第1章 組織犯罪との闘い 

イ 警察における薬物対策

(ア)薬物犯罪組織の壊滅
 薬物の密売等は,仕入れ価格と末端価格の差が大きく莫大な収益を上げられ,また,薬物の依存性から安定した需要が確保されることから,暴力団等がその資金力と威力を拡大するために敢行する組織犯罪の典型である。警察では,4年に施行された麻薬特例法を活用し,厳正な科刑の獲得や薬物犯罪収益等のはく奪に努めるなど,人・資金の両面から薬物犯罪組織の壊滅に向けた取締りを推進しているところである。
 しかしながら,薬物犯罪組織は,組織防衛を強化し,その手口を巧妙化させており,また,末端の密売人を検挙しても組織実態に関する供述を得にくくなっているなど,その取締りは困難となっている(第1節4(3)参照)。麻薬特例法のほか,11年には組織的犯罪処罰法及び通信傍受法等が制定されるなど,各種立法措置が講じられているが,今後,これら法令を活用しつつ,薬物犯罪組織の実態解明を進めるとともに,組織の中枢に位置する者を摘発し,薬物犯罪組織の壊滅を進めていくこととしている。また,組織実態の解明等のための捜査手法の研究にも努めていく必要がある。

(イ)需要の根絶
 薬物乱用は,乱用者自身の精神,身体を蝕(むしば)むばかりでなく,社会の安全を脅かすものであることに加え,薬物乱用者の存在が薬物の需要を生み,薬物犯罪組織の維持・拡大を支えている。薬物対策を推進するためには,薬物犯罪組織に対する取締りとともに,薬物の需要を根絶することが重要である。このため,末端乱用者に対する取締りを徹底するとともに,広報啓発活動,相談活動等を充実し,薬物乱用を拒絶する社会環境を構築していくこととしている。

(ウ)国際協力の推進
 薬物の不正取引は,薬物犯罪組織により国境を越えて行われ,一国のみでは解決できない問題であることから,サミット,国際連合等の国際的な枠組みの中でも,地球規模の重大な問題として,その解決に向けた取組みがなされている。警察では,これらに積極的に取り組むとともに,薬物生産国等における薬物問題への取組みを支援するため,国際協力事業団(JICA)が14年から実施している「薬物対策地域協力プロジェクト」(タイを拠点として,ミャンマー,ラオス,カンボジア及びベトナムを対象とする。)に薬物専門家を派遣するなど,薬物対策に関する技術の移転を行っており,今後も,国際協力を推進していくこととしている。
 また,国境を越えて行われる薬物の不正取引に対処するため,海外の取締機関等との情報交換を密にして,海外における薬物犯罪組織の活動実態を明らかにするとともに,海外の取締機関等と協同した捜査を推進していく。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む