第3章 組織犯罪対策 

2 不法入国・不法滞在者対策

(1)不法残留者、不法入国者及び不法上陸者等の状況
 厳しい雇用情勢にもかかわらず、就労を目的として来日する外国人は依然として多く、不法に就労する者も少なくない。その大半は不法滞在者であるとみられるが、不法就労よりも効率的に金銭を得る手段として犯罪に手を染めるようになる者も多く、大量の不法滞在者は来日外国人犯罪の温床となっていることが指摘されている。我が国は、平成16年からの5年間で不法滞在者を半減させることを政府目標としており、これを達成するため、警察では、入国管理局との合同摘発を積極的に行っている。17年中の入管法違反の検挙件数は1万2,624件(前年比279件(2.2%)減)、検挙人員は1万1,143人(前年比361人(3.1%)減)であった。このほか、入管法の規定(注1)に基づく入国警備官への被疑者の引渡しについても重点的に推進しており、同年中は5,706人を逮捕後に入国警備官に引き渡した。
 法務省の推計による18年1月1日現在の不法残留者数は、19万3,745人(前年比1万3,554人減)と5年の調査時(29万8,646人)をピークに毎年減少している。17年中に警察が検挙した不法入国者及び不法上陸者の数は3,703人(前年比98人減)であった。これを、国籍・地域別にみると、最も多いのは中国(2,101人)で、次いでフィリピン(361人)、タイ(251人)の順となっている。また、正規に入国し、在留期間が経過した後も引き続き我が国に残留する不法残留罪の適用により、6,145人を検挙した(前年比309人減)。

注1:入管法第65条。同条では刑事訴訟法の特例として入管法第70条の罪(不法入国、不法残留、不法在留、資格外活動等)に係る被疑者を逮捕した場合で、収容令書が発付され、かつ、その者が他に罪を犯した嫌疑のないときに限り、被疑者を拘束したときから48時間以内に書類及び証拠物とともに当該被疑者を入国警備官に引き渡すことができると規定している。


(2)不法滞在者による犯罪
 平成17年中の来日外国人犯罪の検挙人員2万1,178人のうち、不法滞在者(注2)は1万1,839人と、55.9%を占めている。ただし、その多くは、不法滞在等の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反による検挙人員である。入管法違反を始めとする特別法犯を除外し、刑法犯のみの検挙状況をみると、来日外国人の検挙人員8,505人のうち、不法滞在者は1,304人と、15.3%を占めるにとどまる。
 しかしながら、刑法犯で検挙された来日外国人のうち、侵入窃盗の検挙人員の56.5%(524人中296人)、侵入強盗の検挙人員の51.8%(170人中88人)を不法滞在者が占めており、国民に強い不安感を与える身近な犯罪への関与は顕著である。このほか、詐欺、カード偽造等の知能犯では46.1%(525人中242人)、強盗等の凶悪犯では35.9%(396人中142人)を不法滞在者が占めている。

注2:入管法第3条違反の不法入国者、入国審査官から上陸の許可を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留している者等の不法残留者


 
 図3-17 来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の割合(平成17年)
図3-17 来日外国人刑法犯の検挙人員に占める不法滞在者の割合(平成17年)
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事例
 留学資格で来日した中国人(23)らは、13年11月から17年1月にかけて、我が国に入国して就職あっせん会社を設立した上で、国際的な密航請負組織である「蛇頭」と連携して中国から不法入国者を受け入れ、これらの者等に住居を提供し、就労先をあっせんするなどして、約2億円の収益を上げていた。17年1月、この中国人ら34人を入管法違反等で逮捕した(埼玉、栃木)。

(3)不法滞在を助長する文書偽造事件
 平成17年中に入国管理局が不法入国により退去強制手続をとった不法入国者数は1万1,586人(前
年比369人増)であった。中でも、偽造旅券等を行使した事犯の増加が顕著で、12年中の警察による検挙者数は361人であったが、17年中は1,770人(前年比50人増)にまで増加した。このうち、中国人が738人と41.7%を占めている。また、日本人の配偶者であるとして在留資格を不正に取得する偽装結婚事案や、合法滞在を装う目的で不法滞在者が使用する外国人登録証明書等を偽造し、販売する事案が、依然として多発している。
 警察では、入国管理局等の関係機関と連携し、文書偽造等悪質な事案を重点的に取り締まるとともに、適法に滞在している多くの外国人に対する無用の警戒感を払拭すべく、不法入国・不法滞在者対策の的確な実施に努めることとしている。

事例
 中国人の男(28)ら4人は、17年3月ころ、東京都内のマンションにおいて外国人登録証明書等を偽造するなどした。同年9月、有印公文書偽造罪及び私文書偽造罪で逮捕した。この事件では、同年6月に導入されたばかりの外国人登録証明書にはり付ける偽造防止用ホログラムシールが早くも偽造されていた(静岡)。
 
 偽造工場からの押収品
写真 偽造工場からの押収品

(4)集団密航事件
 近年、集団密航事件は大きく減少しており、警察及び海上保安庁の検挙件数、検挙人員は、ピークであった平成9年には73件、1,360人であったものが、17年には11件、26人となった。
 船舶による集団密航事件では、主流であった仕立て船により多人数を運搬する手法が影を潜め、ここ数年は、より発見されにくい、少人数で船倉やコンテナに潜伏して密航する手法が主となっているが、集団密航事件全体に占める船舶による集団密航事件数の割合は減少傾向にある。一方、集団密航事件全体に占める航空機による集団密航事件数の割合は増加傾向にあり、船舶による集団密航事件数の割合を上回っている。旅券の偽変造技術の発達に伴い、密航の形態が、不衛生で日数のかかる船舶によるものから、安全で快適な航空機によるものに移行しつつある。
 警察では、こうした事案を根絶するために、関係省庁と連携して、外国捜査機関との情報交換を積極的に行い、共同摘発や捜査協力を更に推進することとしている。また、集団密航事件全体のうち、中国人による集団密航事件が最も多いことから、中国当局に対して、対策を強化するよう申し入れている。

(5)雇用関係事犯
 不法就労目的の不法入国・不法残留事犯の多くは、雇用主や就労あっせん業者がかかわっており、暴力団が関与するものも多くみられる。警察では、悪質な雇用主の取締り、就労あっせん業者に対する捜査や国際協力の強化等により、不法就労外国人の供給の遮断を図っている。
 平成17年中に検挙した就労あっせん業者は30人であった。また、外国人労働者に係る雇用関係事犯の検挙件数のうち、飲食店等で外国人女性をホステスや売春婦等として従事させていた事犯の割合は55.1%であった。検挙された事務所等で雇用されていた外国人は1,328人で、女性が68.8%を占め、国籍・地域別ではフィリピン人が377人と最も多かった。
 
 表3-18 国籍・地域別の不法残留者数の推移(平成14~18年、各1月1日現在)
表3-18 国籍・地域別の不法残留者数の推移(平成14~18年、各1月1日現在)
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 図3-18 集団密航事件検挙状況の推移(平成13年~17年)
図3-18 集団密航事件検挙状況の推移(平成13~17年)
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 第4節 来日外国人犯罪対策

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