犯罪被害者等に関する青少年向け啓発用教材
「ある日突然 最愛の娘を奪われて ~犯罪被害がその後にもたらすもの~」

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インタビュー

秋田看護福祉大学教授 社団法人あおもり被害者支援センター副理事長 山内 久子 氏
NPO法人 全国被害者支援ネットワーク 理事長 山上 皓さん


常磐大学大学院被害者学研究科教授 社団法人いばらき被害者支援センター理事 長井 進 氏
NPO法人 全国被害者支援ネットワーク 理事長 山上 皓さん


【被害当時の状況】

被害に遭われた当時は、どのような状況だったのでしょうか?

(山内)私自身も、ぼーっとしていましたし、物事をきちんと考えるということも当時はできませんでした。それから、料理なども、手の込んだものとかも、全然作ることができないという時期がありまして…。

特に辛かったことは、どんなことだったのでしょうか?

(山内)マスコミの報道の仕方が、すごく後々まで影響を与えるということを初めてわかりました。一度報道されると、そのときだけではなくて、本当に後まで、いろんな周りの人から誤解の言葉を受けたり、そういうことが事件の渦中にあってわかりましたので、そういうところが、本当にこれからも気をつけていただきたいなと思うところです。
ビデオの中にもありましたけども、本当に娘の辛い「死」というものを伝えたときの警察官の方の対応に、その後ずっと傷を負ってしまいました。
そして、周りの人も非常に気を遣って、私たちに声をかけたり、励ましの言葉をくださるのですが、やっぱり、その言葉の中には、私たちの傷口を更に開くような、そういう言葉もありまして、おそらくその人たちもそのときは気づいていないと思うし、また私たちもその場では、そのことを言えないという、そういう辛さもありました。

犯罪被害には、被害そのものの辛さに加えて、このような「二次被害」と呼ばれる辛さもあるのです。

【犯罪被害とは】

(長井)犯罪被害というのは、主権を極端な形で侵害されたという経験です。犯罪被害者に共通する心理は、いったい何なのかと言いますと、一つは無力感、圧倒的な無力感にさいなまれる。もう一つは家族、友人等、職場、学校等の人たちとの信頼の絆が断ち切られるということです。本来は加害者一人に、不信感、怒り、いろいろな感情が向けられて然るべきですが、加害者の起こした犯行によって、被害者遺族の不信感は社会全体に広がってしまいます。

【二次被害とは】

(長井)普通は、事件が発生しますと、警察、場合によっては、報道関係者が最初に知るところになるわけです。そういった警察関係者、報道関係者から、被害者の方に連絡、アプローチがあります。最初に接した方々の対応で、配慮が足りない、あるいは心ない発言をしてしまうなど、そういうことがあった場合には、その最初にアプローチされた人によって傷つく。その後は、例えば友人、あるいは隣人の方々との関係においては、慰め、励まし、あるいは場合よっては哀れみの目を向けられるなど、いろいろな対応をされて、それが、その被害者遺族とは心情が全然違うところから接しられるがゆえに、違和感を強くすることがあります。

警察や報道機関も、現在では被害者に対して特別に配慮した対応をとっているということですが、私たちが二次被害を与えることを防ぐためには、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか?

(長井)多種多様な二次被害がありますので、近隣の人たち、友人知人等を含めて、被害者支援に関わる、全国にいらっしゃる窓口担当者の方もそうですけれども、何か善意、あるいは思いやりに基づいて何かをすればいいということではなく、むしろ、自分のこの発言、ちょっとした行動を、被害者はどう思うのだろうかなど、そういうことを考えながら、傷つけるかもしれない部分に気をつけて、二次被害を少なくするということが、おそらく周囲にいる私たちができることの最大の部分ではないかと考える次第です。
何か、優しい言葉をかければいい、何かすればいいというのではなく、そもそもどういう気持ちで被害者に接しようとするのか、周囲の人たちの、その気持ちの持ちよう、心の持ちようが非常に重要だと思います。言葉、行動ではありません。

【励まされたこと】

辛い状況の中で、励まされたことはありましたか?

(山内)私は、娘の友人がお線香をあげに来て、いろいろお話をしてくれたとき、娘の高校時代、あるいは大学時代のエピソードなんかを教えてもらえたりすると、すごく嬉しくなって、「ああ、こういう高校生活、大学生活を送ってたんだな」と、そのことが、もうこれ以上私たちとは関われない娘の思い出を作ることにもとても役立ちましたし、そういう言葉が私たちを励ましてくれて、それが「頑張るぞ」という気持ちを作ってくれたように思います。
でも最近では、必ずしも娘の思い出話だけではなくて、その方たちももう、結婚したり、子どもさんがいたりということで、そういう会話をすることで、後でその方々が帰ってから、「ああ、娘ももうこのくらいの年齢で、子どももいたかもわからないな」など、そういうことで娘を偲ぶことができたりしますので、とてもそういう機会をありがたく思っております。
地元の警察の方は、とても良くしてくださいまして、本当に毎年、娘の命日には二人で来てくださいまして、そして線香をあげていただいています。

