的にもショックを受けていたり、体も調子悪くなることがあります。そうなると医療費もかかります。それから長期間お休みすることを許してくれる職場ばかりではなかったり、あるいは被害に遭ったことを知っている職場を辞めたいと思う方もいたり、色々な思いがあったりします。経済的にもとても厳しい状況になったりします。

 あるいは先ほど小瀧さんのお話にもありましたけれども、とても長い時間捜査等にご協力いただいたりします。その捜査に協力したり裁判に参加する、裁判の途中で裁判が終わらないでずっと事件とかかわること、そのこと自体が、そこで何か言われることももちろんショックですけれども、かかわることだけでもかなりつらい状態になったりします。あるいは周りの方やうわさ話とか報道によるストレスというものもあったりします。

 そう考えますと被害者の支援というものはその場だけではもちろん終わりませんし、警察ができる支援だけでも終わりませんし、ニーズは多岐にわたっていまして、長期間にわたる支援を警察だけで出来るものではないなということも感じております。

 茨城県は平成9年12月に茨城県被害者支援連絡協議会を設立しまして、現在は51の機関・団体が所属しています。この機関と連携していろいろ支援しているのですが、こういった機関との連携をより一層深めて、警察は支援の入口になっていると思うのですが、それが途切れることのないように、支援の輪が広がって、被害者の方に途切れることのない支援が届くように支援を展開していくことが今後の課題かなと思っております。以上です。


(冨田)

 本澤さん、どうもありがとうござました。茨城県における犯罪や犯罪被害の状況、それから警察による犯罪被害者の方々に対する支援活動の様子でありますとか、さらには被害者の方々に接するときの基本的態度と申しますか、そういうことを非常に分かりやすくお話しいただきました。どうもありがとうございます。

 それでは続きまして森田ひろみさんからご報告をお願いしたいと思います。森田さんは社団法人いばらき被害者支援センターの事務局次長ですけれども、実際に支援活動に当たっておられます。森田さんの経歴等につきましては、こちらもお手元の資料をご覧いただきたいと思います。森田さん、よろしくお願いします。


(森田)

 社団法人いばらき被害者支援センター事務局次長の森田でございます。先ほど本澤さんの最後の表の一番右下にありましたセンターが私共のセンターです。これから当センターがどのような支援活動を実際に行っているかを説明させていただきます。

 まずセンターのこれまでの歩みについてですが、センターは総合的な支援を目指し1995年7月22日に設立され、2001年に社団法人いばらき被害者支援センターと改称いたしました。そして翌2002年12月9日に、より早い時期の適切な支援を目指して、茨城県公安委員会より「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受けました。「犯罪被害者等早期援助団体」につきましては、お手元にありますこれなのですけれども、3つ折りのリーフレットの裏に書かれていますので後ほどそちらをご覧になってください。

 次にセンターの活動についてです。センターの開設日は月曜日~金曜日、午前10時~午後4時までです。しかし実際の支援に当たってはこの限りではありません。休日の活動もありますし、早朝7時に集合し夜9時過ぎと遅くまで支援活動を行うこともあります。支援員には支援活動員と犯罪被害相談員が当たります。支援活動員とは当センターによる2年間にわたる養成講座をすべて修了し当センターが認定した者で、犯罪被害相談員とは専門家、および支援活動員として一定以上の経験をした者で茨城県公安委員会により認定された者です。犯罪被害相談員がリーダーとなり、電話相談や直接支援など実際の支援を行っていきます。

 次にセンターの支援活動の内容についてご説明いたします。当センターの相談はすべて無料です。支援活動員には守秘義務が課せられておりますので秘密は守られます。被害に遭われた方にとって必要なものは、適切で正しい情報です。被害にあって混乱している状況下で、電話であるいは直接お会いしてお話を伺いながら、その方に今、現在必要な情報はなんであるかを考えて、そして提供していく、そういったケースワーク的な相談を当センターでは行っております。

 電話相談は昨年度725件ありました。茨城県外からもかかってくるケースがありました。面接相談はいきなりは行いません。まず電話でその方のお話をお聞きし、やはり直接お会いした方がよいと思われるケースに関して行います。

 また犯罪被害者等給付金申請の補助の支援も行っております。

 当センターでは、交通事故ご遺族を対象にした自助グループを月1回開催しております。この自助グループは先ほど大久保さんのビデオにありました自助グループと同じもので、当センターでは交通事故ご遺族を対象にしておりますけれども、月1回開催しております。

 自助グループには同じような経験をなさった方がそれぞれの悲しさ、苦しさ、怒りなどを語り合うことによって、少しずつ自分本来の生きる力を取り戻していくという効果があります。また被害からあまり時間がたっていない方は、体験された方からのさまざまな情報を得ることができますし、ある程度の時間を経た方は自分の体験がほかの方のお役に立てる実感を持つことができるという効果もあります。この活動はセンターにとってとても大切なものとなっております。

 次に当センターの支援の中心的なものである直接的支援についてご説明いたします。直接的支援とは被害に遭われた方やご遺族に直接お会いして行う支援のことです。細かい内容に関してはこれからご説明いたしますけれども、この3つ折りのリーフレットにも書かれておりますので、後ほどご覧になってください。

 支援内容はさまざまで被害に遭われた方のご要望にできる限り沿った支援を行っております。原則として支援は犯罪被害相談員を含む2名で行いますが、場合によってはチームを組んでそれ以上の人数で行うこともあります。総勢8名で支援を行ったケースもありました。支援が1回で終了したケースもあれば、数年にわたるケースもあります。当センターでは途切れのない支援を目指しております。実際支援の一区切りから半年、1年たってからご連絡をいただくこともあります。

