第1節 国際的にみた我が国の治安の現状

1 諸外国との犯罪情勢の比較

(1) 犯罪の認知、検挙状況
 殺人、強盗、侵入盗の認知、検挙状況を英国、西独、フランス、米国の欧米主要4箇国と比べると、次のとおりである。
(注1) 英国とは、イングランド及びウェールズをいう。
(注2) 各国に係る数字は、それぞれの国の犯罪統計書による。
ア 認知件数の比較
 昭和51年から60年までの10年間の認知件数の推移を比べると、図1-1のとおりである。殺人については、英国の増加傾向が目立ち、強盗については、英国、フランスの増加傾向が目立つ。我が国は、すべての罪種で減少又は横ばい傾向にある。
イ 犯罪率の比較
 60年の犯罪率を比べると、図1-2のとおりであり、我が国の犯罪率は、欧米4箇国と比べて低い。すなわち、殺人については、我が国は1.5件で、米国の約5分の1、フランス、西独の約3分の1となっており、強盗については、我が国は1.5件で、米国の約139分の1、フランスの約72分の1となっている。また、侵入盗についても、我が国は248.4件で、西独の約10分の1、英国の約7分の1となっている。
ウ 検挙率の比較
 51年から60年までの10年間の検挙率の推移を比べると、図1-3のとおりである。我が国の検挙率は、すべての罪種で上昇又は横ばい傾向に あり、また、各年とも欧米4箇国と比べて高い。

図1-1 認知件数の推移(昭和51~60年)



図1-2 犯罪率の比較(昭和60年)

図1-3 検挙率の推移(昭和51~60年)




(2) 高い我が国の治安水準
 以上に示したとおり、我が国の治安水準は、欧米4箇国と比べて良好であるが、その理由は、
○ 我が国は、四方を海で囲まれた島国であり、また、言語、文化の同質性が高いこと
○ 国民の教育水準が高く、規範意識が伝統的に強いこと
○ 失業率が低く、各人の努力により就業、収入等の機会が平等に保障され、貧富の差が少ないこと
○ 銃砲及び習慣性薬物の取締りが厳しいこと
○ 国民の警察に対する信頼が厚く、警察活動に協力的であること
などであるといわれている。

2 諸外国との交通事故死者数の比較

 昭和56年から60年までの5年間における我が国及び英国、西独、フランス、米国の欧米主要4箇国の交通事故死者数の推移は、表1-1のとおりである。

表1-1 交通事故死者数の推移(昭和56~60年)

 国によって交通事故死者の定義が異なるため安易に比較することはできないが、我が国の交通事故死者数は、人口に対比すれば他の国よりもかなり少なく、我が国は、道路交通の分野でも世界中で最も安全な部類に入るものと思われる。

3 我が国の治安に関する来日外国人の意識

 (財)公共政策調査会では、昭和62年2月、「来日外国人に対するアンケート調査」(注)を行い、我が国に居住する外国人が我が国の犯罪情 勢、道路交通事情、警察活動一般に関してどのような印象を持っているかについて調査した。
(注) このアンケート調査は、主に首都圏に居住する2,120人の来日外国人を対象として行ったものであり、回答者数は878人、回答率は41.4%であった。
(1) 我が国の犯罪情勢に関する来日外国人の意識
ア 犯罪に対する不安感
 来日外国人に対し、犯罪に対する不安を感じているかどうかについて質問した結果(有効回答者805人)は、図1-4のとおりである。これをみると、「非常に不安を感じている」と答えた者が46人(5.7%)、「かなり不安を感じている」と答えた者が84人(10.4%)であり、不安を感じている者は16.1%である。これに対し、「ほとんど不安を感じていない」と答えた者は222人(27.6%)、「あまり不安を感じていない」と答えた者は354人(44.0%)であり、71.6%の者が不安を感じておらず、「日本は安全な国である」という意識を持っている外国人の多いことが分かる。

図1-4 犯罪に対する不安感

 次に、犯罪に対する不安感を罪種等別にみると、図1-5のとおりである。各罪種等について、不安を感じている者の数(「非常に不安を感じている」、「かなり不安を感じている」と答えた者の数)と不安を感じていない者の数(「ほとんど不安を感じていない」、「あま り不安を感じていない」と答えた者の数)を比べると、どの罪種等についても、不安を感じていない者の数が不安を感じている者の数を上回っているが、不安を感じている者の数は、「痴漢等の性的な犯罪」、「暴力団による犯罪」、「極左暴力集団による犯罪」については比較的多く、「スリ、ひったくり等」、「誘拐等の悪質な犯罪」、「人を殴ったり、お金を脅し取ったりする粗暴な犯罪」、「強盗等の凶悪な犯罪」、「空き巣等の侵入盗」については比較的少ない。中でも、「痴漢等の性的な犯罪」については、不安を感じている者の割合が、34.4%(女性回答者では、55.6%)と全罪種等中最高となっていることが注目される。また、「暴力団による犯罪」、「極左暴力集団による犯罪」については、これらの犯罪の被害経験のある者が少ないにもかかわらず、不安を感じている者の数が多いことから、これらの犯罪集団の凶悪性とこれに対する来日外国人一般の関心の深さがうかがえる。

