第2章 組織犯罪対策の推進 

3 銃器情勢

 平成19年中の銃器情勢は、長崎市長が射殺された事件や、暴力団による対立抗争に伴う発砲事件等、銃器を使用した凶悪事件が相次いで発生し、一般市民が死傷するなど、極めて厳しい状況にある。

(1)銃器発砲事件の発生状況
 平成19年中の銃器発砲事件は65件、それによる死傷者数は39人と、それぞれ前年より12件(22.6%)、20人(105.3%)増加した。特に、死者数は21人と、前年より19人増加するとともに、18年は発生のなかった暴力団による対立抗争に起因するとみられる発砲事件が12件発生した。
 地域別の発生状況をみると、九州での発生が全体の34.8%を占めた。また、7件以上の発生があったのは、福岡県(15件)及び東京都(11件)であった。
 
 図2-13 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成10~19年)
図2-13 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成10~19年)
 
 図2-14 都道府県別銃器発砲事件の発生状況(平成19年)
図2-14 都道府県別銃器発砲事件の発生状況(平成19年)

(2)銃器を使用した事件(注)の認知状況
 銃器を使用した事件の認知件数の推移は図2-15のとおりであり、平成17年から減少傾向にあるが、罪種別では、殺人が34件と、前年より11件(47.8%)増加した。

注:銃砲及び銃砲様の物を使用した事件。「銃砲」とは、「けん銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属製弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃」(銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)第2条第1項)をいう。「銃砲様のもの」とは、銃砲らしい物を突き付け、見せるなどして犯行に及んだ事件において、被害者、参考人等の供述等により、銃砲と推定される物をいう。

 
 図2-15 銃器使用事件の認知件数の推移(平成10~19年)
図2-15 銃器使用事件の認知件数の推移(平成10~19年)

事例

 会社役員の男(50)は、19年5月、110番通報で駆け付けた警察官のほか、自己の長男及び次女にけん銃を発射し負傷させた上、元妻を人質に取って立てこもり、その後、同警察官の救出に当たった別の警察官にけん銃を発射し、同人の左胸部に命中させ、殺害した。翌日、この男を、負傷させた警察官に対する殺人未遂罪で緊急逮捕した。また、6月までに、殺害した警察官に対する殺人罪、銃刀法違反(発射及び加重所持)等で再逮捕した(愛知)。

(3)銃器の摘発
 警察では、犯罪組織の武器庫の摘発や密輸・密売事件等の摘発に重点を置いた取締りを行うなど、総合的な銃器対策を推進している。平成19年中のけん銃の押収丁数は前年より増加し、暴力団構成員等からの押収丁数も増加したが、10年前の約半数にとどまっている。これは、暴力団等の犯罪組織が隠匿や密輸・密売の方法をますます潜在化・巧妙化させ、押収が困難になっていることによると考えられる。
〔1〕 けん銃の押収状況
 過去10年間のけん銃押収丁数の推移は、図2-16のとおりである。暴力団構成員等からの押収丁数は全押収丁数の42.2%を占めており、図2-17のとおり、このうち3割以上(35.9%)が山口組からの押収となっている。
 
 図2-16 けん銃押収丁数の推移(平成10~19年)
図2-16 けん銃押収丁数の推移(平成10~19年)
 
 図2-17 平成19年中に暴力団構成員等から押収したけん銃の組織別内訳
図2-17 平成19年中に暴力団構成員等から押収したけん銃の組織別内訳

〔2〕 武器庫の摘発状況
 過去10年間の武器庫事件(注)の検挙状況は表2-10のとおりである。19年中の検挙件数は12件、押収したけん銃等の数は84丁と、それぞれ前年より5件(71.4%)、48丁(133.3%)増加した。摘発した武器庫は、すべて暴力団が組織的に管理していたものであり、けん銃を暴力団構成員等の交友者宅、暴力団構成員が経営する会社の事務所内に隠匿するなど、その組織管理の手法は一層巧妙化している。

注:組織管理に係る3丁以上のけん銃を押収した事件

 
 表2-10 武器庫事件の検挙状況の推移(平成10~19年)
表2-10 武器庫事件の検挙状況の推移(平成10~19年)

事例

 19年11月、松葉会傘下組織元組長の長男(38)方を捜索したところ、居間天袋に隠匿されていた紙袋内等から、けん銃13丁及び実包264個を発見・押収し、同人を銃刀法違反(けん銃所持等)で逮捕した。さらに、同月、同人に保管を依頼した松葉会傘下組織元組長(60)を銃刀法違反(けん銃所持等)で逮捕した(茨城)。
 
武器庫事件の状況

〔3〕 けん銃等密輸入事件の摘発状況
 過去10年間のけん銃等密輸入事件の検挙状況は、表2-11のとおりである。19年に検挙したのはけん銃密輸入事件3件、けん銃部品密輸入事件2件、けん銃実包密輸入事件1件であり、その手口は、航空機に持ち込む手荷物への隠匿及び国際通常郵便の利用であった。
 
 表2-11 けん銃等密輸入事件の検挙状況(平成10~19年)
表2-11 けん銃等密輸入事件の検挙状況(平成10~19年)

事例

 19年4月、元フランス外国人部隊員方(43)を捜索したところ、居宅内からけん銃5丁及び実包1,156個を発見・押収し、同人及び同人の妻を銃刀法違反(加重所持)で逮捕した。その後の捜査により、同人は、フランス国内で調達したけん銃1丁及び実包100個を、同月、航空機に持ち込む手荷物に隠匿して密輸したことが判明し、同人を銃刀法違反(営利目的輸入)で再逮捕するとともに、5月までに、同人からけん銃及び実包を譲り受けていたスポーツ店経営者(41)等5人を銃刀法違反(加重所持等)で逮捕し、けん銃7丁及び実包489個を押収した(神奈川、静岡)。
 
けん銃密輸入事件の状況

 第2節 薬物銃器対策

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