 これはここ7年ほどの直接的支援の件数をグラフにしたものです。平成14年にセンターが早期援助団体になったことにより、警察から被害に遭われた方やご遺族の同意を得てセンターに警察提供情報として連絡をいただけるようになりました。そのことにより件数が飛躍的に伸びました。

 これは直接的支援までの流れを図にしたものです。直接的支援の依頼は電話相談、警察からの提供情報、学校や病院といったそのほかからの支援の依頼などがあります。依頼の中で一番件数が多いのが赤い線でくくられた警察提供情報によるものです。支援の依頼を受けると、まず直接お会いしてお話を伺います。面接はその方のご自宅、センターの面接室、警察署などで行います。

 最後に、具体的な直接的視点についてご説明いたします。現在センターが行っている直接的支援はこのようなものが挙げられます。被害に遭われた方のご自宅に伺う自宅訪問、病院、警察署、検察庁へ行く際に必要に応じて付き添いを行う付き添い支援も行っております。

 センターの直接的支援の多くが裁判関係の支援となります。法廷付き添いとは裁判を傍聴される場合に同行し、一緒に傍聴席に座り、そのほか必要なさまざまな支援を行うというものです。そのほかの支援としては傍聴席の確保、刑事裁判についての説明、意見陳述や証人尋問等の際の付き添い、傍聴メモの作成、マスコミへの対応などといったことを含めて行っています。

 被害に遭われた方のほとんどの方は裁判というものを初めて経験される方ばかりです。とても緊張されています。法廷内で気分を悪くされる方や、つらい裁判を乗りきるためにずっと手のひらを爪でつねり続けていた方もいらっしゃいました。そんなつらい裁判傍聴に寄り添っていく法廷付き添いはとても大事で、必要とされる支援なのです。

 さまざまな理由で裁判を傍聴できない方のために代理傍聴を行います。お仕事の都合や遠距離のため裁判を傍聴できない方がいらっしゃいます。また特に性被害に遭われた方などは「被告人と一緒の部屋にいるのは堪えられない」、「同じ空気を吸うのも嫌だ」ということで代理傍聴を希望される場合がほとんどです。そしてご希望によっては、電話での報告や公判の様子をメモした傍聴メモを作成し発送することも行っております。

 そのほかの支援としては弁護士による法律相談、公判記録の閲覧謄写の際の付き添いなども行っております。また裁判と裁判の間、裁判は何年にもわたって行われる場合もあります。その間の精神面のサポートも行っております。

 以上のように当センターではさまざまな被害者支援を行っております。それは裏を返せば被害に遭われた方にはさまざまな支援が必要であるということです。被害に遭われた方がその社会で生活し続けていくためには、その地域からの支援がとても大切です。「自分は社会から見捨てられていないんだ」、「自分のために社会が支援をしてくれる」という感覚がその方に残ることが、被害からのよりよい回復につながります。

 現在センターでは県警や検察庁などとの連携、ご協力をいただきながら支援を行っております。被害に遭われた方のご要望にもっと応えられるように、さらなる地域の関連機関や人々の連携を広め、深めることが課題となっております。どうか被害者支援へのご理解、ご協力を切にお願いいたします。


(冨田)

 どうもありがとうございました。いばらき被害者支援センターによる支援活動、とりわけ直接的支援と呼ばれているものを中心に紹介していただくと同時に、関係機関の連携の重要性ということもご指摘いただきました。どうもありがとうございます。

 まず一通りパネリストの皆さんからご報告をいただきたいと思います。続きまして、茨城トヨタ自動車株式会社代表取締役会長の幡谷浩史さんにお願いいたします。幡谷さんはご存じの通り、さまざまな役職についておられますけれども、その詳細についてはお手元の資料をご覧いただきたいと思います。それでは幡谷さん、よろしくお願いいたします。


(幡谷)

 今度は皆さん、ビデオはありませんのでお話だけでお断りをしておきます。映像はありません。まず私は経済界に身を置く者ですので、パネラーに選ばれたのは犯罪被害者支援という今日的課題、つまり企業は「どのような問題意識を持って、どういう役割を果たそうとしているのか」という話をしてもらいたいということで私に回ってきたのだろうと思います。

 犯罪被害者支援に関する企業の役割というテーマを冨田先生からいただきました。しかし私が今副会長を務めております茨城県経営者協会の中でも、まだ全部が突き詰めた論議がなされていないというのが正直なところでございます。従ってここでお話しすることはあくまでも経済界の意識というよりは私見ということでご了解をいただきたいと思います。

 今日の「地域社会と被害者支援」というテーマにかかわる企業の役割については3つあるかと、私は思います。1つはちょっとテーマから外れてしまうかもしれませんが、犯罪を未然に防ぐということが重要だと思っております。いわゆる安全、安心な地域社会をみんなでつくっていくということだろうと思います。これについては平成15年に茨城県では「茨城県安全なまちづくり条例」を制定してくれました。そして地域においてさまざまな取り組みがなされていることはご承知の通りだと思います。

 PRになりますが、経営者協会も去年12 月に茨城県警と協定を結びました。今日は持ってこなかったのですが車に張る「防犯パトロール中」という黄色いステッカーでございますが、参加団体の各企業の営業車とか、あるいは個人の車に簡単に張り付くものでございます。それに「こどもと女性を守る110番の会社です」とかを会社のドア、あるいは皆さんに見えるところに張って、「いつでも困ったときには遠慮なく飛び込んできてください」ということをお願いしております。特に黄色いステッカー「防犯パトロール中」については約9000台の車にお願いをして張り付けております。多分皆さんもたまにはお見かけをしてくれたのかなと思っております。我々としてはそういうことで、市民・企業・行政の連携を図り、これからもこうした取り組みの輪を大きなものにしていくことが大事だと思います。

