第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

3 構造的な不正事案

(1)政治・行政をめぐる不正事案
 地方公共団体の長や議員による贈収賄事件、競売入札妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正が相次いで表面化している。
 警察では、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めており、平成20年中の政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注)は77事件と、前年より4事件(5.5%)増加した。

注:同一の被疑者で同種の余罪がある場合でも、一つの事件として計上した統計

 
図1-19 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成11~20年)
図1-19 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成11~20年)
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事例1
 元大分県教育庁参事兼教育審議監(61)は、18年9月ころから同年10月ころにかけて、公立学校教員採用選考試験の受験生の親から、同試験に関して有利な取り計らいを受けた謝礼等の趣旨で、商品券(合計100万円相当)を収受した。
 また、元同庁義務教育課人事班課長補佐(52)は、同年10月ころから19年10月ころにかけて、同試験の受験生の親から、同趣旨で、商品券(合計200万円相当)及び現金300万円を収受したほか、同年12月ころから20年3月ころにかけて、市町村立小・中学校校長採用候補者選考試験等を受験した元市立小学校教頭らから、同試験に関して有利な取り計らいを受けた謝礼等の趣旨で、商品券(合計110万円相当)を収受した。
 さらに、元同庁教育審議監(60)は、同年3月ころ、元市立小学校長兼中学校長から、幹部職員の定期人事異動に関して有利な取り計らいを受けた謝礼の趣旨で、商品券(20万円相当)を収受した。
 同年9月までに、同元参事兼教育審議監、同元教育審議監及び同元課長補佐を収賄罪で逮捕し、同元小学校長兼中学校長、同元小学校教頭、教員採用選考試験受験生の親ら6人を贈賄罪で検挙した(大分)。

事例2
 元文部科学省大臣官房文教施設企画部長(59)は、16年4月ころから18年4月ころにかけて、建築会社顧問(58)から、国立大学法人等が発注する文教施設の整備事業に関して有利な取り計らいを受けた謝礼等の趣旨で、現金270万円を収受した。20年4月、同元部長を収賄罪で、同顧問を贈賄罪で、それぞれ逮捕した(警視庁)。

(2)経済をめぐる不正事案
 平成20年中の金融・不良債権関連事犯の検挙事件数は72事件と、前年より7事件(8.9%)減少した。また、その他の経済をめぐる不正事案では、次のような社会的反響の大きい事件を検挙した。
 
図1-20 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成11~20年)
図1-20 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成11~20年)
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事例1
 元医療コンサルティング会社代表取締役(46)、元大手商社社員(34)らは、投資事業組合を結成させた上、病院再生事業への投資に係る業務委託手数料名目で出資金をだまし取ろうと企て、19年8月ころから同年11月ころにかけて、機関投資家に対し、架空の投資話を持ち掛け、大手商社が元金を保証するとして偽造文書を提出するなどして信用させ、約370億円をだまし取った。20年7月までに、4人を有印私文書偽造・同行使罪及び詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

事例2
 元銀行出張所営業担当者(56)らは、経営実態のない会社の名義を用いて同銀行から借入金名目で現金をだまし取ろうと企て、18年9月ころから同年11月ころにかけて、同銀行出張所長に対し、同会社が返済能力を有するように見せかけた内容虚偽の決算書類等を提出するなどして信用させ、約1億円をだまし取った。20年11月までに、11人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

(3)財務捜査体制の整備
 企業等の経済活動に関連して行われる犯罪の捜査では、犯罪の背景、動機、実行行為等を明らかにするため、帳簿類等の客観的な資料に基づいて、捜査対象となる企業等の財務実態を解明することが不可欠である。このため、警察大学校財務捜査研修センターでは、全国の捜査員を対象に、簿記その他の財務捜査に必要な知識や捜査手法等について教育を行うとともに、最新の企業会計制度に即した財務捜査手法等の調査研究を行っている。
 また、都道府県警察では、公認会計士等の資格を有する者や民間企業での会計事務の経験者等を財務捜査官として採用するなど、体制強化に努めている。
 
財務捜査研修センターでの研修風景
写真 財務捜査研修センターでの研修風景

 第1節 犯罪情勢とその対策

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