第4節 良好な生活環境の確保

1 風俗営業の健全化と風俗環境の浄化

 警察では、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(以下「風営適正化法」という。)等に基づき、風俗営業に対して必要な規制を加えるとともに、風俗営業者の自主的な健全化のための活動を支援し、業務の適正化を図っている。
(1) 風俗営業の健全化
ア 風俗営業の状況
 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号から第6号までに規定する営業)及び遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号及び第8号に規定する営業)の営業所数の推移は、それぞれ表3-20及び表3-21のとおりである。
イ 風俗営業の健全化に向けた施策の推進

表3-20 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(平成4~8年)

表3-21 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(平成4~8年)

(ア) 風俗営業からの暴力団排除
 ぱちんこ営業等の風俗営業については、その営業の健全化を阻害する大きな要因である暴力団の関与が依然としてみられるが、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行後、風俗営業者の間でも暴力団排除機運が盛り上がりをみせており、暴力追放総決起大会の開催、暴力団排除宣言の採択、みかじめ料支払拒否運動等の暴力団排除活動が活発に展開されるようになってきている。警察では、暴力団が関与する事件の取締りを推進するとともに、風俗営業者の自主的な暴力団排除活動を積極的に支援している。
(イ) 管理者講習の実施
 警察では、風俗営業の営業所ごとに選任された管理者を対象として、風営適正化法に規定する遵守事項や暴力団からみかじめ料等を要求された場合の対応要領について指導を行う管理者講習を実施している。
(ウ) ぱちんこ営業の健全化
 ぱちんこ営業は、国民の身近で手軽な大衆娯楽として大きく成長しているが、不正に改造された遊技機を使用した違法な営業が後を絶たないなど、健全化を阻害する要因は少なくない。このため、警察では、遊技機の不正改造事犯等の取締りを強化するとともに、関係団体による自主的な健全化のための活動を支援するなど、ぱちんこ営業の健全化を図っている。また、平成7年夏ころから多発したぱちんこプリペイドカードの変造・同行使事犯は、8年1月をピークにその検挙件数は減少傾向を示している。
〔事例〕 遊技機メーカーが、会社ぐるみで回胴式遊技機を不正改造して全国に1万3,000台販売していた事件で、同社役員、ぱちんこ店店長等42人を風営適正化法違反で検挙した。同社が不正改造して販売していた回胴式遊技機3機種については、32都道府県公安委員会において型式検定を取り消した(京都)。
(2) 風俗関連営業等の状況
ア 風俗関連営業の状況
 最近5年間の風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項に規定する営業)の営業所数は表3-22のとおりであり、平成8年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は図3-15のとおりである。
 なお、パソコンの普及等科学技術の進歩に伴う最近の風俗環境等をめぐる状況の変化に対応して、8年3月に風営適正化法施行令を改正し、アダルトショップ等(風営適正化法第2条第4項第4号に規定する営業)の要件に係る物品に、CD-ROM等の電磁的方法による記録に係る記録媒体を追加した。
イ 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業(風営適正化法第32条第1項に規定する営業)の営業所数の

図3-15 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成8年)

表3-22 風俗関連営業の営業所数の推移(平成4~8年)

推移は、表3-23のとおりである。

表3-23 深夜飲食店営業の営業所数の推移(平成4~8年)

(3) 売春事犯等及び風俗関係事犯の現況
 最近5年間の売春防止法違反の検挙状況は、表3-24のとおりである。これらの売春事犯の総検挙人員に占める暴力団勢力の割合は19.1%(295人)であり、売春事犯が暴力団の資金

表3-24 売春防止法違反の検挙状況(平成4~8年)