 そしてこうした取り組み以上に今取り組まなければならないのが、私は茨城県の「教育の日」という団体をやっておりますが、子供の心を育てる教育というものが大事じゃないかなと常々思っております。規範意識の低下、心の荒廃、非行の低年齢化、子供たちを加害者にもするし、また被害者にもしてしまいます。こうした現象は、これは自分も責任を感じておりますが、大人社会の倫理観の低下、責任感・正義感の欠如、人間関係の希薄化、あるいは命の尊重の欠如といいますか命の大切さというものが、なんか我々大人に責任があると思っております。子供たちが将来に夢や希望を抱き、心豊かにたくましく生きる力をはぐくめるよう、我々大人が教育の重要性を自覚し、模範となる行動をしていかなければならないと思っております。

 そのため企業経営者は仕事と家庭の両立を図れるよう社内制度の整備や、特に父親である男性社員にもっともっと子供の教育に対して関心と責任を持って、意識啓発に努めなければならないと思っておる1人でございます。目の前の犯罪被害者をどう支援するかというテーマからは少し外れてしまいますが、そのことが犯罪被害者を生まない、加害者をつくらせないことにつながるのではないかと思っております。

 2つめは、犯罪被害者となってしまった社員への支援の問題です。「犯罪被害者等基本法」の制定に当たって行われるパブリックコメントには、「犯罪被害者に対する偏見や精神的なダメージにより、一時的に就業困難な状況になった、あるいは裁判の関係で仕事を休まなければならなくなった、このようなことで解雇されるケースが少なくない」という指摘がありました。

 この前いばらき被害者支援センターの照山事務局長さんからも、「被害者に遭われた方から『解雇された。私は生きていていけない人間なのでしょうか』という悲痛な叫びの電話があった」と伺いました。精神的ダメージから仕事が全くできなくなったのか詳しいことは定かではありませんが、だれも好きこのんで被害者になったわけではありません。裁判の関係で仕事を休まなければならなかっただけの理由で解雇されるとすれば、私はあってはならないことだと思います。

 精神的ダメージによるものとすれば、治癒するまでの期間休職扱いとして、雇用保険から一定の保障がされます。企業はこのような制度を活用し、最大限雇用を守る努力をする必要があるのではないかと思っております。また職場の管理者やリーダーに対する教育も大事だと思っております。いわゆるセクハラ、パワハラの問題と同様に、犯罪被害者に対する対応についてもきちんと教育をしていく必要があると思いますし、相談体制も整備していかなければならないと思っております。ただこうした配慮をしていくだけでも人員的に余裕のない企業があるというのも確かであります。行政には助成制度などセーフティーネットの充実を期待したいと思います。

 企業はご存じの通り、今かつてない経験をしております。激しい競争にさらされております。こうした中で競争力の向上と従業員の福祉向上の両立を図っていくか、日々腐心しているところでございます。企業内における犯罪被害者の支援についても、まずは先進企業が取り組みのモデルを示していただき、時間をかけて中小、あるいは零細企業へのすそ野を広げていくことが現実と思います。企業の重要な役割である雇用の問題をはじめとして犯罪被害者支援における企業の役割については、今後経営者協会の中でケーススタディーを行っていくよう呼びかけていきたいと思います。

 ちょっと時間がなくなりましたので3つめのことはこのあとちょっと言わせていただきますが、犯罪被害者支援に関する世論喚起と支援組織に対する支援のスタンスが問題だと思います。冨田先生とのお約束の時間10分がここで途切れますので、一応次の先生にお渡しをしたいと思います。


(冨田)

 幡谷さん、どうもありがとうございます。犯罪被害者支援における企業の果たす役割や企業が行わなければならないことについてお話しいただきました。世論喚起の問題等についてはまた後ほど触れていただければありがたいと思います。どうも制約ばかりで申し訳ございません。

 それでは続きまして、茨城県弁護士会の渡邉昭さんからご報告いただきます。渡邉さんのご経歴等についてもお手元の資料をご覧いただきたいと思います。それでは渡邉さんよろしくお願いいたします。


(渡邉)

 茨城県弁護士会の渡邉と申します。今日は弁護士会の犯罪被害者支援委員会の委員長という立場で来させていただきました。

 弁護士会としてまず何をやっているか、あるいは今後何をすべきかと言うことなのですけれども、正直申し上げて犯罪被害者支援委員会ができたのが昨年ということで、まだ1年半しかたっておりません。ですから皆様方にアピールする程度のこと、内容はしてきていないのが正直な話なのですけれども、基本的には先ほど来の講演とかでお話を伺っていますように、被害者の人たちの心情等を理解して司法関係の第二次被害を防止するというのが第一義的なものだろうと思いますので、研修の中身としましては、基本的に被害者の方の心情を深く理解するということから始めております。

 具体的な支援を今後どのようにするかということなのですけれども、もちろん基本的にスキルアップのための研修というのは定期的に行うことにはしておりますが、多分一番重要なのはほかの機関との連携を図っていくことかなと思っています。特に弁護士のほうに犯罪被害に遭ってすぐに来るということは通常あり得ませんので、そのあと被害者支援センターから来て、ある程度弁護士が必要だという場合に受け皿になるというところなのかなと思っておりますので、支援センター以外のほかの機関とも連携して強化を図っていかなければいけないと思います。

