第3節 少年の非行防止と健全育成

1 深刻化する少年非行情勢

(1) 少年非行の概況
 平成10年は、刑法犯少年の検挙人員が3年連続の増加となったほか、バタフライナイフ等の刃物を使用した凶悪事件の相次ぐ発生や殺人等人を死に至らしめる犯罪(注)の増加等、凶悪・粗暴な非行の深刻化が進み、また、少年による覚せい剤等の薬物乱用も予断を許さない状況にあるなど、少年非行情勢は戦後第4の上昇局面を迎えており、依然として極めて憂慮すべき状況にある。
(注) 「人を死に至らしめる犯罪」とは、殺人、強盗殺人及び傷害致死をいい、殺人には未遂及び予備を、強盗殺人には未遂及び強盗致死を、それぞれ含む。
 10年中の刑法犯少年の検挙人員は15万7,385人(前年比4,560人(3.0%)増)で、2年連続で15万人を超えるとともに、刑法犯少年の人口比は16.9(0.8増)となった。また、刑法犯総検挙人員に占める割合は48.5%で、前年に比べ0.2ポイント減少したが、引き続き高水準で推移している。
 10年中の刑法犯少年の包括罪種別検挙状況は、表2-8のとおりで、窃盗犯が9万9,768人(全体の63.4%)で最も多い。また、初発型非行(万引き、自転車盗、オートバイ盗及び占有離脱物横領の4種をいう。)で検挙した少年は11万9,033人で、刑法犯少年総数に占める割合は75.6%(前年比1.1ポイント増)となった。
 また、10年中の触法少年(刑法)の補導人員は2万6,905人(780人(3.0%)増)で、3年連続で増加した。
(2) 平成10年の少年非行の主な特徴
ア 少年非行の凶悪化・粗暴化の進展
 10年中に凶悪犯で検挙した刑法犯少年は2,197人(前年比66人(2.9%)減)で、過去20年間では9年に次ぐ高い数字となった。罪種別にみると、殺人115人(41人(55.4%)増)、強姦455人(54人(13.5%)増)が増加し、強盗1,538人(137人(8.2%)減)、放火89人(24人(21.2%)減)が減少した。
 また、10年中は、凶悪・粗暴な犯罪の中でも人を死に至らしめる犯罪の増加が目立った。10年中の人を死に至らしめる犯罪の検挙人員は284人で、前年に比べ111人(64.2%)の急増となり、昭和47年に統計を取り始めて以降の最悪を記録した。罪種別では、殺人は115人(前年比41人(55.4%)増)、強盗殺人は26人(22人(550.0%)増)、傷害致死は143人(48人(50.5%)

表2-8 刑法犯少年の包括罪種別、学職別検挙状況(平成10年)

図2-5 凶悪犯少年の検挙人員の推移(平成元~10年)

