警察活動の最前線 

警察活動の最前線

指揮官としての決意
 
北海道警察本部警備部機動隊特務中隊長
伊藤 真悟 警部
伊藤 真悟 警部


 我々特務中隊は、水難・山岳救助、爆発物(不審物件)の処理、異臭騒ぎへの対応、自然災害発生時の救助等、多岐にわたる活動を展開しています。
 我々が出動する現場は、常に危険と背中合わせで、救助する我々の身にも危険が及ぶことが少なくありません。隊員は日頃から厳しく辛い訓練に耐えることを通じ、人を助けることについて強い気持ちをもっていることから、危険な現場であるにもかかわらず人命の救助を優先し、時として適切な判断を誤る可能性があります。このような時に、冷静に判断を下し、国民の命を守るとともに隊員の安全を確保することが、中隊長である私に求められるのです。
 どのような現場においても最善の行動がとれるよう、平素から隊員の技術の向上を促し、常に冷静な部隊指揮を心掛け、また、隊員と共に汗をかくよう努めています。

相談電話の向こうから
 
石川県警察本部警務部県民支援相談課
河原 佐智子 係長
河原 佐智子 係長


 「はい。レディース通話110番です」
 「娘が被害に遭ったんですが・・・」
 被害者支援室にある性犯罪相談電話には、事件性があるものないもの、被害届が出されているもの出されていないもの、犯人が分かっているもの分かっていないものなど、様々な相談が寄せられます。
 ただ、すべてに言えることは、犯罪は被害者だけでなく、家族、友人、先生等、多くの人を悲しみの渦に巻き込んでしまうということです。電話の向こうから聞こえる顔の見えない相談者の訴え、不安、悔しさ、辛さ等を一つ一つ丁寧に聴き分けながら対応します。中には、涙で言葉に詰まってしまう人もいますが、私は心の中で「泣きたいだけ泣いていいんだよ」と声にならない言葉を掛けながら、静かに次の言葉を待ちます。
 私とやり取りをするうちに幾分か声が明るくなった相談者から「また、電話してもいいですか」と聞かれ、「どうぞ」と答えつつも、私に相談するような悲しいことがその方の身に起こらないことを願いながら、受話器を置いています。
 犯罪の陰には、数え切れない悲しみが存在します。その悲しみをいやすことが私に与えられた仕事です。目立たない仕事ですが、警察にはこんな仕事もあるのです。

「誠意ある取調べ」で凶悪犯罪と闘う
 
香川県警察本部刑事部捜査第一課
國方 卓 警部補
國方 卓 警部補


 学生時代、テレビドラマを見て、被害者の気持ちになって凶悪犯罪と闘う人情味のある刑事にあこがれ警察官になりました。刑事となった今、被疑者の取調べは、いつも真剣勝負です。被害者の気持ちになって、全力を尽くして取り調べて真相を究明します。被害者に笑顔が戻り、喜んでもらえた時が「刑事になって良かった」と心から思える瞬間だからです。
 被疑者と取調べ室で対峙する時、「人間としての在り方」を問い掛けることもあります。私が過去に取り調べたある青年は、心がすさみ、わめき散らしていましたが、私の説諭を聞いて反省し、涙を流して更生を誓いました。それ以後、彼は、私自身も驚くほど好青年に変わり、自分を見つめ直しながら必死に生きようとしています。
 今も時折、服役中の彼から、近況が書かれた手紙が送られてきますが、内容も文字も素晴しく上達し、日々研鑽していることが伺われます。彼の手紙を読み直すたびに、私自身も彼に負けずに頑張ろうと勇気付けられるのです。
 被疑者を検挙して、誠意ある取調べに全力を尽くし、反省をさせ自供を得る。そして、更生に導いていく。そういう心意気で毎日、凶悪犯罪と闘っています。