 今まで弁護士として被害者支援のためにやってきたことといえば、基本的には損害賠償請求というのが中心でありました。もちろんそれに限らず刑事手続き上の支援、例えば告訴をするとか公判記録の閲覧謄写、あるいは意見陳述の支援とか、法廷付き添い等の活動などについても支援センターとの連携でお手伝いできるかなと思っておりますので、今後そういう体制を取っていきたいと思っています。

 ただ今まで弁護士会は正直申し上げまして、積極的には活動してこなかったという面は否定できないところであります。その理由としては、もともと司法制度というか、社会全般的にそうだろうと思うのですけれども、弁護士は被疑者被告、いわゆる加害者の人権を擁護する立場にあり、国選弁護人等でそういう権利保護をやってきたという経緯があります。もちろん被害者に対しての権利を保護するということも当然弁護士の立場としては行わなければならないということですが、総合基本計画ができて被害者の権利が認められてきたということでは、弁護士会あるいは弁護士としてはそういう被害者の人たちの権利を擁護していくことはこれからの課題になると思っています。

 ただ、弁護士の仕事として被害者支援一辺倒でいけるかということでもないのであります。当然今までやってきた加害者の人権とかそういう権利を擁護するということもやっていかなければならないし、他方で被害者の権利保護もやっていかなければいけないということです。そのへんの相反する立場で弁護士がどうやっていくかというのは、かなりナーバスなところではあるかなと思いますので、弁護士の立場というものがそういう職務なのだというところは皆様方にご理解いただければと思っています。

 弁護士会としてはそういう状況ですが、だからといって個々の弁護士が全然犯罪被害者支援に対して何もやってこないというわけではもちろんありません。先ほど出ましたいばらき被害者支援センターの設立の当初から、個々の弁護士としてかかわってきた人もおりますし、それぞれ法律相談とかあるいは民事事件で受任した事件において損害賠償等で被害者の代理人をしているという弁護士もおりますので、それなりには支援を行ってきたと思っています。

 ただ個々の弁護士の意識の問題でもありますが、被害者の心理等についてはまだ理解していないという弁護士もいるかもしれないし、実際そういう弁護士がいたからこそ司法の二次被害を出しているのかなと思いますので、できる限り会としてそういうことも含めた研修を行って、二次被害防止ということでやっていきたいと思っています。実際日弁連で行った研修等に参加して、そういう研修を行っている会員も相当数います。

 基本的にはやはり被害者の方の話をじっくり聞くということです。我々はどちらかというと、「民事事件。じゃあ損害賠償」、「じゃあ損害賠償できるかどうか」という簡単な発想をしてしまうので、本当にそれを被害者の方が求めているのかどうなのかということをじっくり聞く必要性は大きいのかなと思っています。

 先ほど言っていましたように、「被告人の弁護活動を通じて被害者の支援をする」と言うちょっと語弊があるかもしれませんけれども、被害弁償などをやってきたということは否定できないところであります。刑事事件の弁護人でも考え方によっては被害者の立場に立って被害弁償を被告にさせることもできます。実際そういう観点から被害弁償させてきたこともありますので、必ずしも刑事被告人のためだけに国選弁護人がやっていると言い切ることはできないのではないかと思います。もちろん刑事だからこそ、逆に刑事弁護人であっても被害者の心理状態を理解して行動することが必要になってくるのかなと思っています。

 先ほど大久保さんのお話で「被害者の現状と支援の必要性」という表を見ていたのですけれども、ここで司法関係の配慮に欠ける対応や言動等ということで弁護士が被害者の尊厳を傷つけ加害者を弁護する手法ということが載っていました。私もかなり「ああ、そうか」とショッキングに思ったのですけれども、基本的には刑事弁護をやっている場合には被害者の人にどう対応するかと。

 例えば示談するとしても、手紙を出す場合だってどういう文面でどういう方法でやろうかというのは常に悩んでいるところです。できる限り被害者を傷つけないようにする文面を書いたり、あるいは場合によっては法廷でもそういう立場で配慮して、「でも、これは言わないと被告人の利益にならないかな」とか、「でも言ったら被害者が傷つくかな」とかいろいろ考えながらやっていることは事実であります。そういう観点からいろいろ刑事弁護を中心にやってきたとしても、被害者に対する配慮は必要かなと思っています。

 弁護士会としては以上なのですけれども、私はプロフィールにも書きましたように、司法支援センターの副所長で犯罪被害者支援担当副所長もやっておりますので、そのことに関してちょっと触れさせてください。

 お手元にございますこのリーフレットをご覧いただきたいのです。法テラスに関しましてはまだ知らない方もおられると思いますので簡単に紹介します。「総合支援法」に基づいて、あまねく全国において法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して、平成18年、昨年4月に設立して昨年10月に業務を開始しております。ほぼ1年間業務活動をしてきました。

 その法テラスの業務の1つの内容として、国選弁護人の裁判所に対する推薦とかいろいろありますが、1つの中身として犯罪被害者支援というのがありまして、これがその専用のリーフレットになっています。内容としましては、被害者支援活動に精通した弁護士を紹介する。それ以外に情報提供として、被害者支援団体の紹介があります。詳しい内容はこのリーフレットを見ていただければお分かりになると思いますが、専用回線ダイヤルで、被害者支援ダイヤル0570 - 079714「泣くことないよ」という回線で、全国からコールセンターにつながるようになっております。

 法テラスとしても情報提供ということで関係機関の連携ということが必要ですので、これからは関係機関の強化を図っていきたいと思っています。ただ一番連携で怖いのは、被害者の方をたらい回しにしちゃうということです。同じ話をあっちに行っても話し、こっちに行っても話しというのが一番怖いので、先ほど来連携強化ということで話されていますけれども、具体的にどうやるのかなというのはかなりしっかりした体制をつくる必要があると思っています。