図1-5 罪種等別の犯罪に対する不安感

イ 犯罪被害の経験
 来日外国人に対し、犯罪の被害に遭ったことがあるかどうかについて質問した結果(有効回答者763人)は、犯罪の被害に遭ったことがある者が104人(13.6%)で、659人(86.4%)の者が犯罪の被害に遭ったことがない。また、犯罪の被害に遭ったことがある者に対し、その回数を質問した結果(有効回答者87人)は、図1-6のとおりであり、1回だけの者が46人で、有効回答者の半数以上を占めている。

図1-6 犯罪の被害に遭った回数

 次に、犯罪の被害に遭ったことがある者に対し、その被害内容について質問した結果(有効回答者100人)は、図1-7のとおりであり、「自動車、バイク、自転車等をねらった乗物盗」、「空き巣等の侵入盗」、「痴漢等の性的な犯罪」、「スリ、ひったくり等」の被害経験が多い。

図1-7 被害内容

ウ 犯罪被害に遭ったときの処置
 犯罪の被害に遭ったことがある来日外国人に対し、被害時に警察へ連絡したかどうかについて質問した結果(有効回答者101人)は、図1-8のとおりであり、過半数の者が「連絡した」と答えている。
 連絡しなかった者に対し、その理由を尋ねた結果(有効回答者45人)は、「被害が小さいから」と答えた者が24人(53.3%)で、最も多い。

図1-8 被害時の警察への連絡

エ 外国と比較した我が国の治安
 来日外国人に対し、我が国は諸外国と比べて犯罪が多いか少ないかについて質問した結果(有効回答者776人)は、図1-9のとおりで、「非常に少ない」と答えた者が241人(31.1%)、「どちらかといえば少ない」と答えた者が267人(34.3%)であり、65.4%の者が我が国は犯罪が少ないと答えている。

図1-9 諸外国と比べた我が国の犯罪の状況

 我が国は犯罪が少ないと答えた者に対し、その理由を尋ねた結果(有効回答者482人)は、図1-10の とおりであり、「集団への帰属性を重視する国民性のため」のほかに、「警察力が充実しているから」、「国民が警察に協力的だから」と答えた者が多く、我が国の治安維持に果たしている警察の役割とともに、国民と警察との緊密な協力関係を高く評価していることが注目される。

図1-10 我が国の犯罪が少ない理由

(2) 我が国の道路交通事情に関する来日外国人の意識
 来日外国人に対し、我が国の道路交通の渋滞状況について質問した結果(有効回答者807人)は、図1-11のとおりである。これによれば、交通渋滞が「かなりひどい」、「極めてひどい」と感じている者を合わせる と60%を超えており、多くの来日外国人が、我が国の交通渋滞の状況を相当に厳しいものであるとみていることが分かる。

図1-11 我が国の交通渋滞の状況

 また、道路交通の安全性について質問した結果(有効回答者786人)は、図1-12のとおりであり、「非常に安全である」、「かなり安全である」と感じている者を合わせるとこれも60%を超えており、多くの来日外国人が、我が国の道路交通状況は厳しい環境にあるにもかかわらず、安全が確保されているとみていることが分かる。

図1-12 我が国の道路交通の安全性

(3) 我が国の警察に関する来日外国人の意識
ア 交番制度について
 来日外国人に対し、我が国の交番制度に対する印象について質問した結果(有効回答者807人)は、表1-2のとおりであり、637人(78.9%)の者が「良い」と感じている。その理由について質問した結果(有効回答者622人)は、表1-3のとおりで、「警 察に連絡しやすい」、「安心感がある」、「気やすく道等をきける」と答えた者が多い。「極めて良くないと思う」と答えた者は皆無であったが、「あまり良くないと思う」と答えた者29人にその理由を尋ねたところ、「見張られているように感じる」、「警察力が分散し非能率である」等と答えた者が多い。

表1-2 我が国の交番に対する印象

表1-3 交番が「良い」と感じている理由

イ 110番電話について
 110番電話について尋ねた結果(有効回答者783人)は、「知っている」と答えた者が638人(81.5%)であり、我が国での生活期間が1年未満の者では75.5%、3年以上5年未満の者では90.0%、10年以上の者では94.3%と、滞日期間が長いほど110番電話について知っている者の比率が高くなっている。「知っている」と答えた者のうち、実際に110番電話を利用したことのある者は、26人(4.1%)であり、利用した理由は、 「犯罪の被害を受けた」(41.7%)、「迷惑な行為の取締りを要望」(20.8%)、「保護が必要な人を発見した」(12.5%)、「個人的な困りごとがあった」(12.5%)等である。
ウ 警察官に対する印象について
 我が国の警察官に対する印象について質問した結果は、表1-4のとおりであり、警察官の規律、廉潔性及び勤勉性に関する質問については、いずれも肯定的回答が否定的回答を大きく上回っている。すなわち、「規律正しい」と答えた者が55.3%であるのに対して「規律が乱れている」と答えた者は1.1%、「廉潔である」と答えた者が44.5%であるのに対して「廉潔でない」と答えた者は2.9%、「勤勉である」と答えた者が59.7%であるのに対して「勤勉でない」と答えた者は2.5%にすぎない。このことから、多くの来日外国人が我が国の警察官の勤務態度は優

表1-4 我が国の警察官に対する印象

秀であると考えていることが分かる。さらに、我が国の警察官に対する国民の信頼感及び社会的評価に関する質問については、「信頼されている」と答えた者が61.2%であり、「社会的評価が高い」と答えた者も過半数を占めている。このことからも、我が国の警察官に対する来日外国人の評価が高いことがうかがえる。


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