第1章 組織犯罪との闘い 

イ 強盗事件における役割分担と収益の配分

 強盗事件における暴力団員と来日外国人の関係は,共犯事件に関する調査によれば,集団密航の場合とは異なり,具体的な犯行計画を積極的に持ちかけるのは,暴力団員である場合が多い。
 広範な情報網と人的ネットワークを持つ暴力団員は,日常的に,強盗が容易な対象(例えば,多額の金銭を保管しており,人気が少ない家屋や事務所,多額の現金を輸送する警備の手薄な現金輸送車等)に関する情報を収集している。これを利用して,下見を行い,犯行に必要な凶器を調達し,入念な犯行計画を策定したうえで,危険な犯行を厭(いと)わない来日外国人に実行行為を依頼する。来日外国人側の首領格の者は,自分の手足となる数人の来日外国人を誘い入れ,これらの者と共同して,暴力団員が策定した犯行計画に従って,犯行を行っている(典型的な共犯形態に関して図1-63参照)。

 
図1-63 強盗事件における共犯形態の例

図1-63 強盗事件における共犯形態の例

 暴力団員は,警察による検挙をおそれるため,犯行現場に現れることを回避する傾向が強い。来日外国人による強盗の手口は,残忍,凶暴で,被害者に対して執拗(よう)な攻撃を加えて殺害に至るなど,想定外のトラブルが犯行現場で頻発する傾向にある。共犯事件に関する調査においては,暴力団員は,被害者の事務所に保管してある現金のみを奪って逃走する計画を立てたが,その実行行為のすべてを中国人グループに委ねたため,強取した現金が少なかったことに腹を立てた中国人が,被害者の預金通帳,印鑑等を奪うとともに,被害者自身を拉(ら)致・監禁し,被害者に預金の払戻しに必要な書類を作成させたうえで,金融機関から現金を詐取した事例が見受けられた。この事例では,中国人らは,合計4,000万円以上の収益をあげたにもかかわらず,なお,これに満足せず,被害者を引き続き監禁した上で,暴力団員とは別の日本人と共謀し,他の金融機関からも現金を詐取しようとしたことから,通報を受けて警戒中の警察官に検挙された。
 このため,暴力団員は,犯行の監視役,見張役,外国人を犯行場所まで運ぶ運搬役等として,実行行為に少数の組員等を立ち会わせざるを得ない場合もあり,これらの役割は,多くの場合,末端の組員,準構成員等が担当している。
 強盗による収益は,多少の差はあるものの,ほぼ半々で暴力団員と来日外国人に配分されることが多い。

事例
 指定暴力団三次組織幹部甲は,手形割引等の仕事を通じて以前から取引のあった会社役員乙から,「強盗に入りやすくて,現金を置いてあるところを紹介してくれ。中国人が強盗するから,高見の見物で金が入る」などと誘われ,犯行に加わることとした。
 甲は,乙からの要請に応えるため,情報を収集し,乙と相談の上,最終的には,強盗の対象として独居老人宅を選定し,犯行計画を策定した。乙は,バール等の凶器を準備し,日本人を介して,中国人強盗グループの渉外的な役割を担うAに連絡した。しばらくして,Aは乙に対して「強盗をやるグループが見つかった」と連絡し,中国人B及びCを乙のもとに送り込んだ。
 甲らは,ホテルの一室で相談をした結果,犯行現場までの案内と逃走車両の運転を担当する者として,甲の配下の暴力団員丙及び丁が,強盗に加わることとなった。
 中国人ら3人は,独居老人宅に押し入り現金1,300万円を強取し,日本人側に600万円,中国人側に700万円が分配された。
 その後,一度に多額の金銭を得られることに魅力を感じた甲は,他の暴力団組織の組長宅に強盗に入ることを計画し,乙及びAを介して,再度,B,Cらと共謀し,B,C,丙,丁が組長宅に押し入ろうと付近を車両で徘徊(かい)していた際,警戒中の警察官に職務質問を受け,強盗予備の現行犯で逮捕された。

 

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