特集 組織犯罪を許さない社会を目指して ~資金獲得活動との対決~ 

3 暴力団によるマネー・ローンダリング行為

(1)マネー・ローンダリング行為の影響

 マネー・ローンダリング(資金洗浄)行為とは、一般に犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見・犯罪の検挙を逃れようとする行為をいう。犯罪によって得た収益を他人名義で銀行に預金したり、架空の契約書等を作成して借入金や預かり金を装ったりするなど、その手口は様々である。暴力団を始めとする犯罪組織は、個別の資金獲得活動とその成果たる資金との間の関係を不透明化することにより、獲得した資金が課税、没収等されたり、獲得した資金に起因して検挙される事態を回避することを目的として、しばしばマネー・ローンダリング行為を行っている。
 マネー・ローンダリング行為は、近年における暴力団の企業活動を仮装・悪用した資金獲得活動について行われるほか、暴力団と共生する者による資金獲得活動についても行われることがある。このような場合、マネー・ローンダリング行為によって、暴力団と資金獲得活動を行う者との関係が一層隠ぺいされ、無関係のようにみえる者が獲得した資金が暴力団に流れ込むとともに、仮に一部の関係者が検挙されても、同種の資金獲得活動がなお継続されることがあり得る。また、暴力団が獲得した資金には、被害者から組織的に奪った財産が多く含まれているが、マネー・ローンダリング行為が行われることによって、こうした被害者の財産回復が困難になる。さらに、暴力団が獲得した資金が移転して事業活動に用いられることにより、正当な企業活動を行う一般企業が資金面等で不利な立場に立たされ、最終的には経済活動から駆逐されるおそれすらあるなど、我が国の健全な経済活動に悪影響を及ぼす危険性がある。


コラム2 マネー・ローンダリング行為の規制

 平成元年、我が国は、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約に署名し、3年、同条約の批准に必要な国内法整備の一環として、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)を制定し、4年に施行した。麻薬特例法は、薬物犯罪収益等を隠匿し、又は収受する行為を処罰することとするとともに、薬物犯罪収益等を没収又は追徴することとした。
 11年には、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)が制定され、12年に施行された。組織的犯罪処罰法により、マネー・ローンダリング行為の前提犯罪(注)が59(現在66)の法律に係る犯罪に拡大されたほか、犯罪収益等による法人等の経営支配を目的とする行為を処罰することとされるとともに、銀行その他の金融機関等に対し、顧客との取引で収受した財産が犯罪収益である疑いがある場合等にその届出等の措置が義務付けられた(特集第3節2(2)参照)。

注:不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリング行為の対象となる犯罪


 
 図-11 組織的犯罪処罰法と麻薬特例法によるマネー・ローンダリング行為の規制
図-11 組織的犯罪処罰法と麻薬特例法によるマネー・ローンダリング行為の規制

(2)マネー・ローンダリング事犯の検挙状況

 平成18年中におけるマネー・ローンダリング事犯の検挙は、組織的犯罪処罰法違反で134件(前年比27件(25.2%)増)、麻薬特例法違反で10件(前年比5件(100.0%)増)であり、暴力団構成員及び準構成員(以下「暴力団構成員等」という。)によるものが、組織的犯罪処罰法違反の39.6%、麻薬特例法違反の50.0%を占めている。
 
 表-1 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況(平成14~18年)

表-1 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況(平成14~18年)

 18年中における暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、主要なものとしては、売春防止法違反が12件、ヤミ金融事犯が9件、賭博が8件、詐欺が7件、わいせつ物頒布等事犯が6件となっているものの、その他にも強盗、著作権法違反、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反、競馬法違反、薬事法違反等と多様であり、暴力団が様々な犯罪から資金を獲得し、その資金についてマネー・ローンダリング行為を行っている実態がうかがわれる。
 最近では、金融機関等を利用せずに犯罪収益を隠匿したり、高度な法律上の知識を有する弁護士を利用して犯罪収益を隠匿したりするといった手口もみられる。

事 例
 元山口組傘下組織構成員(35)は、DVDパッケージデザイン等を行う企業の役員を務めつつ、一方で、わいせつDVD販売組織の長としてその制作・編集・販売を担当する別の企業を統括していた。
 この元傘下組織構成員は、15年3月から17年8月にかけて、合法なアダルトDVDを販売する企業名で、違法なわいせつDVDの販売に関するダイレクトメールを全国のDVD小売店等に送付し、電話にて小売店等からの注文を受け、宅配便で注文主に発送する方法により、約3億7,000万円の売上金等を得た。この売上金については、配達した商品と引き換えに代金を収集する運送会社のサービスを利用して他人名義の口座に振り込ませ、違法なわいせつDVD販売に係る犯罪収益を取得した事実を仮装した。また、この元傘下組織構成員は、配下の企業役員らに指示し、夕刊紙等に広告を掲載している業者から多数の休眠会社を買い受け、その休眠会社との取引による売上金約6,000万円を得たかのように会計処理を偽造するなどして、犯罪収益を取得した原因を仮装した。18年9月、この元傘下組織構成員ら4人を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙するとともに、企業2社に両罰規定を適用した。
 この元傘下組織構成員の所属するわいせつDVD販売組織は、複数の関係企業により構成されており、違法なわいせつDVDを制作・販売する裏部門のほか、合法なアダルトDVDを制作・販売する表部門も含まれていた。この表部門については、年間売上額が数十億円を超えており、これらの企業にも、他の元傘下組織構成員が役員等で配置されていた。さらに、裏部門と表部門の両方を運営・統括する実質経営者は、以前にこの元傘下組織構成員と兄弟分の関係にあった元傘下組織幹部であり、同人は複数の山口組幹部と親しい関係にあったことから、表部門及び裏部門によるDVD制作・販売で得られた利益の相当額が、山口組の資金源になっていたとみられる(警視庁、宮城)。
 
DVD販売による犯罪収益等隠匿


 第1節 不透明化する資金獲得活動の脅威

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