 精通弁護士紹介ということで、今弁護士会から精通弁護士の名簿が22名で体制は整っていますが、昨年1年間で精通弁護士紹介があったのが5~6件ということで、まだまだ少ない状況であります。法テラスとしてはまだ認知度が低いのかなと思っていますので、法テラスとしても広報活動に力を入れてやっていきたいと思っています。以上です。


(冨田)

 どうも、渡邉さんありがとうございました。犯罪被害者支援に関して弁護士会の活動、それから個々の弁護士の活動、さらには法テラスの活動など幅広く論じていただきました。

 続きまして、最後になりお待たせしましたけれども、岡崎さんから報告していただきたいと思います。岡崎さんは茨城県の生活文化課安全なまちづくり推進室の主査をなさっておられます。岡崎さんの経歴等につきましてはお手元の資料をご覧いただきたいと思います。それでは岡崎さんよろしくお願いいたします。


(岡崎)

 ご紹介ありました岡崎です。私は警察官でもあるし、また今県職員でもあるという特殊な身分でして、併任で両方の身分を持っているということになりますので、警察の話も交えながらということでよろしくお願いいたします。

 最初に茨城県における犯罪被害者支援の取り組みについてお話をいたします。先ほど「茨城県安全なまちづくり条例」のお話がありました。これは平成15年4月1日に施行されておりますけれども、条例第15条に犯罪被害者に対する支援というのが盛り込まれました。条例第15 条に「県は、市町村及び犯罪により害を被った者を支援する活動を行う民間の団体と連携して、犯罪被害者に対し、情報の提供、助言、その他の必要な措置を講ずるものとする」と載っております。

 現在、このまちづくり条例は全国的にたくさんできているかと思いますけれども、まちづくり条例に犯罪被害者の支援を入れたのは全国で初めて、画期的であったと言われております。この条例をつくる時も冨田先生にいろいろお世話になったそうですが、ありがとうございます。

 私はちょうどこのときに常陸大宮市にあります大宮警察署に勤めておりました。それでこの条例ができて条文を読んだときにとてもうれしくなりました。実は先ほどから出てきていますように、平成8年の「被害者対策要綱」をよりどころに仕事をしてきましたけれども、ここで初めて「条例に明文化されたんだ」、「やっと私たちの仕事がこういうふうに文字になったんだ」、と私は感激したのです。

 と申しますのは、警察で支援をしておりますと、やはり先ほどから出てきていますように住居の問題とか医療の問題とか雇用の問題とか、たくさん被害者のニーズはあります。「これって警察ではできないよね」と私も個人的には思っておりましたので、「本当に県も市町村もかかわるんだよ」という書き方をしていただいて、「本当にありがとう」という思いでした。もうすぐ5年になりますか、5年前にそうした思いをしたのを覚えております。

 その後、先ほどから話が出てきていますように、基本法ができたということになります。基本法ができたことで去年2月に安全なまちづくり推進室が県の犯罪被害者対応窓口ということが決定しました。2カ月後の18年4月には「犯罪被害者等支援連絡員」として1名を非常勤嘱託員ですけれども採用いたしました。そして犯罪被害者等支援に関係する関係機関・団体等の情報交換や連絡調整を行いまして、本年1月に犯罪被害者相談窓口の開設に至っております。

 11月22日現在ですけれども、電話相談71件、面接相談1件を受けております。相談の中には「警察には相談しにくいのだけれども、県に相談窓口があるというのを駅のポスターで見たので、ちょっとかけてみました」ということでお話をしてくださることもあります。やはり選択肢が広がるというのは被害者の方にとってもとても助かるのではないかなあと思います。「なかなか警察は敷居が高くて相談できないのですよ」という声もありますので、そうした被害者にとっても選択肢の広がりというところでも大事かなと思っています。まだまだ皆さん一人ひとりの方に届いてない部分があると思いますので、もっともっと広報していかなければならないなあと感じております。

 基本法の5条、地方公共団体の責務のお話がありましたので、考えていることをお話しします。入口は警察が多いと思いますけれども、生活支援などは市町村への期待がかなり高まっていると思いますので、東京都杉並区役所の取り組みなどをご紹介しながらお話しします。

 まず最初に、なぜ生活支援が必要なのかということからお話しします。私が今までにお会いした被害者の中で、例えば包丁を持って脅かされた女性が今度は包丁を持てなくなってしまい料理がつくれません。「小さい子供を抱えていて、料理がつくれないんですよ。包丁を見るのも嫌なんですよ。どうしたらいいでしょう」と訴えた方もいます。

 また性的な被害に遭った方ですと、一人暮らしをしている女性はやはり住居に入れなくて、親戚も周りにいない。性犯罪の被害は夜が多い。夜警察でお話を聞いて自宅に戻ってもらうのですけれども、「戻れないです」という声があるのです。「被害に遭ったところになんで1人でいられるのですか」と言われるのですけれども、「しょうがない、知人宅に2日泊めてもらいましたよ」という声もありました。

 また小さい子がいるお母さんでアパートの1室で性的被害に遭った女性ですけれども、「引っ越しをしたいのだけれども、子供が小さくて引っ越し先を見つけてくる余裕すらないんだよ。子供を誰か見ていてくれたら助かるのだけどなあ」というお話も確かにございました。

 そういう声もあったからだと思うのですけれども、東京都杉並区役所では「杉並区犯罪被害者支援条例」というのを制定されまして、特に3つの大きな支援をしています。1つは今言いました住居の問題です。一時利用住宅の提供ということで、犯罪により従前の住居に住むことが困難になった場合に、一時的に住むための住居を提供しますというものです。