増)となった。
 平成元年以降の凶悪犯少年の検挙人員の推移は、図2-5のとおりである。
[事例] 3月、無職男子少年(17)は、独居老人の家に口実を設けて上がり込み、首を絞めて同人を殺害、金品を強取した後、死体を山林に遺棄した。同月、強盗殺人罪等で検挙した(鹿児島)。
 10年に入って相次いで発生し、大きな社会問題となった少年によるバタフライナイフ等の刃物を使用した事件については、夏以降いくぶん沈静化の傾向をみせた結果、10年中の少年による刃物使用事件の検挙件数は367件(うち凶悪犯156件)で、前年に比べ64件(14.8%(凶悪犯3.7%))の減少となった。
[事例] 2月、男子中学生(15)は、警察官を殺害してけん銃を奪おうと企て、パトロール中の警察官に道を聞く振りをして同警察官の右胸をバタフライナイフで刺したが、同警察官に逮捕され、その目的を遂げなかった。同月、強盗殺人未遂罪で検挙した(警視庁)。
イ その他の特徴
 10年中に凶悪犯で検挙した少年のうち、非行歴のなかった者は1,024人で、全体の46.6%となっており、それまでに非行を犯したことのない少年がいきなり重大な非行に走るケースが目立っている。ただし、これらの少年についても、飲酒、喫煙や深夜遊興等、非行の前兆となり得る問題行動があることが指摘されている。
 また、動機をみると、カラオケ代やゲーム代を目当てとする強盗等遊興費を得るための非行が増加傾向にあるのに対し、「遊び、好奇心、スリル」からのものは減少している。
 さらに、特に凶悪犯について、集団により引き起こされる傾向が顕著であり、10年の凶悪犯のうち共犯事件は56.3%と、元年に比べて22.9ポイントの増加となっている。
(3) 少年の薬物乱用
 平成10年中に覚せい剤事犯、大麻事犯及びシンナー等の乱用で検挙した犯罪少年の学職別状況は、表2-9のとおりである。
 10年中に覚せい剤事犯で検挙した犯罪少年は1,069人で、前年に比べ527人(33.0%)減少した(図2-6)。このうち、高校生の検挙人員は、前年に比べ121人(55.3%)減少した。
 近年、少年による覚せい剤の乱用が増加傾向にあり、10年は、前年に比べ減少となったものの、4年連続で検挙人員が1,000人を超えるなど依然として予断を許さない状況にある。こうした状況の背景としては、少年でも繁華街や駅前等で外国人等の密売人から容易に覚せい剤を入手できる状況となっていること、少年が覚せい剤に対し、「ダイエット効果がある」などと誤った認識を持っていたり、「S(エス)」とか「スピード」等と呼び、抵抗感が希薄になっていたりするなど、少年に薬物の危険性、有害性についての認識が欠如していることが挙げられる。

表2-9 覚せい剤、大麻事犯及びシンナー等の乱用で検挙した犯罪少年の学職別状況(平成10年)

図2-6 覚せい剤事犯で検挙した犯罪少年の推移(平成元~10年)

[事例] 3月、女子中学生(15)は、テレホンクラブで知り合った男性から覚せい剤を譲り受け、通学する中学校のトイレで乱用した。同月、覚せい剤取締法違反で検挙した(北海道)。
 また、10年にシンナー等の乱用で検挙した犯罪少年は4,496人(前年比339人(8.2%)増)で、8年振りの増加となった。
(4) 校内暴力、いじめに起因する事件
 平成10年中に警察が取り扱った校内暴力事件の事件数は661件、検挙・補導人員は1,208人 で、前年に比べ事件数は90件(15.8%)増加し、検挙・補導人員は38人(3.0%)減少した。また、校内暴力事件のうち教師に対するものは、事件数446件、検挙・補導人員569人で、前年に比べそれぞれ78件(21.2%)、40人(7.6%)増加し、件数、人員とも3年連続の増加となった。
 また、10年中に警察が取り扱ったいじめ(注)に起因する事件の件数は98件、検挙・補導した少年は268人で、前年に比べ件数で5件(5.4%)増加したものの、検挙・補導人員では42人(13.5%)減少した。また、いじめの仕返しによる殺人事件やいじめによるとみられる自殺事案が発生するなど、いじめの問題は依然予断を許さない状況にある。6年以降のいじめに起因する事件で検挙・補導した少年の推移は、図2-7のとおりである。

図2-7 いじめに起因する事件で検挙・補導した少年の推移(平成6~10年)

 いじめにより少年を検挙・補導した事件について、いじめた原因、動機をみると、被害少年が「いい子ぶる・なまいき」とするものが31件(31.6%)で最も多い。また、発生場所をみると、学校外が55件(56.1%)となっている。
(注) 「いじめ」とは、単独又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより、苦痛を与えること(ただし、番長グループや暴走族同士による対立抗争事案を除く。)をいう。
(5) 女子少年の性の逸脱行為
 平成10年中に性の逸脱行為で補導・保護した女子少年(注)は4,510人で、前年に比べ402人(8.2%)減少した。学職別では、中・高校生が全体の67.2%を占めている。
 また、このうち「遊ぶ金欲しさ」を動機とする者は1,928人で、前年に比べ381人(16.5%) 減少したが、過去10年間では1.8倍となっている(図2-8)。
(注) 「性の逸脱行為で補導・保護した女子少年」とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫行をさせる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件及び刑法上の淫行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年並びに不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

