第2節 警察活動のささえ

1 警察の組織

 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務を遂行するため、都道府県を単位として、都道府県警察が置かれ、これら都道府県の警察機関をその所掌事務の範囲内で指揮監督する国の警察機関として、警察庁が置かれている。さらに、警察庁には、その地方機関として、管区警察局等が置かれている。
(1) 国と都道府県の警察組織の概要
ア 警察庁の組織
 警察庁には、警察庁長官とその補佐機関としての次長のほか、内部部局として、長官官房、生活安全局、刑事局、交通局、警備局、情報通信局が置かれ、長官官房には国際部が、刑事局には暴力団対策部がそれぞれ置かれている。また、警察庁の附属機関として、警察大学校、科学警察研究所及び皇宮警察本部が置かれ、地方機関として、管区警察局、東京都警察通信部及び北海道警察通信部が置かれている。
 警察庁長官は、国家公安委員会の管理の下に、警察庁の所掌事務について都道府県の警察機関を指揮監督するほか、内閣総理大臣から大規模災害等に際して緊急事態の布告が発せられたときは、布告地域を管轄する都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長に対し必要な命令、指揮を行うなど警察法に基づく権限を有している。
イ 都道府県警察の組織
 都道府県警察は、都道府県に置かれる機関であり、都警察の本部として警視庁が、道府県警察の本部として道府県警察本部が置かれ、都道府県の各地城を管轄する警察署とその下部機構としての交番、駐在所が置かれている。また、都道府県警察の長として、都警察には警視総監が、道府県警察には道府県警察本部長が置かれている。なお、北海道は、その区域を5つの方面に分け、道警察本部の所在地(札幌)を管轄する方面以外の方面については、それぞれ方面本部が置かれている。
(2) 管区警察局の役割とその活動状況
ア 管区警察局の組織
 管区警察局は、警察庁の機能を地域を分けて分掌する機関で、東北管区警察局、関東管区警察局、中部管区警察局、近畿管区警察局、中国管区警察局、四国管区警察局及び九州管区警察局が設けられている。なお、北海道及び東京都は、管区警察局の管轄区域外とされてい る。
イ 管区警察局の役割と活動状況
 管区警察局は、広域対応を必要とする警察事象その他の国の公安に係る警察事象に関する警察活動をはじめ、監察や教育訓練、警察情報通信等の業務について、主体的な役割を果たしている。
(ア) 広域犯罪の捜査
 広域対応を必要とする銃器・薬物事犯や広域にわたる殺人、強盗等の重要事件に係る合同・共同捜査、広域捜査隊の運用、捜査員の広域運用等に関して管轄区域内の各府県警察に対する必要な指導調整を行っている。
[事例1] 6月、近畿管区警察局は、神戸市において、3月に女子児童を被害者とする通り魔殺人事件が発生したことに加え、5月には神戸市須磨区における小学生殺人・死体遺棄事件が発生し、防犯パトロール、児童の登下校時の警戒等の地域安全活動の強化が必要となったことから、近畿管区機動隊を現地に派遣するための措置を講じた。
 また、捜査支援を目的として他府県警察の資機材保有状況を把握し、金属探知器等必要な資機材の借入れについての調整を図るなど、事件の早期解決に努めた。
[事例2] 9月、近畿管区警察局は、増加する薬物事犯に歯止めをかけ、密輸入される薬物を水際で阻止するため、外国の貨物船による覚せい剤密輸入事件を想定し、大阪湾において、近畿管区内警察用船舶の広域運用訓練を実施した。近畿管区警察局及び大阪、兵庫、和歌山の3府県警察から計122人が参加し、警備艇8隻、ヘリコプター2機により、逃走する密輸船を空海両面から捜索、発見、追跡し、淡路島沖の海上で包囲捕捉す

