第1章 警察における科学技術の活用

-科学化の進む警察活動-

 我が国の治安は、欧米先進諸国に比較して良好に維持されている。しかし、治安情勢は時代の変化を色濃く反映するものであり、近年における都市化の進展や社会構造の変化等に伴い、犯罪は量的に増加しているだけでなく、質的にも悪化の傾向にある。また、交通事故は再び増加傾向を示し、都市における交通渋滞もますます激化するなど、現在の治安水準を今後も維持できるかどうか予断を許さない情勢を迎えつつある。
 治安事象の主な動向をみると、第1に、刑法犯認知件数は近年増加を続け、昭和59年には約159万件と、23、24年に次いで戦後3番目を記録している。また、犯罪は質においても、社会における科学技術の進歩、通信手段の普及、情報化の進展に伴う犯罪知識の豊富化等により、いわゆるグリコ・森永事件、極左暴力集団による「ゲリラ」事件に典型的にみられるように、証拠の隠滅、新手口の利用等犯行手段の悪質、巧妙化がますます進んでいる。さらに、交通機関の発達は、犯罪者の行動圏の拡大と逃走のスピード化とを助長している。
 一方、地域社会の連帯意識の希薄化、匿名性の増大等は住民等からの有効な捜査情報の入手を困難にし、また、経済社会の発展に伴う商品の大量生産、大量流通は「物」からの捜査を難しくしつつある。
 第2に、道路交通情勢に関しては、自動車保有台数は依然増加の傾向にあり、運転免許保有者数も8月末には5,000万人を超えるなど、交通の大量化は進行する一方である。これに伴って、交通事故発生件数も、59年には、約52万件と膨大な数に上っている。また、都市を中心とする 交通渋滞の深刻化は社会経済活動にも大きな影響を与えており、安全で効率的な都市交通機能の確保は大きな社会的要請となっている。
 これらをはじめとする治安事象の増加や複雑化に適切に対処し、国民の期待にこたえていくため、警察は、組織、体制の充実とともに警察力の効率的運用に努めているところである。
 特に、近年においては、初動活動、犯罪捜査、交通管理、災害対策等警察運営全般にわたり、コンピュータ、電子通信技術をはじめとする最新の科学技術を大幅に導入し、これを活用することによって、従来の方法では対処が困難又は不可能であった領域に挑み、警察活動の迅速性、確実性の向上を進めている。
 警察の活用すべき科学技術はあらゆる科学分野にわたっており、なお充実、向上を図るべき課題は多い。今後も、国民生活の安全を確保していくため、時代の変化を的確にフォローし、それぞれの治安事象に対応できる科学技術を最適に活用していくよう、不断の努力を重ねる必要がある。


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