被害者を励ますことができるのもまた、周囲の人々だということなのですね。

【被害からの回復】

(長井)被害者の主権を極端に侵害するというのが、いわゆる犯罪行為だと思いますけども、他者の暴力によって主権を極端な形で侵害された被害者が、今度その被害回復に向けて取り組むとなると、自分に何も落ち度がないからといって、沈黙して時間を過ごせば、それで被害回復ができるかというと、そうではありません。むしろ自分が、何度も辛い現実に向き合いながら、複雑な感情を何度も再体験し、それになんとか耐えるようなことができて初めて被害回復に向かいますので、そういう点では、被害回復に取り組むこと自体が非常に難しいのです。
犯罪被害者等の被害回復、精神的被害からの回復というのは、一つは無力感の克服であり、またもう一つは、信頼の絆の再建・再構築です。一度誰も信じられなくなったけれども、もう一度いろいろな関わりを通して、「この人たちは信じられる」という感覚を取り戻していただく。これが被害回復においては非常に重要な部分です。こういう現実に、被害者の誰もが直面しますので、そういう現実を考えると、やはり二次被害を意図して少なくするということがとても大切だと思います。

【ある出来事】

犯罪被害に遭われた方にしか体験できない、こんな出来事もありました。

(山内)下の娘が、本当に落ち込んでしまいまして、ドラマにもありましたけども、大きい声で「お姉ちゃん!」とか「会いたいよう!」とか、本当にご近所さんにすぐ聞こえるんではないかという叫びがありました。それも、日中ではなくて、夜になるとそういうことがありましたので、非常に私たち家族としても気を遣いましたし、娘はどんなに辛かったろうなと思いました。やっと学校に行けるようになったときに、私と娘と、担任の先生のところに、明日から学校に出ますということでご挨拶に行きました。先生もいろいろと娘のことを配慮してくれまして、ずっと不登校だったんですけども、それを認めた上で頑張りなさいということを言ってくれました。最後、「じゃあよろしくお願いします」と席を立つときに、先生が娘に向かって「あなたもすごく辛いと思うんですけども、お父さん、お母さんはもっと辛いんだよ」という一言があったんです。私はその一言が、「あっ、この言葉はまずいな」と思って、娘の顔を見ました。案の定、娘はそれまで、やっと穏やかな表情になっていたのが、一瞬険しくなりました。そして、一応型どおりの挨拶をして出たんですけれども、その後、夫の車で帰る途中ずっと、「先生は、お父さんとお母さんの方が、自分よりお姉ちゃんのことを思ってると言った。自分はお父さん、お母さんと同じくらいに辛いし、同じようにお姉ちゃんを思ってるんだ。何でああいうふうに差をつけるんだ」と、もう先生のところに行きたくない、勉強しに行きたくないと、また不登校が始まってしまったんです。そのことはとても辛かったですし、その先生は本当に娘を励ますつもりでその一言があったと思うんですが、遺族というのはほんの一言で、せっかく癒えかけた気持ちがまたどん底に落とされてしまうという、そういうことがあるということを本当に実感いたしました。

【私たちにできること】

それでは、私たちはどのように犯罪被害に遭われた方々に接していけばよいのでしょうか?

(山内)とにかく私が自分の体験から思ったことは、あまり腫物に触るようなそういう扱いをしないで欲しいなと思うときと、やっぱり、私たちの気持ちを考えていろいろな言葉を直接的にかけないで欲しいなと、そういうときがすごく入り交じるんです。ですから、いつもすんなりと、だんだん回復に向かっているということではなくて、回復に向かったかなと思ってもまた落ち込んでしまったりという、そういった波が遺族のほうにもありますので、そういうところにも、できれば、配慮してもらえれば非常にありがたいなと思います。

そういった理解が、非常に重要なのですね。

(長井)これまで犯罪被害者等の方々が経験されたことですが、すべての人は他人事として見ている、川向こうの火事というような見方を誰もがしていたように思えてならないという異口同音の発言はいろいろ聞いてきました。しかしながら犯罪被害というのは、いつ、誰の身に起こっても、全く不思議でない、誰もしたくはない経験だと思います。決して他人事とは考えず、自分の身に起こったら、あるいは自分の家族、友人の身に起こったらどうなるのかということを考えて、我がことのように考えながら、傷ついた人たちの心の痛みを理解するようにしていただくことも非常に大切だと思います。
被害者問題に関しましては、一般国民の立場からすると、メディアを通して知ること以外に、積極的に自ら、被害者の心情、あるいは被害者の回復過程を調べたりするということは少ないと思いますので、国民も被害者から学ぶということがあると、非常にいいのではないかと思います。

様々な犯罪が、私たちの周りで起こっています。私たちの誰もが、犯罪被害者になり得る現実があります。不幸にして犯罪の被害に遭ってしまった方々は、犯罪そのものによる被害だけではなく、二次被害にも苦しめられることが少なくありません。何の落ち度もない犯罪被害者やそのご家族・ご遺族が、1日でも早く、再び平穏な生活を営むことができるようになるために、私たちの理解と配慮がとても大切なのです。

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