る大規模な訓練を行った。
 なお、ヘリコプターテレビシステムで撮影した映像は、現地から、警察庁、近畿管区警察局及び府県警察本部へ転送するなど、衛星通信等を適切に活用する訓練も併せて行った。
(イ) 広域組織犯罪対策
 外国人犯罪組織や暴力団に係る広域事件の捜査に関して、管轄区域内の各府県警察に対する指導調整を行うとともに、それらの情報収集等に努めている。
[事例] 5月、東北管区警察局は、仙台市において開催された第21回東北地区特殊暴力防止協議会(東北6県内に本店を有する地方銀行及び第二地方銀行17行から成り、企業対象暴力対策の一環として昭和54年に設立された。)において、最近の暴力団の動向について会員行と活発な意見交換を行った。
 このほか、会員行に暴力団対策、総会屋対策に関する参考図書やビデオテープを配布するなど、各種支援活動に努めている。
(ウ) 大規模災害対策
 管区警察局は、大地震等の大規模災害が発生した場合には、被災情報、交通状況等に関する情報の収集に当たるとともに、管区警察局ごとに編成された管区機動隊、広域緊急援助隊、管区警察局等に設置された機動警察通信隊の派遣に関する必要な調整を行っている。また、警察車両の緊急通行を確保するための広域的な交通規制も実施している。
[事例1] 1月、ロシア船籍タンカー「ナホトカ号」が島根県隠岐島沖で海難事故に遭い、同船が重油を流出しながら漂流し、脱落した船首部が福井県安島岬付近に着底するという大規模な海洋災害が発生した。中部管区警察局は、公安部長を長とする「ロシアタンカー油流出事故連絡室」を設置し、福井県公安委員会からの三重県及び岐阜県に対する援助要求につき、岐阜県警察からの広域緊急援助隊員50人と三重県警察からのヘリコプター1機等の派遣の調整を行ったほか、災害対策官を現地に派遣し、関係県警察に対する指導調整に当たった。
 また、現地から、警察庁、中部管区警察局及び関係県警察本部までの映像通信を確保するため、機動警察通信隊を衛星通信車とともに派遣し、情報の収集等に当たった。
[事例2] 6月、関東管区警察局は、静岡県志太郡大井川町にて、関東管区内の全県警察(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の各県警察)の広域緊急援助隊を召集し、部隊出動訓練、被害情報収集訓練、被害者の救出訓練、野営自活訓練等の総合的な災害警備訓練を実施した。
 また、関東管区警察局情報通信部等から機動警察通信隊員が同訓練に参加し、臨時通信対策として、映像・衛星システム設置訓練等を実施した。
(エ) その他の広域的な警察活動
 このほか、警衛、警護、警備の実施や、都道府県を越えて活動する鉄道警察隊員の活動、高速道路における交通規制、指導取締り、機動装備隊の運用等においても、管区警察局が管轄区域内の各府県警察に対して指導調整を行い、警察事務の統一的かつ能率的な遂行を図っている。
(オ) 監察
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察に対する監察を随時又は計画的に行い、管轄区域内の各府県警察の事務執行の合理化、適正化に努めている。平成9年中は、警察部内における被害者対策推進体制の確立、関係機関・団体等との連携、被害者のための各種施策の推進状況に重点を置いた被害者対策の推進状況に関する業務監察等を行った。
(力) 教育訓練
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察における教育水準の維持向上を図るとともに、特に専門的な警察活動にかかる警察職員の能力を充実させるため、中堅幹部職員に対する教育訓練や身の代金目的誘拐事件等の捜査手法に関する研修会等を開催しているほか、管区機動隊や広域緊急援助隊等の各種訓練を行っている。
[事例] 11月、四国管区警察局は、管区内各県警察の情報管理部門等の担当官を集め、情報通信技術を悪用した犯罪に対する捜査支援をより的確に行うことを目的とする研修会を開催した。同研修会では、画像処理、画像鮮明化技術等の実習が行われたほか、各県警察から電磁的記録物の解析等の事例が紹介された。
(キ) 警察情報通信
 管区警察局では、警察活動を行う上で必要不可欠である情報通信の中核として、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等の情報通信システムの維持管理に当たっている。
 また、機動警察通信隊の編成、運用や、警察統合情報通信ネットワークの運用等に関する中核的役割を果たしている(5(1)イ、5(2)ア参照)。
(ク) その他
 このほか、管区警察局では、高等検察庁、地方入国管理局、管区海上保安本部等の他のブロック単位の関係機関等とともに連絡協議会を開催するなど、連携の強化に努めている。
 なお、緊急事態の布告が発せられた場合は、管区警察局長は、布告区域を管轄する府県警察の警察本部長に対し、必要な命令をし、又は指揮をするものとされており、管区警察局は、緊急事態に際して国が治安責任を全うするために不可欠な機関として位置付けられている。
[事例1] 9月、九州管区警察局は、関係省庁間の連携を促進し、銃器や薬物等の水際対策を強化するため、鹿児島県警察本部において「税関、海上保安本部、九州管区内各県警察合同水際対策会議」を開催した。同会議には、九州管区警察局及び九州管区内の全県警察のほか、九州・沖縄を管轄する税関(門司、長崎、沖縄地区)及び海上保安本部(第七管区、第十管区、第十一管区)が参加し、銃器・薬物の密輸情報の交換の在り方、等に関する意見を活発に交換するとともに、「九州・沖縄は一つ」との認識の下、より連携を緊密化することなどを確認した。
[事例2] 2月、中国管区警察局にて、不法就労等外国人労働者問題地方協議会が開催された。同協議会には、中国管区警察局、管区内各県警察のほか、法務省、労働省が参加し、来日外国人の不法就労等に関する相互の情報交換や連携の在り方について協議するとともに、関係機関での連絡調整が図られた。

