第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

第2節 警察捜査のための基盤整備

1 捜査力の強化

(1)捜査手法、取調べの高度化への取組

警察庁では、「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」(注)の提言を受け、24年3月、「捜査手法、取調べの高度化プログラム」を策定し、次の施策を推進している。

注:国家公安委員会委員長が主催し、有識者から構成された研究会。平成22年2月、治安水準を落とすことなく取調べの可視化を実現するため幅広い観点から検討することを目的として発足し、24年2月に最終報告を公表した。
① 取調べの録音・録画の試行の拡充

警察では、裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証に資する方策について検討するため、20年9月から警視庁等において取調べの録音・録画の試行を開始し、現在では、全ての都道府県警察において、裁判員裁判対象事件及び知的障害を有する被疑者に係る事件について、取調べの様々な場面を対象に試行を実施している。

② 取調べの高度化・適正化等の推進

警察庁では、取調べにおいて真実の供述を適正かつ効果的に得るための技術の在り方やその伝承方法について、時代に対応した改善を図るため、24年12月に心理学的知見を取り入れた教本「取調べ(基礎編)」を作成したほか、25年5月には「取調べ技術総合研究・研修センター」を新設するなどして、取調べの高度化・適正化等を推進している。

③ 捜査手法の高度化の推進

警察庁では、取調べ及び供述調書への過度の依存から脱却するとともに、科学技術の発達等に伴う犯罪の高度化・複雑化等に的確に対応し、客観証拠による的確な立証を図ることを可能とするため、DNA型鑑定及びDNA型データベースを効果的に活用するための取組や、通信傍受の合理化・効率化、仮装身分捜査の導入を始めとする捜査手法の高度化に向けた検討を推進している。

(2)初動捜査における客観証拠の収集

事件発生時には、迅速・的確な初動捜査を行い、犯人を現場やその周辺で逮捕し、又は現場の証拠物や目撃者の証言等を確保することが、犯人の特定や犯罪の立証のために極めて重要である。

警察では、機動力をいかした捜査活動を行うため、警視庁及び道府県警察本部に機動捜査隊を設置し、事件発生時に現場や関係箇所に急行して犯人確保等を行っているほか、機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等を編成し、現場鑑識活動を徹底するとともに、より効果的な鑑識活動を行うため、関連技術の研究開発や資機材の開発・整備を推進している。

 
図表2-48 初動捜査態勢の整備と鑑識活動の徹底
図表2-48 初動捜査態勢の整備と鑑識活動の徹底

コラム 警察犬の活動について

我が国では、警察犬を犯罪捜査等に活用しており、平成26年中の出動件数は、9,329件であった。

警察犬には、都道府県警察等で直接飼育している直轄警察犬と、民間で飼育している嘱託警察犬とがあり、いずれも高度な訓練を重ね、高い能力を有している。25年6月、大阪市内において発生した未成年者略取事件では、捜査の初期段階で警察犬が被害者の遺留品を発見したことが早期の被疑者検挙につながるなど、警察犬の活動が事件解決に大きく貢献している。

 
警察犬の出動
警察犬の出動

(3)国民からの情報提供の促進

警察では、犯罪捜査に不可欠な国民の理解と協力を得るため、国民に対し、都道府県警察のウェブサイトを活用して情報提供を呼び掛けるほか、様々な媒体を活用して、聞き込み捜査に対する協力、事件に関する情報の提供等を広く呼び掛けている。また、必要に応じ、被疑者の発見・検挙や犯罪の再発防止のため、被疑者の氏名等を広く一般に公表して捜査を行う公開捜査を行っている。

さらに、警察庁では、平成19年度から、国民からの情報提供を促進し、重要犯罪等の検挙を図ることを目的として、公的懸賞金制度である捜査特別報奨金制度を導入し、警察ウェブサイト(注)等で対象となる事件等について広報している。

注:http://www.npa.go.jp/reward/index.html

(4)犯罪死の見逃し防止への取組

平成26年中に警察が取り扱った死体数は約16万6,000体であり、過去10年間で約1.1倍に増加している。

警察では、適正な死体取扱業務を推進して犯罪死の見逃しを防止するため、検視官(注)の臨場率の向上、死体取扱業務に携わる警察官に対する教育訓練の充実及び資機材の整備による体制の強化を推進している。

また、25年4月1日には、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律が施行されたことから、警察では、同法に規定された調査、検査等の措置を的確に実施するなど、その適正な運用に努めている。

注:原則として、刑事部門における10年以上の捜査経験又は捜査幹部として4年以上の強行犯捜査等の経験を有する警視の階級にある警察官で、警察大学校における法医専門研究科を修了した者から任用される死体取扱業務の専門家
 
図表2-49 死体取扱数、検視官の臨場率及び検視官数の推移(平成17~26年)
図表2-49 死体取扱数、検視官の臨場率及び検視官数の推移(平成17~26年)
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(5)捜査技能の組織的な伝承

警察官が大量退職し、平成15年からの10年間で地方警察官(注)の4割以上が入れ替わるなど、急速に世代交代が進んでいる。これは、刑事部門においても例外ではなく、多くの捜査員が退職する一方、若い捜査員が多数任用されている。

