第9章 公安委員会制度と警察活動のささえ 

(3)科学警察研究所の研究

 科学警察研究所では,事件・事故の原因や証拠を科学的に解明するための研究及びこれを用いた捜査支援,さらに各種社会問題の背景を分析して,これに基づいて政策提言を行うなどの活動を行っている。

研究例1
 現場資料の生物学的異同識別鑑定に利用するDNA型検査法の開発を行っている。新しいDNA型検査法として,フラグメントアナライザーと呼ばれる分析機器を用いた短鎖DNA型(STR型)検査法を検証し,血痕,体液斑,組織等から複数STR型を同時に検出する検査法を確立したものである。また,各都道府県警察科学捜査研究所のDNA型鑑定員に技術研修を実施し,当検査法の導入を行っている。この検査法は,高い個人識別力を有しているため,今後の効果的運用が期待される。

研究例2
 放火事件のように可燃物が用いられた火災では,急激な延焼拡大と有毒な煙の発生により着火源が消失し,現場の焼け方や残焼物からでは火災原因の究明が困難となる場合がある。このような火災では現場調査だけでなく,数値データに基づいた着火や延焼拡大挙動の解析を行うことも原因の究明に有効な手段と考えられることから,カロリーメータや熱流速計等の最新測定機材を用いた火災原因の究明に関する研究を行っている。

 
隣接建物壁への延焼実験(研究例2)

隣接建物壁への延焼実験(研究例2)

研究例3
 乱用が予想される各種の新規薬物について,ガスクロマトグラフィー・質量分析,液体クロマトグラフィー・質量分析,キャピラリー電気泳動法等を用いて,微量の資料からでも薬物の証明を可能とする分離法と高感度分析法を開発し,実際の鑑定に応用している。また,異なる場所で押収された覚せい剤等について,微量に含有される合成原料,反応中間体等の分析から密売ルートを解明する手がかりを得ようとする研究(不純物プロファイリング)にも取り組んでいる。

研究例4
 人質立てこもり事件における犯人,警察官,人質となった被害者の心理と行動の分析を行い,効果的な説得・交渉の技術を検討するとともに,事件が発生した際の指揮官の意思決定を支援するためのシステムの開発を行った。我が国で,これまで発生した事件の類型化を試み,「計画型」,「犯罪失敗型」,「情緒型」のタイプを見出し,タイプごとに効果的な捜査戦略・戦術について検討した。また,事件の被害者及び警察官について,事件後の心身の後遺症及び被害者支援に関する研究を行った。

研究例5
 道路交通騒音による沿道住民の被害感の軽減をねらいとした交通管理に関する基礎的研究を行っている。全国28の幹線道路において,沿道住民に対するアンケート調査,路側での騒音レベルの測定,交通実態調査を行い,被害感に及ぼす要因,被害感と騒音レベルの関連性,騒音レベルと交通流の関連性等を明らかにした。そして,これらの知見を統合し,沿道住民の被害感を軽減するための道路交通騒音低減対策の立案手法を提案した。本研究の成果は,交通管理による道路交通騒音低減対策の効果的推進に資することが期待される。

 

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