2 警察職員

 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察が、その責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保する必要がある。そのため、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力ある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 平成10年度の警察職員の定員は、総数26万3,483人で、その内訳は、表10-1のとおりである。

表10-1 警察職員の定員(平成10年度)

 10年度は、地方警察職員たる警察官の増員は行われなかった。警察官一人当たりの負担人口は、全国平均で553人である(ただし、人口は9年3月31日現在の住民基本台帳人口による。)。
(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、適正に職務を執行するための良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校と職場において、あらゆる機会を通じて現場に即した教育訓練を行い、プロとしての実務能力と資質の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練においては、最近の犯罪情勢にかんがみ、凶悪犯罪、特に銃器使用犯罪に的確に対処するための実戦的な訓練に力を入れている。
 警察学校においては、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な基礎的知識や技能を修得させる採用時の教育訓練、各階級昇任者に対して、幹部として必要な知識と技能を修得させる昇任時の教育訓練、特定の分野に関して高度の専門的な知識と技能を修得させる各種の教育訓練等を実施している。また、その教育効果を高めるため、ゆとりのあるカリキュラムの設定やクラブ活動の実施、学生のプライバシーに十分配慮した学生寮の改善等の教育環境の整備を行っている。
 職場においては、警察官の能力開発の基本的な手法として、上司等による日常の勤務を通じての個人指導(OJT)をはじめ、各種の研修会・講習会の開催、小集団活動の推進等の多角的な教育訓練を積極的に行うとともに、各種資格取得奨励制度等の自己啓発を支援するシステムの拡充に努めている。
 なお、極めて卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定するなどして、職員に対する専門的な実務指導に当たらせている。
 さらに、国際化に的確に対応するため、各種語学教育を積極的に推進するとともに、職員を外国の語学学校、警察機関等に派遣し、語学力と実務能力の向上を図っている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として制定した「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場から親切かつ適切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による応接マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を果たすため、24時間警戒態勢を確保している。そこで、交番勤務等を行う地域警察官をはじめ、全警察官のおおむね4割は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制動務以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故、災害への対応のため、勤務時間外に呼び出されることもある。
 このような警察職員の勤務の特殊性にかんがみ、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇の改善を積極的に推進することとしている。
 勤務時間については、警察庁及び都道府県警察のいずれにおいても完全週休二日制が導入されている。さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど、職員が休暇を取得しやすい環境づくりも積極的に推進しているところである。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たるため、自らの身の危険を顧みず職務を遂行し、その結果、不幸にして職に殉じたり受傷したりする場合がある。平成9年においては、駐在所勤務の警察官が来訪した無職の男性にいきなり包丁で刺され殉職する事案、機動警戒中の警察官が窃盗被疑者と格闘し包丁で刺され殉職する事案等が発生した。
 このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金等、各種の手厚い保護の措置がとられている。
[事例] 9月、A巡査部長(31)は、臨場した窃盗事件の現場において、店内から飛び出した被疑者に包丁で胸を刺されながらもこれを制圧するため格闘したが、再度心臓を貫通する傷を受け殉職した。同人の遺族に対しては、公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために賞じゅつ金等が支払われた(群馬)。
(4) 女性警察職員
 平成10年4月1日現在、全国の都道府県警察には、警察官約8,100人、交通巡視員、少年補導職員等の一般職員約1万2,500人の女性が勤務している。
 女性の警察官の働く分野も次第に拡大され、交通の指導取締り、少年補導、女性の留置、保護、広報等の分野のみならず、犯罪捜査、鑑識活動、暴力団対策、警衛・警護、情報分析、レスキュー、ヘリコプター操縦等の幅広い分野に及んでいる。また、警察本部の課長や警察署長をはじめ上級幹部への登用も進められている。
 なお、民間企業と契約した「ベビーシッター制度」等、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められており、全国の警察組織において、更に多くの女性が幅広い分野で活躍することが期待されている。
(5) 採用への総合的取組み
 平成9年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者

