第3章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

12 サイバー犯罪

 近年目覚ましい発展を遂げている情報通信ネットワークは、国民生活の利便性を向上させ、社会・経済の根幹を支えるインフラとして機能している。その一方で、サイバー犯罪(注1)が増加しており、特に最近では、コンピュータ・ウィルスのまん延や「フィッシング(注2)」事案の発生といった、情報セキュリティに対する脅威が増大している。


注1:インターネット等の高度情報通信ネットワークを利用した犯罪やコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪等、情報技術を利用した犯罪
 2:金融機関等を装ってメールを送信し、受信者が偽のウェブサイトにアクセスするよう仕向け、そこで個人の識別符号(ID、パスワード等)、クレジットカードの番号等を入力させ、それらを不正に入手する行為(第2章第1節(3)[1]参照)

(1) サイバー犯罪の情勢
 [1] サイバー犯罪の検挙状況
 平成16年中のサイバー犯罪の検挙件数は過去最高の2,081件と、前年より232件(12.5%)増加した。

 
図3-15 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成12~16年)

図3-15 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成12~16年)
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表3-15 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成12~16年)

表3-15 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成12~16年)
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  ア ネットワーク利用犯罪
 ネットワーク利用犯罪(その実行に必要不可欠な手段として情報通信ネットワークを利用する犯罪をいう。)では、インターネット・オークションを利用した詐欺、いわゆる出会い系サイトを利用した児童買春や青少年保護育成条例違反、著作権法違反、わいせつ物頒布が多く発生している。

事例1
 カラオケ機器リース会社の経営者の男(40)ら2人は、通信カラオケ会社の楽曲データの配信について同社と業務提携している会社の保守用端末を通じて、楽曲データを不正に入手し、飲食店等に不正に配信するなどして約2,500万円の収益を得た。16年11月、著作権法違反及び電子計算機損壊等業務妨害罪で逮捕した(愛知、警視庁、三重)。

  イ 不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反
 16年中の不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反の検挙件数は142件であった。このうち65件が、利用権者の設定や管理の甘さに付け込んで他人の識別符号(IDやパスワード等)を入手し、不正アクセス行為を行ったものであった。

 
図3-16 不正アクセス禁止法違反の検挙状況(平成12~16年)

図3-16 不正アクセス禁止法違反の検挙状況(平成12~16年)
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事例2
 無職の男(31)は、インターネット・オークションで他人が使用するIDに係るパスワードを推測して不正アクセスした上、パソコンをオークションに出品する操作を行い、偽名で開設した口座に現金を振り込ませて、落札者76人から総額約900万円をだまし取った。16年2月、不正アクセス禁止法違反、詐欺罪及び電磁的記録不正作出・同供用罪で逮捕した(埼玉、山形、茨城、京都、岡山)。

 [2] いわゆる出会い系サイトに関係した事件
 16年中のいわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙件数は1,582件と、前年より161件(9.2%)減少し、中でも強盗、強姦等の重要犯罪や粗暴犯が大きく減少した。また、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)違反(不正誘引)の検挙件数は31件であった。
 これらの事件の被害者1,289人のうち、18歳未満の児童は1,085人(84.2%)であった。

 
表3-16 いわゆる出会い系サイトに関係した事件の推移(平成12~16年)

表3-16 いわゆる出会い系サイトに関係した事件の推移(平成12~16年)
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事例3
 運転手の男(20)ら4人は、携帯電話の出会い系サイトを通じて知り合った少女を車両に乗せ、人里離れた山間部まで連れて行き、車両内で少女を強姦した。16年8月、強姦罪で逮捕した(北海道)。

 [3] サイバー犯罪等に関する相談の受理状況
 16年中のサイバー犯罪等に関する相談の受理件数は7万614件で、前年の1.7倍に増加した。このうち、利用した覚えのない有料サイトの料金を請求される架空請求メール等の詐欺・悪質商法に関する相談が3万5,329件と過半数を占めており、前年の1.7倍に増加した。また、インターネット・オークションに関する相談は、前年の2.3倍に増加した。

 
表3-17 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成12~16年)

表3-17 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成12~16年)
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(2) サイバー犯罪対策の推進
 [1] 産業界等との連携
 警察庁では、平成13年度から、有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成する総合セキュリティ対策会議を開催し、産業界と政府の連携の在り方等について検討を行っている。16年度は、インターネットでの自殺予告等緊急に対処する必要がある事案が発生した際や、知的財産権を侵害する商品がインターネット・オークションで売買されている際の官民連携の在り方について検討し、その結果を警察庁のウェブサイトで公表した。

 
総合セキュリティ対策会議
総合セキュリティ対策会議

 また、オペレーティングシステムやウェブブラウザの開発を行う企業と技術協力に関する協定を締結し、当該企業からコンピュータウイルスの感染やサイバー攻撃を許すプログラムの欠陥等に関する情報の提供を公開前に受けるなど、情報共有を図っている。
 都道府県警察では、地方公共団体、教育機関、民間企業等の職員を対象にした研修会を開催したり、消費者団体、学校教育関係者と協力した広報啓発活動を行ったりするなどして、情報セキュリティに関する国民の知識及び意識の向上を図っている。

事例
 島根県警察は、県内の企業が参加する情報産業見本市で、情報セキュリティに関するセミナーを開催し、「フィッシング」の被害を疑似体験するためのシステムを公開して、その手口と危険性を知らせた。