 2つめは日常生活への支援です。犯罪などにより家事や育児など日常生活が困難になった場合に、犯罪被害者支援に理解のあるホームヘルパーを派遣しますというものです。具体的にどういうものかと言いますと、家事支援が調理、衣類の洗濯、住居の清掃、生活必需品の買い物、通院などの介助など。育児支援が、食事の世話、衣類の洗濯、住居の清掃、育児、保育園等の送迎ということです。

 3つめは資金の貸し付けです。犯罪により収入が絶たれたり、多額の治療費を必要とした場合に、応急に必要な資金として30 万円以内をお貸ししますというものです。

 こういう具体的な支援が始まっております。やはり条例でこうした支援を行っているというのは、犯罪の被害に遭われたご家族、ご遺族にとってもとても助かるのではないかと思います。

 茨城県においては、身近な機関として各市町村の担当主管課に保健センターがありまして、そこには保健師の資格を持った方がいらっしゃいます。心の健康や体の健康の相談に乗ってくれて、その方に合った関係機関を紹介していただいたりしております。

 実は私事なのですけれども、介護の勉強をしたいなあと思っていました。主人の親と同居しているのですけれども、80をちょっと越えまして介護を少し勉強したいなあと思いましたところ、県職員訪問介護員養成研修という募集がありました。「じゃあ、私行きたいです」ということで早速申し込みました。第1回の研修が11月14日にあったのですけれども、仕事を終えてからの3時間の勉強なので、ちょっときついものがありました。

 そのとき最初に講義をしてくださったのが茨城県立健康プラザの大田先生です。大田先生から私はこんなお話を伺いました。茨城県には平成6年度から茨城型地域ケアシステムというのがあるそうです。実施主体は市町村で、市町村から市町村社会福祉協議会が約8割が委託されているということでした。内容については、高齢者や障害者などが住み慣れた家庭や地域の中で生き生きと安心して暮らせるよう、一人一人に保健、医療、福祉の関係者がチームを組んで、地域全体で総合的かつ効率的に各地の在宅サービスを提供し、支援するシステムということでした。

 もしかしたら、これは犯罪被害者の方も使えるといいシステムかなと思いましたので、先生が帰るときに、「先生、これは犯罪被害者の方も利用できるでしょうか? 対象になるでしょうか?」とお話をしましたところ、「対象となりますよ。ただ、ケアコーディネーターの方の力量が必要になってくるとか、あるいはチームの中に犯罪被害者の団体の人が入ってもらった方がいいかなあ」というお話をされていました。

 私は翌日、その地域ケアシステムを担当されている保健福祉部厚生総務課の担当者にこの件を詳しく聞きにいきましたところ、担当者はこのようにお話をしておりました。「法律や制度など公的なサービスを優先的に活用しながら、そのサービスでは安心した在宅生活が困難な部分を支えるきめ細やかなサービスを行います。被害者本人や家族の希望があればこのシステムの要である地域ケアコーディネーターがお話を伺い、チームで組んで対応も可能です。ただし市町村よって取り組みに差があるため問い合わせが必要です」ということでした。

 地域に本当は被害者支援のための新たな制度が設けられたほうが一番いいとは思うのですけれども、今ある市町村の資源を活用したり、あるいはちょっと制度を変えれば犯罪被害者の方にも使えるというのを、ぜひ市町村でも論議していただいて施策に動いていただけたらいいなと思っています。そのためにも、ぜひ犯罪被害者支援窓口が暫定的になっている市町村にあっては、窓口を明確化していただきたいと思っております。

 杉並区役所のお話しをしましたが、茨城県にも桜川地区被害者支援連絡協議会が、経済的な支援を本年4月1日から開始しております。内容については、桜川市、および桜川地区交通安全協会、桜川地区安全運転管理者協議会が合計20万円を出しまして、殺人、性犯罪、傷害事件、ひき逃げ事件の被害者に対して診断書料の負担などをしております。こうして総合的に施策を組むのには、全庁的な対応が必要だということで、協議会の役員に市役所の各部長さんが就かれているということですので、積極的な取り組みかと思います。

 今日は学校の先生も参加していただいておりますので、私も少年警察が長かったので一言。登下校中等、児童、生徒の方が被害に遭うときがあります。そのとき子供たちは先生に相談をすることが多いです。担任の先生であったり、あるいは部活の先生であったり、保健の先生であったりといろいろな先生に相談をします。やはり先ほど二次被害というのがありましたけれども、先生一人一人がこういう被害者になった子供たちにどう対応するかというのも併せて学んでいただけたらありがたいなと思っています。時間ですので。


(冨田)

 どうも、ありがとうございました。茨城県の知事部局による被害者支援の状況のご紹介とともに、市町村による活動への期待でありますとか、更には利用できる資源であるとか制度を見つけ出すということの重要性をお教えいただきました。それから、ご参考までに申し上げますと、杉並の条例は先ほどご講演いただいた大久保さんも制定のときに委員としてかかわりを持たれて、実際のご経験からこういういい条例ができたと私は考えております。

 本当に急いでご報告いただいて申し訳なく思っておりますけれども、それでは先ほどの一巡目のご報告で説明できなかったところ、補足したいということがございましたら、お願いしたいと思います。最初の発言順に行きましょうか。本澤さん、ありましたら、どうぞ。


(本澤)

 先ほどは茨城県の被害者支援連絡協議会というものがあって、そこの連携の必要性というところでお話が終わったと思うのですけれども、今後の課題を少しお話をしたいと思います。