図2-8 「遊ぶ金欲しさ」を動機とする性の逸脱行為で補導・保護した女子少年数の推移(平成元~10年)

2 犯罪等による少年の被害の状況

(1) 少年が被害者となる刑法犯の状況
 平成10年中に少年が被害者となった刑法犯の認知件数は32万268件で、前年に比べ4,199件(1.3%)減少した。
 罪種別にみると、凶悪犯被害が1,523件、粗暴犯被害が1万6,344件で、前年に比べそれぞれ104件(7.3%)、418件(2.6%)増加した。特に、少年の凶悪犯被害が1,500件を超えたのは、昭和59年以来14年振りである。
 また、学職別にみると、高校生の被害が13万6,958件と最も多く、次いで中学生となっているが、前年に比べた増加率では、無職少年15.9%、未就学児童9.3%の増加が目立つ(表2-10)。
(2) 少年の福祉を害する犯罪
 警察では、少年の心身に有害な影響を与え、また、少年の非行を助長する原因ともなる福祉犯の取締りを推進するとともに、その被害を受けている少年の発見、保護に努めている。
 平成10年に福祉犯の被害者となった少年は1万1,435人で、前年に比べ36人(0.3%)増加

表2-10 少年の刑法犯被害認知件数(平成9、10年)

した。学職別では、高校生が、3,878人(33.9%)と最も多く、次いで無職少年となっているが、小学生、中学生及び無職少年が前年に比べ増加している(表2-11)。

表2-11 福祉犯の被害少年の学職別状況(平成9、10年)

 また、10年中の福祉犯の検挙人員は8,739人で、前年に比べ131人(1.5%)増加した。法令別では、青少年保護育成条例(テレホンクラブ等規制条例を含む。)違反が最も多く、次いで毒物及び劇物取締法違反となっている(図2-9)。

図2-9 福祉犯の法令別検挙人員(平成10年)

(3) 児童買春・児童ポルノ問題
 国際的にも問題となっている児童買春や児童ポルノは、児童の権利保護や少年の健全育成を図る上で大きな問題であり、警察では、刑法、児童福祉法等の現行の法令を適用して、厳正に対処している。また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律が成立した(第1章第2節1(1)ウ(イ)参照)ことから、今後は、その適正な運用を図っていく。
[事例] 平成9年8月、女子小学生を自宅に連れ込み、裸にするなどして、わいせつビデオを撮影していた無職男性(25)ら2人を強制わいせつ罪で検挙し、捜査の結果、児童ポルノ愛好者が組織する全国ネットワークの存在が判明した。同ネットワーク会員らは、母親も同席しての女子小学生の児童ポルノ撮影会を開催するなどし、パソコン通信を利用してビデオ等を販売しており、10年7月までに会員等18人を強制わいせつ、わいせつ図画販売・所持罪等で検挙した(大阪)。
 また、被害に遭った児童の保護の観点から、被害児童の受けた精神的な打撃を軽減し、早期立ち直りを図るため、心理学等に関する知識を有する警察職員による継続的な支援を実施している。