は約11万5,000人、合格した者は約7,500人(うち大学卒業者は約5,000人)であり、競争倍率は約15.4倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、中途採用、受験年齢の引上げ等採用の複線化を行うとともに、勤務環境を改善し、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
 なお、中途採用については、悪質、巧妙化する知能犯や化学物質を悪用した犯罪、多発する来日外国人犯罪等に対処するため、財務、情報処理、化学物質等に関する専門的知識、能力を有する者や外国語による取調べ、折衝能力を有する者等の警察官としての採用を推進しており、10年4月1日現在、23都道府県警察で合計32人の財務捜査官、13人のハイテク犯罪捜査官、12人の科(化)学捜査官、36人の国際捜査官等を採用し、効果的に運用している。
(6) 適切な業務運営
 警察運営を国民の期待と信頼にこたえるものとしていくためには、すべての警察職員が職責を自覚し、そのもてる能力を十分に発揮して、職務に精励することが大切である。このため、警察庁及び都道府県警察は、「業務適正化委員会」を設置し、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出、検討して、現場活動の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策等を講じている。

3 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費のみならず、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成9年度当初の国の予算編成においては、極めて悪化した財政事情を踏まえ、当該年度を「財政構造改革元年」と位置付け、歳出全般の徹底した洗い直しが行われたが、警察庁としては、長野オリンピックの警備経費をはじめ、現在の治安水準を維持するための金融・不良債権関連事犯対策の確立、テロ対策の強化、銃器・薬物対策の強化、国際化対策の強化、被害者対策の強化、交通安全対策の強化、高度情報化社会等に適応する警察基盤の充実整備等について重点的に予算措置している。
 9年度の警察庁当初予算は、総額2,540億8,195万円で、前年度に比べ98億8,928万円(4.0%)の増加であり、国の一般会計予算総額の0.3%を占めている。また、最終補正後の警察庁予算の内容は、図10-1のとおりである。
 9年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら編成されているが、その総額は、3兆4,382億6,600万円で、前年度に比べ680億4,500万円(2.0%)増加し、都道府県予算総額の6.6%を占めている。その内容は、図10-2のとおりである。

図10-1 警察庁予算(平成9年度最終補正後)

図10-2 都道府県警察予算(平成9年度最終補正後)

 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、9年度の国民一人当たりの警察予算額は約2万9,000円となる。

4 装備

(1) 機動装備隊の活動
 機動装備隊は、事件、事故及び災害が発生したときに、現場における装備面からの支援をこれまでよりも更に充実・強化する目的で全国的に設置された警察装備に関する特別部隊である。
 日常的には、資機材を維持・管理し、その操作方法の指導、各種資機材に関する部門間の調整等を任務としている。また、事件、事故等に際しては、必要な資機材を現場に搬送して操作するなどの各種支援活動に取り組んでいる。
[事例] 8月に発生した山口組「若頭」等射殺事件に際して、兵庫県警察の機動装備隊は、関係事務所周辺において警戒中の警察官に対し、防弾チョッキ等の緊急に必要な装備資機材を大量に搬送した。さらに、現場の警戒員から要望、意見を聞き、金属探知器等の必要な装備資機材の追加搬送をし、その操作方法を指導するなどの支援活動を行った。
(2) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等がある。現有警察用車両の用途別構成は、図10-3のとおりである。