源となっていることがうかがわれる。最近の売春事犯は、公衆電話ボックス等にビラをはり付け、客との連絡に携帯電話や転送電話等を利用して売春をあっせんするなどの派遣型が主流となっているが、悪質な飲食店経営者等が外国人女性に売春を強要する事犯も目立っている。
 わいせつ事犯の検挙状況は、表3-25のとおりである。
 わいせつ事犯については、わいせつビデオテープを販売する事犯が依然としてその主流を占めているが、パソコン通信やインターネットを利用して、わいせつな画像を送信したり、わいせつな画像情報を記憶させたCD-ROM等を販売するという新たな形態の事犯が増加している(第4章第2節1(3)参照)。
 ゲーム機等を使用した賭(と)博事犯の検挙状況は、表3-26のとおりである。最近は、トランプゲームやルーレット用の設備を設けて遊技をさせる「カジノバー」といわれる営業における賭博事犯が多くなっている。また、ノミ行為事犯の検挙状況は、表3-27のとおりである。

表3-25 わいせつ事犯の検挙状況(平成4~8年)

表3-26 ゲーム機等を使用した賭(と)博事犯の検挙状況(平成4~8年)

表3-27 ノミ行為事犯の検挙状況(平成4~8年)

(4) 風俗環境の浄化活動
ア 風俗環境浄化協会の活動
 風俗環境浄化協会は、風俗環境に関する苦情の処理、風営適正化法に違反する行為を防止するための啓発活動、少年指導委員の活動に対する援助等を行っている。
イ 地域住民と連携した風俗環境浄化活動
 警察では、売春やわいせつビデオの販売等を目的として一般家庭にまで大量に配布されているピンクチラシの作成、配布に関与した者を取り締まるなど、悪質な風俗関係事犯の積極的な取締りを推進するとともに、地域住民や関係団体と協力して風俗環境の浄化に努めている。
〔事例〕 わいせつビデオ等の販売広告のチラシが一般家庭の郵便受けに大量に投げ込まれ、住民から苦情や相談が多数寄せられていることから、チラシを使用するわいせつビデオの販売業者等に対する集中取締りを実施し、平成8年中、わいせつビデオ業者31人、印刷業者2人をわいせつ図画販売等で、チラシの配布人61人を住居侵入等で検挙し、チラシ約1,077万枚を押収した。また、印刷業者関係団体に対し、この種のチラシの印刷の自粛を申し入れるとともに、風俗環境浄化協会等と協力してチラシ配布防止のステッカーを作成して一般家庭に配布した(警視庁)。