 まず最初に、大久保さんのお話に、医療機関ですとか専門機関ですら被害に遭った方を傷つけてしまうというお話がありましたが、最初にかかわる警察ですとか、私のようなカウンセラーですとか、そういった者がまず研修を積んできちんと被害に遭われた方の支援に当たるということが必要かと思います。その上でその支援が途切れないために、先ほどの協議会、県の協議会だけでなく各地区、27の地区に協議会がありますので、そういった会員の方との連携も必要かなと思います。

 いばらき被害者支援センターの森田さん、照山事務局長とはお顔もよく分かって連携が取れていると思うのですけれども、ほかの団体の皆さんとお顔が分かってというとなかなかそこまでにいっていないと思いますので、その協議会がフットワークよく実質的に動ける協議会としてやっていくということもこれからの展開として必要かなと思います。

 さらにもう一段階進んだところでは、警察ですとかセンターは被害に遭われた方と接する専門的な機関だと皆さんは思われると思うのですけれども、そういう被害に遭われた方と日々接するのは専門的な機関・団体だけでなく、実はその他の方のほうが、被害に遭われた方の日常生活の中で知らない間に会っています。被害に遭われた方は普段専門家とばかり会っているわけではなくて、生活は地域であって、親戚ですとか近所ですとか、職場ですとか、そういう普通の生活の中に被害に遭われた方はいらっしゃるので、自分は関係がないという人は1人もいないと思うのですね。国民の皆様に関係するところ、地域の皆様に関係するところだと思いますので、関係機関だけでなく、地域の皆様お一人お一人が被害に遭われた方の現状をこういった機会を通して知って、さらに被害者への理解ですとか、支援が社会全体に広がることが今後重要なのかなと思っております。以上です。


(冨田)

 どうもありがとうございます。森田さん、何かありましたらどうぞ。特にないようですので、それでは幡谷さんお願いします。


(幡谷)

 さきほど2点だけ言いましたけれども、3点目が世論喚起と支援組織ということだろうと思います。現在,この経営者協会の会員は相当数いるわけですが、全然まだそちらのほうにはほとんど関係していません。今加入させていただいているのが47社ぐらいかなと思います。これではとてもじゃないけれども、私はいばらき被害者支援センターの理事になっておりますので、理事のメンツにもかけてもっともっと企業の応援をしていきたいなと思っております。

 この基本法ができて我々が一番やらなくてはならないのは、そういう意味では世論喚起と支援組織というものが我々企業の大きな責任かなあと、またそれをやっていくのが責務かなあと思っております。これから少しずつ頑張りますので、どうぞ支援センターの皆さんよろしくお願いしたいと思います。


(冨田)

 どうもありがとうございます。「基本法」、「基本計画」にも書いてあるのですが、企業の果たすべき役割、あるいは企業が実際に具体的にどんな活動ができるのかというのは今まであまり議論されたことがないように私は思いますけれども、今日の幡谷さんから非常に心強い発言をいただいて大変うれしく思っております。どうもありがとうございます。渡邉さん、何か補足ございますか。


(渡邉)

 一言だけ、ちょっとだけ言わせてください。先ほど法テラスのお話をしましたけれども、コールセンターでの昨年1年間の受電件数が6600件程度ということで、まだまだ少ないというが実情でありますということが1つの報告です。

 あともう1つなのですけれども、「なぜ今犯罪被害者支援なのか」ということについて一言だけ言わせていただきたいのです。基本的には「基本法」ができたということが1つなのですけれども、当然「基本法」ができた経緯というのがあります。今まで個々的な刑事訴訟法の一部改正とかいろいろ、小手先と言ってはちょっと語弊があるかもしれませんけれども、単発的な改正で対処してきたというのが実情だろうと思うのです。当然それだけでは不十分だということで、総合的計画的に支援しようという動きが出てきました。

 このような動きというのは国からというよりも当然犯罪被害者の人たちの地道な努力から声が上がってきて、それが「基本法」に結実したという経緯があります。そのへんは皆様方にこの「基本法」が成立した重要性ということを認識していただければなと思います。

 先ほど大久保さんのお話にもありましたように、被害に遭った方の心理状況というのは分かりにくいというところがありますので、少しでも意識して、そういう心理状況を理解して、被害者の立場に立った支援ということでやっていかなければならないと思っています。そういう思いがこの「犯罪被害者等基本法」に出ております。今日配布されていますがちょっと分かりにくいので、ちょっと目を通していただきたいのです。

 この法律には目次というのがありまして、まず前文と第1章、第2章、第3章、付則と書かれていますが、その下で安全で安心して暮らせる社会を実現するうんぬんと、これが前文になります。私もこの法律を見て初めて、「法律で前文ができているのは珍しいな」という思いで読んだのです。憲法に前文があることは有名なのですけれども、法律に前文が書かれていることはかなり書きぶりとしては珍しいなと思っています。こういう前文を置いたということはやはり「犯罪被害者等基本法」ができた経緯で、中身をこの機会にじっくり読んでいただきたいのですけれども、犯罪被害者の視点に立って行わなければいけないという熱い思いが入っておると思います。そういう視点から大して長くない条文ですので、全文読んでいただければなと思っています。以上です。


(冨田)

 どうもありがとうございました。基本法の特徴と申しますか、非常に重要な点をご指摘いただきました。どうもありがとうございます。ほかにどうしてもということがありましたらどうぞ。岡崎さん、何か。いっぱいあると思いますが。


(岡崎)