図10-3 警察用車両の用途別構成(平成9年度)



 平成9年度は、金融・不良債権関連事犯対策用車両のほか、暴力団対策用車両、交通安全対策用車両等を増強整備した。
 今後も、警察事象の広域化、複雑化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくため、警察機動力のかなめである警察用車両の整備、充実を一層図っていく必要がある。
イ 船舶
 警察用船舶は、全長3メートル級から23メートル級のものまで全国で合計230隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、けん銃、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、大型化、高速化、高性能化を更に図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第3章第1節2(2)ア参照。
ウ 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、災害時等の救難救助や情報収集等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。現在、警察用航空機の配備数は、47都道府県警察で合計70機(すべてヘリコプターである。)となっている。
 今後とも、災害対策を含む警察活動全般をより効果的に遂行するため、引き続き警察用航空機の整備、充実を図っていく必要がある。
 なお、警察用航空機の活動については、第3章第1節2(2)ウ参照。



(3) 警察装備資機材の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成9年度においては、第一線警察からのニーズが高い銃器対策用資機材等の開発改善に努めた。

5 警察活動と情報通信

(1) 危機管理を支える警察情報通信基盤
 警察では、全国のあらゆる場所、あらゆる形態で発生する事件、事故及び災害に即座に対応できるように、警察の神経系統となる各種情報通信システムを独自に開発、導入し、その全国的整備、高度化に努めている(主要な警察の情報通信システムは、表10-2参照)。
 また、各都道府県単位に国の機関である通信部を設置し、各種情報通信システムの間断ない管理、運営に努めているとともに、管区警察局には情報通信部を設置して、広域・重大事案発生時の通信施設の運用等に関する指導調整等の業務を行っている。
 なお、警察の情報通信基盤は、自営の無線多重回線、衛星通信回線、電気通信事業者から借用した専用回線等により構成されており、これらを活用して、警察庁から警察本部はもちろん、第一線の警察署や交番に及ぶ全国的な各種情報通信システムを構築し、警察業務上不可欠な情報伝達を行っている。



ア 大規模災害に対して強じんな警察情報通信
 警察では、大規模災害発生時等には、通信需要が急増する箇所に必要な回線を割り当てたり、被災地における警察無線やヘリコプターテレビの映像を警察庁等へ送ったりするなど、警察独自の情報通信システムを適宜柔軟に活用している。また、全国に警察通信職員を配置し、被災した箇所の迅速な復旧や平時における維持管理に努めている。
イ 機動警察通信隊の活動
 大規模な災害、事故、事件等が発生した際に、現場の警察官と警察本部との間における連絡や指揮命令が円滑に行われるように、各都道府県の通信部に設置された機動警察通信隊が出動して、現場と警察本部等との間の応急用回線を確保している。
 機動警察通信隊は、平成9年1月に発生したナホトカ号海難・流出油災害、同年7月に発生した鹿児島県出水市土石流災害、同年8月に発生した北海道第二白糸トンネル崩落事故等において、ヘリコプターテレビや地上のテレビカメラで撮影した現場の映像を、衛星通信車を利用して警察庁、警察本部等に伝送した。また、山中における捜索等の際にも臨時の無線中継所の開設や臨時電話の設置等を行い、応急通信回線の確保に活躍した。

