第10章 公安委員会と警察活動のささえ

第1節 公安委員会制度

 公安委員会制度は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられたものであり、国には国家公安委員会が、都道府県には都道府県公安委員会(道にあっては、方面公安委員会を含む。)が、それぞれ設置されている。すなわち、公安委員会制度は、強い執行力を持つ警察行政について、その政治的中立性を確保し、かつ、その運営の独善化を防ぐためには、国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切であると考えられたことから設けられたものである。このような観点から、国民又は地域住民の代表者として国会の両議院又は都道府県議会の同意等を得て任命される委員で構成される合議制の公安委員会が警察を管理するという制度が、国及び地方自治体の双方においてとられている。

1 国家公安委員会

(1) 国家公安委員会の組織
 国家公安委員会は、国務大臣たる委員長と5人の委員によって構成されている。委員長に国務大臣が充てられているのは、行政委員会制度を採用する一方で、治安に関する内閣の行政責任を明確化しようとする趣旨である。また、委員は、内閣総理大臣により、国会の両議院の同意を得た上で任命されている。
(2) 国家公安委員会の役割
 現在の国家公安委員会は、昭和29年の現行警察法制定により設置されたものであり、警察行政の民主的運営、政治的中立性の確保の点で、大きな役割を果たしてきている。
 国家公安委員会は、国の警察機関として、国の公安に係る警察運営をつかさどり、教育訓練、警察装備等に関する事項を統轄し、警察職員の活動の基準の策定等警察行政に関する調整を行うことをその任務とし、この任務を遂行するため警察庁を管理している。「管理」とは、国家公安委員会の所掌事務につき、その大綱方針を定め、その大綱方針に即して警察事務の運営を行わせるために、警察庁を監督することである。
 このほか、国家公安委員会は、国家公安委員会規則の制定、警察庁長官及び都道府県警察の幹部職員(警視総監、道府県警察本部長、方面本部長及びその他の警視正以上の階級にある警察官。以下「地方警務官」という。)の任免、緊急事態の布告に関する内閣総理大臣に対する勧告等、警察法に基づく権限を有するとともに、犯罪被害者等給付金支給法、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)、道路交通法等各種法令の規定に基づく権限を有している。
(3) 国家公安委員会の活動状況
 現在、国家公安委員会は、原則として毎週木曜日に定例会議を開催しているほか、必要がある場合には臨時会議を開催することとしている。定例会議では、警察庁から、その一週間における重要な事件、事故及び災害の発生状況とこれらに対する警察の取組み、天皇皇后両陛下の行幸啓等に伴う警衛、外国元首等の来日に伴う警護等への取組み、治安情勢の中長期的傾向とそれを踏まえた警察の施策等様々な警察の業務について所要の報告を徴するとともに、委員会としての意思を決定し、これらは、警察の業務運営に反映されているところである。
 平成9年中には、神戸市須磨区における小学生殺人・死体遺棄事件、山口組「若頭」等射殺事件、ナホトカ号海難・流出油災害等の各種重要事件、事故及び災害への警察の取組みのほか、「強くやさしい」少年警察運営を図るための少年非行総合対策推進要綱の策定、いわゆる総会屋等を排除するための関係省庁と一体となった企業対象暴力対策の推進等多様な案件について詳細な報告を徴し、活発な審議を行った。不適正捜査事案等が発生した後の7月の定例会議では、この種事案の根絶を期して国民の警察に対する信頼にこたえるよう警察庁長官に対して要望した。
 また、災害時における国家公安委員会の機能を確保するため、9月1日(防災の日)には、総合防災訓練の一環として、国家公安委員会を警察大学校において開催する訓練を実施した。
 さらに、9年中は、一定の高齢者がその運転する普通自動車に表示することとされる高齢者マークについて定めた道路交通法施行規則の一部を改正する規則(第6章コラム4参照)や、暴力団対策法の一部改正(第5章3(1)参照)に対応して、準暴力的要求行為に関する中止命令を行う際の具体的な方法等を規定する暴力団対策法施行規則の一部を改正する規則を制定するなど、13件の国家公安委員会規則を制定したほか、最近の情報システムの犯罪等から保護するための対策を取りまとめた情報システム安全対策指針を定め、告示した。また、地方警務官の任免権の行使として、13件の懲戒処分を行った。
 このほか、暴力団対策法に基づく審査専門委員の任命、同法に基づく暴力団の指定に係る要件の該当性の確認及び確認のための審査専門委員からの意見聴取、道路交通法に基づく交通の方法に関する教則の一部改正、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律に基づく政党事務所周辺地域等の指定に係る協議等、各種法令に基づく権限を行使した。
 また、9年中は、行政改革が国政の最大の焦点の一つとなり、行政改革会議において、9月に中間報告、12月に最終報告が取りまとめられるなど活発な議論が行われたが、国家公安委員会においても、公安委員会制度の必要性について意見等を取りまとめ、行政改革会議に提出するなどの取組みを行った。

