第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

1 子どもの安全対策

(1)子どもを犯罪から守るための取組み

〔1〕 子どもが被害者となる犯罪
 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数(以下「子どもの被害件数」という。)は、平成14年以降減少傾向にあるが、21年中は3万3,480件と、前年より146件(0.4%)増加した。
 21年中の全刑法犯に係る被害件数に占める子どもの被害件数の割合の高い罪種についてみると、略取誘拐が49.4%(77件)、強制わいせつが14.0%(936件)、公然わいせつが9.6%(80件)、殺人が7.2%(78件)と、特に高くなっている。
 
図1-43 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成12年~21年)
図1-43 刑法犯に係る13歳未満の子どもの被害件数の推移(平成12年~21年)
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図1-44 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成12年~21年)
図1-44 13歳未満の子どもの罪種別被害状況の推移(平成12年~21年)
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〔2〕 犯罪から子どもを守るための施策

ア 学校周辺、通学路等の安全対策
 警察では、子どもが被害者となる事件を未然に防止し、子どもが安心して登下校することができるよう、通学路や通学時間帯に重点を置いた警察官によるパトロールを強化するとともに、退職した警察官等をスクールサポーター(第1章第4節2参照)として委嘱し、積極的に学校へ派遣するなどして、学校と連携して、学校や通学路における児童・生徒の安全確保等を推進している。
 
防犯教室
防犯教室

イ 被害防止教育の推進
 警察では、子どもが犯罪に巻き込まれる危険を予見・回避する能力を向上させるため、幼稚園や保育所、小学校等において、学年や理解度に応じ紙芝居、演劇やロールプレイ方式等により、子どもが参加・体験できる防犯教室を学校や教育委員会と連携して開催しているほか、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。
 
子どもの安全に関する情報の提供
子どもの安全に関する情報の提供

ウ 情報発信活動の推進
 子どもが被害に遭った事案等の発生に関する情報については、迅速に児童や保護者に対し情報提供が行われるよう、警察署と小学校及び教育委員会との間で情報共有体制を整備している。また、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報提供システムによる情報発信を行うなど、地域住民に対する積極的な情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援
 警察では、「子ども110番の家」として危険に遭遇した子どもの一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っている。また、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を積極的に支援している。

コラム6  子どもを犯罪から守るための環境づくり支援モデル事業

 警察庁では、防犯ボランティア団体による子どもを犯罪から守るための環境づくりを支援するため、全国で15の防犯ボランティア団体をモデル事業実施団体に選定し、子ども見守り活動等を補完するための防犯カメラの整備や防犯ボランティア団体の情報発信等のためのサイトの運営等を行っている。

〔3〕 子ども女性安全対策班による活動の推進
 警察では、子どもと女性を性犯罪等の被害から守るための取組みを強化するため、21年度予算において警察官の増員を行い、性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の段階で行為者を特定し、検挙・指導警告等の措置を講じる活動(先制・予防的活動)に専従する「子ども女性安全対策班(JWAT)(注)」を全国の警察本部に設置した。
 従来の検挙活動や防犯活動に加え、先制・予防的活動を積極的に推進していくことにより、子どもや女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Team


(2)少年の福祉を害する犯罪への取組み
 警察では、児童に淫行をさせる行為のように、少年の心身に有害な影響を与え少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」(注)という。)の取締りと被害少年の発見・保護を推進している。
 また、日本国民が国外で犯した児童買春・児童ポルノ事犯等の取締りや国際捜査協力を強化するため、警察庁では、平成14年以降、毎年、東南アジア各国の捜査関係者、非政府組織(NGO)関係者等を招いて、児童の商業的・性的搾取対策に関する取組みについて意見交換を行う東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取対策に関するセミナー及び捜査官会議(CSEC)を開催しており、21年11月には、第8回会議を開催した。

注:児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春等)、労働基準法違反(年少者の危険業務、深夜業等)等

 
図1-45 福祉犯の法令別検挙人員(平成21年)
図1-45 福祉犯の法令別検挙人員(平成21年)
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表1-14 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成20、21年)
表1-14 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成20、21年)
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(3)児童虐待対策
 平成21年中の児童虐待事件の検挙件数は335件と、前年より28件(9.1%)増加し、最近5年間で1.5倍に増加した。
 児童虐待の早期発見と被害児童の早期保護は、児童の生命・身体の保護という警察の責務であることから、警察では、児童相談所、学校、医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講ずることとしている。
 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、速やかに児童相談所等に通告するほか、厳正な捜査や被害児童の支援等、警察としてできる限りの措置を講じて、児童の安全の確認及び確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また、児童の保護に向けて、個別事案についての情報を入手した早期の段階から、関係者間で情報を共有し、対応の検討が行えるよう、児童相談所等関係機関との連携の強化を図っている。
 
図1-46 児童虐待事件の態様別検挙状況の推移(平成17~21年)
図1-46 児童虐待事件の態様別検挙状況の推移(平成17~21年)
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事例
 21年7月、長男(2)をごみ箱に入れてふたを閉じるなどして脱出不能な状態にしたまま放置し、死亡させた。実父(34)及び実母(33)を監禁致死罪で逮捕した(警視庁)。

コラム7 児童虐待事案を対象とした匿名通報ダイヤル

 児童虐待事案は、家庭内で起きる場合が多いことから潜在化しやすく、また、被害を受けた児童からは自主的な被害申告が期待できないことから、早期に発見することが困難である。さらに、発見が遅れた場合には、虐待が反復、継続することとなり、児童の死亡等重大な結果を招くおそれがある。
 このため、警察庁では、22年2月から、子どもや女性を守るための匿名通報事業(警察庁の委託を受けた民間団体が、少年福祉犯罪や人身取引事犯の通報を匿名で受け付け、有効な通報を行った者に対して情報料を支払う事業。いわゆる「匿名通報ダイヤル」)の対象に児童虐待事案を加え、児童虐待事案の早期発見と被害児童の発見保護に努めている。

(4)少年の犯罪被害への対応
 平成21年中の少年が被害者となった刑法犯の認知件数(注1)は27万5,322件であり、このうち凶悪犯は1,108件、粗暴犯は1万2,970件であった。
 警察では、被害少年に対し、少年補導職員(注2)を中心に継続的にカウンセリングを行うなどの支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等部外の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。
 また、警察では、少年が出会い系サイト等を利用することによって犯罪に巻き込まれたり、インターネット上の違法情報・有害情報に触れたりすることのないよう、コンピュータ及び携帯電話におけるフィルタリング・ソフト又はサービスの普及促進や広報啓発活動等の取組みを推進している。

注1:20歳未満の少年が被害者となった刑法犯の認知件数をいう。
 2:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監及び道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成22年4月1日現在、全国に約1,000人の少年補導職員が配置されている。

 
図1-47 被害少年の支援活動
図1-47 被害少年の支援活動

事例
 性犯罪の被害を受けた少年は、不登校になるなど精神的なダメージを受けていたことから、継続的に支援を行う必要性が認められた。少年サポートセンターの少年相談員が、約1年間にわたり、継続的にカウンセリングや貼り絵を用いた心理療法等を行うとともに、少年警察ボランティアの被害少年サポーターと連携し、面接や学校との連絡調整等きめ細やかな支援活動を行った結果、少年は明るさを取り戻して登校するようになり、安定した生活を過ごすことができるようになった(神奈川)。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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