 時間がないところすみません。国民の責務というところもちょっと触れたいと思ったのです。私はフラワーアレンジメントを習っていまして、つい最近なのですけれども先生がおけいこを始める前にこんなことを言ったのです。「私、テレビを見たのだけれども、たまたまそこに居合わせた女性が散弾銃で撃たれてしまって、だんなさんが仕事を辞めて介護するようになったようだよ。でも日本はそれほどたくさんの保障はしていないんだよね。ドイツはその犯罪を誰も防げなかったということで全額保障してくれるんだよ」ということをポロッと先生がお話をされたのですね。

 先生は多分ドイツに住んでおられた経験があるということでした。もちろん私がこういう仕事に就いているということは、先生は全く知らなかったのですけれども、そのときごく自然に犯罪被害者のことを話題にしていただき、最初は「犯罪被害者のお話?」とドキッとしたのですけれども、そのうち犯罪被害者のお話をしてくれていることがすごく温かくなってきまして、自分の気持ちがすごく穏やかな感じになっていったのです。

 このようにごく自然な形で犯罪被害者のことが話題になっていくと、皆さんへ広がっていくのかなあと感じました。今日は皆さん、だれか1人にお話いただくと300名集まっていますので600名ということに広がるようになるので、ぜひお願いしたいなあと思います。今日の感想でもお話ししていただけるとありがたいなあと思います。

 支援というと「すごく難しいのかなあ」と考えると思うのですけれども、私は困っている人が隣りにいたら、「こんな相談機関があるんだよ」と話すだけでも、その人にとってはありがたいこと、私はそれが支援だと思っています。難しいことではないということです。

 犯罪被害に遭ってしまったのだけれども、みんなに支えられて、やはり茨城に住んでよかったとか、茨城に生まれてよかったと思えるような、そういう住みよい茨城にしていきたいと思います。

 そのためにはやはり被害者支援に限らないとは思うのですけれども、地域社会を考えるときにやはり地域力を高めるというのがキーワードになってくるのではないかなと思います。関係がすごく希薄な中にありますので、そういう部分で、大好きいばらき県民会議理事長として幡谷先生もご活躍されていますけれども、こういう地域力を大いに高めていったらいいのではないかなあということです。国も県も市町村も、そして県民の皆さん一人一人も被害者のために手を携えて支援ができたらいいなあと思っています。


(冨田)

 どうもありがとうございます。本当に我々一人ひとりが一体何ができるのかということを真剣に考えなければならないということを改めて感じている次第です。だいぶ時間も迫ってまいりました。私からもパネリストの皆さんにまだまだ質問したいこともあるのですが、どうやら時間が来てしまいました。最後になりましたけれども、どうしてもこれだけは言っておきたい、お伝えしたいということがありましたら、1~2分程度ありますので、どなたかありますでしょうか。では幡谷さん、お願いします。


(幡谷)

 私は最初に未然に防ぐことを1番に掲げ、2番目に被害者になってしまった社員の支援、そして3番目が世論喚起ということですが、僕は人の命そのもの自体があまりにも軽く見られているのではないかなと思います。人を傷つけ、人の命を取っても殺意がなかったとかそういうことを言ってくるあの裁判はなんなのだろうなと思います。人間でもって一番人権侵害というのは、僕は命を取る、人を傷つけることだろうと思うのですよ。それをあえてああいうところで、ああいうことを言ってくる。なんか私はあのへんが腑に落ちないので、専門家もいらっしゃいますので…。私の意見は、別に刑法が軽い重いではないのですが、そういう感じがしてならないので一言言わせていただきました。


(冨田)

 拍手も出ているように、人の命の大切さを再確認すること、またそれをどのように守っていくのかということについて、原点に返って考え直すということが大変必要だと思っております。終了時間も迫ってまいりましたので、このへんで私からまとめに入りたいと思います。

 今日のこのパネルディスカッションにおきましては、それぞれのお立場から茨城県における犯罪被害者の方々に対する支援活動につきご報告をいただきました。まずここで分かったことは、「犯罪被害者等基本法」の精神にのっとって、この茨城県において犯罪被害者の方々に対するさまざまな支援活動が既に展開されているということです。これは関係の皆さんのご努力によるものであり、大変素晴らしいことであると考えております。

 他方、その「犯罪被害者等基本法」が目指しているところを実現するためには、まだまだ行わなければならないことがあるということもここで明らかになったわけでございます。とりわけ財政的な裏付けをこれからどう確保していくのかとか、また、行政の場面であれ、民間機関の立場であれ、警察の立場であれ、さまざまな場面で、この支援に携わるスタッフをどう訓練し、どう支援の水準を高めていくのかということがあるかと思います。

 それからこれは何度も何度も皆さんから出た話ですが、連携の重要性です。いろいろな場面で連携の重要性というのは指摘されていますが、総論の段階で終わっていることがまだまだ多いようです。これから具体的な連携のための制度づくりと既存の制度の活用が求められておりますが、具体的な方法をどうするのかということなど、課題はまだまだ多いと思います。

 しかしながら本日のこのパネルディスカッションにおきまして、いろいろ議論をしたということによって、茨城県における犯罪被害者支援を発展させるためのよい機会を得たと考えております。パネリストの皆さん、どうもいろいろご協力をありがとうございました。

 最後にこのパネルディスカッションにお集まりいただいたパネリストの皆さんでありますとか、あるいは会場にお越しいただいた皆さんがそれぞれの立場において犯罪被害者支援の発展や充実のためにさらにご活躍いただくことを期待いたしまして、そしてそれを通じて犯罪被害者の皆さんが被害から本当に回復するということを心から願いまして、このパネルディスカッションを閉じたいと思います。皆さん、どうも長い時間にわたりご協力ありがとうございました。