3 総合的な少年非行対策の推進

(1) 少年非行の今日的問題を踏まえた警察活動
 少年非行情勢は、現在、戦後第4の上昇局面を迎え深刻化の様相を呈している。
 特に、平成10年は、年初からバタフライナイフ等の刃物を使用した凶悪な事件が相次いで発生したこともあり、少年非行が社会的に大きな問題となったことから、3月、首相の下に「次代を担う青少年について考える有識者会議」が置かれ、4月、同有識者会議は、少年の問題に対し政府全体として取り組んでいくことが必要であるとの基本的認識を示すとともに、関係省庁に具体的施策の検討を求める提言を行った。
 警察では、9年8月、「少年非行総合対策推進要綱」を制定し、「強くやさしい」少年警察運営を基本方針として、少年非行等に係る総合的な対策を推進してきたが、同有識者会議の提言等も受け、少年非行の今日的な問題に即応するための警察活動の在り方について検討し、10年6月、「子供を非行から守るために」と題する抜本的な対策指針を取りまとめた。
 「子供を非行から守るために」の中では、少年非行への対策を推進するに当たって警察が早急に取り組むべき課題として、次の4本の柱を掲げて、現在その積極的な推進に努めている。
ア 少年サポートセンターの活動を中心とした非行防止対策の推進
 最近の少年非行の特徴として「いきなり」型の重大な非行が目立つことが挙げられるが、こうした少年についても、重大な非行に走るまでには、飲酒、喫煙や深夜遊興等の不良行為があることが指摘されており、少年の重大な非行を防止する上で、補導段階での適切な対応が極めて重要である。
 そのため、警察では、少年係の警察官、少年補導職員等を中心に、少年補導員等地域の少年警察ボランティアと協力して、盛り場、公園等非行の行われやすい場所での街頭補導等の補導活動を日常的に実施し、非行少年等の早期発見、補導等に努めている。
 また、飲酒、喫煙や深夜遊興等の不良行為をしている少年を発見したときは、警察官等がその場で注意や助言を与えるとともに、補導段階で少年自身やその家庭に対する適切な助言、指導を行い、また、必要に応じて少年や家庭の問題に応じた相談先や少年の「居場所」となり得る社会参加活動を紹介するなどの支援活動を行っている。
 さらに、不良行為少年やその家庭に対する組織的かつ専門的な支援活動の充実を図るため、少年補導職員等を中核とする少年補導の専門組織としての「少年サポートセンター」の構築を進めている。少年サポートセンターは、11年6月現在、44都道府県警察に設置され、その少年サポートセンターが中核となって、少年警察ボランティアや学校関係者等との共同での補導活動、継続補導、関係機関等とのネットワークの構築等、それぞれの地域の実情に 応じた取組みを推進している。
イ 少年事件捜査力の充実強化
 犯罪を犯した少年に対しては、その少年の更生に資するためにも、その動機や背景も含めて確実に非行事実を解明するとともに、少年自身に自らの犯した犯罪の社会的意味や被害者の痛みを理解させていくことが重要である。
 警察では、非行少年について、少年の特性に十分配慮しつつ、保護者等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための処遇に関する意見を付して、関係機関に送致、通告するなどの措置をとっている。
 一方、最近の少年事件をみると、共犯事件の増加や証拠隠滅を図るケースが目立つなど、その捜査が複雑、困難化してきていることから、警察では、少年警察に携わる警察官の捜査技能の向上を図るとともに、悪質な非行に対する組織捜査の徹底を図るための体制の充実や少年事件特別捜査隊の設置等、少年事件捜査力の強化に努めている。
ウ 情報発信機能の強化
 最近の少年非行の深刻化の背景の一つとして、少年の規範意識の欠如や家庭、地域社会の無関心が指摘されている。
 警察では、少年の規範意識の形成や家庭、地域の共通の問題認識の醸成を図るため、警察活動で得た現実の生きた情報の社会への還元に力を入れており、学校に警察職員を派遣して行う薬物乱用防止教室の開催や学校、地域と連携した非行防止教室や座談会等の開催等、情報発信機能の強化に努めている。
エ 時代の変化に応じた少年保護対策
 少年への覚せい剤の密売、児童買春等の少年を触(むしば)む行為の拡大や少年の不良行為を助長する営業の増加、性や暴力等に関する過激な情報の蔓(まん)延等、少年を取り巻く社会環境の悪化が少年の非行や福祉犯被害の増加の一因となっている。
 警察では、少年を取り巻く有害な環境の浄化に努めているほか、児童買春・児童ポルノをはじめとした福祉犯事件の広域化、巧妙化に対応するための広域捜査力、国際捜査力の強化、捜査技術の高度化、飲酒、喫煙等の不良行為を助長するおそれのある営業やインターネット上の少年に有害な情報への対策等、時代の変化に応じた少年保護の在り方について検討を進めている。
(2) 少年の薬物乱用防止対策
 少年による薬物乱用が依然として高い水準にあることから、警察では、[1]覚せい剤等の供給源に対する取締りの強化、[2]薬物乱用少年の発見・補導等の強化、[3]教育委員会、学校等との連携の強化、[4]家庭、地域に対する広報啓発活動の強化を四本柱として、少年の薬物乱用防止のための総合的な対策を推進している。