地域警察のやりがい
 
広島県竹原警察署生活安全刑事課
中尾 清香 巡査長
中尾 清香 巡査長


 竹原警察署は、署員50名ほどの警察署で、私は、平成17年9月から20年3月まで地域課員として勤務していました。
 地域警察の仕事は、住民と一番身近に接し、良いことも悪いことも直に感じ取れるので、とてもやりがいがあります。
 当署管内は、都市部のような大事件が頻繁に発生するところではなく、比較的平穏なのですが、自転車の盗難等は発生しており、被害の届出があれば、できるだけ早く被害者に自転車を返すことを目標に、これまで自転車が乗り捨てられた場所等を見回ったり、自転車に乗った人に声を掛けるなどして探しています。
 いつも犯人を見つけられるわけではありませんし、つらいこともたくさんありますが、犯人を捕まえたときには、今後は二度としないでほしいという気持ちを込めて取調べを行います。そして、被害者に自転車を返す際に「ありがとうございました」と感謝の言葉を頂くと「また頑張ろう。犯罪に遭う人や、犯罪を犯す人を一人でも少なくしよう」というやる気がわいてくるのです。
 私の力はまだまだちっぽけなものですが、これからは生活安全刑事課員として、地域の安全、治安の向上に貢献できるよう、努力していきたいと思います。

海の守りを双肩に
 
警視庁東京湾岸警察署警務課
熊谷 雅也 警部補
熊谷 雅也 警部補


 あれは、少し寒さが緩んだ4月の夜でした。
 若い女性が「大変です。男の人が公園のフェンスを乗り越え、海に飛び込みました」と交番に駆け込んできたのです。当時、東京水上警察署お台場海浜公園駅前交番に勤務していた私は、すぐに応援要請するとともに、交番から5分くらいの船着場に走り、警備艇に飛び乗って現場に向かいました。
 現場に着くと、既に4隻ほどの警備艇が、ライトを照らしながら懸命に捜索活動をしており、私も「助かってくれ」と懸命に祈りながらこれに加わりました。
 男性は、飛び込んだ場所から50メートルほど先で救助しましたが、残念なことに亡くなってしまいました。もし、「飛び込む前に、私が男性に声を掛ける機会があったならば、助かったかもしれない」という思いが、今でも私の胸から離れません。パトロールの大切さや、声掛けが人の命をも救うことを、改めて教わったように思います。
 平成20年3月31日に東京水上警察署は廃止となり、代わって新設された東京湾岸警察署は警視庁で警備艇を運用する唯一の署として、陸上に加え東京湾やそれに通じる河川等広範囲の水域を管轄し、各種事案を取り扱っています。
 現在は東京湾岸警察署の一員として、日々発展するお台場の人々の明るい笑顔を守るため、職務に励んでいます。

立直りを信じて
 
佐賀県警察本部生活安全部少年課
桑原 宏樹 警部補
桑原 宏樹 警部補


 平成5年、少年係となった私は、毎日のように事件処理に追われていました。
 担当した少年が再び罪を犯して検挙され、「なぜあの子たちは私の気持ちが分からないのか」と悶々とした日々を送っていました。そんな折、少女ら6人組の暴走族を傷害事件で検挙し、取調べの傍ら、親や友達のことに耳を傾けました。
 約1か月後、挨拶に来た彼女らは、「話を聴いてくれてありがとう、捕まえてくれてよかった」と言ってくれました。彼女らは私が見失おうとしていたものを教えてくれたのです。それからの私は、かかわった少年を「桑原学級生」と呼び、取調べだけに終わらず、電話を架け、家庭訪問や交換日記を行い、また年賀状や手紙を送り続けました。彼女らは次々に結婚し、私を披露宴に招待してくれました。そして、彼女らは、宴席で私と一緒に涙を流し、少年警察ならではの喜びを感じさせてくれました。
 現在、少年サポート係長として様々な問題を抱えた少年の居場所づくり等の立直り支援に取り組む中、「この少年も、きっと彼女らのように立ち直ってくれる」と信じ、「桑原学級生」の幸せを見届けたいという気持ちで、昼夜を分かたず少年やその保護者と向き合っています。

目指すは、国際犯罪捜査のエキスパート
 
千葉県警察本部刑事部組織犯罪対策本部国際捜査課
代田 文 警部補
代田 文 警部補


 「私が人生でもっとも深く愛した人、それがリンゼイでした」
 込み上げる涙をぬぐうこともなく、熱い胸の内を語った男性は、22年という短い命を日本で奪われた英国人女性の婚約者でした。傍らにいた被害者の父親は、両手で顔を覆ったまま、大きな体を震わせていました。
 何としても犯人を検挙しなければ! 私の刑事魂は、激しく揺さぶられました。
 平成19年3月に発生した、英国人女性殺人死体遺棄事件―。
 私は、被害者遺族支援の担当官として、事件発生当初から捜査本部に派遣されています。在日英国大使館を窓口とした、遺族への定期的な捜査状況の連絡、関係者が来日する際の調整やアテンド等が主な役割です。
 私が所属する国際捜査情報センターは、年間約3千万人の旅客数を誇る日本一の空の玄関である成田国際空港にあり、本来の任務は、ここを拠点とした水際対策や捜査共助、外国人組織犯罪捜査です。捜査本部に派遣され、現在従事している被害者支援は、国際捜査とは遠い分野と考えていたのですが、今回の事件を通じて円滑な捜査の遂行には不可欠だと改めて実感するに至りました。被疑者検挙に向け、静かに熱く刑事魂を灯しつつ、今日も奔走しています。