 [2] 違法・有害情報対策
 都道府県警察では、ウェブサイトやその電子掲示板等を閲覧して調査するサイバーパトロールを実施している。これにより、ネットワーク上の違法情報や有害情報(注)の発信状況を把握し、違法行為を検挙しているほか、関係者に対する指導や要請を行い、違法情報や有害情報のまん延とそれらによる被害の防止を図っている。


注:違法情報とは、わいせつ画像、他人を脅迫するメッセージ等情報自体が違法であるものや、わいせつ図画、銃器、薬物、毒劇物等禁制品等の売買に関する情報等犯罪が行われている疑いのある情報をいう。有害情報とは、犯罪方法を教示する情報や少年の健全育成を阻害するおそれのある情報等、違法情報には該当しないが犯罪や事故を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない情報をいう。

 また、16年12月には、「フィッシング」事案に関する部外との窓口となる「フィッシング110番」を各都道府県警察に設置した。電話や電子メールにより広く国民からの情報提供を受け付けているほか、金融機関、インターネット・サービス・プロバイダ等との連携を強化して、利用者に対する注意喚起を行っている。

 
(3) サイバー犯罪対策の推進基盤の整備
 [1] 体制の整備
  ア 警察庁情報技術犯罪対策課の設置
 サイバー犯罪の中でも、インターネットを利用する事犯は、匿名性が高い、こん跡が残りにくい、不特定多数の者に被害が及びやすい、地理的・時間的制約が少なく被害が短時間のうちに広範に及びやすいなどの特徴があり、その捜査には困難を伴う。また、複数の都道府県警察にわたり、捜査が重複するという問題がある。
 このため、警察庁では、平成16年4月、生活安全局に情報技術犯罪対策課を設置し、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行うとともに、産業界、外国関係機関等との連携、広報啓発活動、相談対応等の施策を推進するなど、サイバー犯罪の捜査と予防に関する施策を一体的に推進している。

  イ 国による技術支援体制の確立
 サイバー犯罪に悪用される技術が高度化・複雑化し、その取締りには高度な技術的知見が必要とされるようになっている。
 このため、警察庁では、情報通信局、管区警察局情報通信部及び都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置している。この組織には、専門的な知識及び技能を有する技術職員を配置するとともに、最新の資機材を整備しており、都道府県警察が行うサイバー犯罪の取締りを技術面で支援している。
 また、情報通信局情報技術解析課に技術センターを設け、コンピュータ・ウイルス等の不正プログラムや不正アクセスの手口を解析・検証している。さらに、都道府県警察からの要請に応じ、暗号やパスワードにより隠ぺいされたデータを解析したり、破損したハードディスク等からデータを抽出・解析したりするなどの技術支援を行っている。

 
クリーンルームにおけるハードディスク部品の移植作業
クリーンルームにおけるハードディスク部品の移植作業

事例
 16年7月、不法滞在者等にあっせんするため外国人登録証、旅券等を偽造していた男(49)らを有印公文書偽造罪で逮捕した。偽造に使用したパソコン、プリンタ等を押収し、解析したところ、偽造に使用されたとみられる画像ファイルや電子メール等、数万点に及ぶ証拠資料を発見した(埼玉)。

  ウ 都道府県警察の体制の整備
 都道府県警察では、サイバー犯罪の取締りや関連施策を効率的に進めるため、各部門が連携し、サイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により推進されるサイバー犯罪対策プロジェクトを立ち上げている。
 また、サイバー犯罪捜査に必要な専門的技術・知識を有する捜査員を育成したり、民間企業でシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者をサイバー犯罪捜査官として中途採用したりしているほか、サイバー犯罪の予防のための広報啓発活動を行う情報セキュリティ・アドバイザーを配置するなど、サイバー犯罪対策のための要員の確保に努めている。

 [2] 法制の整備
  ア 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
 この法律では、他人の識別符号(ID・パスワード等)を不正に入力し、情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする不正アクセス行為やそれを助長する行為を禁止し、罰則を定めている。また、不正アクセス行為の被害を受けたアクセス管理者からの申出により、都道府県公安委員会が再発防止のために必要な資料の提供、助言、指導等の援助を行うことを定めている。

  イ 古物営業法
 この法律では、インターネット・オークション事業者に係る盗品その他犯罪によって領得された物(以下「盗品等」という。)の売買防止等のための規定を整備しており、営業の届出、遵守事項(盗品等の疑いがある場合の申告義務、出品者の確認及び取引の記録に関する努力義務)、競りの中止命令等を規定している。
 また、同法に基づき、都道府県公安委員会は、特別のクレジット認証(注)による相手方の本人確認を行うなどの基準に適合するインターネット・オークション事業者を、盗品等の売買防止に資する業務方法を採用している事業者として認定しており、17年3月現在、12事業者が認定を受けている。


注:クレジットカードの番号や有効期限の認証のほか、生年月日等カードの所有者しか分からない情報を認証に用いて、カードの所有者になりすますことを困難にする認証方法

  ウ インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律
 この法律では、いわゆる出会い系サイトを利用して、18歳未満の児童を相手方とする性交等や対償を伴う異性交際を誘引することを禁止している。また、事業者に対しては、児童の利用を防止するため、児童が利用してはならないことの明示及び利用者が児童でないことの確認を義務付けるとともに、これに違反した場合は、都道府県公安委員会が必要な措置を講ずるよう命ずることができることなどを規定している。
 16年中は、これらの規定に違反したインターネット異性紹介事業者に対し47件の警告を発した。

 第1節 最近の犯罪情勢とその対策

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