 特に、少年に薬物の危険性・有害性についての正しい認識を持たせることが重要であることから、警察職員を学校等に派遣して行う薬物乱用防止教室の開催に力を入れており、平成10年度は、全国の中学校・高校の65.3%に当たる10,921校で開催したほか、薬物乱用防止広報車等も活用して地域での開催にも努めている。
 また、警察では、薬物乱用少年に対して、再乱用を防止する観点から、必要に応じて継続的な指導・助言を行うなど、少しでも早い段階での立ち直りを支援しており、9都道府県警察では、再乱用防止対策を効果的に実施するため、警察、学校、医療機関、保健所等の実務担当者による「薬物乱用防止チーム」を結成し、チームによる支援活動を推進している。
(3) 刃物を使用した凶悪事件等に対する対策
 平成10年は、1月に発生した中学生による教師殺人事案をはじめ、少年による刃物を使用した凶悪事件等が相次いで発生し、大きな社会問題となった。
 警察では、街頭補導活動を強化し、正当な理由なく刃物を携帯している少年の発見、補導等に努めるとともに、学校等との連携強化による刃物携帯の犯罪性、危険性に関する啓発の徹底を図ったほか、関係機関・団体等と連携し、販売店等に対して少年への適切な販売方法をとるよう要請を行うなど、少年による刃物を使用した事件の防止に向けた対策の推進に努めた。
(4) 少年を取り巻く環境の浄化
 最近における少年非行情勢の深刻化の背景の一つとして、少年を取り巻く環境の悪化が挙げられることから、警察では、少年を蝕む行為の取締りを強化するとともに、地域住民や関係機関・団体等と連携して、性を売り物とする営業に対する指導取締り、少年に対する有害情報の氾(はん)濫の抑止、不良行為を助長する環境の浄化、少年に対する暴力団の影響の排除等の対策に努めている。また、特に環境浄化の必要性の高い地域を「少年を守る環境浄化重点地区」(平成11年3月現在、全国275箇所)に指定しており、少年のたまり場等の浄化運動、環境浄化住民大会の開催等の環境浄化活動を推進している。
ア 性を売り物とする営業に対する指導取締り
 テレホンクラブ営業や性風俗特殊営業等の性を売り物とする営業は、性の逸脱行為や福祉犯被害のきっかけとなるおそれが大きいことから、警察では、風営適正化法等の法令による指導取締りに努めている。
 特に、テレホンクラブ営業は、同営業に係る女子少年の性被害が増加しているとともに、「援助交際」と称する売買春の温床となっていることから、全国の都道府県(注)では、テレホンクラブ等規制条例による広告・宣伝に関する規制等に違反する行為の取締りや都道府県公安委員会等による行政処分等条例の適切な運用に努めている。
(注) 長野県テレホンクラブ等規制条例が、11年7月1日に施行されたのを最後に、全都道府県においてテレホンクラブ営業の規制を目的とする条例が施行された。
イ 少年に対する有害情報の氾濫の抑止
 性や暴力等に関する過激な情報を内容とする雑誌、ビデオ、コンピュータ・ソフト等が一般書店やコンビニエンスストア等で販売されており、少年でも簡単に入手できることから、警察では、関係機関・団体や地域住民等と協力して、関係業界による自主的措置の促進を図るとともに、個別の業者に対する指導や悪質な業者の取締りに努めている。
 特に、最近では、インターネット等コンピュータ・ネットワークを通じて、少年でも有害な情報に容易にアクセスできる状況が出現していることから、「ネットワーク上の少年に有害な環境に関する調査委員会」の提言を踏まえ、ネットワーク上の少年に有害な情報に対する総合的な対策に取り組んでいくこととしている(第3章第3節2(7)参照)。
ウ 不良行為を助長する環境の浄化
 カラオケボックス等の娯楽施設やコンビニエンスストアは、深夜における不良行為少年のたまり場となったり、飲酒、喫煙等の不良行為が行われたりするおそれが大きいことから、警察では、こうした営業に係る少年の不良行為の実態の掌握や街頭補導活動を強化するとともに、法令に違反する行為の取締りに努めている。
 また、警察庁では、学識経験者等の参加を得て、少年の不良行為を助長するおそれの大きい社会環境対策の在り方についての検討を行っている。
エ 少年に対する暴力団等の影響の排除
 10年中に暴力団等が関与する福祉犯の被害者となった少年は1,550人で、福祉犯被害少年総数の13.6%を占め、暴力団等が少年に対する薬物の密売や少女売春等悪質性の高い事案に関与している実態がみられる。また、10年中に把握された少年の暴力団の構成員及び準構成員の総数は、全国で516人で、このほか877人の少年が暴力団の影響を強く受けて加入を勧誘されており、さらに、163の暴走族等の集団が暴力団の影響下にあるとみられている。
 警察では、暴力団等が関与する福祉犯等の取締りに努めるとともに、少年の暴力団員の離脱の促進や加入の阻止等、少年に対する暴力団等の影響の排除に努めている。
(5) 少年相談活動
 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止とその兆候の早期発見や犯罪、いじめ、児童虐待等に係る被害少年等の保護のために少年相談の窓口を設け、少年や保護者等からの悩みや困りごとの相談を受け、教育学、心理学等に関する知識を有する専門職員や経験豊富な少年補導職員、少年係の警察官が必要な助言や指導を行っている。また、「ヤング・テレホン・コーナー」等の名称で電話による相談窓口を設けているほか、ファックスの設置やフリーダイヤルの導入等、少年が相談しやすい環境の整備を図っている。

