第6章 公安の維持と災害対策 

第6章 公安の維持と災害対策

第1節 国際テロ情勢と対策

1 国際テロ情勢

(1)イスラム過激派等

平成25年中には、図表6-1のとおり、世界各地でテロ事件が相次いで発生するなど、イスラム過激派によるテロの脅威は依然として高い状況にある。また、イスラム過激派組織は、過激思想を介して緩やかなネットワークを形成しているとみられる。

 
図表6-1 平成25年に発生した主な国際テロ事件等
図表6-1 平成25年に発生した主な国際テロ事件等
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23年5月に「アル・カーイダ」の指導者のオサマ・ビンラディンが死亡した後、新たな指導者となったアイマン・アル・ザワヒリは、欧米諸国等に対するジハードの継続を表明している。また、「アル・カーイダ」関連組織は、中東・北アフリカ地域を中心に勢力を拡大している。25年1月には、アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件が発生し、邦人10人を含む40人が死亡した。

 
アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件で武装集団に投降する人々(時事)

アルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件で武装集団に投降する人々(時事)


近年、イスラム過激派組織は、インターネットを活用して過激思想を広め、構成員を勧誘するなどしているとみられるところ、これらの活動は、テロ組織と関わりのない個人が過激化してテロを引き起こす現象にも影響を与えている。テロ組織からの指示や支援を受けない個人によるテロは、「ローン・ウルフ(一匹おおかみ)」型のテロと呼ばれ、各国でその危険性が認識されている。同年4月に発生した米国・ボストンにおける爆弾テロ事件は、「ローン・ウルフ」型のテロに当たるとの見方がある。

また、最近のシリアにおける内戦では、世界各地のイスラム過激主義者等が活動を活発化させており、欧米出身者を含む多くの外国人がシリアに渡航しているとされる。各国では、こうした者が実戦経験を積み、武器の扱い方等を習得して帰国した後に、自国においてテロを敢行することが懸念されている。

このほか、25年9月には、ケニア・ナイロビのショッピングモールにおける襲撃テロ事件が発生し、少なくとも67人が死亡した。また、オリンピック開催を控えたロシア・ソチ北東の都市ボルゴグラードにおいて、同年10月から同年12月の間に3件の自爆テロ事件が発生した。

(2)我が国に対するテロの脅威

平成24年5月に米国が公開したオサマ・ビンラディン殺害時の押収資料によれば、「韓国のような非イスラム国の米国権益に対する攻撃に力を注ぐべき」と同人が指摘しているほか、米国で拘束中の「アル・カーイダ」幹部のハリド・シェイク・モハメドが、我が国に所在する米国大使館を破壊する計画等に関与したと供述していたことなども明らかになっている。こうした資料や供述は、米軍基地等の米国権益が多数存在する我が国に対する脅威の一端を明らかにしたものといえる。

また、過去に我が国は「アル・カーイダ」を始めとするイスラム過激派組織から、その幹部による声明等において、米国の同盟国としてのみならず、テロの標的として名指しされたこともある。

さらに、殺人、爆弾テロ未遂等の罪で国際刑事警察機構(ICPO)を通じ国際手配されていた者(注)が、過去に不法に我が国への入出国を繰り返していたことも判明しており、過激思想を介して緩やかにつながるイスラム過激派組織のネットワークが我が国にも及んでいることを示している。

このような事情や、海外においても、前述のアルジェリア・イナメナスにおける襲撃テロ事件を始め、邦人や我が国の権益がテロの標的となる事案等が発生していることなどに鑑みると、我が国は、国内外において、大規模・無差別テロの脅威に直面しているといえる。

注:同人は、国際連合安全保障理事会アル・カーイダ制裁委員会により、制裁対象として指定されている。

 
図表6-2 我が国に対するテロの脅威
図表6-2 我が国に対するテロの脅威

(3)日本赤軍と「よど号」グループ

① 日本赤軍

日本赤軍は、最高幹部の重信房子がハーグ事件(注1)等により起訴され公判中(注2)の平成13 年4月に日本赤軍の「解散」を宣言したのを受け、同年5月、組織としても「解散」の決定を表明したが、その後も別名称を使用して活動を継続しており、テロ組織としての危険性に変化はない。

警察では、国内外の関係機関との連携を強化し、国際手配中の7人の構成員の検挙及び組織の活動実態の解明に向けた取組を推進している。

注1:昭和49年9月、奥平純三ら3人が、オランダ・ハーグ所在のフランス大使館を占拠し、大使ら11人を人質として監禁した事件

注2:平成22 年8月、最高裁判所において懲役20 年の刑が確定した。

 
国際手配中の日本赤軍と「よど号」グループ1

国際手配中の日本赤軍と「よど号」グループ


② 「よど号」グループ

昭和45 年3月31日、田宮高麿ら9人が、東京発福岡行き日本航空351便、通称「よど号」をハイジャックし、北朝鮮に入境した。現在、ハイジャックに関与した被疑者5人及びその妻3人が北朝鮮にとどまっているとみられており(注)、このうち3人に対し、日本人を拉致した容疑で逮捕状が発せられている。

