特集 組織犯罪を許さない社会を目指して ~資金獲得活動との対決~ 

2 暴力団と共生する者による資金獲得活動

(1)暴力団と共生する者の存在

 近年、暴力団関係企業以外にも、暴力団に資金を提供し、又は暴力団から提供を受けた資金を運用した利益を暴力団に還元するなどして、暴力団の資金獲得活動に協力し、又は関与する個人やグループの存在がうかがわれる。これらの者は、表面的には暴力団との関係を隠しながら、その裏で暴力団の資金獲得活動に乗じ、又は暴力団の威力、情報力、資金力等を利用することによって自らの利益拡大を図っており、いわば暴力団と共生する者となっている。
 こうした暴力団と共生する者は、暴力団と共に健全な経済社会に寄生し、これを侵蝕して私利私欲を満たすだけでなく、表面上は関係を隠しつつ暴力団に資金を提供するなど、最近における暴力団の資金獲得活動の不透明化の主な要因の一つとなっている。これを放置すれば、暴力団の威力を背景として、経済取引や法制度を悪用して、不当に自らの利益を最大化する行為が横行し、暴力団と共生する者の更なる増加を招くなど、我が国における公正な法秩序と健全な市場にとって重大な脅威となる。
 
 図-9 暴力団と共生する者
図-9 暴力団と共生する者

(2)証券取引への進出

 証券取引は、その犯行態様によっては億単位とも言われる多額の資金を短期間で獲得することが可能であることから、暴力団にとって魅力的な資金獲得活動となっている。そして、こうした資金獲得活動は、視点を変えれば、不特定多数の投資家が投資した資金が、暴力団の関与した証券取引によって不正に暴力団に奪われたものとみることができる。これを放置すれば、個別の投資家が暴力団の関与する証券取引の影響で不当に財産を減少させる事態が続くことになるため、とりわけ公正かつ健全な市場原理が働くべき証券市場への信頼が失われ、ひいては我が国の証券市場への投資を低迷させるおそれがある。
 近年、暴力団の関与がうかがわれる証券取引に係る犯罪においては、暴力団と証券取引等の知識を悪用して経済不正事案を敢行するグループとの間に人的なネットワークが構築されていることがうかがわれる。こうした暴力団と共生するグループは、業績の悪化した企業を利用して仮装増資、インサイダー取引、相場操縦等の経済不正事案を敢行するに当たり、これをより確実に実現させるべく威力等の利用を容認した暴力団や暴力団関係企業に対し、多額の利益の一部を資金として提供しているとみられる。
 
 図-10 証券取引を利用する資金獲得活動
図-10 証券取引を利用する資金獲得活動

 最近では、暴力団が、いわゆる不動産ファンドの成長に乗じて、不動産を確保するための「地上げ」や「土地転がし」に介入する動きを強めていることがうかがわれるほか、不動産ファンドに係る証券を利用して資金獲得活動を行う可能性があるとみられることから、今後も、証券取引に関係する資金獲得活動については、暴力団と共生する者を視野に入れて警戒し、対策を強化していく必要がある。

事 例
 大阪証券取引所市場第二部に上場するIC機器製造会社役員(53)は、証券会社退社後に投資会社等を経営しながら、いわゆる仕手筋、金融ブローカー等と関係を構築し、共に活動していた。同製造会社の業績悪化に目をつけた同人は、自ら株を買い占めるとともに、他の株主と連携を図った上で、臨時株主総会を開催して当時の社長を解任に追い込み、経営の実権を掌握して役員に就任した後、総額8億円の転換社債型新株予約権付社債(以下「転換社債」という。)発行による仮装増資を企てた。
 平成17年4月、海外投資会社が同製造会社の転換社債を引き受けるとともに、同海外投資会社が転換社債に付された新株予約権を行使して新株を取得した際には、その全部を同製造会社役員が実質的に支配する国内投資事業組合に譲渡する旨の契約を同製造会社と同海外投資会社との間で締結させた。次に、同製造会社役員は、山口組傘下組織関係企業の経営者(48)に直接依頼して8億円を借り入れるとともに、同海外投資会社の代理人である日本人弁護士の銀行口座を経由して、同製造会社の銀行口座あてに払込みを行い、同年5月、8億円分の新株を入手した。同製造会社役員らは、自らの知人等の経営する企業数社に対し、資金運用委託、業務提携等の名目で同製造会社から貸付けを行い、増資金8億円を社外に流出させる一方で、入手した新株を入手直後から約1か月かけて金融ブローカーを通じて証券市場で順次売却し、約6億5,000万円の売却代金を得た。18年2月、増資手続が完了した旨の内容虚偽の登記等を行わせた電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪等で、同製造会社役員、同傘下組織関係企業の経営者ら5人を逮捕した。
 なお、逮捕された同傘下組織関係企業の経営者は、流出した増資金や新株の売却代金の中から8億円の返済を受けたほか、謝礼として数千万円を支払われていた(大阪)。
 
転換社債による仮装増資


 第1節 不透明化する資金獲得活動の脅威

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