留置のプロを目指して
 
岩手県久慈警察署警務課
菅地 安男 警部補
菅地 安男 警部補


 留置業務とは何ですか、と聞かれることがあります。そのとき私は「逃走、自殺等の事故を起こさせず、留置施設において被疑者等の適切な処遇を行い、その結果、捜査の目的である真相の究明がなされ、刑罰法令が適正に適用されるようにすることです」と答えています。
 留置業務は刑事手続を支える土台とでもいうべきもので、苦労も多いのが実状ですが、昨年6月、刑事収容施設法が施行されたことから、これまで以上に留置施設の適正な管理運営、人権を尊重した適切処遇に配意しながら業務に当たっています。先日、約3か月間留置され、ようやく刑務所に移送されることになった者に対し、「刑務所に行ってもお前なら大丈夫だ。二度と同じ過ちをするなよ」と言って送り出したところ、しばらくしてその者から「看守の人に言われたことを励みにして頑張ってます」という手紙をもらいました。私が何気なく掛けた言葉でも留置されている者にとっては貴重な言葉になること、また、人権に配慮し適切な処遇をすることで相手から理解されることを改めて実感しました。
 これからも、今までの経験をいかしながら留置業務に従事するとともに、後進の指導にも当たりたいと思います。

交通安全への願い
 
奈良県西和警察署交通課
平田 智子 警部補
平田 智子 警部補


 私は、平成19年3月に西和警察署へ異動となり、勤続18年目にして初めての交通部門である企画規制係の職に就きました。同係の業務の中でも、日々最も多く来庁者の応対をする運転免許更新業務では、職員は休む暇もなく応対に追われています。時間を急ぐ会社員には、笑顔で応対しながらも手続を急ぎ、耳が聞こえにくいお年寄りには大きな声でゆっくり、はっきりと説明します。そして、身体の不自由な方には運転できるか否かじっくりお話を聞くなど、来庁者に応じたきめ細かな対応を心掛けています。いずれの来庁者にとっても、運転免許証が生活に欠かせない大切なものであることを実感しています。
 しかし、時として交通違反を繰り返した方等の処分手続を行ったり、また、家族の依頼を受けて高齢者の方に運転免許証の返納手続を教えたりすることもあります。大切な運転免許証をこの手で預かる心苦しさはありますが、それは交通事故を一件でも減らすための私達の任務なのです。
「免許証を大切にしてくださいね」そして、「何よりも命を大切にしてくださいね」と私は繰り返し、来庁者の皆さんに伝えます。
 これからも、様々な立場そして幅広い年齢層のすべての来庁者の方へ、交通安全の願いを込めて、日々の業務に一層励んでいきたいと思っています。

警察活動を支える警察情報通信
 
東北管区警察局青森県情報通信部機動通信課
佐藤 晶義 技官
佐藤 晶義 技官


 私は現在、青森県内に所在する警察無線中継所等の通信機器を維持管理する業務に従事しています。また、自然災害や事件が発生した際、警察通信を確保するために活動する、機動警察通信隊の隊員としても活動を行っています。
 機動警察通信隊の隊員として10年間の経験があり、これまで様々な事件事故に対応してきました。最近では、冬山登山客の遭難事故が発生した際、事故現場の山麓に急行し、無線通信の確保及び映像伝送の活動を行いました。
 主要業務である無線中継所の維持管理では、設備の機能を維持するために重量のある機器等を背負い、山中の無線中継所で設備点検をしています。厳冬期でも機器等を背負って雪山登山をすることが少なくありません。業務の遂行には体力錬成も必要不可欠なのです。
 警察情報通信とは、国民と接する警察官の活動が円滑に遂行できるようにする業務であり、社会の安全と秩序を保つための警察活動を支える「神経系統」の役割を担っています。このようなやりがいのある業務であり、誇りと使命感をもって業務に励んでいます。

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