2 正常な経済活動等の確保

(1) 経済事犯の取締り
ア 悪質商法の現況と取締り
 超低金利時代といわれる中で、「元本保証、安全・有利」をうたい文句として受け入れた金員をだまし取るという手口の、預り金を仮装した詐欺事犯等の検挙が増加している。
 また、資格商法の被害者を対象に、新たな資格取得等を名目として再び金員をだまし取る事犯や、調査業者による信用調査を装った詐欺事犯及び人の不安や悩みに付け込んで浄霊名目に金員をだまし取る事犯等の悪質かつ巧妙な手口の商法が目立っている。
(ア) 年金会オレンジ共済、経済革命倶楽部(KKC)等による資産形成(利殖商法)事犯の取締り
 資産形成事犯は、預り金事犯の10事件、39人を含む12事件、48人を検挙し、平成7年に比べ、4事件、22人の増加となり、被害規模でも、約6,000人、約455億円と、人員で約4倍、金額で約7倍と増加した。
 9年に検挙した年金会オレンジ共済や経済革命倶楽部(KKC)による預り金事犯を含めると、被害規模は約2万650人、約890億円に及んでおり、高利回りをうたい文句に金銭をだまし取る同種事犯の増加が顕著となっている。
〔事例1〕 国会議員とその家族らが、「年金会オレンジ共済」の名称で、高金利でしかも元本を保証するなどと嘘を言って顧客を募集し、定期預金の元本名下に全国約2,650人から約84億8,600万円をだまし取っていた。9年1月に同国会議員を含め6人を検挙した(警視庁、広島、北海道)。
〔事例2〕 経済革命倶楽部(KKC)が、「物を買って利益を上げる」との「未常識経済理論」なるものをうたい文句として、新聞、雑誌等による広告や既会員の勧誘活動等により全国規模で会員募集を行い、KKCの指定する「平成小判」等の商品を購入させ、その売買によって利益配当を受けると称して、商品の代金名下にコースに応じた金額を預けさせ、全国の約1万2,000人から約350億円をだまし取っていた。9年2月にKKC会長をはじめとする16人を検挙した(警視庁、神奈川)。
(イ) 訪問販売等に係る事犯の取締り
a 資格商法に係る事犯
 資格取得への関心が増大している中、資格商法の被害者を対象として、新たな資格取得名下に金員をだまし取る事犯や、解約を代行するとの名目で解約代行費用名下に金員をだまし取る二次被害の事犯が増加している。
 8年中の資格商法に係る事犯の検挙は、5事件、63人で、被害額は約44億円に上っている。
〔事例〕 全国に16社の支店を擁する資格商法業者が、資格受験教材等を購入した人の名簿を基に、「宅地建物取引主任者の資格が簡単に取得できる制度ができ、あなたが選ばれた」、「受験番号と名前を書けば必ず合格する」などと電話で偽り、約6,700人から約32億円をだまし取っていた。7月までに、詐欺で17人を検挙(うち逮捕16人)した(警視庁)。
b その他の訪問販売等に係る事犯
 「押し付け商法」や「工事商法」等の強引な商法や、「かたり商法」、「催眠商法」等の言葉巧みに契約を締結させる商法が後を絶たないほか、「内職商法」による詐欺事犯や人の悩みに付け込む「霊感・霊視商法」等の悪質事犯の検挙が増加している。また、パソコン通信等のコンピュータ・ネットワークを悪用したパソコン等販売名下の詐欺事犯や注文もしないのに品物を送り付けて代金をだまし取る事犯の検挙が目立っている。
 8年中の訪問販売等事犯の検挙は、99事件、313人であった。
〔事例〕 調査業者が、中小企業を対象として関連会社から調査依頼があったごとく装って被害者方を訪れ、会社概要を聴取した後、自社に電話して被害者を電話口に出させて、「入会金を支払えば都合のよい報告をする」などと持ちかけ、約1,150人から約3億2,200万円をだまし取っていた。8月までに、詐欺で16人を検挙(うち逮捕15人)した(埼玉)。
イ 金融関係事犯の現況と取締り
 景気の先行きが不透明といわれる中で、消費者金融等から多額の負債を抱え、債務の返済に苦しむ多重債務者の弱みに付け込んだ「紹介屋」、「買取屋」等の組織的・計画的な詐欺事犯による被害が急増している。
 8年中の金融関係事犯の検挙件数は323件、検挙人員は259人で、被害者約6万6,000人、被害総額約127億円にも上っており、7年の被害者数の約2.4倍、被害額で約1.1倍となっている。最近5年間の金融関係事犯の法令別検挙状況は、表3-28のとおりである。
ウ その他の経済事犯の取締り

表3-28 金融関係事犯の法令別検挙状況(平成4~8年)

(ア) 不動産取引をめぐる事犯の取締り
 8年の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は186件、検挙人員は207人であり、検挙した事件の主な適用法令は、宅地建物取引業法、建築基準法であった。
〔事例〕 宅地建物取引業免許のない不動産業者が、免許を有する会社の名義を借り、リゾート地域内の別荘地約3,000m2を顧客19人に約8,600万円で販売した。 7月に宅地建物取引業法違反(無免許営業)でこの不動産業者を検挙した(三重)。
(イ) 国際経済関係事犯の取締り
 8年の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙件数は39件、検挙人員は17人で、関税法違反の検挙件数は43件、検挙人員は19人であった。最近5年間の国際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表3-29のとおりである。

表3-29 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(平成4~8年)

〔事例〕 都内の韓国地下銀行組織が、円表示小切手等約100億円を韓国に携帯輸出していた。11月に、外為法違反で1法人2人を検挙した(兵庫)。
エ 悪質商法からの消費者被害防止活動の推進
(ア) 消費者相談活動の推進
 各都道府県警察に設置する「悪質商法110番」等の消費者相談窓口には、悪質商法に関する苦情・相談が多数寄せられている。
 これらの苦情・相談により、消費者被害の実態等を把握するとともに、捜査活動に反映させて悪質な事件を多数検挙している。
(イ) 広報啓発活動
 消費者の意識高揚を図り、消費者の被害を防止するため、インターネットのホームページや寸劇、座談会等あらゆる媒体を介した広報啓発活動を推進した。
(2) 知的所有権保護対策の推進
ア 偽ブランド事犯等の検挙が増加
 ブランドブームの中、偽ブランド事犯の検挙件数は616件、検挙人員は394人で、平成7年に比べ、検挙件数で231件、検挙人員で105人増加した。
 その内容としては、若者等に人気のある商品を組織的に大量に密造して販売するほか、流

