特集:変容する捜査環境と警察の取組 

3 振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の情勢と捜査上の課題

(1)特殊詐欺の情勢

特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝も含む。)の総称であり、振り込め詐欺(オレオレ詐欺(注1)、架空請求詐欺(注2)、融資保証金詐欺(注3)及び還付金等詐欺(注4))のほか、金融商品等取引名目、ギャンブル必勝情報提供名目、異性との交際あっせん名目等の詐欺がある。

平成15年5月以降、オレオレ詐欺の発生が目立ち始め、16年には、これを含めた振り込め詐欺の認知件数は2万5,667件、被害総額(注5)は約283億8,000万円となった。その後、認知件数及び被害総額は共に高水準で推移したが、警察の取締活動の強化、ATM利用限度額の引下げの促進、金融機関職員等による顧客への声掛け等の官民一体となった予防活動、凍結口座の名義人に関する情報を金融機関に提供するなどの犯行に悪用される預貯金口座、携帯電話等への対策により、21年には、16年と比べ、それぞれ約3分の1にまで減少した。

しかし、23年以降、主に高齢者が被害者になっているオレオレ詐欺において現金を直接受け取る手口が広がり、その被害総額が増加した。また、22年頃から未公開株や社債の取引を装う金融商品等取引名目の詐欺等、振り込め詐欺には該当しない特殊詐欺が多発したため、警察では、これらについても振り込め詐欺と同様に対策の対象とすることとした。それ以降も、特殊詐欺全体の認知件数及び被害総額は、それぞれ増加を続けている。

特に、被害総額については、1件当たりの被害額が大きくなりがちな、現金を直接受け取る手口のオレオレ詐欺や金融商品等取引名目の詐欺の多発により、25年中は約489億5,000万円に上り、過去最高となった。

注1:親族を装うなどして電話をかけ、会社における横領金の補填金等の様々な名目で現金が至急必要であるかのように信じ込ませ、動転した被害者に指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注2:架空の事実を口実に金品を請求する文書を送付して、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注3:融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺

注4:市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺(平成18年6月に初めて認知された。)

注5:特殊詐欺の被害により、被害者がだまし取られた金額に、キャッシュカードを直接受け取る手口におけるATMからの引出(窃取)額を加えたもの

 
図表-23 特殊詐欺の認知件数・被害総額の推移(平成16~25年)
図表-23 特殊詐欺の認知件数・被害総額の推移(平成16~25年)
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図表-24 特殊詐欺の検挙状況の推移(平成16~25年)
図表-24 特殊詐欺の検挙状況の推移(平成16~25年)
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(2)特殊詐欺事件捜査の課題

特殊詐欺事件の捜査では、末端被疑者の検挙のみならず、突き上げ捜査を通じた組織の壊滅が課題である。

図表-25のとおり、特殊詐欺の犯行グループは、リーダーや中核メンバーを中心として、電話を繰り返しかけて被害者をだます「架かけ子」、自宅等に現金等を受け取りに行く「受け子」等が役割を分担し、グループ内でも連絡の痕跡を残さないようにしているため、犯行グループ全体の解明が困難となっている。

 
図表-25 犯行グループの構造
図表-25 犯行グループの構造

また、図表-26のとおり、特殊詐欺の犯行には、犯行の態様に応じて様々なサービスが悪用されている。被害者への連絡手段として、電話転送サービスやレンタル携帯電話が悪用されるほか、被害金の受け渡しの手段として、郵便や宅配便、他人名義の預貯金口座、私設私書箱等が悪用されている。特に、「道具屋」等が特殊詐欺の犯行に悪用されることを承知で本人確認が不十分なまま契約された携帯電話や他人名義の預貯金口座を犯行グループに供給し、これらが犯行に悪用されていることが、被疑者の特定を困難にしている。

 
図表-26 特殊詐欺の犯行に悪用されている様々なサービス
図表-26 特殊詐欺の犯行に悪用されている様々なサービス

 第1節 犯罪情勢と捜査上の課題

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