ウ 広域事件捜査における警察情報通信
 身の代金目的誘拐事件の被疑者が携帯電話を使用して頻繁に移動したり、複数の被疑者が多様な通信手段を利用して連絡したりする場合は、捜査活動も広域にわたることとなる。
 このため、警察では、WIDE通信システムや自動車ナンバー自動読取システム(第4章3(3)ア(ア)参照)を導入し、広域事件捜査の効率化に努めている。
エ 市民生活を守る警察情報通信
 市民生活を守る警察活動を迅速かつ的確に行うためには、市民からの通報の第一線の警察官への伝達や、第一線の警察官相互間の情報交換が円滑に行われることが必要である。
 このため、警察では、指令通信システムやその支援システムの高度化を図っているほか、第一線警察官の使用する警察移動無線の整備拡充に努めている。
(2) 警察行政の情報化
 平成7年には情報システムの整備、情報化に対応した制度、慣行の改善等を内容とする「警察情報化推進計画」を策定し、各種情報管理システムの整備等により警察行政の情報化を推進してきたところである。その後、警察統合情報通信ネットワークシステム整備の進展等同計画の進ちょく及び「行政情報化推進基本計画の改定について」(9年12月20日)の閣議決定を受け、10年5月、文書管理システムの整備等を追加するなどの警察情報化推進計画の改定を行い、一層警察内における各種情報の共有化を推進することにより、業務の効率化、合理化及び市民サービスの向上に努めている。
ア コンピュー夕・ネットワークによる情報共有化の推進
 警察においては、犯罪捜査、運転者管理等多方面にわたる各種業務の効率的遂行を支えるため、全国的なコンピュータ・ネットワークを構築し情報の共有化を推進している(表10-2参照)。
イ 犯罪捜査のための照会業務の効率化
 警察では、各都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、第一線の警察官からの照会に対して

表10-2 主要な警察の情報通信システム

回答する業務を24時間体制で運用している。これらの照会は、各都道府県警察の警察本部やパトカーの端末装置等から、速やかに行うことが可能である。
 また、各都道府県警察が保管している被疑者写真等や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁に登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムや、被疑者指紋を登録し、犯罪現場に残された遺留指紋と登録された指紋との照合等を行うことができる指紋自動識別システム(第4章3(3)ア(イ)参照)を整備し、被疑者の割り出し等犯罪捜査の効率化を図っている。
ウ 市民サービスの情報化
 9年末現在、日本での運転免許保有者数は、7,000万人を超える。警察では、免許証の迅速な交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータ及び交通違反に関するデータを警察庁の大型コンピュータで管理することにより、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
 また、警察署における遺失・拾得物の受理、遺失者への返還等の窓口業務や自転車防犯登録業務等にコンピュータを活用して、業務の効率化を図っている。

6 留置業務の管理運営

 平成9年末現在、全国の留置場の設置数は1,281箇所で、年間延べ約303万人(1日平均約8,300人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、捜査を担当しない総務部門又は警務部門が留置業務を担当し、捜査と留置の分離の徹底を図っている。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者のプライバシーを保護し、その生活環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、留置場内の冷暖房化等の施設改善や、感染症対策資器材の設置、ラジオ、日刊新聞紙の備付け、食事内容の改善を進めている。また、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式便器やシャワー装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を教示できる機器の整備に努めている。さらに、女性の被留置者についても、従来から女性の特性に十分に配慮した処遇を行っているが、その処遇全般を女性の警察官が行う女性専用留置場の設置も推進している。
 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上は必ずしも明確でない。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨


に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、3年4月、第120回国会に上程され、5年6月、衆議院の解散に伴い、審査未了となった。

7 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済

 市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成9年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者9人、受傷者22人で、前年に比べ死者は7人増加し、受傷者も3人増加した。
[事例] 7月、中学生男女4人が、川岸で話をしていたところ、女子生徒が誤って川に転落した。それを見た協力援助者は、救助のため川に飛び込み、溺れながらも女子生徒を押して岸に戻ろうとしていたところ、女子生徒は岸にいた2人が差し出した長い棒につかまり救助されたが、協力援助者はそのまま川の中央方向に流され死亡した。この事案については、葬祭給付と遺族給付が支給された(青森)。