表3-30 知的所有権関係事犯の法令別検挙状況(平成4~8年)

行商品である化粧品や運動靴の偽物を通信販売する事犯も多発し、商品、販売方法が多様化している。
 このほか、海賊版ビデオの販売事件や海賊版コンピュータ・ソフトの販売事件等が相変わらず多発するとともに、手口も巧妙化している。
 最近5年間の知的所有権関係事犯の法令別検挙状況は、表3-30のとおりである。
〔事例〕 暴力団幹部や輸入雑貨卸業者が、若者に人気がある外国ブランドの巾(きん)着約15万個を国内の縫製業者に密造させ、全国約150店の業者に販売し、約5億円の利益を得ていた。
 8月までに商標法違反で13人を検挙(うち逮捕12人)し、偽ブランド品約3万6,000点を押収した(茨城)。
イ 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報や不正商品の展示等、積極的な広報啓発活動を実施した。また、11月に開催された生涯学習フェスティバル「まなびピア’96」(福岡市、北九州市)において、不正商品対策協議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)が行った「不正商品防止フェア」を後援するなどの施策にも取り組んでいる。
(3) 環境・保健衛生事犯の取締り
ア 環境事犯の取締り
(ア) 廃棄物事犯
 平成8年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反の検挙件数は1,998件であり、これを態様別にみると、不法投棄事犯が全体の76.4%を占めている。このうち、産業廃棄物事犯の検挙件数は729件であり、医療廃棄物等の特別管理産業廃棄物に係る事犯が目立っている。
 なお、最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況は表3-31のとおりである。

表3-31 環境事犯の法令別検挙状況(平成4~8年)

 警察では、産業廃棄物の不適正処理、不法投棄を防止し、これらの事犯に対する迅速、的確な対応を行うため、関係行政機関、団体と「産業廃棄物不法処理防止連絡協議会」を設置し、緊密な連携に努めている。
〔事例〕 大手の産業廃棄物処理会社(許可業者)が、総合建設会社から処理委託された大量の建設廃材の処理費用を安くあげるため、建設廃材約4万7,000トンを無許可のブローカーを介して数県の不法処分場に運搬投棄等させていた。3月までに廃棄物処理法違反事件で、社長をはじめ6法人41人を検挙(うち逮捕18人)した(愛知)。
(イ) 水質汚濁事犯
 8年の水質汚濁事犯の検挙件数は27件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法で定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙は15件であった。
イ 保健衛生事犯の取締り
 8年の薬事関係事犯の検挙件数は217件、医事関係事犯の検挙件数は21件、公衆衛生関係事犯の検挙件数は180件であった。
〔事例〕 全国酪農業協同組合が、牛乳製造工場において、製造基準に反する牛乳を製造・販売するに際し、虚偽の表示をして販売していた。9月に幹部ら19人を検挙(うち逮捕10人)した(宮城、新潟)。
(4) 危険物対策の推進
ア 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成8年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が316件発生し、死傷者は301人に上った。また、8年中に高圧ガス取締法、消防法等の違反により289件、293人を検挙した。
イ 放射性物質及び特定物質の安全対策の推進
 放射性物質及び特定物質の運搬に当たっては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律及び化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律に基づき、都道府県公安委員会に届け出ることとされている。8年中の届出件数は、核燃料物質等関係が1,195件、放射性同位元素等関係が428件、特定物質関係が6件であった。警察では、放射性物質及び特定物質の使用者等に対し事前指導や必要な指示を行うなど、運搬の安全確保に努めている。
ウ 火薬類対策の推進
 8年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡し、譲受け等の許可件数は8万8,468件であった。また、8年の火薬類の盗難事件の発生件数は16件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は3件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導と取締りを行っている。


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