また、「よど号」犯人の妻らについては、これまでに帰国した5人を旅券法違反(返納命令拒否)等で逮捕し、いずれも有罪が確定している。その子女については、これまでに20人全員が帰国している。

警察では、「よど号」犯人らを国際手配し、外務省を通じて北朝鮮に対して身柄の引渡し要求を行うとともに、「よど号」グループの活動実態の全容解明に努めている。

注:ハイジャックに関与した被疑者1人及びその妻1人は死亡したとされているが、真偽は確認できていない。

(4)北朝鮮

① 北朝鮮による拉致容疑事案
ア 拉致容疑事案の捜査状況等

警察では、平成26年4月1日現在、日本人が被害者である拉致容疑事案12件(被害者17人)及び朝鮮籍の姉弟が日本国内から拉致された事案1件(被害者2人)の合計13件(被害者19人)を北朝鮮による拉致容疑事案と判断している。このうち、北朝鮮工作員等拉致に関与したとして8件に係る11人について、逮捕状の発付を得て国際手配を行っている。

また、警察では、これらの事案以外にも、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案があるとの認識の下、告訴・告発や相談・届出に係る事案についても、関係機関と緊密な連携を図りつつ、全国警察において徹底した捜査や調査を進めている。

北朝鮮は、20年6月に「拉致問題は解決済み」との従来の立場を変更し、全面的な調査の実施を約束したにもかかわらず、同年9月、一方的に調査開始を見合わせた。また、24年11月に行われた日朝政府間協議においては、拉致問題の更なる検討のため今後も協議を継続していくことで一致したが、同年12月に予定されていた日朝政府間協議は、北朝鮮が「人工衛星」と称するミサイル発射予告を行ったことなどから、我が国から北朝鮮に開催の延期を伝達した。その後、26年3月及び同年5月に日朝政府間協議が開催され、日本と北朝鮮は、同月、北朝鮮が拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施することで合意した。

イ 拉致の目的

北朝鮮の故金正日(キムジョンイル)国防委員長は、14年9月に行われた日朝首脳会談において、日本人拉致の目的について、「一つ目は,特殊機関で日本語の学習ができるようにするため、二つ目は、他人の身分を利用して南(韓国)に入るためである」と説明した。また、「よど号」犯人の元妻は、故金日成(キムイルソン)主席から「革命のためには、日本で指導的役割を果たす党を創建せよ。党の創建には、革命の中核となる日本人を発掘、獲得、育成しなければならない」との教示を受けた田宮高磨から、日本人獲得を指示された旨を証言している。

これらを含め、諸情報を分析すると、拉致の主要な目的は、北朝鮮工作員が日本人のごとく振る舞うことができるようにするための教育を行わせることや、北朝鮮工作員が日本に潜入して、拉致した者になりすまして活動できるようにすることなどであるとみられる。

 
図表6-3 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17人)
図表6-3 日本人が被害者である拉致容疑事案(12件17人)
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図表6-4 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2人)
図表6-4 日本人以外が被害者である拉致容疑事案(1件2人)
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ウ 拉致容疑事案等に関する取組

警察では、拉致容疑事案等に対する的確な捜査等を推進しているところであるが、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案(注)の真相解明に向けた取組を更に強化するため、25年3月、警察庁警備局外事情報部外事課に「特別指導班」を設置し、都道府県警察に対する指導を強化している。同班は、都道府県警察を巡回・招致して、捜査・調査の担当官への具体的な指導や当該事案の現場の実地調査、都道府県警察間の協力体制の構築等を行っている。また、海難事案として処理されているものについては、海上保安庁との連携を強化し、捜査・調査を行っている。

さらに、将来、北朝鮮から拉致被害者に関連する資料が出てきた場合に、本人確認に役立ち得るなどの観点から、個別の事案ごとに捜査上の必要性や家族の意向を勘案しつつ、積極的にDNA型鑑定資料の採取を実施しており、これまでに、家族から同意を得られた行方不明者614人に関するDNA型鑑定資料の採取を行っている(平成26年4月1日現在)。

これに加えて、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案については、その多くが発生から相当の年数を経過していることから、広く国民からの情報提供を求めるため、25年6月から、家族の同意を得られたものについては、「警察庁重点情報収集事案」として、行方不明者416人分(26年4月1日現在)の事案の概要等を都道府県警察のウェブサイトに掲載しているほか、同年9月からは405人分(26年4月1日現在)の行方不明者の一覧表を警察庁のウェブサイトに掲載するとともに、各都道府県警察のウェブサイトに掲載されている情報にアクセスできるようリンクさせている。

また、外国治安機関に対して、拉致容疑事案等についてハイレベルでの協力要請を行うなど、海外からの関連情報の収集にも努めている。

注:警察が把握している北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者は、平成26年4月1日現在、860人である。

 
図表6-5 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)
図表6-5 国際手配被疑者(拉致容疑事案関係)
② 北朝鮮による主なテロ事件

北朝鮮は、朝鮮戦争以降、南北軍事境界線を挟んで韓国と軍事的に対峙(じ)しており、これまで、韓国に対するテロ活動の一環として、工作員等によるテロ事件を世界各地で引き起こしている。中でも、昭和62年に発生した大韓航空機爆破事件は、日本人を装った工作員により敢行された。


 第1節 国際テロ情勢と対策

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