図2-10 少年相談の内容(平成10年)

 平成10年中に警察が受理した少年相談の件数は9万2,268件(前年比1万984件(10.6%)減)となった。このうち、保護者等からの相談が7万2,421件で、全体の78.5%を占めている。また、相談の内容についてみると、少年自身からの相談では性、健康問題に関するものが、保護者等からの相談では非行問題に関するものが、最も多くなっている(図2-10)。さらに、継続的助言・指導を必要とする相談は2万374件で、全体の22.1%を占めている。
(6) 少年の社会参加、スポーツ活動
 警察では、関係機関・団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動、社会福祉活動等の社会奉仕活動や伝統文化の継承活動、地域の産業の生産体験活動等地域の実態に即した様々な少年の社会参加活動を展開している。また、スポーツ活動については、特に、警察署の道場を開放して地域の少年に柔道や剣道の指導を行う少年柔剣道教室を全国的に開催しており、平成10年中は約1,000警察署において、約7万人の少年が参加した。これらの教室に通う少年が参加して、10年8月には、(財)全国防犯協会連合会及び(社)全国少年補導員協会の共催による「第11回全国警察少年柔道・剣道大会」が開催された。
(7) ボランティア活動
 警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、約6,000人の少年指導委員、約5万1,000人の少年補導員、約1,100人の少年警察協助員等のボランティアを委嘱している(平成11年4月1日現在)。少年指導委員は、風営適正化法に基づき、都道府県公安委員会の委嘱を受け、少年を有害な風俗環境の影響から守るための少年補導活動や風俗営業者等への協力要請活動に、少年補導員は、街頭補導活動、環境浄化活動をはじめとする幅広い非行防止活動に、少年警察協助員は、非行集団の解体補導活動に、それぞれ従事している。警察では、少年補導職員等の警察職員とこうしたボランティアとの連携の強化を図っており、警 察職員とボランティアとが一体となった地域に密着したきめ細やかな活動の展開に努めている。
 また、(社)全国少年補導員協会は、全国各地で行われているこれらの活動を支援しているほか、10年11月には、ボランティア、PTA等約400人の参加を得て少年問題シンポジウム「子どもを非行から守るために~いま、社会が求められているもの」を(財)社会安全研究財団と共催するなど、少年の非行防止と健全育成を目指した活動を推進している。


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