8 シンクタンクの活動

(1) 警察政策研究センターにおける活動
 警察政策研究センタ-では、警察が現在直面する課題や将来生じ得る治安かく乱要因に関する調査研究を進めるとともに、警察と学者等有識者との交流の窓口として活動している。
 平成9年には、(財)公共政策調査会等との共催で海外邦人の安全対策に関するセミナーや、組織犯罪対策に関するフオーラムを開催したほか、懸賞論文の募集、紀要「警察政策研究」等の資料の発刊等を行った。
[活動例] 組織犯罪対策に関するフォーラム
 近年積極的に組織犯罪対策法制の整備を推進しているスイスから法律学者や実務家を招き、中央大学との共催でフォーラムを東京(10月)及び大阪(11月)にて開催した。同フォーラムでは、マネ-・ローンダリング対策を中心とした組織犯罪対策に関する講演と意見交換が行われた。
(2) 警察通信研究センターにおける活動
 警察通信研究センターでは、無線通信技術、情報通信システムのセキュリティに関する技術、データ処理技術、暗号技術等、警察活動にかかわる情報通信技術について研究し、これらを応用した新しい警察通信機器等の開発や捜査活動等の支援を行っている。
 平成9年、応用研究室が新設されたことに伴い、情報通信システムを悪用した犯罪の技術的な遂行過程を解明するための研究を行うなど、急速に進展する高度情報通信社会に対応できるよう研究活動の充実に努めている。
[研究例1] VTR画像の鮮明化に関する研究
 銀行、コンビニエンスストア等に設置された防犯ビデオカメラのVTR画像について、犯人の行動パターン等を解析できるように、画像鮮明化の新しい手法について研究を行った。
[研究例2] 銃音の周波数スベクトラムに関する研究
 けん銃の発砲音を検知するセンサーを開発するため、フィールドテストにより銃音の周波数スベクトラム分析を行い、銃音固有の特徴を検出した。
(3) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、社会で問題となっている事件、事故等の背景、原因等を科学的に分析して、これに基づいて政策提言を行うなど多様な研究を行っている(このほか科学警察研究所の活動については、第4章3(3)参照)。
[研究例1] 性犯罪被害防止対策に関する研究
 性犯罪の実態について明らかにし、性犯罪被害の防止対策に資するため、9年中に発生した強姦・強制わいせつ事件を対象とした調査を実施した。その結果、事件発生時の状況、加害者と被害者の関係、加害者の女性に対する意識や態度、被害者選定の理由、刑事手続の過程に対する被害者からの要望、被害後の心身への影響等を明らかにした。
[研究例2] 凶悪犯罪の犯人に関する研究
 海外における凶悪犯に関するデータベースを参考に、我が国における捜査本部設置事件(第4章1(1)ア参照)のデータベースを作成し、被疑者と犯行内容の関連性等について分析を進めている。
 特に、不特定の者を対象とする連続放火事件、幼児を対象とする連続性犯罪事件、連続通り魔事件については、犯行地と居住地との関連性についての分析を中心とした個別研究も進めている。
[研究例3] 交通管理技術の高度化に関する研究
 交差点での横断歩行者事故の防止を目的とした新たな歩行者信号現示方式について検討するとともに、既に実用化されている弱者感応信号機の効果的な設置・運用方法について研究した。また、幹線道路における路上駐車が交通流へ及ぼす影響、観光地や休日における交通の特性等を明らかにするための調査分析を行った。さらに、騒音、排ガス等による交通公害を低減させるための交通管理対策の効果を事前に把握し得るコンピュータ・シミュレーターを開発するとともに、これを用いて効果的な交通量管理対策について検討した。
[研究例4] 交通事故に関する研究
 交通事故の発生状況を事故音によって自動的に記録する装置(TAAMS)によって、ニアミス事象を含む事故の直前状況の映像データを収集した。これらの映像データから速度や車両の挙動を解析するソフトを開発し、データの解析処理の迅速化を図るとともに、これらのデータを有効に活用するための映像データのデータベース化を推進した。
 また、事故直前の映像データから信号の無い交差点での運転者の判断ミスと事故直前での交通環境との関係を考慮した事故発生メカニズムを検討した。さらに、この装置を信号交差点用に改良し、信号の現示を検出・表示できる機能を付加した。これによって、信号交差点での事故における信号現示と車両の挙動を明らかにすることが可能となった。
[研究例5] 運転者教育等に関する研究
 高齢運転者の運転技能や交通法規等に対する知識レベルを調べるために、高齢運転者講習会参加者(8都県339人)を対象に調査を行った。その結果、運転技能に関して指導員の評価と高齢者の自己評価に差があること、高齢者の運転技能は知識レベルや安全意識とも関連していることが明らかとなった。
 また、交通安全教育や運転能力、運転免許制度等に対するアンケート調査を、運転免許更新者を含めた高齢者(全国約2万6,000人)を対象に行った。
 これらの研究結果は、9年の道路交通法の一部改正の際の資料として利用された。


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