このような中、地域の治安に責任を持つ警察署においては、捜査経験が豊富な捜査員が少なくなってきており、犯罪の捜査に必要不可欠な捜査技能の伝承が課題となっている。

従来、捜査技能については、先輩や上司のやり方を見習わせ、実際に何度も経験させてみるなど、捜査経験が豊富な捜査員と共同して捜査に当たるオンザジョブトレーニング(以下「OJT」という。)により伝承されてきた。しかし、捜査員の世代交代が急速に進んだことから、OJTによる方法のみでは捜査技能の伝承が困難となっており、警察では、体系的に捜査技能が伝承されるよう、組織的な取組を進めている。

注:都道府県警察の警視正以上の階級の警察官である地方警務官を除く、都道府県警察の警察官
① 新時代に対応した刑事捜査員の育成

新たな捜査手法や最先端の科学技術を活用した捜査は、全ての捜査員が実際の事件で経験できるわけではない。他方で、こうした捜査手法等が必要となる事件は、時間や場所を問わず発生し得るものである。警察では、各捜査員の捜査技能の更なる向上を図るため、様々な教育訓練の場において、仮想の事件の模擬的な捜査を通じて、防犯カメラ画像、DNA型鑑定資料等の客観証拠の収集方法を含む様々な捜査手法全般を体験させるなどしている。

捜査幹部に対しては、警察大学校、管区警察局、管区警察学校等において教育訓練を行い、事件の全容を把握した上での適切な捜査方針の策定、事件の性質に応じた組織的捜査の推進、被疑者の特性に応じた適正な取調べの方法、裏付け捜査の徹底等の捜査運営等、捜査幹部としての職務に必要な知識及び技能の向上を図っている。

 
先輩捜査員による指導状況(指紋の採取)
先輩捜査員による指導状況(指紋の採取)
 
先輩捜査員による指導状況(DNA型鑑定に用いる資料の採取)
先輩捜査員による指導状況(DNA型鑑定に用いる資料の採取)
② 警察庁指定広域技能指導官制度

警察庁では、6年から警察庁指定広域技能指導官制度の運用を開始し、卓越した専門技能又は知識を有する警察職員を警察庁長官が指定し、その職員を警察全体の財産として、都道府県警察の枠組みを超えて広域的に指導官として活用している。

現在、全国警察において、情報分析、強行犯捜査、窃盗犯捜査、薬物事犯捜査、鑑識等の各分野で広域技能指導官が指定され、各都道府県警察職員に対して警察活動上必要な助言や実践的指導を行うとともに、警察大学校、管区警察学校等において講義を実施している。

(6)犯罪インフラ対策の推進

犯罪インフラとは、犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいい、不法滞在者等に在留資格を不正取得させる手段となる偽装結婚や偽装認知等のように、その行為自体が犯罪となるもののほか、それ自体は合法であっても、詐欺等の犯罪に悪用されている各種制度やサービス等がある。犯罪インフラは、あらゆる犯罪の分野で着々と構築され、犯罪組織等がこれを利用して各種犯罪を効率的に敢行するなど、治安に対する重大な脅威となっている。

警察では、犯罪インフラに関連する情報を広範に収集・分析し、関係事業者等との連携を推進することによって、犯罪インフラの解体等を図るとともに、当該サービス等に係る捜査に必要な情報の確保と円滑な入手を可能とすることにより、迅速かつ的確な捜査に資する捜査環境として、いわゆる捜査インフラを構築するための取組を推進している。

警察庁においては、こうした取組を更に強化するため、平成26年4月、刑事局に捜査支援分析管理官を設置した。捜査支援分析管理官においては、関係機関・団体等と連携して、犯罪の捜査に必要な情報の適時・円滑な確保を可能にする取組を行っていくとともに、携帯電話、預貯金口座等のほか、技術の発展等に伴う新たな制度・サービスが犯罪に悪用されることを防止・解消するための取組を推進している。

 
図表2-50 犯罪インフラの解体等及び捜査インフラの構築
図表2-50 犯罪インフラの解体等及び捜査インフラの構築

コラム 携帯電話の本人確認の徹底に向けた取組

携帯電話事業者は、携帯電話の契約に際しては、携帯電話不正利用防止法により、契約者に対する本人確認が義務付けられている。しかし、本人確認が不十分であったり、偽変造された本人確認書類が用いられたりすることにより、携帯電話が不正に取得され、犯罪に悪用される場合がある。これらの携帯電話は、契約者(名義人)と実際の使用者が異なっているため、実際の使用者を特定することが困難となる。

警察では、携帯電話事業者等に対し、偽変造の疑いがある本人確認書類による契約の申込みがあった場合の警察への通報を依頼するなど、契約者の本人確認の徹底を促している。

また、携帯電話が犯罪に悪用されていると認められる場合、同法に基づき、携帯電話事業者に対し、当該携帯電話の契約者に契約者情報を確認するなどして本人確認を行うよう求めている。

なお、警察から契約者の確認を求められた携帯電話事業者は、契約者が本人確認に応じない場合には、同法に基づき、携帯電話の利用を停止する措置を執っている。

 
図表2-51 警察が契約者の確認を求めた状況(平成22~26年)
図表2-51 警察が契約者の確認を求めた状況(平成22~26年)
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