2 都道府県公安委員会

(1) 都道府県公安委員会の組織
 都道府県公安委員会は、都道府及び指定県(政令指定市を包括する県)の場合は5人、それ以外の県及び北海道の方面の場合は3人の委員によって組織されており、委員は都道府県知事が都道府県議会の同意等を得て任命することとされている。
(2) 都道府県公安委員会の役割と活動状況
 現在の都道府県公安委員会も、昭和29年の現行警察法制定により設置されたものであり、都道府県における警察行政の民主的運営、政治的中立性の確保の点で、大きな役割を果たしてきている。
 都道府県公安委員会は、都道府県警察を管理する権限を有しており、都道府県警察から日々生起する事件、事故及び災害の発生状況とこれらに対する警察の取組み等について所要の報告を徴するとともに、委員会としての意思を決定し、これらは、都道府県警察の業務運営に反映されている。
 また、法令又は条例の委任に基づく都道府県公安委員会規則の制定、地方警務官の任免についての同意、地方警務官以外の都道府県警察の職員の任免についての意見陳述、都道府県警察の一定の組織の新設・改廃、警察庁又は他の都道府県警察に対する援助の要求、管轄区域の境界周辺における事案の処理及び移動警察等に関する協議等、警察法に基づく権限を有している。
 このほか、都道府県公安委員会は、主なものとして、次のような権限を有しており、各種法令に従って適切に行使している。
○ 犯罪被害者等給付金支給法に基づく犯罪被害者等給付金の支給に係る裁定
○ 古物営業法及び質屋営業法に基づく古物営業・質屋営業の許可とそれに対する取消処分等(聴聞等を含む。以下同じ。)
○ 警備業法に基づく警備業を営もうとする者の認定とそれに対する取消処分等
○ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく風俗営業の許可とそれに対する取消処分等、風俗関連営業を営む者等に対する営業停止の命令等
○ 銃砲刀剣類所持等取締法に基づく銃砲刀剣類の所持許可とそれに対する取消処分等
○ 暴力団対策法に基づく指定暴力団の指定、暴力的要求行為等に対する措置命令等
○ 道路交通法に基づく道路における交通規制、運転免許とそれに対する取消処分等
[事例1] 北海道公安委員会は、平成9年中、「帯広市内女性被害車両放火強盗殺人事件」等7件の強盗殺人事件、殺人事件、傷害致死事件の遺族計10人について、計2,217万7,967円の犯罪被害者等給付金を支給する旨の裁定を行った。
[事例2] 4月、愛媛県公安委員会は、県下の少年の保護及び非行防止活動を効果的に推進するため、愛媛県警察組織規則(愛媛県公安委員会規則)を一部改正し、県警察本部少年課に愛媛県警察少年補導センターを附置した。同センターにおいては、少年相談、少年の補導、被害少年の保護、有害環境の浄化等の業務を行っている。
[事例3] 埼玉県公安委員会は、来日中国人らによる広域窃盗事件に対処するため、5月に群馬県公安委員会、6月に東京都公安委員会に援助要求を行い、それに基づき、これらの都県警察から捜査員7人及び車両4台が派遣され、合同捜査が実施された。
 同事件は、貴金属店、衣料品店を対象とする出店荒し等を実行するグループと盗品を処分するグループから成る組織的な犯行であり、10年4月末までに、中国人39人を含む43人を検挙するとともに、1都15県下において182件(被害総額3億7,410万円相当)を確認している。埼玉県警察は、宮城、新潟、長野、島根各県警察とも合同・共同捜査を実施し、10年5月現在捜査中である。
[事例4] 11月、東京湾横断道路(東京湾アクアライン)の開通に伴い、東京都、千葉県県及び神奈川県の公安委員会は、同道路上における、東京、千葉及び神奈川の各都県警察の警察官の権限行使に関する協定を締結した。この結果、同道路上における迅速適正かつ円滑な事案処理が可能となった。
[事例5] 7月の鹿児島県出水市における土石流災害の際には、鹿児島県公安委員会が、福岡、熊本及び宮崎の各県警察に対して援助の要求を行い、それに基づき、福岡県警察から広域緊急援助隊員等81人が派遣されたほか、熊本県警察及び宮崎県警察からヘリコプター2機とその操縦士等6人が派遣され、援助活動を行った。

3 公安委員会相互間の連絡

 警察法により、都道府県公安委員会は、国家公安委員会及び他の都道府県公安委員会と常に緊密な連絡を保たなければならないこととされており、これに基づき、各種連絡協議会等が開催されている。
(1) 国家公安委員会と都道府県公安委員会相互間の連絡
 平成9年中、国家公安委員会と全国の都道府県公安委員会との連絡協議会が2回開催され、全国の治安情勢等についての報告や意見交換が詳細にわたり行われた。
(2) 都道府県公安委員会相互間の連絡
 平成9年中、全国の8つのブロック(各管区及び北海道)において、国家公安委員会委員の出席を得て、各ブロック内の道府県公安委員会及び方面公安委員会相互の連絡協議会が計15回開催されるとともに、都道府及び指定県に置かれる11の公安委員会相互の連絡会議が2回開催され、各都道府県の治安情勢やそれに対するそれぞれの取組みについての報告や意見交換が詳細にわたり行われた。


目次  次ページ